【イベント報告】7/22 シンポジウム『混迷するシリア・イラク情勢下での女性と子どもたち~「見える現実」と「見えない現実」にどう立ち向かうか』

 

シリア・イラクでは女性や子どもに対する想像を絶するような人権侵害が起きていますが、日本でその現状について身近に考え、深く知る機会は限られているのではないでしょうか。ヒューマンライツ・ナウは、この問題についてより多くの方に知ってもらい、一緒に考える機会として、中東問題に詳しい専門家をお招きし、上智大学グローバル・コンサーン研究所(IGC)と共催でシンポジウムを開催しました。

 

IS問題と現代中東の苦悩する世代

酒井啓子氏は、シリア・イラク紛争でイスラム国(IS)の残虐性や非人道性が強調されるが、それだけでは被害はこのように大きくはならないと指摘。イラク戦争による体制崩壊、アラブの春に起因する政権崩壊・政治混乱、シリア内戦が周辺国の関与によって代理戦争の様相を強め、複雑化・長期化したことを指摘し、これらの混乱がIS の拡大に寄与したと説明しました。また、IS の思想に共鳴して湾岸諸国から若者が流入している問題について、1979 年以降に生まれた世代は、インティファーダ(イスラエル占領地におけるパレスチナ民衆蜂起)や、米国が中東で行ってきた戦争を目の当たりにし、IS に対する共感が広がりやすい環境で育ってきたと分析し、国際社会の歪み全体が中東の紛争問題やIS に影響していると説明されました。

 

ISとの紛争下の女性たち

玉本英子氏は、現地で自ら撮影した映像・画像を用いながら、戦闘の最前線で自分たちの町を守るために戦う女性兵士の様子など、ISとの紛争下で、主体として立ち現れる現地の女性の姿を伝えました。また、2014 年8 月にイラクの北部地域シンジャルで生活するヤズィーディー教徒がIS に襲撃され、多くの人が犠牲となったことを紹介。襲撃前に撮影したヤズィーディーの結婚式の際の、幸せそうな人々の映像を流し、その人たちは襲撃で殺害されたであろう、と訴え、「忘れないでほしい、見ていてほしい。」と語りました。さらに、玉本氏は「奴隷制の復活」を謳うIS によって、ヤズィーディー女性たちが戦利品として奪われている厳しい現実を話され、「戦争はコミュニティーをも破壊するということを知ってほしい。」と訴えました。

虚偽の宣伝で女性が勧誘されている

辻上奈美江氏はIS による女性の勧誘について報告。IS の女性組織であるアル=ハンサー旅団は「イスラーム国の女性」という冊子が、子どもが楽しげに遊ぶ様子や医療・教育の充実を示す写真でIS が安定・公正な社会であると宣伝していることを紹介しました。こうした勧誘によって実際に、結婚を目的として欧米からIS に女性が移動し、戦闘員の妻となり、子どもを産んで母となることで、戦闘を間接的に支援しているという現状を説明されました。

パネルディスカッション

以上の報告後、阿部るり氏がモデレーターを務め、綿井健陽氏、阿部浩己氏も加わり議論を行いました。 綿井氏は、紛争地において、軍事の周辺というのは無限に拡大されるとし、NGO 従事者等の民間人が軍事と関係ないと主張しても、現場の人は信じない可能性が高いとし、日本の安保法制による自衛隊派遣で日本のNGO 等が危険に晒される危険が高いと警鐘を鳴らしました。

阿部氏は、中東の事態は国際社会の歪みが生み出したという酒井氏の発言を受けて、国際社会、そして日本がすぐに行うべきこととして難民の受け入れを問題提起。国際社会全体で包括的計画を立て、難民を人口比で割り当て、各国はそれを受け入れるように努力するべきだとし、日本も積極的な行動をとる必要があると強調しました。さらに、難民のほとんどが子どもや女性であるのに、先進国で難民申請をしているのは男性が多いことから、子どもや女性がより困難な立場に置かれていることも考慮しなければならないと述べました。

酒井氏は、「今の中東の事態に日本に何が出来るか」という会場からの質問に対し、「ほとんどない」としつつ、中東の紛争続きの情勢しか知らずに育った現地の若者たちに対して、世界には紛争をしない場所もある、という別の道を示せるのは、これまで中立的な立場を保ってきた日本ではないかと提案されました。

玉本氏は、会場の質問に答え、ヤズィーディーの男の子たちが、ISに誘拐されて軍事訓練所に入れられ、大人と同じような軍事訓練をしている事実を訴えました。玉本氏が14歳と11歳の兄弟の取材した際に、彼らはIS から戦うことを強要され、「戦わなければ殺す」と脅されたという証言を紹介。子どもが毎日のようにIS からジバードを教え込まれ、子どもたちも洗脳されている可能性が高いと訴えました。日本がこの紛争に参加すれば、自衛隊がこうした子どもたちとも対峙しなければいけないという事実も踏まえて、自衛隊派遣を考える必要があると指摘しました。

最後に、HRN の伊藤和子事務局長が、「安保法制を巡り日本が重要な岐路に立っているが、誤っても紛争地で暮らす人々に対して空爆を仕掛ける、無実の人を殺す立場になってはならない」とコメントし、閉会となりました。

HRN は、これからも中東で起きている人権侵害をしっかりと見据え、現地の人々の人権のために声を挙げていきます。(鈴木幸子)

 

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