【声明・和訳】「全ての当事者に対してイラクファルージャの市民・子どもの保護及び安全な避難経路の確保を求める」声明を公表しました。

ヒューマンライツ・ナウは、2016年6月8日、「全ての当事者に対してイラクファルージャの市民・子どもの保護及び安全な避難経路の確保を求める」声明を公表しました。

日本語でも声明を作成しましたので、全文をご報告いたします。

20160617 イラク・ファルージャの子供・市民の安全・避難の確保を求める声明 [PDF]

ヒューマンライツ・ナウは全ての当事者に対してファルージャの市民・子どもの保護及び安全な避難経路の確保を求める

2016年6月8日

 

  1. ファルージャの市民や子どもへの危害

国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ(HRN)は、最近の紛争によって、イラク・ファルージャ内の市民・子どもに対する危険及び死亡に対して重大な懸念を表明するとともに、全ての当事者に対して、市民・子どもを保護し、市内からの安全な避難経路を確保するよう要請する。

5月23日、イラク軍は、シーア派民兵及び米国による空爆作戦の支援を受けて、ISIS(ISILとも呼ばれる)の支配からファルージャを奪還するための軍事作戦を開始した。イラク政府は、市民に対して、避難するか屋内に待機し、白旗を上げるよう警告を発したが、避難民キャンプに逃げることができたのは数千人に過ぎず[1]、推定5万人(そのうち2万人は子ども)が、未だに市内に取り残され、ISISと侵攻するイラク軍との間で極めて危険な状況にさらされている[2]

多くの報道が、ISISが夜間外出禁止令を出し、住居または市内を離れようとする者を処刑していると伝えている(銃殺及び、逃亡を図ったことを理由に15名の市民を焼死させた5月の事件を含む)[3]。 国連イラク支援団の代表によると、ISISは、イラク軍に対する「人間の盾」として利用するために、市民を市内中心部に留めているという[4]。市民の脱出とイラク軍の侵入を防ぐため、市外への出口には爆弾などの仕掛けが敷き詰められており、避難経路として残っているのはユーフラテス川のみとなっている[5]。これまで、数百の住民が、即席のボートを使ってユーフラテス川経由での脱出を試みており、確認されただけで少なくとも18人の市民(7人の子どもと3人の女性を含む)が溺死したと報告されている[6]。ノルウェー難民評議会(Norwegian Refugee Council)は声明の中で、「川を渡ろうとしていた複数の市民が銃撃され、殺害された」と発表している[7]。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の報道官は、これらの理由から、5月23日以降避難民キャンプに到着した1万8千人近い市民のほとんどが市外か市郊外からの避難者であり、市内からの避難者は「ほんの一握り」しかしないとしている[8]

UNHCRの2名の担当官は、市内の状況について、「避難する家族は心に傷を負い、取り乱し、青ざめていた」と話した[9]。ユニセフ(国連児童基金)のイラク事務所代表であるピーター・ホーキンス氏は、6月1日の声明で、取り残された市民が悲惨な人道的状況に直面していると警告するとともに、全ての当事者に対して、ファルージャに取り残された子どもたちを守り、町からの避難を願う人々に安全な経路を提供するよう求めている[10]。特に、子どもたちが「戦闘のための強制的な徴用」や「家族との別離のリスク」に直面していると警告した[11]。UNHCRのイラク責任者であるブルーノ・ゲッドー氏は、ファルージャ市内の子どもの状況について、「子ども達は、深く、深く傷ついている。子ども達の両親が、爆撃と根深い恐怖によりパニックに陥っていることを子ども達は理解している。子どもは大人よりも深く影響を受けている」と述べている[12]

市内に取り残された市民の状況は悲惨である[13]。2015年9月以降、いかなる援助も市内に届いていない。 2015年12月以降は、ファルージャの包囲によって供給路が遮断され、5月23日の戦闘によって状況はさらに悪化した[14]。住民は、ここ4、5か月の間、医薬品や米などの主食がないと訴えている[15]。生鮮食品、清潔な水、医薬品などは乏しいか、底を突いている。ゲッドー氏によれば、食品、医薬品及び燃料の価格は急騰し、ほとんどの人々にとって手が届かないものとなっている[16]。支援団体及び国連イラク支援団によると、住民は、動物の餌や腐ったナツメヤシを食べ、動物の死体が浮かぶ汚染された運河の水を飲まなければならない状況に追いやられており、コレラ流行の恐れが高まっている[17]。医師たちは、麻酔薬の不足により、重傷の場合は鎮痛剤を打つ代わりに切断手術を行っているという[18]。また、食料不足によって餓死した家族も複数いると報告されている[19]。イラク軍、人民動員隊(Popular Mobilization Force, PMFs)や、紛争の激化が人道援助物資の搬送を遅らせているため、国際的な避難民キャンプに住む家族でさえ、食料、水及び医薬品の欠乏に直面している[20]

ファルージャの市民は、戦闘、爆撃、市中心部に拘束された数百人の「人間の盾」[21]、ISISによる処刑(特に、ISISのために闘うことを拒否した年長の少年(多くは未だに子ども)) などによって殺害されているため、常に屋内に避難している[22]。UNHCRの市中心部の市民犠牲者に関する最新の報告には、5月28日に亡くなった7名の家族が含まれている[23]。さらに、国連イラク支援団は、5月に少なくとも867名のイラク人(468名の市民を含む)が死亡し、1,459名が負傷者したと報告しており、これらの数はファルージャへの侵攻に伴い、6月にさらに増加すると考えられる。また、最近では、ファルージャ北西部のサクラウィヤで、2014年から2015年にかけてISISによって処刑された約400人の兵士及び市民の遺体が埋められた大量埋葬地が発見されている[24]

 

2. 宗派間の問題

ファルージャの人道状況を複雑にしている一つの要因は宗派間紛争である。ファルージャ市外に市民・子どもを脱出させるだけでなく、避難後にその安全性を確保するとともに、2003年のイラク戦争以降、ファルージャに絶えず紛争をもたらし、将来にわたって脅威を与えている暴力のサイクルを終わらせるため、宗派間の不信と恐怖という根本的な問題に取り組むことが重要である。

ファルージャ及びその周辺地域は、主にスンニ派であり、2013年から2014年にかけては、シーア派主導のイラク政府に対する不満と暴動の中心地であった。マリキ元首相は暴動を武力で取り締まったが、逆に、スンニ派ISISの増加とISISによる市の支配を助長することとなった。イラクの地域をISISの支配から奪還する作戦の中で、シーア派民兵組織の人民動員隊が、主導的な役割を果たしてきた。そして、ファルージャ周辺の地域からISISを掃討する作戦を主導するとともに、2015年12月以降ファルージャの包囲を実施している[25]。ある人民動員隊メンバーは、ビデオの中で暴力的な言葉を用いて、ファルージャ内のスンニ派を「癌」又は「腫瘍」とし、民族浄化を求めている[26]。また、人民動員隊は、ISISから解放されたスンニ派に対して復讐殺人や人権侵害を行ったとされている[27]。よって、ファルージャのスンニ派住民の多くは、ISISに反対する一方で、いまだに人民動員隊とイラク政府に対しても不信感を抱いている。

スンニ派の市民は、特に、ファルージャを脱出する際、人民動員隊からの身を守ることについて懸念している[28]。イラクのハイダル・アバディ首相は、米国からの圧力を受け、報復殺人を防ぐために、人民動員隊は周辺地域にのみ滞在させ、ファルージャには入らせないことを約束した。しかし、人民動員隊のリーダーの1人が「我々がそこに行くことを誰も止められない」と表明[29]するなど、人民動員隊がいずれ紛争に関与する可能性が高いと報道されている。サクラウィヤなどの周辺地域で、人民動員隊が (ISISから)解放されたスンニ派男性市民600人以上を(ISISでないことを確認するための)「選別(Screening)」のために拘束しているとの報道がいくつもあり、その中には拷問された形跡がある者や、人民動員隊による拷問及び殺害があったと伝える者も含まれている[30]

ファルージャ作戦におけるイラクの治安部隊及び人民動員隊による人権侵害の告発を受けて、アバディ首相は6月5日、活動中の部隊による「市民の保護に関する命令に対する違反」を調査するための人権委員会の設立を命じたほか、人権侵害が発生した場合には訴追を行う旨の「厳格な命令」を発表した[31]。さらに、国会議員も声明で、「連邦警察のメンバー及び数名の志願兵によって市民に対して行われた」侵害の可能性について懸念を表明した[32]。しかしながら、住民は、これらの措置が住民の安全を保障するかについては懐疑的である。

ファルージャの市民はまた、将来危険にさらされる可能性があるシーア派の支配地域に長期にわたって避難させられることについて懸念を表明している。しかし、根本的には、宗派間の対立が解決し、暴力、報復及び不信のサイクルが終結しない限り、ファルージャの持続的な平和及び安全は実現し得ない。それゆえ、過激派勢力の占領によって市民や子どもが危険にさらされるようなことが二度と起こらないようにするため、シーア派主導のイラク政府が、スンニ派住民の間の信頼を再構築していくことが重要である。

 

3. 提言

ヒューマンライツ・ナウは、ファルージャの全ての当事者に対し、さらなる危害からファルージャの市民及び子どもを保護すること、また、市内からの安全な避難経路を確保し、避難民のより一層の安全を確保するよう求める。また、イラク政府に対し、ファルージャのスンニ派と対話を開始し、信頼関係を再構築すること、またスンニ派への人権侵害の疑惑を調査及び訴追すること、宗派間の緊張を解決すること、並びに、持続的な平和及び安全を確保するため、ファルージャにおける報復的暴力のサイクルを終わらせることを要請する。

以上

 

 

 

[1] http://edition.cnn.com/2016/05/31/middleeast/voices-from-falluja/index.html

[2] http://www.unicef.org/media/media_91257.html

[3] http://www.businessinsider.sg/iraqi-forces-have-stormed-the-city-of-fallujah-2016-5/?r=US&IR=T – .V1w-JCN95bU, http://www.dw.com/en/un-civilians-trying-to-reach-safety-are-trapped-inside-fallujah/a-19284309, http://www.businessinsider.com/isis-burned-15-people-to-death-for-trying-to-leave-fallujah-2016-4?IR=T&r=UK&IR=T

[4] http://www.aljazeera.com/news/2016/06/battle-fallujah-iraqi-troops-die-isil-attacks-160602040503487.html

[5] http://www.news.com.au/world/middle-east/mass-grave-found-near-the-islamic-statecontrolled-city-of-fallujah/news-story/b3cf85ba2283b3eaf88d106c48727a0e

[6] http://www.independent.co.uk/news/world/middle-east/isis-in-fallujah-islamic-state-is-daesh-iraq-forces-close-in-children-drown-a7066551.html

[7] https://www.yahoo.com/news/iraqi-forces-mass-grave-near-fallujah-officials-182302128.html

[8] http://www.sbs.com.au/news/article/2016/05/31/uses-human-shields-fallujah-unhcr

[9] http://www.aljazeera.com/news/2016/06/iraqis-drown-fleeing-fallujah-160605082746287.html

[10] ユニセフ、上記脚注2参照。

[11] Id.

[12] http://www.dw.com/en/unhcrs-bruno-geddo-in-iraq-fallujah-is-frightening/a-19294514

[13] Id.

[14] Al Jazeera、上記脚注9参照。

[15] CNN、上記脚注1参照。

[16] http://www.aljazeera.com/news/2016/05/fallujah-iraqi-forces-face-tough-isil-resistance-160531130354691.html

[17] Al Jazeera上記脚注4、Al Jazeera上記脚注9、CNN上記脚注1参照。

[18] CNN、上記脚注1参照。

[19] http://www.aljazeera.com/news/2016/05/fallujah-iraqi-forces-face-tough-isil-resistance-160531130354691.html

[20] http://www.nytimes.com/2016/06/07/world/middleeast/iraqis-who-flee-falluja-find-hardship-and-hunger.html?_r=0

[21] http://www.sbs.com.au/news/article/2016/05/31/uses-human-shields-fallujah-unhcr

[22] https://www.theguardian.com/world/2016/may/30/iraqi-forces-enter-fallujah-in-attempt-to-drive-out-islamic-state

[23] http://www.un.org/apps/news/story.asp?NewsID=54093 – .V17sgSN968V

[24] Yahoo、上記脚注7参照。

[25] Guardian、上記脚注22参照。

[26] Id.

[27] http://www.thenational.ae/world/middle-east/why-winning-back-fallujah-will-take-more-than-beating-isil

[28] ファルージャの住民の1人である、イブラヒム・アル・ジュマイリによれば、「ファルージャの家族たちは、シーア派民兵がファルージャに侵入し、報復殺人をするつもりであると恐れている。 」とのことである。http://www.wsj.com/articles/iraq-begins-assault-on-islamic-state-in-fallujah-1463956289, http://www.npr.org/2016/05/30/479995777/iraqis-again-try-to-take-back-fallujah-from-isis

[29] http://www.middleeasteye.net/news/sunni-tribal-leader-says-shia-militias-should-liberate-fallujah-and-mosul-not-army-1147210250

[30] FRBIU, https://www.youtube.com/watch?v=NdXCaePnK64; http://www.bbc.com/news/world-middle-east-36458954; http://dailycaller.com/2016/06/06/experts-worst-fears-seem-to-be-coming-true-in-fallujah/; http://www.theaustralian.com.au/news/world/the-times/fallulah-civilians-killed-by-islamic-state-or-tortured-by-shia- militias/news-story/ae144381f20a25240249e5a94e9a271f; http://www.live-news24.com/world-news/middle-east/7730/Fallujah-fight-heats-up-Human-rights-violations-increases

[31] http://www.middleeasteye.net/news/shooting-civilians-who-flee-fallujah-1258022855

[32] Id.