【イベント報告】2月26日(月) 学校問題シンポジウム「今学校で何が起きているのか?ブラック校則・ブラック部活問題の現状と子どもの権利を考える」荻上チキ氏×内田良氏

昨年、大阪府の府立高校で生まれつき頭髪が茶色い生徒が、学校から黒染めを強要され、精神的な苦痛を受けたとして府を訴えたことに端を発して、「ブラック校則」の存在が注目を集めています。

また、ハードな練習の日々により、生徒も先生も疲弊していく「ブラック部活」。スポーツ庁が部活動に関するガイドラインを作成しようとしているなど、状況を改善しようとする動きも見られています。

そこで、ヒューマンライツ・ナウでは、「ブラック校則」をなくそうと実態調査に乗り出したNPOの動きの中心となって活動している荻上チキ氏。組体操問題からブラック部活まで、学校における子どもたちのリスクを精力的に問題提起している内田良氏。両氏を招いて、学校現場を取り巻く子どもの人権を考えるシンポジウムを開催しました。

 

 

はじめに、「ブラック校則」について講演を行ったのは、荻上チキ氏。

それまで、いじめ問題に取り組んでいた荻上氏ですが、大阪の黒髪強要事案に端を発した動きに共鳴して、「ブラック校則」問題に取り組むようになったという経緯があるそうです。

まず、荻上氏は、「ブラック校則」の定義を、「理不尽なルール」を「不適切な運用」で実地することで「問題化したもの」と定めます。

続けて、歴史的な経緯をこう振り返りました。

「戦後すぐの時期には、軍隊式の校則が残っていました。その後の学園闘争を経て管理教育が進み、そういった状況の中で、学問の自由による強制は、一般論に照らし合わせて不合理ではないという考えが、裁判ではある程度認められていました。」

さらに、現状については次のように語ります。

「そのような状況の中で、原則として文言だけが残り、形骸化しているものもあります。そういった場合には、問題校則には成り得ていません。一方で、明文化されていなくても実際に行われている校則もあります。例えば、校内放送で5分前行動をしようと呼びかけるもので、それは実質的に校則化されていると言えます。」

 

実際に報告された「ブラック校則」の事例には、以下のようなものがあるようです。

パーマ禁止、茶髪禁止、地毛証明書の提出、黒染め強要、ストパー強要、ポニーテール禁止(ヘルメットを着ける時に邪魔だからという理由)、三つ編み禁止(プールの後、もとに戻すのが大変だという理由)、一方で、三つ編みでなければならない(伝統を重視するという理由)。

地毛証明書の提出については、近畿圏の公立校の7割、都立高の6割が実施しているとの調査結果が出ています。

 

さらに、個別のケースでは、中学校までは地毛証明書の提出で問題なかったが、高校では茶髪の地毛写真を提出したにも関わらず、黒染めを強要されたという事例もあるようです。ちなみに、この家庭は生活保護家庭であったため、黒染めのための美容院代が負担となり、さらに身体にも負担をかけていました。そして、このことが自己肯定感の喪失につながっていったと伝えられています。

 

その他には、制服に関する校則も多くあるようで、具体的には以下のようなものがあります。

スカートの丈に関するもの、防寒着の着用禁止、色に関する規定、下着の色の指定(女性の下着の色を男性教員がチェックするような事例もある)、指定カバン、指定自転車、ハイタッチ禁止、運動会での応援禁止、ビニール傘禁止、置き弁禁止、ケータイ契約禁止、学校外での服装規定、恋愛禁止、外泊禁止など。

このようなことから、校則が便利な一元管理の方式となっている実態が見えます。

 

荻上氏は、次のように続けます。

「その学校に入ったということは、『校則に同意したんだろう』という反論があるが、基本的には入学時に校則に関する事前説明がないのが実態です。文部科学省の調査によると、不登校児が10万人程度いる中で、約1万人が学校の決まりが不登校のきっかけになっているというデータがあります。」

 

最終的に、荻上氏は、ゴールとして以下の項目を挙げ、「必要な根拠を説明出来ないものは、一度廃止していくことが必要なのではないでしょうか。」と提起しました。

・教員の働き方改革

・学校教育の役割の見直し

・「体罰」「不適切指導」の定義拡大と周知

・科学的根拠に基づいた教育

 

 

次に、内田良氏から「ブラック部活」に関する講演がありました。

内田氏には、学校の安全などの学校における事故に関する研究を行ってきた経歴があります。

まず、内田氏は、「1950年代から学校安全という言葉があったが、そのエビデンスがないのです。学校で何人亡くなったかわかりません。」と語り、自身の調査結果を以下のように説明しました。

「日本スポーツ振興センター発行の資料に、こどもの死亡事故の事例が載っています。それによると、31年間で学校における柔道で118件の死亡事故が発生しています。その状況を調べると、そっくりなものがいくつもあり、特に多いのが乱取りにおける大外刈りの際に頭を打つという事例。時期は主に5月~8月に集中しており、このことは、初めて柔道を体験した中学1年か高校1年の初心者が事故を起こしていることを示しています。」

その後、このような事実を突き止めたことと、柔道の必修化、それらをマスコミが取り上げたことによって、死亡事故が0件になったと言います。

 

また、組体操に関する問題も同じで、安全に取り組むようになった結果、事故件数が減ったそうで、「危ないものはやらないようにして、健全なものにしていくことが必要です。」と内田氏は考えを述べました。

 

続いて、内田氏は、「ブラック部活」の問題について、「ある期間だけ盛り上がればいい」という風潮があり、「持続可能な形」になっていないことを指摘しました。

例えば、よく部活動で廊下を走ることがあります。普段は、校則では廊下を走ることが禁止されているのに、部活動では走っています。

それでは、なぜ廊下を走るのでしょうか? その理由を内田氏は次のように分析します。

「それは部活動の制度設計が成されていないためです。学校で部活動をどのように行っていくのかを体系として考えていないため、活動場所をどのように確保して、融通して活動を行うのかといったことが定められていないのです。そのため、場当たり的に廊下で走るというような状況になっています。」

また、部活動の顧問の教師は、約半数が素人であり、部活動の時間に活動の状況を見ていないこともよくあると言います。

 

さらに、部活動は、非強制的なものであるが、3割の中学校では、全員参加が強制されており、9割は部活動を行っています。一部では、土日に行うと休養が取れないという理由から、大会が平日に行われており、学校の授業を阻害しているところもあります。

この点について、内田氏はこう話します。

「なによりも部活動は過熱しやすい性質を持っています。学校を訪れると、部活動のトロフィーが置かれていたり、生徒の活躍に関する垂れ幕が校舎に掲出されたりしています。部活動は、苦しい練習に耐えて、到達点に達成することもあるので、「楽しいからハマる」人が多くいます。(一方で、燃え尽きる人も多く産みだしていますが、)そのような環境の中で、練習時間が増えていってしまいます。外部指導者の導入も検討されているが、この場合、先生の負担は減るが、外部指導者の方が積極的に練習を行う傾向があります。例えば、国語の授業は、学習指導要領等により時間数等の制限があるのに対して、部活動は無制限となっているため、規制が必要なのではないでしょうか。」

 

最後に、内田氏は、「スポーツ界のトッププロの多くは民間のクラブで育っており、部活では育っていないという現状があります。学校の部活動は、全国的な大会を実施していくのではなく、地域の大会だけにするなどして、縮小していく方が望ましいと思います。しかし、今はまだそういう議論にはなっていません。」と展望と課題を語りました。

 

 

両氏の講演の後、弁護士の岡崎慎子氏を交えてのパネルディスカッション、さらには、会場からの質問に両氏が答える形で意見交換が続きました。会場からは、「親ができることはなんでしょうか?」「国際比較は? 現場の先生はどう思っている?」「必要と理不尽の線引きは?」などの多くの質問が出されました。

 

議論は尽きませんが、「ブラック校則」「ブラック部活」の実態と解決への希望が見えた非常に中身の濃いイベントとなりました。