【声明・和訳】「カンボジアの人権活動家の即時釈放を求める」声明の和訳を公表しました。

国際人権NGOヒューマンライツ・ナウは2016年6月8日、カンボジアにおける人権活動家や野党に対する抑圧が強まっている事態を受けて、「カンボジアの人権活動家の即時釈放を求める声明」(英文)を公表しました。

この声明の日本語訳を作成しましたので、全文をご報告いたします。

声明全文 20160608 カンボジアの人権活動家の即時釈放を求める声明 [PDF]

 

カンボジアの人権活動家の即時釈放を求める

 2016年6月8日

  1. 概要

東京を拠点とする国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ(HRN)は、カンボジアにおける最近の人権活動家及び野党に対する抑圧に対し、重大な懸念を表明する。

 

Cambodian Human Rights and Development Association(ADHOC: カンボジア人権開発協会)の職員4名及びカンボジア国家選挙管理委員会の副事務局長は、「証人の買収」という誤った容疑に基づいて拘留されている。また、国連職員1名も同事件の共犯として起訴されている。

 

人権活動家に対する嫌がらせ及び恣意的拘束は、カンボジアの人権に対する責任及び義務に反しているほか、今後予定されている2017年の地方議会選挙及び2018年の国民議会選挙を目前にした市民社会の締め付けとして憂慮すべき傾向である。

 

2. 人権活動家に対する嫌がらせと恣意的拘束

 

ADHOCは2016年4月初旬、別名スレイ・モム(Srey Mom)として知られるコーム・チャンダラティ氏(Khom Chandaraty)が野党副党首のケム・ソカー氏(Kem Sokha)との不倫疑惑についてカンボジア対テロユニットから尋問されたことを受けて、同氏に法律上の助言や支援を行った。ADHOCは、チャンダラティ氏に、裁判所に出廷するための費用として204米ドルを支給し、弁護士も付けた。これは、法的支援を行うNGOの標準的な活動である。

 

警察及び検察のテロ対策部門によって更なる尋問が行われた後の2016年4月19日、チャンダラティ氏は、これまで否定してきた不倫疑惑について一転して認めるようになった。さらに、同氏は2016年4月22日、ADHOCのスタッフ4名及び国連職員1名をはじめとする複数名が当局に対して偽証するよう勧めたことを非難する旨の公開書面を発表した。この書面で言及された者はいずれも、根拠の無い主張だとして書面の内容を否定した。

 

2016年4月27日から28日にかけて、カンボジア反汚職ユニット(Anti-Corruption Unit: ACU)は、チャンダラティ氏の書面で言及されたカンボジア人権委員会の職員4名-リム・モニー氏(Lim Mony)、ネイ・ヴァンダ氏(Nay Vanda)、ニー・ソッカ氏(Ny Sokha)及びイー・ソックサン氏(Yi Soksan)-、並びに、国連職員のソエン・サリー氏(Soen Sally)を召喚した。カンボジア反汚職ユニットはまた、ADHOCの元職員であるニー・チャクリャ(Ny Chakrya)カンボジア国家選挙管理委員会副事務局長も召喚した。

 

2016年5月2日、プノンペンの検察官は、カンボジア刑法第548条に基づき、贈収賄の容疑でソッカ氏、ソックサン氏、ヴァンダ氏及びモニー氏を起訴した。チャクリャ氏及びサリー氏は、カンボジア刑法第29条及び第548条に基づき、贈収賄罪の共犯として起訴された。サリー氏は、不在中に起訴され、国連職員としての外交特権にもかかわらず逮捕状が出された。 6名全員が有罪となった場合、5-10年の懲役刑が科される可能性がある。

 

彼らの拘束を受けて市民社会団体は、黒い服を着て拘留された人権活動家との連帯を示す平和的な社会運動「ブラックマンデー」キャンペーンを積極的に展開した。しかし、このキャンペーンに参加した活動家も拘束され、解放の条件として、今後抗議活動を行わない旨の合意書に署名することを強制されたため、さらに20名以上の逮捕者を出す事態となった。

 

5名の人権活動家の逮捕及び拘束は、ケム・ソカー副党首に対する広範な中傷キャンペーン及び司法上の嫌がらせがエスカレートした結果である。

 

3. 人権活動家に対する政府の嫌がらせや恣意的拘束は国際法違反である

 

上記の人権活動家の逮捕及び拘束は、恣意的拘束を禁止する「市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)」の第9条に違反している[1]。また、人権及び基本的自由を守り、促進するために運動する人権活動家について、政府が「暴力、威嚇、報復、事実上もしくは法律上の不当な差別、圧力又は他の恣意的行動」から保護するためにあらゆる措置をとることを規定する「人権擁護活動家に関する宣言」第12条[2]にも違反している。彼らは、人権活動家として合法的な活動を行ったのであり、人権侵害の被害者として援助を求めてきたチャンダラティ氏に対し、専門的な法的助言及び支援を提供したのである。

 

サリー氏に対する逮捕状の発付も、カンボジアが1963年に加盟した「国際の特権及び免除に関する1946年条約」に違反する。サリー氏が外交特権を有するにもかかわらず、フン・セン(Hun Sen)カンボジア首相は「彼女は特別に保護されるいかなる権利も持たない」と述べた[3]。カンボジア外務省が「条約は守られるべきであり、サリー氏に対する法的措置は停止されるべきである」[4]と述べたものの、カンボジア首相の声明は極めて憂慮すべきものである。

 

4. カンボジア反汚職ユニットの独立性の欠如

 

カンボジア反汚職ユニットは、カンボジアにはびこる慢性的な汚職に対処するために設立され、その職務における政治的独立性もカンボジア反汚職法で規定されている。しかし、与党カンボジア人民党のスポークスマンは、反汚職ユニットにおいて与党に同調的なスタッフを任命することは政府として当然であるとしている[5]。これは、反汚職ユニットの独立性及び、当該機関が政府内外の汚職を取り締まるという当初の目的を果たす能力について疑念を招くものである。

 

5. 提言

 

人権活動家に対する嫌がらせ及び拘束は、極めて深刻であり、かつ、国際法上のカンボジアの義務に違反するものであるため、法の支配及び民主主義対する挑戦として解釈される可能性がある。カンボジアにおける人権活動の自由及び民主主義が危機的な状況にあることから、ヒューマンライツ・ナウは、カンボジア政府に対し以下の提言を行う。

 

ヒューマンライツ・ナウは、カンボジア当局に対し、以下の措置を求める:

 

  • ニー・ソッカ氏、ネイ・ヴァンダ氏、イー・ソックサン氏、リム・モニー氏及びニー・チャクリャ氏の即時釈放、並びに、彼らとソエン・サリー氏に対する全ての起訴を取り下げること。
  • カンボジアの全ての人権活動家が、報復の恐れなしに、合法的な人権活動を行えることを保障すること。
  • カンボジアが受け入れたUPR(普遍的定期的審査)勧告、とりわけ人権活動家及び市民社会に関連する事項を履行すること。

 

以上

[1] ICCPR Art. 9,http://www.ohchr.org/en/professionalinterest/pages/ccpr.aspx

[2]UN General Assembly A/RES/53/144, Declaration on the Right and Responsibility of Individuals, Groups and Organs of Society to Promote and Protect Universally Recognized Human Rights and Fundamental Freedoms, 8 Mar. 1999, https://documents-dds-ny.un.org/doc/UNDOC/GEN/N99/770/89/PDF/N9977089.pdf?OpenElement

[3] Phnom Penh Post, Foreign Ministry Says UN Worker Has Immunity, 9 May 2016, http://www.phnompenhpost.com/national/foreign-ministry-says-un-worker-has-immunity

[4] Id.

[5] LICADHO, CSOs call upon authorities to immediately cease harassment of human rights defenders, 29 Apr. 2016, http://www.licadho-cambodia.org/pressrelease.php?perm=402