【声明】各国政府は、気候変動の予測される被害の警告と軽減をするためにより多くの責任を担うべきである

ヒューマンライツ・ナウ(HRN)は声明「各国政府は、気候変動の予測される被害の警告と軽減をするためにより多くの責任を担うべきである」を発表しました。これは、気候変動によって引き起こされる人権への影響に焦点を当てたものです。声明のなかでHRNは各国が予測される被害の防止と軽減に対して十分な行動を起こしていないことへの懸念と遺憾の意を表明しました。また、最悪の被害を受けるのは貧困層と最も脆弱性が高い人口であると警告しました。各国に対し、気候変動への大きな責務を負うこと、そして人権を基盤としたアプローチの必要性を訴えました。

PDF版はこちら:気候変動声明12.12

英語版はこちら:Climate Change Statement 12.11

 

声明 : 各国政府は、気候変動の予測される被害の警告と軽減をするためにより多くの責任を担うべきである

現在開催されている国連気候変動枠組条約第25回締約国会議(COP25)や今年の9月に行われた国連気候変動サミットでは、現在の地球環境が絶対的、かつ逆行できないもので、このことにより何百万人もの人権への悪影響を及ぼすという、気候科学者や活動家が何年にも亘り訴え続けている重大な警告を反復した。このような問題提起は、大量の温室効果ガス(GHGs)を排出している政府には留意されないままである。東京を本拠とする国際人権NGO、ヒューマンライツ・ナウ(HRN)は、直近で対策について話し合いが持たれたにも拘わらず、特に排出量が多い国による気候変動の被害の警告と負担の軽減に対する責任の欠如に対し懸念と遺憾の意を表明する。

最大排出国が国連気候変動サミットで重要な責務を担うことに失敗した

GHGを最も多く排出している三カ国はサミットで新たに責務を発表しなかった。一番排出量の多い中国は、2015年のパリ協定の目標に続く新たな目標は発表せず、三番目に排出量の多いインドは温室効果ガス排出量を減らすことを含む開発計画を近々完成させる意向と、再利用可能エネルギーの使用量を増やす事を、時間枠を挙げずに述べた。二番目に排出量の多いアメリカは2017年にパリ条約から脱退し、サミットでは提言さえ行わなかった。アメリカ大統領のトランプ氏は、気候変動は「嘘」だと言い、サミットは15分ほどの滞在で済ませ、政府はGHG排出量や環境保護に対する制限の引き下げの措置を取っている[1]。七番目の排出国である日本は新しい提言をせず、緊急な危機に対しては弱い、GHG排出量を2030年までに26%下げるという前回と同じ目標設定に留まった。

対照的に最も大きな犠牲を払い、気候変動に対して大きな措置を取ったのは開発途上国で、それらの国々は来年の自国の行動計画を強化し2050年までにGHGの排出量を実質ゼロにすることを誓った。これには開発途上の小さな島国も含まれており、GHG排出の寄与が1%にも満たないにも拘わらず、気候変動による被害が一番大きい。サミットでは大半が開発途上国である65カ国が2050年までに実質ゼロ排出の為に尽力を尽くし、来年末までに気候変動計画(国が決定する貢献又はNDCs)を強化することを発表した。GHG排出の寄与が最も大きい先進国の貢献が少ないことの言い訳は出来ず、より大きな貢献が求められる。

特に主要排出国によるGHG排出削減への大きな貢献がない限り、新しい公約だけでは深刻な人権侵害を防ぐことはできない。その間にも世界中で状態が急速に悪化している。サミットの科学諮問グループのレポートによると2015-2019年の5年間の平均地球気温は観測史上最高となる見通しで産業革命前の水準に比べ1.1℃上がっており、GHGの大気中の濃度は増え続け、2018年に比べ科学燃料GHG排出は2%増加している[2]。これらの事実は排出量の大幅な削減と気候変動によって起きる被害対策の緊急性を強調する。

 気候変動はあらゆる人権に壊滅的な影響を与える

気候危機の深刻な緊急性はいくら大げさにいっても言い過ぎるということはない。昨年、国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は「1.5℃特別報告書」を発表、現状の排出量のままの場合2030-2052年に起こるとされている1.5℃に比べ、2℃の気温上昇が引き起こすグローバルリスクの増加を含めた地球温暖化の影響を強調した。[3]平均地球気温が2℃上がると(2015年パリ条約で締結された限界目標)多くの国で広範囲にわたる農業への被害や無数の水害など回復不可能で大きな損害が予想される[4]。しかし4℃上がると(変わらず現在のGHG量を排出し続けた場合)[5]非常に破壊的な惨状が予測されている。強烈な熱波(平均気温より6℃以上上昇)、多くの国で夏のような気候の常態化、0.5メートルから1メートルの海面上昇による主要な都市の浸水、世界中で人間の健康への深刻な影響、そして農業可能な土地、水資源、生物多様性の破壊的被害と喪失、さらに、多くの小さな島での生活は持続不可能になり、環境への破壊的打撃が考えられている[6]

国際連合人権高等弁務官事務所の出した気候変動と人権についての2008年のレポートによると、「地球温暖化はあらゆる人権に影響を及ぼす可能性がある。」生きる権利や十分な食料、水、健康、住宅、自己決定権、そして市民権と参政権も含まれる[7]。さらに、広大な環境被害、嵐や洪水、淡水資源は減少、海面上昇、生物多様性の減少、砂漠化や熱帯病の蔓延など様々な災害が直接人間に影響を及ぼす。また深刻な社会的および経済的被害は、経済不況、強制退去、そして人々の生息地と文化の破壊へとつながる。最も大きな被害は、貧困層や女性、少数民族、障がい者、先住民族を含む脆弱性の高い人たちや貧困地域、乾燥地域及び北極圏や小さな島などすでに適応能力が低く、問題にも最も寄与していない人たちが苦しむことになる。上記の複数の被害は現時点の気候で予測されており、政府は対策をしなくてはならない。しかし、平均地球温度が産業革命前水準より1.5℃上がると人権に対する深刻な被害が起こると考えられ、2℃上がると著しい人権被害が起きると予測されている。

極度の貧困と人権の特別報告者、フィリップ・アルストン氏の最新の気候変動と人権のレポートでは、重大な脅威が人口の最貧困層に向けられていると強調した。

途上国は気候変動の約70%~80%の代償を負うことになる。貧困者は、気候変動の影響を受けやすい地域に住んでいる傾向があり、住宅の耐久性が低く、被害を受ける際に失う物が多く被害を収めるための資源が少なく、また被害を防ぐのも、回復するにも社会的セーフティネットや金融システムからの支援が乏しい。彼らの生活や資産は無防備であり、病気を運んでくる災害や作物の不毛、食糧価格の高騰、死亡または障がいを負うなど自然災害の影響を受けやすい。気候変動は、開発、国際保健、貧困者の減少など50年の発展の歩みを取り消してしまう恐れがある。世界銀行は、気候変動に対して即時の対策を取らなければ1億2000万人もの人が貧困者になると考えているが、過小評価の可能性もあり、数字は増え続けている。南アジアのホットスポット(生物多様性が脅かされている地域)に住む8億人の生活水準の急降下も2050年までに予測されている[8]

アルストン氏のレポートは、政府による認識の必要性を強調した:これらの脅威に立ち向かうために人権原則を中心とした変革的な社会変化の必要性;市民権と参政権に対する脅威などの社会条件の悪化、社会的、経済的な権利とこれまでに前例のない負担や危機に対しての必要不可欠な要求を保障する変革的な政策;問題に対する企業の不能の為、政府による積極的な規制措置の必要性、そして迫る危機に対して、政府の責任を明確にして、具体的な対策を推進する為の新たな人権アプローチが必要とされている[9]

政府はより積極的に気候変動の被害の軽減と問題に向き合わなければならない

ヒューマンライツ・ナウは国際社会と全ての国、特に先進国とGHG大量排出国に気候変動の深刻さを認識し、予測される被害の防止と軽減に対して緊急の対応を求める。特に災害の被害を不均等に受け、最も脆弱性の高い人たちを守るために政府は対策を打たなくてはならない。2019年国連気候会議で発表された誓約や1.5℃目標は必要最低限の目標だと認識されなくてはならない。最も脆弱性の高い人口を最悪の被害から守るために、大幅なGHG排出制限や産業革命前の水準値を1.5℃上回るターゲットを大きく下回る目標の為の代替エネルギー開発の為の投資を含む意欲的なコミットメントや目標設定が必要とされている。国連事務総長は特に化石燃料への補助金の停止と2020年までにGHGsの大きな排出源である石炭火力発電所の建設の停止を要求した[10]。日本もグローバル気候のリーダーシップを発揮する為には日本国内と海外の石炭発電所の建設の停止、既存の石炭発電所の閉鎖、そして再生可能エネルギーへの代替をすべきだ[11]。特別報告者アルストン氏の最新の報告やほかの特別報告者を含む人権条約機関の報告に基づき、最も脆弱性の高い人たちを強制移動や気候変動の被害から守るための計画や措置として各国は、気候変動に関わる全ての政策において、人権を基盤とするアプローチを取らなければならない。また、水力発電ダムなどのグリーンエネルギープロジェクトや大規模な建設プロジェクトを含む気候変動に関連した措置に対し、社会的影響評価を義務づけることが必要である。なによりも、先進国は、気候変動による途上国のニーズに応える為にパリ条約で定められた気候変動の緩和と適応のための毎年最低1,000億米ドルの投資目標を達成する為に持続可能プロジェクトや新技術、緑の気候基金などにより多くの経済的、技術的支援を行う必要がある。

 

[1] ソミ二・セングプタ、リサ・フレッドマン、 “国連気候変動サミットで数少ない提言と沈黙するアメリカ”, ニューヨーク・タイムズ、2019年9月23日、 https://www.nytimes.com/2019/09/23/climate/climate-summit-global-warming.html.

[2]  国連、科学を通じた団結(United in Science)、2019

https://wedocs.unep.org/bitstream/handle/20.500.11822/30023/climsci.pdf

[3] IPCC「1.5℃特別報告書」2018年7月

https://www.ipcc.ch/site/assets/uploads/sites/2/2018/07/SR15_SPM_version_stand_alone_LR.pdf.

[4] IPCC「気候変動2014:影響、順応、脆弱性」 ”, https://www.ipcc.ch/site/assets/uploads/2018/03/ar5_wgII_spm_en-1.pdf

[5] 「さらなる排出抑制努力をしなかった場合(「ベースラインシナリオ」)にあたるRCP6.0とRCP8.5までの経路」これらの経路の地球の表面温度変化(℃):RCP6.0:14℃から3.1℃;RCP8.5: 2.6℃から4.8℃(2081-2100)IPCC、「未来の気候変動、リスクとインパクト」https://ar5syr.ipcc.ch/topic_futurechanges.php

[6] 世界銀行グループ、「温度を下げる:なぜ4℃暖かくなるのを世界は防がなければならないのか」、レポート:https://openknowledge.worldbank.org/handle/10986/11860;プレスリリース概要:  https://www.worldbank.org/en/news/press-release/2012/11/18/new-report-examines-risks-of-degree-hotter-world-by-end-of-century

[7] “国際連合人権高等弁務官事務所による気候変動と人権の関連性のレポート”、 A/HRC/10/61 (2009年1月15日), 20章.

[8] “特別報告者による気候変動と貧困について極度の貧困と人権”、 A/HRC/41/39, 2019年1月25日、 https://www.ohchr.org/Documents/Issues/Poverty/A_HRC_41_39.pdf (internal citations removed)..

[9] Id., pp. 17-19.

[10] UN ニュース “世界は石炭の時代を終え、クリーンエネルギーを受け入れることができるのか?”, 2019年11月19日  https://news.un.org/en/story/2019/11/1052271.

[11]  NHKワールド, “日本、石炭火力発電の廃止を求められる” 2019年12月6日https://www3.nhk.or.jp/nhkworld/en/news/20191206_05/.