【声明・和訳】「タイの人権活動家に対する報復行為に重大な懸念を表明する」声明の和訳を公表しました。

国際人権NGOヒューマンライツ・ナウは2016年6月29日、タイにおける人権活動家に対する抑圧が強まっていることを受けて、「タイの人権活動家に対する報復行為に重大な懸念を表明する」(英文)を公表しました。

このたび、日本語訳を作成致しましたので、ご報告いたします。

全文はこちら Statement_Thailand_JPN 160629 【PDF】

 

タイの人権活動家に対する報復行為に重大な懸念を表明する

2016年6月29日

東京を拠点とする国際人権NGOである、ヒューマンライツ・ナウは、タイの3名の代表的な人権活動家に対する告訴に対し重大な懸念を表明する。

 

2016年5月17日、タイの南部国境県の国家安全保障を管轄しているタイ王国国内治安維持部隊(ISOC)第4地域部隊は、人権活動家のソムチャイ・ホムラード氏、異文化財団(Cross Cultural Foundation)のポーンペン・コンカチョンキエット氏、及び、ハーティ・サポート・グループのアンカナ・ヒーミナ氏に対して、刑法上の名誉毀損及びコンピュータ犯罪法違反の告訴を行った。

 

この措置は、これらの人権活動家が共著者となって2016年2月10日に発行された報告書に対する報復的措置として行われたものである。報告書は、2004年以降タイ当局によって行われたとされるタイ「深南部」での54例の拷問及び虐待を記載している。

 

タイの刑法上では、名誉毀損について2年以下の懲役又は5,600米ドル以下の罰金を科し[1]、コンピュータ犯罪法第14条1項への違反については、5年以下の懲役もしくは2,800米ドル以下の罰金か両方を科すこととしている。[2]

 

「深南部」における拷問の疑惑を提起したことを理由として、タイ陸軍がポーンペン・コンカッチョンキエット氏及びソムチャイ・ホムラード氏を刑法上の名誉毀損で告訴するのは、2014年以降これが2回目である。国連拷問禁止委員会は2014年5月、「人権活動家、ジャーナリスト、地域指導者及びその親族に対する物理的又は言葉による攻撃、強制失踪及び司法手続を経ない処刑などの深刻な報復及び脅迫行為があったという数多くの信頼性の高い主張、また、このような主張の捜査するにあたって提供される情報の不足」について懸念を表明した[3]

 

人権侵害の疑惑を提起する人権活動家に対する懲役刑を含む刑事上の名誉毀損法の行使は、タイが1996年10月29日に加盟した「市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)」の義務違反である。さらに、拷問や虐待に関する申立てを行うこと、及び、かかる申立てを迅速且つ公平に捜査させる権利は、2007年にタイが批准した「拷問等禁止条約」によって保障されている。

 

さらに、「誰もが個別又は他の者と共同で・・・・すべての人権及び基本的自由に関する見解、情報及び知識を他の者に対して、自由に発表し、開示し、又は頒布するための権利を有する」[4]ことは、「人権擁護者に関する国連宣言」の第6条によって取り決められている。また、タイは、2015年12月17日、他の127カ国とともに、人権活動家に関する決議を採択する国連総会に参加している。

 

 

提言

 

人権侵害がタイ国内で広がっている状況において、タイ王国陸軍の措置は、すべての人権侵害の監視及び報告に対して深刻な脅威をもたらす。

 

ヒューマンライツ・ナウは、タイ王国陸軍に対し以下の措置を要請する。

  • ソムチャイ氏、ポーンペン氏及びアンカナ氏に対する法的措置を即時かつ無条件に取り下げること。
  • 人権活動家に対する更なる報復及び嫌がらせが将来にわたって生じないことを保障すること。

 

また、当局に対して以下の措置を要請する。

  • 加害者を起訴し、処罰するために、「[人権活動家]に対する脅迫、嫌がらせ、及び加害の全ての事例を体系的に調査する」という国連拷問禁止委員会の勧告を履行するとともに、被害者とその家族に対する実効的な救済を保証すること[5]
  • 最近の普遍的・定期的レビュー(Universal Periodic Review)の際に、タイが受け入れた勧告(人権活動家に関するものを含む)を履行すること。

 

以上

[1] I国際法律家委員会、2016年6月9日付、「タイ:即座に人権活動家に対する刑事告訴を取り下げよ。」http://www.icj.org/thailand-immediately-withdraw-criminal-complaints-against-human-rights-defenders/

[2] 同上。

[3] 拷問禁止委員会、タイ初回レポートに対する最終報告書2014年6月20日付CAT/C/THA/CO/1を参照。

[4]国連総会における採択決議 A/RES/53/144 1999年3月8日

http://www.ohchr.org/Documents/Issues/Defenders/Declaration/declaration.pdf

[5]拷問禁止委員会、上記脚注3参照。