【人権理事会声明】「違法伐採に対する実効性のある施策を求める声明」の和訳を公表しました。

国際人権NGOヒューマンライツ・ナウは、世界での違法伐採の蔓延とそれに対する政府、企業、そして2020年東京オリンピック組織委員会の対応を求め、2016年6月13日からジュネーブで開催されている第32会期人権理事会に対し、「違法伐採に対する実効性のある施策を求める声明」を提出しました。

日本語訳も作成しましたので、全文をご報告いたします。

声明全文 違法伐採書面ステートメント(日本語) [PDF]

※英語原文はこちら 1899_A_HRC_32_NGO_Sub_En  [PDF]

 

日本政府、企業及び2020年東京オリンピック組織委員会に対し、違法伐採に対する実効性のある施策を求める

 

違法伐採―全世界の木材貿易量の20%以上、熱帯地域の国における伐採の50%から90%を占め、年間300億米ドル以上の国際犯罪を発生させている―は、発展途上国における森林及びその森林に依存している人々を壊滅させ、貧困、立ち退き、生物多様性の喪失及び森林破壊をもたらし、持続可能な発展のための基盤を失わせている.[1]

2016年1月、ヒューマンライツ・ナウは、マレーシアのサラワク州における違法伐採に関する報告書を公表し、違法伐採がどのように生じているか、日本企業による搾取によって発展途上国及び日々の暮らしの中で森林に依存している現地の人々にどのような悪影響が与えられているかを明らかにした[2]。この報告書においては、かつてのサラワク州政府がどのようにマレーシアの主要な伐採業者と癒着し、先住民族やその他の集団の土地に対する権利を無視し、違法な伐採ライセンスを発行し、また、日本を含む海外の輸入業者のための伐採を正当化する証明書を不適切に発行していることを論じている[3]。違法に伐採された木材を購入する日本企業は、違法伐採を許容する組織に対する支援や資金提供を行う上で重要な役割を果たしている。日本の企業セクターは、貿易から建設に至るまで、違法伐採された木材を自らのサプライ・チェーンに組み込んで利益を得るために活用しており、違法伐採に関与する組織にとって、儲かる輸出先として機能している。このようなことが可能になるのは、日本企業には、調達国の証明書(これは腐敗につながりやすい)から独立して、サプライ・チェーンにおける木材供給者による乱用の不存在や伐採業務の合法性を確認するためのdue diligenceを実施する義務を課されていないためである。

2012年において、日本の民間企業は、国内企業10社(商社7社及び建設業者3社)の主導によりサラワク州から輸出された木材の総額のうち38%、およそ9億米ドルを輸入している[4]。グローバル・ウィットネスの報告書では、双日及び伊藤忠の日本企業2社が、サムリン・グループ及びシンヤン・グループというマレーシア企業2社が伐採権を有する地域から木材を購入し、そこでは違法伐採が横行していることが記載されている[5]。違法に伐採された木材は、東京の主要な建設現場において、清水建設、大成建設、鹿島建設その他の日本企業により使用されていることも突き止められている[6]。これらの企業は、今後の木材調達において違法伐採によるサプライ・チェーンの利用を防ぐ意図を有している旨回答している[7]。しかし、これらの回答はせいぜい個別の事案への対策に過ぎず、調達慣行全般に対するものではない。このデータは、違法伐採材の購入が日本で蔓延しており、少数の事案に限定されるものではないことを指し示している。

日本は、米国、EU及び中国に次ぐ世界第四位の木材消費国であり、違法木材の主要な市場である。近時の推計では、日本の輸入木材の12%について違法性のリスクが高いとされている[8]。木材の輸入、販売及び調達に関する日本の緩い規制は、違法に調達された木材の日本国内における広い利用に寄与している。日本の「グリーン購入法」は違法伐採材の調達を禁止しているが、この法律が禁止しているのは、日本の木材消費の5%を占めている公的部門による調達のみである。

民間部門における違法伐採材の輸入を禁止する法律は存在しない。

代わりに、政府のガイドラインに基づいて輸入木材が違法伐採に関係しない旨を証明する自主規制であるいわゆる「合法木材制度」が存在する。違法伐採材に対する実効的な制裁を行うにあたって、この制度には以下の2点の致命的な欠陥が存在する。第一に、この制度に参加しないことを選択した企業が制裁を受けることはなく、制度への不参加を選択した企業は何らの罰則も受けることなく違法木材の取引を継続することができる。第二に、この制度は調達国の発行する証明書に依拠しているが、サラワク州の例が示しているように、これは癒着した政府による腐敗に満ちた証明書を許容するものである。さらに、合法木材制度は、先住民族の権利のようなその他の重要かつ潜在的な違法行為について追加的な調査を行うことを求めていない。

これらの問題に取り組むため、先月、新潟においてG7の農業大臣は違法伐採及びその取引を排除することを宣言した。しかし、日本の対応は他のG7諸国に遅れをとっている。

5月20日には、日本政府により「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律」が公布された。しかし、この新しい法律は、米国、EU及びオーストラリアのような木材輸入先進国の基準には未だに達していない。この法律は、日本政府に対して自主的に登録を行った企業に対して木材調達の合法性を検証することを求めるのみであり、検証のための十分な基準を定めるものではない。違法伐採のリスクがある国から木材を購入する全ての企業の参加を義務付け、合法性を検証するための断固としたdue diligence基準を制定し、情勢を監視し、違反に対して実効的な制裁を課さない限りは、この法律は実効性を持たないであろう。

2020年の東京オリンピックが迫っているなか、日本における木材製品の需要は大きく増加することが見込まれ、これは違法木材の取引を更に悪化させるだろう。

2016年5月17日、2020年東京オリンピック組織委員会(以下「組織委員会」という。)は、持続可能性に配慮した木材調達基準(案)を公表し、パブリックコメント手続を開始した。持続可能な調達基準に関するワーキンググループの委員による議論は公開されておらず、その議事録は簡素であり、日本語版のみが入手可能である。

パブリックコメント手続においてコメントを提出することが可能な期間は一週間のみであり、調達基準案は日本語版のみが入手可能であった。この調達基準案は、組織委員会が調達する木材が、伐採される国又は地域の法律を遵守して伐採されたものであることを求めているが、木材の購入者が合法性を検証する際に合法木材制度に依拠することを許容している。前述した合法木材制度の不備からすれば、この調達基準案は「持続可能な」調達基準案とは決して呼べない。

 

提言

ヒューマンライツ・ナウは、違法伐採の排除及び日本における木材調達の合法性を確保するため、以下の勧告を行う。

日本政府に対して

・違法木材の取引を全面的に禁止し違反者に刑事罰を含む制裁を科すよう法令を改正すること。

・購入する木材の伐採が、様々な国際的な義務及び基準(先住民族やその他の影響を受ける人々の土地に対する権利のような、環境法や国際人権法を含む。)に準拠することを確保するよう法令を改正すること。

・民間部門及び公的部門の木材輸入者に対して、調達木材の合法性に関する実効的なdue diligence義務付けること。

 

違法伐採の発生しやすい木材供給国の政府に対して

・違法伐採を禁止する法令を制定及び強化し、その実効性を確保し、違法伐採に関わる汚職を防止すること。

・先住民族やその他の影響を受ける人々の土地に対する権利を認めて保護し、伐採ライセンスを発行する際には、それらの人々の自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意を得ることを確保すること。

・違法伐採が発生しやすい伝統的な先住民族の土地等における伐採企業の活動の実効的な監視を行うこと。

 

違法伐採の発生しやすい国の伐採企業に対して

・違法伐採を直ちに停止すること。

・伐採ライセンスが付与されているか否かに関わらず、伐採と矛盾する土地に対する権利が存在しないことを確認するためのdue diligenceを実施し、伐採の影響を受ける現地の共同体から自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意を得ること。

・違法伐採を防止するためのコンプライアンス体制を構築すること。

 

木材を調達する日本企業に対して

・Forest Stewardship Council[9]の認証のような国際的に認知された森林に関する認証を得ない限り、違法伐採に従事していると報告されている伐採企業との取引を直ちに停止すること。

・現行の法令にかかわらず、輸入木材及び木材製品のサプライ・チェーンの徹底的なdue diligenceを行い、自ら違法木材を監視できる仕組みを構築すること。

 

関連する全ての企業に対して

・環境及び人権に関するポリシーを規定するようCSRの指針を改訂又は策定し、かかる指針の内容を取引先、経営陣及び従業員に周知すること。

・違法伐採に関する正確な情報入手のため、NGOや先住民族コミュニティと継続的に対話を行うこと。

 

2020年東京オリンピック組織委員会に対して

・調達基準案の制定手続において、透明性をより確保し、市民社会団体を関与させること。

・市民社会団体が注意深く検討し有意義な貢献ができるよう、調達基準案のパブリックコメント期間を最低でも1ヵ月は確保するとともに、調達基準案の英訳を公表すること。

・木材又は木材製品の購入者に対して、現行の法令にかかわらず、輸入木材及び木材製品のサプライ・チェーンの徹底的なdue diligenceを行い、自ら違法木材を監視できる仕組みを構築することを求める調達基準案を制定すること。

・木材又は木材製品の購入者に対して、違法伐採に関する正確な情報入手のため、NGOや先住民族コミュニティと継続的に対話するよう求めること。

 

                                    

[1] INTERPOL/UNEP, Green Carbon, Black Trade: Illegal Logging, Tax Fraud and Laundering in the Worlds’ Tropical Forests. A Rapid Response Assessment, 2012.

[2] 「今なお続く違法伐採による先住民族の権利侵害」。URL: http://hrn.or.jp/wpHN/wp-content/uploads/2016/01/MalaysiaSarawakReport_20160114.pdf

[3] Development of Global Timber Tycoons in Sarawak, East Malaysia,’ Bruno Manser Fonds, February 2011, http://stop-timber-corruption.org/resources/bmf_report_sarawak_timber_tycoons.pdf, 16. Cf. Functions of Forest Department,’ Forest Department Sarawak, http://www.forestry.sarawak.gov.my/; ‘How Forestry Staff Write Their ‘Ground Reports’ From Seaside Hotels in KK,’ Sarawak Report, FEB 18, 2014, http://www.sarawakreport.org/2014/02/forestry-department-write-ground-reports-from-seaside-hotels-in-kk-exclusive-expose/

[4] STIDC, ‘Export Statistics of Timber and Timber Products Sarawak 2012,’ http://www.sarawaktimber.org.my/timber_statistic/Export_Statistics_Timber_Products_Sarawak_2012.pdf, 3.

[5] グローバル・ウィットネス「野放し産業」前掲注3

[6] グローバル・ウィットネス「衝突する2つの世界」(2014年12月)。URL:  https://www.globalwitness.org/olympicsjp

[7] ヒューマンライツ・ナウからの問い合わせに対する回答。

[8] Momii M., Chatham House, Trade in Illegal Timber: The Response in Japan, November 2014.

[9] https://ic.fsc.org