【報告書】「マレーシア・サラワク州 今なお続く違法伐採による先住民族の権利侵害 報告書」を公表しました。

ヒューマンライツ・ナウは本日2016年1月14日、「マレーシア・サラワク州 今なお続く違法伐採による先住民族の権利侵害 報告書」を公表しました。以下、報告書の概要です。

報告書の全文はこちらからダウンロードできます。 MalaysiaSarawakReport_20160114 [PDF]

 

【報告書】「マレーシア・サラワク州 今なお続く違法伐採による先住民族の権利侵害」

本報告書は、マレーシア・サラワク州(マレーシア最大の州)において行われている熱帯雨林の違法伐採、及び、違法伐採が引き起こす先住民族の権利の侵害について報告するとともに、サラワク州の伐採企業、サラワク州政府、日本企業及び日本政府等の違法伐採に関与するステークホルダーに対し、違法伐採の撲滅に向けた実効的な対策を取ることを求めるものである。

 

1. 本報告書の概要

A)  サラワク州での違法伐採による先住民族の人権侵害及びマレーシア政府の対応

サラワク州の先住民族は、伝統的な法律や慣習に従い、その生活を維持する手段として森林に依存してきた。これらの先住民族の土地に対する権利は、マレーシア憲法においても認められ、先住民族の慣習法上の権利(Native Customary Right)と定義されている。

サラワク州政府及びマレーシアの木材伐採企業は、違法伐採によって豊富なサラワク州の熱帯雨林を激減させ、何世紀にも渡って熱帯雨林で生活してきた先住民族の生活様式に重大な影響を及ぼしてきた。

サラワク州における森林伐採は、マレーシア政府の管理するライセンス制度により規制されており、先住民族の土地に対する慣習権は、当該ライセンス制度の下で保護されることが想定されている。ところが実際には、サラワク州の現地伐採企業と州政府の癒着及び汚職を背景として、先住民族の土地に対する慣習権を無視した伐採計画に対してもライセンスが乱発されている。加えて、実際に先住民族の土地に対する慣習権が侵害されたとしても、州政府の伐採企業との癒着や州政府のリソース不足等の理由により、違法伐採に対する州政府の取締りは著しく不十分である。

このような事態に対処するため、 マレーシア人権委員会は実態調査を行い、2013年に公表された報告書では、先住民族の土地に関する慣習的な権利が法令上正しく認識されておらず、その結果、先住民の権利を侵害する形で伐採や開発の許可が与えられていることが報告されている。マレーシア政府は同報告書を分析するためのタスクフォースを立ち上げ、先住民族から事前の手続に基づく同意を取得することなどを内容とするタスクフォースの勧告を受け入れたとの報道がなされているが、先住民族の立場に立った改革が実行されるかは予断を許さない状況にある。

B)  日本の緩い規制による違法伐採の助長

日本はサラワク州の木材及び木材製品の主要な輸入国であり、日本においてもサラワク州の違法伐採材が広範に使用されている。違法伐採材の流入の要因としては、日本政府の違法木材に関する緩い規制を指摘することができる。すなわち、違法木材の輸入の防止に関する日本の法令としては、グリーン購入法や林野庁が策定したガイドライン等が存在するが、日本には、民間部門に対し違法に伐採された木材の輸入を禁止し、違反した輸入者に刑事罰を科す法令は存在しない。また林野庁のガイドラインに基づき構築された合法木材制度は、民間の自主的な取り組みであるが、合法性の証明方法として、州政府と伐採業者との癒着が指摘されるサラワク州側の認証文書に依拠することを認めているなど、サラワク州の違法伐採木材を排除する役割を果たしていない。このような違法伐採木材に対する日本の緩い規制及びそれに安住する日本の輸入企業が、サラワク州の違法伐採問題を助長しているといえる。

以上を踏まえ、ヒューマンライツ・ナウは、現地伐採企業に対して違法伐採の即時停止を求めるとともに、日本企業に対しては、違法伐採を行っている伐採企業からの木材及び木材製品の輸入を即時に停止することを要求する。

また、マレーシア政府に対しては、マレーシア人権委員会の提言に従った先住民族の土地に対する権利を保護する法改正及び法運用の改善を求め、日本政府に対しては、違法木材の輸入を全面的に禁止し、違反者に刑事罰を含む制裁を科すよう法令を改正することを求める(なお、ヒューマンライツ・ナウの提言の詳細については、VII.「提言」をご参照いただきたい。)。

 

2. 本報告書の構成

本報告書は、以下のとおり構成される。

II章においては、サラワク州における違法伐採の影響及び違法伐採の構図を概観する。また、ここでは、違法伐採に深く関係するステークホルダーである①サラワクの先住民族、②現地伐採企業、③サラワク州政府、④日本企業、及び⑤日本政府が、違法伐採にどのように関与し、どのような影響を受けているかを概観する。

III章では、違法伐採の原因について分析する。ここでは特に、サラワク州の伐採に関連するライセンス制度及び先住民族の土地に対する慣習権の法的位置付けを分析し、サラワク州における伐採によって、先住民族の土地に対する慣習権がいかに侵害されているのかを明らかにする。また、ここでは違法伐採を取り締まる法規制が適切に運用されていないこと、及びその背景にあるサラワク州政府及び現地伐採企業との癒着及びそれに起因する汚職の問題についてもあわせて説明する。

IV章では、生活基盤の破壊をはじめとする違法伐採がもたらす先住民族の土地に対する慣習権の侵害状況を概観する。

V章では、先住民族の土地に対する権利に関するマレーシアの国内法(判例法を含む。)及び国内法の運用状況に関するマレーシアの国内人権機関であるSUHAKAMの報告書を紹介する。また、先住民族の土地に対する権利に関する国際人権基準についてもあわせて説明する。

VI章では、サラワク州の木材の最大の輸入国である日本における違法伐採材の使用の現状を紹介する。ここでは、日本政府の違法伐採材の輸入に関する規制が、米国、EU及びオーストラリアと比較して緩やかであり、かかる緩い規制が違法伐採材の日本における広範な使用を許容していることが明らかにされる。

本報告書の終章であるVII章では、違法伐採を根絶し、先住民族が土地に対する慣習権を享受できるようにするため、現地企業、日本企業、日本政府、マレーシア政府及びサラワク州政府がとるべき対応策を提言する。

3. 調査の方法

本報告書は、当団体の調査員による日本法、マレーシア法及び違法伐採に関連する国際法規範に関する文献調査の結果、違法伐採の問題に関与しているNGO関係者へのヒアリング、及び先住民族や現地関係者が来日した際のヒアリング調査の結果に基づき作成されている。また、VI.1日本におけるサラワク州の違法伐採材の使用状況」に関しては、報告書記載の日本企業に対して記載内容について確認をとり、企業からの回答内容を反映している。なお、本報告書は、違法伐採の原因となっているマレーシア及び日本の法制度の問題点を指摘することを主眼としているため、マレーシアの現地調査は行っていない。

 

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