【イベント報告】12/14(木) 世界人権デー「今、問われるメディアの独立と報道の自由」

 HRNは、12月14日に「『今、問われるメディアの独立と報道の自由』〜デイビット・ケイ国連特別報告者の勧告を受けて〜」を開催しました。このイベントは世界人権デーである12月10日を記念してHRNでは毎年イベントを企画しています。

今年6月に国連「表現の自由」特別報告者のデイビット・ケイ氏が日本の表現の自由に関する調査報告書を人権理事会に提出しました。同報告書では、政府による報道への圧力に懸念を示し、記者クラブなどの日本のメディア制度の改革の必要性を訴えています。この報告書を受けて、今年の世界人権デーイベントでは森友・加計疑惑で菅官房長官に鋭い質問を行った望月衣塑子記者と南彰記者、共謀罪にも警鐘を鳴らし続けてきたジャーナリストの青木理氏をゲストにメディアを取り巻く状況について議論をしました。

始めに小川隆太郎HRN事務局次長がケイ氏の報告書の内容について説明。報告書では、メディアの独立性及び権力監視に関して、⑴メディアが政府から受ける圧力、⑵メディアの連帯、⑶記者クラブの3つの視点から問題提起がなされています。これらの問題提起について説明が行われた後にゲスト3人の講演が始まりました。

南彰記者は、「官邸会見で今何が起こっているのか」というテーマで望月記者が一躍有名になった官房長官会見について話して頂きました。南記者は、「今の安倍内閣は過去のどの政権とも雰囲気が違う」と言い、政府の公式な記者会見が減ってきていることを紹介。そのような状況だからこそ、平日に1日2回行われる官房長官会見は、政府の公式見解を聞ける数少ない場になってきています。国内外の政策・政局から事件・事故まで森羅万象がテーマだという会見は、記者クラブが主催し、記者たちの質問がなくなるまで行われることが慣例となっていました。

しかし、望月記者が参加するようになって数ヶ月経った8月31日に異変が起きました。その日は望月記者が手を挙げているにもかかわらず、会見が終了しました。500回以上官房長官会見に参加した南記者でも初めてのことでした。会見の打ち切りはその後も続き、疑問に思った南記者が調べてみると会見のルールが変更されたことが分かりました。

望月記者が参加するようになってから会見が長時間になったことを理由に「公務があるのであと1、2問で」との言い訳で会見を打ち切ることができるようになっていました。南記者はこの「望月封じ」と言えるルールに強い懸念を示しました。現在のところ、このルールが記者クラブの所属記者には適用されていませんが、今後はどうなるか分からないからです。最後に南記者は「この問題について書く記者が自分自身の問題として考え、ルールを見直す必要がある」と訴えました。

続いて登壇した望月衣塑子記者は、「今問われるメディアの独立と報道の自由」とのテーマで菅官房長官とのやりとりについて語って頂きました。官房長官会見に参加したきっかけは、フリージャーナリストの伊藤詩織さんの準強姦事件について質問するためだったと言います。加害者の逮捕を中止させたとされる中村格警視庁刑事部長(当時)は菅官房長官の秘書官を務めたこともあり、菅官房長官からの信頼が厚い人物だったからでした。望月記者からの「準強姦事件でなぜ上層部のストップがかかったのか。中村氏の判断に問題はないのか」との質問に菅官房長官は「全く承知していない」などと答え、納得のいく回答は得られませんでした。この会見以降、望月記者は森友問題などについて市民の疑問を代弁するかのような質問を投げかけ続けました。

このような望月記者の取材姿勢に菅官房長官は「あなたの質問に答える場じゃない」「事実に基づいて聞いてくださいよ」などと不快感を示し、一部メディアからは望月記者に対して批判的な報道がされるようになりました。このような批判に対し、望月記者は政権から見れば自分は「政権を批判するとんでもない女と思われても仕方がない」と批判を聞き流していました。しかし、殺害をほのめかすような批判が出てきたときには「会社に心配をかけてしまった」と振り返りました。会社からは官房長官会見に出ないようにとは言われなかったそうですが、身体に危険が及ぶ可能性があるとのことで外での取材が制限されたこともあったそうです。望月記者は、メディアに対し「自分たちの記事によって他人の身体などに影響が出るようなことが起きていることを知ってほしい」と訴えました。

最後に望月記者は「記者クラブに所属しているメディアの人間がどのような心構えで政府を監視していくのかが問われている」「『会社がどうか』ではなく、ジャーナリストとしてどのような立ち位置につきたいのかという信念を持つことが重要だ」と締めくくりました。

最後に登壇した青木理氏は、日本のジャーナリズムについて語って頂きました。青木氏は、「ジャーナリストの仕事は、権力側から情報を得るだけではなく、何か起きた時には権力側と対峙し追求することだ」と説明し、日本ではそのジャーナリズムが成り立っていないために記者クラブの問題が出てくると言います。青木氏は市民社会だけでなくメディアの中でもジャーナリズムとは何かということがしっかりと理解されていないからだと指摘します。その例として、2015年にIS(イスラム国)に殺害された後藤健二さんのことを挙げました。当時、渡航禁止が出されていたシリアに行った後藤さんの自己責任論が市民社会だけではなく、一部メディアからも上がっていました。これらについて説明した上で「今日はこの場でメディアの原則などについて共有できたらいい」と話しました。

250名を超える申込者の中には様々な立場の方が参加しており、英国エセックス大学人権センターフェローの藤田早苗さんより「ジャーナリストに関する国際社会の活動」という発表をして頂きました。続いて、新聞労連元委員長の新崎盛吾さんを初めとして、急遽、会場から発言を頂くことになりました。望月記者の講演でも取り上げられた伊藤詩織さんは「何かおかしいなと思ったことが、弱い立場だとメディアに届かないということを、この2年で体験しました。勇気があるねとの言葉を頂くけれど、それしか方法がなかった」と自身の体験について語りました。またイベントのライブ中継を行なっていたOurePlanetTV代表の白石草さんは日本の放送免許が国から発効されている問題に触れ、「このような制度を取っているのは、中国と北朝鮮、ベトナムだけだ」と放送法を痛烈に批判しました。加えて、新聞労連元委員長の新崎盛吾さんからも発言を頂きました。

南記者、望月記者、青木氏とのディスカッションでは、時間内では答えられないほどの質問が集まり、あっと言う間に時間切れになってしまいました。最後に挨拶に立った阿部浩己HRN理事は、日本政府が国連特別報告者を否定するかのような態度を取ったことに関して「この行為は国連の人権保障システムを否定するものである」と批判。そして参加者の皆さんに向けて「今日のイベント通して、国際人権基準の中に知る権利、表現の自由と報道機関に関わる様々な重要な基準が存在していることを知ってほしい」と呼びかけました。