2010年6月27日、青山学院大学にて、ビルマ女性連盟主催、ヒューマンライツ•ナウ共催で、ビルマ女性国際法廷が開催されました。
3月のニューヨークでの法廷に続き、アジア初である本法廷は、被害女性の証言や関係書証をもとに、ミャンマー(ビルマ)軍政がミャンマー(ビルマ)全土で行っている、レイプ・強姦・労働・拷問などの女性に対する人権侵害が、「人道に対する罪」に該当するのかが問われました。
本法廷のためにミャンマー(ビルマ)軍政による人権侵害の被害にあった女性が来日しました。本法廷では、ミャンマー(ビルマ)軍兵士によるレイプ未遂、強制労働とそれに伴う残酷な拷問や虐待、民主化運動への参加を理由にした政治犯として投獄や過酷な取り調べ等の、人権侵害の経験を、涙ながらに証言しました。
当日は、200人近い方が法廷を傍聴し、独立系ミャンマー(ビルマ)メディアが法廷の様子を世界に同時中継しました。また、日本のメディアのほか、BBCなどの国際メディアも取材にこられ、法廷の開催は世界中にいるビルマ難民の方々や民主化活動家の方々―とりわけ女性たち―を励ますことができたのではないかと思います。
【プログラム】
主催者・来賓等挨拶
起訴状朗読
冒頭陳述
証人尋問・証拠調べ
論告・弁論
裁判所の判断
閉会挨拶
【主催】 ビルマ女性連盟(Women’s League of Burma)
【共催】 特定非営利活動法人 ヒューマンライツ・ナウ
【協賛】 アジア女性資料センター
社団法人アムネスティ・インターナ ショナル日本
在日ビルマ民主化グループ
全日本フェミニスト議員連盟
ビルマ市民フォーラム
ヒューマン・ライツ・ウォッチ
土井香苗さん
土井さんはヒューマン・ライツ・ウォッチ 東京ディレクターとしてミャンマー(ビルマ)の現状について証言しました。紛争地域での民間人に対する人権侵害(超法規的殺害、性暴力、強制労働、拷問、殴打、土地や資産の没収)は、広範且つ組織的であるとし、ミャンマー(ビルマ)の少数民族の紛争地域に暮らす女性は、民兵による性的暴力を日常的に受け、また強制労働を強いられ、非常に過酷な扱いを受けていると証言しました。ミャンマー(ビルマ)軍は国際的批判を気にすることなく横暴を極めているとし、ビルマ国軍は、法制度を圧制の道具として利用しており、国軍兵士が行ってきた女性に対する人権侵害について中立且つ独立した調査を実施したことはこれまで一度もないと強調しました。
Kyi Kyi Khinさん
全ビルマ学生連盟(バカタ)に加入し活動をしていた Kyi Kyi Khinさんは、ある日突然令状なしで逮捕され、その後28日間、拘束されたまま、連日、過酷な尋問と拷問を受けました。頭に布を被されたまま、そして立ったまま、長時間毎日尋問を受け、時には蹴られました。彼女は強制的にサインさせられた供述調書に基づき、「印刷及び出版登録法17条6項違反」の罪で、特別裁判所に起訴され、弁護人も立ち会うことのない裁判で、懲役2年の刑を宣告されました。その後2年間過ごした刑務所は衛生も医療も劣悪で、女性たちが過酷な拷問を受けていました。出所後も家は監視され、家の半分を壊され、あまりの状況に耐えらなかったKyi Kyi Khinさんは2006年、ミャンマー(ビルマ)を出国したと法廷で訴えました。
Naw Sun Setさん
バゴー管区Toungoo郡出身のNaw Sun Setさんは、2003年から2004年にかけて、軍のポーターとして荷物を運ぶために強制労働に駆り出されました。彼女の村では、妊娠中の女性や子どもを含む村人が男女を問わず、過酷な強制労働に駆り出されたのです。
また、2005年11月21日、Naw Sun Setさんが一人で自宅にいると、一人のミャンマー(ビルマ)国軍兵士が訪ねてきて、片方の手で口を押さえ、彼女の上に乗りかかって、レイプをしようとしました。学校から戻ってきた次男が、Naw Sun Setさんの叫び声を聞いて
家に駆けつけ、兵士を切りつけ、Naw San Setさんは逃げました。彼女は村にとどまることができず、難民として国外に逃れたのです。(写真は、供述を代読するTin Tin Nyoさん)
Ma Pu Seinさん
ラカイン州出身のMa Pu Seinさんはミャンマー(ビルマ)軍事政権下で経験した強制労働について証言しました。Kyaukphu とAnn をつなぐ道路の建設のために強制的に労働させられたMa Pu Seinさんは厳しい労働状況や軍隊による命令によって多くの人たちが病気に苦しみ、暴力を受け、命を落とす様子を見てきました。彼女は、出産直後にもかかわらず過酷な強制労働をさせられ亡くなった女性や軍にレイプされた少女についても語りました。彼女自身、あまりの過酷な強制労働に疲れ果て、やむなくミャンマー(ビルマ)からバングラデシュへ逃れましたが、全ての子どもを連れてくることが出来ず、子どもがいまだに過酷な運命にあることに深く心を痛めていました。
~裁判所の勧告的意見 ~
まず裁判官団から意見を述べるのに先立って、今回の法廷の実現に努力されたすべての関係者の皆様に心から敬意を表したいと思います。また、本日傍聴席で、私たちと同じように、歴史の目撃者となるべく参加してくださった方々にもお礼を申し上げます。
特に、証人として参加してくださったビルマの女性の方々に心からお礼を申しあげたいと思います。未だ残る心の傷を抱えながら、つらい経験を法廷で話してくださって本当にありがとうございました。みなさんの証言は私たちの心に強く響きました。遠くから本法廷のために来日してくださったことに、心から感謝します。
なお、ビルマ連邦は、1989年6月以降ミャンマー連邦となっていますが、ここでは、法廷の名前にしたがって、「ビルマ」という名称で呼ぶことにします。本法廷規程によれば、本法廷、ビルマ女性国際法廷は、1988年以降ビルマ連邦「領内において,女性に対して発生した重大な人権侵害について事案の真相を解明するためのアドホック法廷」で、「本法廷が管轄する人道に対する犯罪は、国際刑事裁判所規程(以下、ローマ規程と称する。)第7条の定める人道に対する罪にならう」(第2条)となっています。
したがって、本法廷では、ビルマにおいて、女性に対する「人道に対する罪」にあたる事実が存在するどうか、その責任を被告人であるタンシュエ氏が負うべきかを判断することになります。
人道に対する罪が認められるためには、起訴状に掲げられた「殺人」、「奴隷化」、「国際法の基本的な規則に違反する拘禁その他身体的な自由の著しいはく奪」、「拷問」、「強かん及び性的な奴隷行為」が行われたことだけではなく、これが「文民たる住民に対する攻撃」であって、「広範又は組織的なものの一部として」行われることが必要となります。
今日本法廷で証言されたみなさんが経験された女性に対する人権侵害行為は、単なる個人的な経験ではなく、多くのビルマ女性が経験したであろうことは、本法廷に証拠として提出された、国連におけるビルマ特別報告者による報告書等数多くの書証からも十分に窺うことができます。
このことは、ビルマで起こっている女性に対する人権侵害行為が、みなさんのような戦闘員ではない、一般住民に対して、「広範又は組織的なものの一部として」行われている蓋然性を示唆しています。
検察官は、このような人権侵害行為の責任を、国家平和開発評議会(SPDC)の議長、国防省及び国軍司令官の地位にあるタンシュエ氏が負うべきだとしています。
しかし、本法廷で示された証拠では、タンシュエ氏が、上官として人道に対する罪を犯したとまでは判断することはできませんでした。実際に人権侵害状況が存在することが十分疑われ、しかも、被告人が現在の軍事政権の最高責任者であるという疑いのない事実が存在し、さらに、軍事政権がこれらの人権侵害について、行為者を処罰するなどの何らかの処罰を行っていないことが十分疑われるとしても、被告人がローマ規程第7条にいう人道の罪を犯したというためには、それぞれの行為に対する被告人の関わりが、証拠によってさらに明確に証明されなければなりません。
ただ、そうだとしても、タンシュエ氏が責任ある地位にあるビルマ軍事政権下で、女性に対する人権侵害行為が継続的に「広範又は組織的なものの一部として」行われているということは、本法廷に提出された証拠から容易に推察することができます。したがって、ビルマでの女性に対する人権侵害状況は、人道に対する罪に該当する蓋然性が極めて高いということができます。
ビルマにおいて、人道に対する罪に該当する蓋然性が極めて高い女性に対する人権侵害が行われていることが強く疑われることから、私たち裁判官団は、日本を含めた国際社会や、私たち国際社会の構成員が、ビルマの女性に対する人権侵害行為対して、次のことを行うことを求めます。
1.国際社会は、女性に対する暴力は、どこで誰によって行われても犯罪であることを改めて確認し、犯罪の訴追に責任を持つ犯罪発生国は、厳正な処罰を含めた適切な対応を行う責任があることを再確認すること。特に、女性差別撤廃条約を批准しているということは、女性の暴力の根絶についての国際社会のルールに従い努力する意思を明らかに示したものであることを批准国に明らかに示すこと。
2.これまで、国際社会は、国連特別報告者を任命するなどして、ビルマにおいて、女性に対する人権侵害が行われていること、それが処罰されないままになっていること、さらには、人道に対する罪等の犯罪が行われていることが極めて高いことなどの情報を共有してきたが、今後もあらゆる形でその情報を共有する努力を行うこと。
3.ビルマの女性に対する人権侵害状況が、人道に対する罪に該当する蓋然性が極めて高いことから、国際社会として、情報共有の段階を超えた何らかの対応が必要であることを確認すること。
4.これまで国連等国際社会が行ってきた情報共有とそれに基づく決議や勧告が数多くなされているにもかかわらず、国際社会の一員として、勧告等に対応し、女性に対する暴力の防止や、行われた犯罪行為についての適切な処罰が行われたという情報は共有されていない。現在もビルマの女性に対する人権侵害行為が続いている状況にあることが強く疑われる以上、ビルマ政府の自主的な対応にゆだねる段階を超える状況にあること。
5. 国際社会は、本法廷で明らかにされたように、ビルマの女性に対する人権侵害が、人道に対する罪を構成することが強く疑われることから、国連事務総長の権限または国連人権理事会の決議により、ビルマに対し、独立した国際調査団を結成し、これを派遣することが必要な状況に達していることを確認すること。
6. この独立した国際調査団の調査・派遣によっても事態に改善が見られない場合には、国際社会は、さらなる段階として、国連安全保障理事会が、ビルマにおける人道に対する罪について、討議し、国際刑事裁判所検察官に事態を付託する決議を行うこと等を検討することを強く求めること。
7.たとえ、国連が上記5,6のような更なる積極的な行動を開始したとしても、女性に対する人道に対する罪が強く疑われる人権侵害状況は継続的していく可能性が高いため、国際社会や国際社会の構成員である私たちは、被害者である女性たちや、圧政に対して闘い続けている女性たちに何らかの支援を行うための有効な方法を模索するさらなる努力を行うこと。
8.最後に、アジアの一員として、日本国政府及び日本国民は、ビルマの女性たちのおかれている状況について、欧米諸国にもまして、的確な情報を共有し、ビルマの女性のたちの人権侵害状況についてビルマ政府およびビルマ国民に対し情報を提供し、その理解を深めることにより、圧政に苦しむビルマ国内の人々およびこれを逃れて外国に在住する同国の人々に対して、可能な限りの真の人道的支援含む支援を行う義務があることを確認すること。
2010年6月270日 ビルマ女性国際法廷
裁判長裁判官 後藤 弘子
裁判官 久保利英明
同 敷田 みほ
同 新倉 修
同 濱田 邦夫
検察官 雪田樹理
同 渡邉彰悟
同 石田真美
同 弘川欣絵
同 小田川綾音
同 三輪咲絵
弁護人 矢花公平
同 原田いづみ
同 鈴木多恵子
同 小川尚史