ヒューマンライツ・ナウは「新型コロナ感染拡大を受けて、企業と投資家に対し、ESG、とりわけ「S(社会)」に対する取組みをより一層推進することを求める声明」を発表いたしました。
PDF版はこちら:新型コロナ感染拡大を受けて、企業と投資家に対し、ESG、とりわけ「S(社会)」 に対する取組みをより一層推進することを求める声明
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新型コロナ感染拡大を受けて、企業と投資家に対し、ESG、
とりわけ「S(社会)」に対する取組みをより一層推進することを求める声明
2020年4月30日
国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ
新型コロナウイルスの感染拡大は、社会的・経済的に深刻な影響を及ぼしています。この世界規模の危機を乗り越えるためには、「誰一人取り残されない社会」を目指す「持続可能な開発目標」(SDGs)をすべてのアクターが尊重することが重要であり、企業と投資家もその責任を果たすことが期待されています。
国際人権NGOヒューマンライツ・ナウは、企業に対し、自社の社会的責任を実施すること、そして投資家に対し、ESG、とりわけ「S(社会)」に関する取組みを推進するよう企業に対するエンゲージメントを積極的に実施するよう求めます。
日本企業の経済活動も深刻な影響を受けていますが、日本企業への影響は、その従業員のみならず、世界中のサプライチェーン上の全ての労働者、またその家族らの健康・生活への影響を引き起こします。派遣労働者・パートタイムといった非正規雇用労働者の派遣や雇用の打ち切り、海外サプライチェーンの下請企業との契約の打ち切りなどにより、移民労働者・女性・障害者・性的マイノリティなど、社会でとりわけ脆弱な立場にある人々へは、特に甚大な影響が生じています。
このような状況において、企業、とりわけ大企業、多国籍で展開する企業が自社の存続のみを考えて行動することは、社会全体の持続可能性を大きく損なうものです。国際社会では、企業に対し、自社のみならずサプライチェーン全体の人権リスクを考慮した上で責任ある企業として行動するよう求める声が日に日に高まっています。
責任ある投資原則(PRI)は、この間、繰り返し責任ある投資家としての役割の重要性を述べています。CEOフィオナ・レイノルズ氏も、今、ESG投資を止めるべきではなく、社会的な側面と環境権の結果を伴う回復を描きながら、ステークホルダーがけん引する持続可能な経済のための基礎を築くよう提言し、投資家に対しては、企業が現在直面している問題を理解するように努める必要があると促しています。併せて重要なESGテーマとして、人権が含まれることを改めて強調しています[1]。
また、投資家の人権課題への取り組みを促進するInvestors Alliance for Human Rightsは、2020年4月21日、運用総額4.2 兆ドル(約450兆円)以上となる101の加盟機関投資家によって、全ての国家に対し、企業を評価するための義務的な人権デュー・ディリジェンスの導入を求める声明を公表しました[2]。ビジネスと人権資料センター事務局長は、現在のパンデミックは、人権デュー・ディリジェンスの欠如による痛みと困難を露わにしていると述べます。そして、責任ある企業行動を推進してきた企業は、現在のパンデミックにおいて自社の従業員とサプライヤーのいずれについても、比較的評価できる対応をしていると指摘した上で、だからこそ、政府に対して企業行動の最低限の基準として人権デュー・ディリジェンスを求める投資家の声が重要であると強調します。
企業が関連する全てのステークホルダーの人権を中心に考えて行動するために、投資家が果たす役割は大きいと言えます。
これまでもESGのうち、とりわけ「S(社会)」に対する取組みは不十分であると批判されてきました。今この状況にあって、この「S(社会)」の中核はステークホルダーの人権であることを改めて認識し、企業に対する実効的なエンゲージメントを実施することが投資家としての責任です。
パンデミックに対する一時的な対応ではなく、ESGの視点から長期的な社会の持続可能性を十分に考慮するために、我々は投資家が投資先企業に対して以下のアクションをとることを求めます。
- 新型コロナウイルスによるサプライチェーンも含むステークホルダー全体の人権リスクの評価・対応を確認すること。
その際には、とりわけ以下の点に留意すること。
- サプライチェーンも含む全ての労働者の健康・安全を確保するために講じた措置を確認すること。
- ジェンダーに基づく影響に関する措置を確認すること。
- 外国人・障がい者・性的マイノリティといった脆弱な立場に陥りやすいステークホルダーに与える影響に関する措置を確認すること。
- 人権リスクに際し、組合やNGOも含め、ステークホルダーとの実効性のある実質的なダイアログを実施したか確認すること。
- 人権リスクが顕在化している場合における救済のあり方について確認すること。
- 国連ビジネスと人権に関する指導原則、OECD多国籍行動指針、ILO多国籍行動宣言等に沿った、新型コロナウイルスによる中長期的な影響を視野に入れた人権デュー・ディリジェンスの実施を求めること。
- ステークホルダー全体に対するグリーバンスシステム(救済相談窓口)の設置を求めること。
- いずれの対応についても、外部のステークホルダーに対し必要な情報を遅滞なく開示するよう求めること。
以上
[1] 2020年4月22日日経新聞「『コロナ危機、ESG投資を止めるな』国連関連団体」
[2] https://investorsforhumanrights.org/news/investor-case-for-mhrdd