【共同書簡】ビルマ共同書簡: 国連調査委員会設立について

 

(東京、2010922日)ヒューマン・ライツ・ナウ及び他のNGO5団体は、本日公開された前原誠司外務大臣宛で、日本政府に対し、ミャンマー(ビルマ)における戦争犯罪および人道に対する罪に関する国際調査委員会の設立を公に支持するよう要請しました。

 

ヒューマンライツ・ナウ、ヒューマン・ライツ・ウォッチ、日本ビルマ救援センター、ビルマ市民フォーラム、アムネスティ・インターナショナル日本とビルマ情報ネットワークの6団体は、今回の国連定期総会において、国連調査委員会の設立を含めた年次ビルマ決議を日本が支持することを強く求めました。これに先立ち、ミャンマー(ビルマ)の人権状況に関する国連特別報告者のトマス・オヘア・キンタナ氏が、20103月、国連に対し、ミャンマー(ビルマ)で起きている人道に対する罪に関する調査委員会設置の検討を勧告しています。ヒューマンライツ・ナウが共催した20106月のビルマ女性国際法廷も、ミャンマー(ビルマ)で続く長い人権侵害の不処罰の歴史に終止符を打つため、独立調査委員会の派遣を求めています。22日、ヒューマンライツ・ナウ伊藤事務局長ほか、9名が、外務省人権人道課長に要請書を提出、要請を行いました。

 

ビルマ共同書簡(国連調査委員会設立について).pdf

 

2010年9月21日

 

前原 誠司 外務大臣 殿

ビルマの深刻な人権状況に鑑み、本書簡をお送りいたします。私どもは日本政府に対し、ビルマに関する国際調査委員会(International Commission of Inquiry)の設置を公けに支持すると共に、今秋
の国連定期総会において、国連調査委員会への支持を含む年次ビルマ決議を支持するよう求めます。本調査委員会は、2002年以降にビルマのあらゆる当事者による国際人権法および国際人道法の違反行為に関する報告を調査するとともに、責任者の確実な責任追及を目的として責任者の特定も任務とする委員会として設立されるべきであります。

国連は、長年にわたり、多くの報告書・決議・文書でビルマでの深刻な人権侵害行為と国際人道法違反行為に終止符を打つべきと訴えてきました。ビルマの人権状況に関する国連特別報告者のトマス・オヘア・キンタナ氏が2010年3月に国連人権理事会に提出した報告書により、こうした声はさらに高まりました。この報告書は国連に対し、調査委員会の設置可能性を検討するよう勧告しています。
国連のビルマ特別報告者を務めたパウロ・ピニェイロ氏と横田洋三氏も国際的な調査委員会の設置を支持しています。

私どもは日本政府に対し、ビルマに関する国際調査委員会の設置を公けに支持するとともに、設置のための国連決議の実現にむけて積極的に関与することを求めます。我々は、国際社会が国際調査委員会の設置を求めることは、ビルマで11月7日に実施予定の総選挙や、野党活動の自由の拡大や政治囚の釈放などの政治改革の可能性に直接の影響を与えないと考えます。したがって調査委員会の設置要求は、政治上の戦術や国際的な圧力のための新しい方策として利用・誤用されるべきではありません。それ自体として必要な手段であります。

英国、ハンガリーやチェコ共和国など欧州連合(EU)加盟国の一部とアメリカ合衆国、オーストラリアが、ビルマでの犯罪行為を調査する国際委員会への支持を公に発表しています。国連はこれまでにも、国際法の重大な違反行為に関し調査委員会を数多く設置しています。しかし、ビルマについて設置されたことは一度もありません。国連はおよそ20年にわたり、ビルマの人権状況を強く批判する報告書を毎年発表し続けています。こうした報告書が示すとおり、政府の治安部隊による重大犯罪は広範かつ組織的なものでありますが、責任者はいまだに一切処罰されていません。

長期化するビルマ国内紛争の当事者である同国政府と非政府武装組織は、国際人道法(戦争法)に拘束されます。ビルマ国軍は無数の深刻な人権侵害行為や国際人道法違反行為を犯しました。具体的には、女性や少女への性暴力、民間人への計画的な無差別攻撃、民間人や捕虜となった戦闘員の略式処刑、拷問、子ども兵士の使用、住民の生活手段や食料への攻撃、住民の強制移住、対人地雷の使用などが挙げられます。またビルマ国内の非政府武装組織も、強制労働、子ども兵士の任用や対人地雷の使用などの深刻な人権侵害行為に関与しています。

私どもはビルマの人権状況を記録し報告書を出し続けるだけでは十分ではないと考えます。むしろ日本政府は、ビルマの内戦の全当事者、すなわちビルマ全土で数十年にわたり活動するビルマ国軍と30を超す民族武装組織が行った国際人権法および国際人道法の違反行為に関する国際調査委員会の設置を支持することで、こうした人権侵害行為に終止符を打つための積極的なリーダーシップを発揮するべきと考えます。調査委員会は、ビルマ国内での重大な人権侵害行為の被害者を支援・保護し、不処罰の連鎖を断ち切るだけでなく、平和構築とビルマにおけるより広い人権尊重の輪を生み出すことになります。東京でこの6月に実施された、ビルマ女性に対する犯罪についての民衆法廷であるビルマ女性国際法廷の判事団も国際調査委員会の設置を勧告しました。ビルマ国内で起きる国際法上の重大犯罪の被害者にも認知と正義がもたらされるべきです。

長年にわたり、国連の特別手続や国際人権団体やその他の組織が、ビルマの深刻な人権侵害行為を記録・公表してきました。その一部は戦争犯罪に該当するとともに、人道に対する罪に該当する可能性もあります。今こそ日本政府、そして、考えを同じくする諸国が、こうした犯罪が確実に国際社会の関心の対象となるように確保するとともに、ビルマにおける不処罰のサイクルを絶つための方策を講じるべきです。国際調査委員会の設置はその重要な第一歩であります。

私どもは、大臣が調査委員会への支持を表明することを真剣に検討されるとともに、今秋の国連定期総会期間中の委員会設置に向けて積極的に関与されると確信しております。

敬具

ヒューマン・ライツ・ウォッチ
日本代表 土井 香苗

ヒューマンライツ・ナウ
事務局長 伊藤 和子

 
日本ビルマ救援センター
代表 中尾 恵子

 

ビルマ市民フォーラム
代表 永井 浩 

 

社団法人アムネスティ・インターナショナル日本
理事長 藤田 真利子

 

ビルマ情報ネットワーク
ディレクター   秋元  由紀


CC:
国連日本政府常駐代表 西田 恒夫 特命全権大使
在ジュネーブ国際機関日本政府代表部 北島信一 特命全権大使
参議院 外交防衛委員会 田中直紀 委員長
衆議院 外務委員会 鈴木宗男 委員長
ミャンマーの民主化を支援する議員連盟 末松 義規 会長
外務省 総合外交政策局 鶴岡公ニ 局長
外務省 アジア大洋州局 南部アジア部 梅田邦夫部長