【会見報告】15/1/15-16 グローバル企業に問われる社会的責任 ユニクロ中国製造工場調査を受けて

グローバル企業に問われる社会的責任 ユニクロ中国製造工場調査を受けて

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ヒューマンライツ・ナウ(HRN) は、2014 年7月から11月にかけて、香港を拠点とするNGO・SACOM(Students & Scholars
Against Corporate Misbehaviour)、中国の労働問題に取り組むLabour Action China とともに、日本のブランド「ユニクロ」の
下請け・素材工場2 か所への潜入調査を含む、事実調査を行いました。そこで明らかになったのは、労働法規への明らかな違反や労働者に
対する極めて過酷な労働環境の実態でした。調査の中心を担ったSACOM は調査報告書を今年1月に世界に向けて公表、SACOM のプロジェ
クト・オフィサーであるアレクサンドラ・チャン氏の来日を受けて、1月15日・16 日にはSACOM とHRN が共同して、東京( 厚労省記者
クラブ・外国特派員協会) で記者会見を開き、大きな話題となりました。
「ユニクロ下請け工場に潜入調査」
 2014 年の7月から8月にかけてSACOM の学生メ
ンバーは、ユニクロの下請け企業であるLuenthai と
Pacific に、一般労働者として潜入、普段見ることが出来
ない工場の内部での現状を詳しく調査。HRN はさらに労
働者の聴き取りフォローアップ調査を実施、一連の調査に
より、長時間にわたる過重労働と低賃金、危険な労働環境、
厳しい管理方法と懲戒システム、労働者の権利を保護する
組合の欠如などが問題として浮き彫りになりました。
違法な長時間労働と低賃金
 二つの工場で支払われている基本給は、その地域の最低
賃金に過ぎず、平均的賃金レベルよりはるかに少なく、基
本給では生活が出来ない状況です。また、二つの工場の
時間外労働数は驚くほど長く、Pacific で月平均134 時間、
Luenthai で月平均112 時間の時間外労働と推計されてい
ます。中国労働法では月36 時間を超える時間外労働は認
められておらず、明らかな法律違反が行われていました。
危険な労働環境
 Pacific 工場では、エアコンがなく夏の間の室内温度は
38 ~ 42度に達し、労働者は「あまりの暑さに夏には失神
するものもいる」「まるで地獄だ」と訴えました。染物部
門では、有害な化学薬品が使用されているのに換気の設
備もなく、労働者は異様な臭気のなかでの作業をさせられています。
しかも、室温が高すぎるため、防護服を着ることもままならない状
況で、健康被害の危険は深刻です。
 また、作業現場の床全体に排水があふれ、排水による漏電で感電
死が起こっているのに事態は一向に是正されていません。
厳しい管理方法と懲戒システム
 中国の労働契約法では雇用者が労働者に対して罰金を課すことは
許されていません。しかし、Pacific には労働者を処罰するためのシ
ステムが58 規則あり、そのうち41 の規則には違反すると罰金制度
が独自に採用されています。ミスをすれば1日分の給与がなくなっ
てしまうという事態も珍しくありません。Luenthai でも、罰金制度
が横行していました。
労働者の権利を保護する組合が存在しない
 Pacific では、労働組合があるものの、委員長を務めるのは管
理部門の社員であり、労働者が声をあげる場となっていません。
Luenthai の工場には労働組合がありません。そのため、労働者たち
は過酷な労働環境について声をあげることができず、耐えるしかな
かったのです。
問われるグローバル企業の責任
 以上の調査結果を公表したHRN とSACOM の共同記者会見には
多くのメディアが詰めかけ、来日したアレクサンドラ・チャン氏は
調査の結果を詳細に報告、大きく報道されました。
 今回のユニクロの調査結果は、日本企業の海外進出に伴う生産拠
点で人権侵害が起きることに警鐘を鳴らす結果となりました。
 国連人権理事会が2011 年に採択した「ビジネスと人権に関する
指導原則」によれば、企業には、サプライチェーンにさかのぼって
人権侵害に関し相当の注意義務を負うという「デュー・ディリジェ
ンス義務」が課され、さらに、企業活動を通じて人権に有害な影響
を発生・助長させた場合は、是正をする責務が課されています。自社、
そして下請け労働者の人権・特に労働法規の遵守は企業の人権に関
わる義務の最も重いものです。本件はファーストリテイリング社の
企業活動の結果発生した人権侵害事例であり、「下請けの問題」とし
て無視することは許されません。
改善を勧告
 以上の調査結果を踏まえ、SACOM とHRN は、製造業者および
(株)ファーストリテイリングに対し、以下のことを求めました。
製造業者2 社に対する勧告:
・中国労働法に基づき、最低でも週に1 日以上の休日を労働者に
与え、月の時間外労働時間数を36 時間以内におさめること
・労働者の健康及び安全に関して、適切な訓練、保護、及び
健康診断を提供すること
・中国労働法の規定に従い残業代を支払うこと
・労働者の尊厳を守るため、経営方式を変革すること
・労働者が定期的に休憩を取ることができるようにすること
・製造工程で用いられる有害な化学物質から労働者の健康を
守るため、必要なすべての対策を講じ、その対策と実施状況を
公表すること
(株)ファーストリテイリングに対する勧告:
・製造業者に対して適切な援助をし、労働環境の改善を促すこと
・同社の企業社会責任ポリシーを遵守すること
・製造業者が直接・民主的な労働代表を選任することができる
ようサポートすること
・製品の製造業者に関する情報を開示することで透明性を
維持すること
ファーストリテイリング社の対応
  1 月15日、ファーストリテイリング社は、調査報告書で指摘さ
れた問題のいくつかが事実であることを認め、改善を進めるとの方
針を公表、1 月19日には、ファーストリテイリング社とSACOM、
HRN の協議が、東京で実施されました。
 HRN とSACOM は、今後の是正プロセスは透明性と公開性のも
とに実施すべきだとの考えを示し、ファーストリテイリング社が2
工場および中国におけるすべての生産拠点に対する調査も実施する
とのアクションプランを公表した点は評価する一方、調査結果をき
ちんと公表すること、中国における生産拠点すべてを公開すること
を求めました。同時に、モニタリング体制の抜本的な改善も求めま
した。さらに、さらにこうした劣悪な労働環境の根本原因が、ファー
ストリテイリング側の発注価格の低さや厳格な納期要求等に基づく
構造的な問題なのか否かを分析し、そうであれば取引のあり方その
ものを見直し、安全で人間らしい労働環境を保障しうるだけの適正
価格でのオーダーをするよう求めました。
服に求めるハイ・クオリティーを労働環境にも
 「ファーストリテイリング社の2014 年のCSR レポートには「服
でより良い人生を、誰にでも、いつでも」というフレーズが掲げられ
ています。しかし、そこで謳われている「より良い人生」とは、服
を買う人に限られたものでいいのでしょうか。華やかなプロモーショ
ンの陰で、服を作っている労働者に対してより良い労働環境を保障
しないということでよいのでしょうか。来日したチャン氏は、記者
会見やイベントでグローバル・ブランドの責任を強調しました。
同時に、生産プロセスでの過酷な労働が問われた商品に囲まれて生
活する私たち一人一人が消費者として、商品の背景にある問題に目
を向け、より良い社会にするための消費者としての行動を考えると
いう意識を持つことも必要です。
 HRN はSACOM とともに、日本を拠点とするグローバル企業の
生産拠点での人権侵害が問われた本件について、ファーストリテイ
リング社が、他の企業に範を示す改善を実現できるか否か、その行
方をウォッチし、ダイアログを重ねていきたいと考えています。
 中国での労働搾取はユニクロに限らず、様々なグローバル企業の生
産拠点で起きています。私たちは引き続き、労働搾取に関して調査し、
労働者の権利の保護のために行動する予定です。
報告書全文はヒューマンライツ・ナウのウェブサイトにて読むことができます。
http://hrn.or.jp/news/3030/