昨年9月、ビルマで発生した民主化運動に対し、軍事政権(SPDC)は、残忍な武力弾圧と、参加者の身体拘束という重大な人権侵害行為をもって応えた。国際社会の批判にも関わらず、軍事政権は、この人権侵害について何らの是正を行わないばかりか、民主化運動に参加した者たちを刑事裁判にかけ、抑圧を継続している。
そして、本年11月11日、軍事政権は、昨年の8月~9月の抗議運動を主導した主要な民主活動家少なくとも23名に懲役65年という事実上の終身刑を言い渡した。懲役65年を宣告されたのは、ミンコーナイン氏を含む、いわゆる88年世代(1988年の民主化運動に担った当時の学生)の民主化活動家であり、判決は、14名についてインセイン刑務所、そのほかの20名(うち9名が懲役65年の判決)についてはそれぞれ拘束されている刑務所で、秘密裏に言い渡され、手続きは家族にも公開されなかった。また、同日、著名な労働問題活動家ススヌィ氏が12年6ヶ月の実刑判決を受け、さらに僧侶として昨年9月の民主化運動を導いた一人であるガンビラ師も12年の刑に処せられ、他の僧侶も懲役判決を受けたとされ、これら民主化運動参加者の弁護士まで懲役刑に処せられている。
今回、有罪判決の対象となったのは、昨年8月15日に軍事政権が燃料や日用品の公定価格を一方的に引き上げたことに起因し、僧侶を含めて全土に拡大した民主化運動に伴う一連の行動である。一人当たりのGDPがわずか219ドル(1日1ドル以下)しかないビルマ市民にとって日用品等の値上げはまさに死活問題であり、彼らは市民の生活を守るために、経済的苦境の打開を求め、平和的な方法によって抗議活動を開始し、僧侶を含めて全土に民主化運動として発展したが、すべては平和的に行われた。軍事政権は、このような民主化活動を武力弾圧したうえ、その参加者に懲役65年という、事実上の終身刑を言い渡したものであり、民主化運動に真っ向から挑戦する重大な暴挙にほかならない。
この判決が軍事政権の意向に沿ってなされた、非独立・不公平な裁判であったことは明らかである。これら有罪判決は、世界人権宣言が保障する、表現の自由(19条)、平和的集会、結社の自由(20条)、恣意的逮捕・抑留の禁止(9条)、独立・公平な公開裁判を受ける権利(10条)に示された基本的かつ普遍的な権利に対する重大な侵害である。
国連人権理事会が選出した5人の専門家Tomas Ojea Quintana(ビルマの人権状況に関する特別報告者)、 Leandro Despouy(司法の独立に関する特別報告者), Frank La Rue(表現の自由に関する特別報告者), Margaret Sekaggya(人権活動家に関する特別報告者), Asma Jahangir (信仰の自由に関する特別報告者) は18日、ビルマ当局による、「良心の囚人」に対する不公正な裁判と不当な有罪判決を強く非難し、表現の自由を平和的に行使した人々に対する全ての弾圧・逮捕をただちにやめるよう求めている。
HRNは今回の軍事政権の措置に強く抗議するとともに、日本政府を含む国際社会に対しては、軍事政権が今回の34名を含むすべての政治犯を即時かつ無条件に解放するよう、軍事政権に強く働きかけていくことを求める。
国連人権理事会は、2007年10月2日開催の第5特別会期に、ビルマの人権状況に関する決議を採択し、武力弾圧に強い遺憾の意を示すとともに、人権侵害行為の停止を求め、全ての表現、平和的集会、結社の自由への制限をなくすよう求め、2007年の武力弾圧で逮捕された全ての者の速やかな釈放とアウンサンスーチー氏を含む政治犯の釈放、民主化勢力との対話を勧告した。しかしながら、この勧告のひとつたりとも実施されていない。軍事政権は2010年に総選挙を行って民主化への道のりを進めるなどとしているが、これが国際社会の目を欺くものであり、真の民主化への道とは到底認められないことは、今回の事態で一層明らかになった。
HRNは、日本政府を含むすべての人権理事国、近隣アジア諸国に対し、人権理事会その他のあらゆる機会を通じて、この由々しき人権侵害を是正するよう全力を尽くすように要請する。
以 上
(今月明らかになった不当判決、不当逮捕)
1 弁護士2名への逮捕・不当判決(U Aung Thein 及びU Khin Maung Shein)
1) 両弁護士は、Gambira師ほか、2007年9月の民主化運動などで逮捕された人々の弁護を多数引き受けた弁護士である。
2)両弁護士は、裁判官(Daw Aye Myaing、Hlaing Township裁判所)の指示に従い、依頼人の主張を書面として、書面をDaw Aye Myaing裁判官に提出(11月6日)
3) ところが、Daw Aye Myaing裁判官は、この書面提出を理由に、両弁護士を法廷侮辱罪(section 3 of the Contempt of Courts Act, 1926)で最高裁判所へ告訴した。
4) 最高裁判所は、審理中、両弁護士からの事情聴取を一切行わなず、両弁護士に懲役4ヶ月を宣告(通常なら本件のような事件においては事情聴取のみで一週間から10日、結審までには2週間から1ヶ月ほど要する)。
5) 両弁護士は7日朝、普段どおり尋問のため裁判所へ赴いた際に同僚より事態を知らされた。11月7日夜、両弁護士が自宅で逮捕され、監獄への移送のため地方警察署へ連行された。
2.弁護士2名が逮捕され、懲役6か月の刑を言い渡される(Nyi Nyi Htwe 及びSaw Kyaw Kyaw Min)
1)Nyi Nyi HtweおよびSaw Kyaw Kyaw Minは、RangoonのHlaing Thar Yar Township出身の11人の若手NLDメンバーの弁護人である。
2)11人は、アウンサンスーチー氏の誕生日に、氏の写真がプリントされたTシャツを着て、2007年6月19日にShwe Dargon Pagodaへと行進したかどにつき、2008年9月に逮捕された。
3)家族らは裁判を傍聴することを許されていない。弁護士による接見も制限され、裁判官は検察官側の証人に対する反対尋問への十分な準備時間を与えていない。さらに公判中、警察官らによる撮影や録音が行われていることが確認された。
4)11人の被告と両弁護士は、これら不公平な裁判手続の改善を裁判所に求めた。
5)これに対し、裁判官(U Aung Mynt Than, Hlaingthayar Township Court)は、10月23日に弁護側が、情報大臣(Information Minister)と警察庁長官(Director General of Police)を3名の被告のために証人申請したことにつき、3名の被告と両弁護士を刑法228条(公務執行妨害罪)に基づいて訴追することを検察官に許可し、両弁護士の逮捕状を発布した。
6)Nyi Nyi Htweは10月29日逮捕され、Saw Kyaw Kyaw Minは逃走した。
7)Nyi Nyi Htweは判決の前になんらの抗弁も出来ず、Saw Kyaw Kyaw Minは本人不在のまま、Rangoon Northern District Courtで懲役6か月の判決が言い渡された。
3.14人の民主化活動家らに65年の実刑判決
1)11月11日、5名の女性を含む「88世代学生グループ」の14名が、Insein Prison’s Special Courtにおいて懲役65年の実刑判決を受けた。一連の手続は家族にすら非公開。
2) 2007年8月15日、軍事政権が燃料価格・日用品価格を大幅に引き上げたことに対して、8月17日夜、民主化運動団体「88世代学生グループ」は国民が直面している社会経済的な苦境を打開するよう求める声明文を発表し、翌日以降、市民数百名と供に抗議行動を行ったため、逮捕された。
①Thin Thin Aye (aka) Mie Mie
②Nilar Thein
③Kyaw Min Yu (aka) Jimmy
④Min Zaya
⑤Zaw Zaw Min
⑥Than Tin (aka) Kyi Than
⑦Zaya (aka) Kalama
⑧Ant Bwe Kyaw
⑨Kyaw Kyaw Htwe (aka) Marky
⑩Pannate Tun
⑪Thet Zaw
⑫Mar Mar Oo
⑬Sandar Min (aka) Shwee
⑭Thet Thet Aung.
4.ミンコーナイン氏を含む24人の民主化活動家らに65年の実刑判決
11月11日、ミンコーナイン氏を含む「88世代学生グループ」の24名が、Insein Prisonに移送され、その後再びそれぞれの刑務所に移送されて、それぞれの刑務所で実刑判決を受けた。
ミンコーナイン氏ら9名は懲役65年の実刑判決を受けた。
①Min Ko Naing
②Ko Ko Gyi
③Mya Aye
④Pyone Cho
⑤Aung Thu
⑥Bo Bo Win Hlaingとその他7名
⑦Htay Kywe
⑧Myo Aung Naing
⑨Hla Myo Naung
⑩Saw Wai
⑪Su Su Nway
⑫Tint San
⑬Myat San
⑭Win Maw
⑮U Aung Thein( Lawyer)
⑯U Khin Maung Shein
⑰Nay Myo Kyaw
5.著名な労働問題活動家(Su Su New)に12年6ヶ月の実刑判決
刑法Section 505b、124 条および印刷・出版法section 17 および 20条により、懲役12年6ヶ月の実刑判決。
Su SU Newさんは、以前、国際労働機関(ILO)に対して強制労働を告発したために拘束された経験を持つ、女性活動家である。
6.ブロガーに実刑判決(Nay Phone Latt)
刑法Section 505/b およびVideo Act の32/b と 36 条などで、懲役20年6ケ月の判決を受けた。
7.詩人(Saw Wai)に対する懲役2年実刑判決
Section 505/b of the Penal Codeにより2年の実刑判決。”February 14″というSr. Gen(軍事政権幹部)を揶揄する詩を吟じたのが理由とされている。
8.Ashin Gambira師への実刑判決
Gambira師は、29歳の僧侶であり、全ビルマ僧侶戦線の創設者として、昨年9月の僧侶による大規模な民主化運動を呼びかけ、情報伝達などの役割を担ったGambira師は、11月18日、インセイン刑務所で、秘密の裁判を受け、懲役12年の実刑判決を言い渡された。上記のとおり、彼の弁護人は逮捕されていたため、弁護人抜きで判決を言い渡されている。同師は、刑法Section 505 A / B、移民法Section 13/1、不法組織法 Section 17/1 などで訴追されていた。
ミンコーナイン氏
ガンビラ師(写真中右の僧侶)
国連人権理事会の決議は、
http://www2.ohchr.org/english/bodies/hrcouncil/docs/specialsession/A.HRC.RES.S.5-1.pdf
最近の情報の詳細は、ビルマ政治囚支援協会(本部タイ/英語)
http://www.aappb.org/
(元政治囚により設立された団体で、政治囚の状況を広く世界に伝えたり、ビルマ国内の政治囚の家族への支援、元政治囚のサポートなどを行っている団体。)
民主化活動リーダーに対する訴追は以下を参照してください。
http://www.aappb.org/37%20including%20Min%20Ko%20Naing%20%20-%2088%20Generation%20Students%20Leaders%20and%20Members.pdf
ガンビラ師の有罪判決は以下を参照してください。
http://www.irrawaddy.org/article.php?art_id=14652
国連特別報告者の意見表明は以下を参照してください。
http://in.reuters.com/article/southAsiaNews/idINIndia-36564320081118