【共同提言書】2019年6月28日「サプライチェーンにおける技能実習生問題等に関する提言」

本日、認定NPO法人ヒューマンライツ・ナウは、外国人技能実習生問題弁護士連絡会(以下、実習生弁連)と共同で、

サプライチェーンにおける技能実習生問題等に関する提言~ジャパンイマジネーションの取組みから~」を公表いたします。

是非、幅広く皆さまにお読み頂きたく存じます。

【実習生弁連 共同代表 指宿昭一氏 メッセージ】

「実習生弁連は、認定NPO法人ヒューマンライツ・ナウと共同で、『サプライチェーンにおける技能実習生問題等に関する提言~ジャパンイマジネーションの取組みから~』を公表します。ぜひ、お読みください。」(実習生弁連 共同代表 指宿昭一)

提言書全文は「サプライチェーンにおける技能実習生問題等に関する提言」から、または下記の通りお読みいただけます。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

2019年6月28日

外国人技能実習生問題弁護士連絡会

認定NPO法人 ヒューマンライツ・ナウ

サプライチェーンにおける技能実習生問題等に関する提言

~ジャパンイマジネーションの取組みから~

  • はじめに

外国人技能実習生問題弁護士連絡会と国際人権NGOヒューマンライツ・ナウは、セシルマクビー等を販売する株式会社ジャパンイマジネーションに対して、外国人技能実習生の労働問題に関し、サプライチェーンの頂点に位置するブランド企業としてどのような対応を行っているか質問状を送付し、ダイアログを行った。

ジャパンイマジネーションは、2017年12月、テレビ東京系列「ガイアの夜明け」において、同社のサプライチェーンを構成する二次サプライヤーの工場で、外国人技能実習生に対する最低賃金違反、賃金不払い等の深刻な権利侵害が行われていることが報道され、大きな批判を浴びた。このような報道を受けて、ジャパンイマジネーションは、2017年12月15日発表のプレスリリース「一部TV番組放送内容に関して」を公表し、「労務問題が存在するという事実も判明致しました」として、「今後は取引メーカー様と共に、製造現場について更なる関心を払い、弊社の製品がそのような環境下で製造されることがないように努力をして参る所存です」と述べていた。

そこで、外国人技能実習生問題弁護士連絡会とヒューマンライツ・ナウは、ジャパンイマジネーションのサプライチェーンにおける外国人技能実習生の労働問題の発覚から約1年後に質問状を送付した上、同社とダイアログを行ったものである。

本報告書は、同社から確認した改善の取組みを明らかにするとともに、再発防止のために必要な対策を提言するものである。

  • ジャパンイマジネーションの取組み
  • サプライヤーに対する意思表明

ジャパンイマジネーションによれば、同社は、「ガイアの夜明け」の放送を受けて、放送の10日後の2017年12月22日に一次サプライヤー約70社を同社の本社に集め、人権侵害は許さない、労働環境の是正が必要であるとの認識を伝えたとされる。

具体的には、①ジャパンイマジネーションの理念として、労働者の権利侵害が認められる工場での生産は一切行わないこと、②「ガイアの夜明け」で問題の判明した二次サプライヤーであるA社及びA社と関係の疑われる工場においては生産を中止すること、③A社のみならず他の法令違反が疑われる工場での生産は行わないこと、④そうした二次サプライヤー工場との取引があるメーカー(一次サプライヤー)との取引に関しても、改善が認められない場合取引自体を中止すること、の4点を伝えたとされる。

  • 実地調査

ジャパンイマジネーションは、上記一次サプライヤー約70社を本社に招集した際に、①使用工場(二次サプライヤー)における外国人技能実習生の実態調査、②ジャパンイマジネーションによる工場への直接訪問に対する協力を求めた。

ジャパンイマジネーションによれば、同社が実施した調査の進捗状況は以下のとおりであるとされる。

・同社では、年間約400万点の商品を納入しており、このうち約27万点(6.8%)が日本国内の生産であった。そして、この27万点を発注しているメーカー(一次サプライヤー)が28社であった。

・同社では2018年1月から2月にかけて、これらのメーカー28社に対し、生産を委託した国内工場における外国人技能実習生の有無についてのアンケート調査を行い、使用工場(二次サプライヤー)リストの提出を求めた。

・その結果、外国人技能実習生の雇用が認められる生産工場に生産を委託しているメーカー(一次サプライヤー)は9社、また生産工場(二次サプライヤー)は15工場存在することが判明した。

・そこで同社はこれらのメーカー9社に対し、上記15工場に対してジャパンイマジネーションが直接訪問する旨の申入れを行った。

・当初、メーカー(一次サプライヤー)は、発注元であるジャパンイマジネーションが直接取引関係のない生産現場(二次サプライヤー)へ出向くことに難色を示し、これを拒絶するメーカー(一次サプライヤー)もあった。しかし、ジャパンイマジネーションは、同社の企業倫理や方針についての説明及び訪問の趣旨を説明し、理解を促して協力を取り付けた。結果、同年4月より同社社員による各工場への直接訪問調査を開始した。

・訪問調査は現在も継続しており、2018年11月末時点で、11工場への訪問調査を実施しており、残り4工場については、今後実施する予定である。

  • 取引停止

ジャパンイマジネーションでは、「ガイアの夜明け」で問題となったA社(二次サプライヤー)と取引のある一次サプライヤー(B社)に対して、A社における外国人技能実習生の労働環境の改善について複数回申入れを行った。しかし、その対応が不十分であったため、一次サプライヤーとの取引を停止した。

ジャパンイマジネーションはA社(二次サプライヤー)との直接取引がないため、ジャパンイマジネーションの発注先であるメーカー(B社:一次サプライヤー)に対して、A社における外国人技能実習生の労働環境の改善について申入れを行った。具体的には、B社の代表者及び担当者と面談を行い、①報道された事実の有無に関する確認の申し入れ、その上で事実が認められた場合には②即時改善の申入れを行った。そして、改善が見られない場合には、③当該工場における商品の生産の即時中止、及び④当該工場代表者との関係が疑われる工場での商品の生産の即時中止の申入れを行い、B社代表者の了解及び対応する旨の回答を得た。

B社からは、A社へ対しての改善要求の申入れ及び対応について約束する回答を得たが、実質的に改善が認められると判断できる状態にならず、ジャパンイマジネーションはB社に対しての申入れを継続した。しかし結局、A社に十分な改善が見られず、またB社においては、生産を委託している工場(二次サプライヤー)の労働環境の把握等(A社のような労働環境が存在していたことを把握していなかった等)生産現場の監理監督が不十分であると判断し、ジャパンイマジネーションはB社との取引を停止した。

  • 今後の取組み

各サプライヤーに対して法令遵守を求め、違反が認められた場合には取引停止等の措置を講じる。また、工場(二次サプライヤー)の訪問調査も定期的に実施する。

  • ジャパンイマジネーションの取組みに対する評価

ジャパンイマジネーションが、テレビ報道を受けて事実調査を実施し、外国人技能実習生を雇用している二次サプライヤーと直接取引があり影響力を行使できる一次サプライヤーを招集して企業理念と対応方針を伝えて改善に乗り出し、外国人技能実習生を雇用する15工場を特定して現在までに11工場の実地調査を行ったことは、他の一般的な日本企業と比較した場合には積極的な取り組みとして一定の評価ができる。

しかし、問題の工場(A社)を特定した上で、同工場に生産を委託していた一次サプライヤー(B社)に改善を要求し、B社が改善を実現できなかったために取引を停止したことは自社の対応方針を推進する姿勢の表われではあるものの、一方で、具体的なB社とのやり取りの内容や経緯が明らかでないが、今後、B社が別企業と取引を行うことで、引き続きA社における外国人技能実習生への人権侵害が継続されてしまうおそれを依然として残している。したがって、関係団体などと連携して対話を継続し、B社に対し改善を促していくこともまた自社の責任として検討する必要がある。

また、サプライチェーンの頂点にあるブランドとして、サプライチェーンを構成する企業の生産現場で発生していた人権侵害を把握していなかったことに鑑みれば、今後の再発防止のための明確で効果的な方針策定が求められる。

問題発覚後に実施している二次サプライヤーの訪問調査についていえば、外国人技能実習生に対する直接の聞取りを行っておらず、工場長等雇用者側に対する聞取りしか行っていないこと、調査手法に関しても開示されていないことから、現時点では評価が困難であり、調査方法については早急に改善すべきであり、また説明責任を果たすうえでも、調査方法を透明化し、調査の結果についても広く社会に公開することが求められる。

今回、問題発覚の発端となったのは、ジャパンイマジネーションの二次サプライヤーであるA社の中国人技能実習生に対する賃金不払いと、破産を口実とするA社の支払い拒否であった。このようなA社の対応を受けて、実習生たちは、同様の被害を生まないでほしいという内容の手紙を携えてジャパンイマジネーションを訪ねたわけであるが、実習生たちは未だA社での未払賃金について補填を受けていない。ジャパンイマジネーションにはサプライチェーンを構成するブランド企業として人権侵害を受けた労働者を救済する社会的責任があり、同社は実習生らの未払賃金が補償されるよう自社の影響力を積極的に行使するべきである。

今後は、国際基準に基づく人権方針を策定して外国人労働者を含む労働者の権利・人権を尊重する自社の責任を確認し、サプライヤーにもその遵守を求めて調達コードに明文化することで人権侵害を防止するとともに、定期的継続的にサプライヤーの労働環境の現地調査など人権デュー・ディリジェンスを実施し人権侵害のリスク把握に努めるとともに、サプライヤーの労働者が直接匿名で容易に通報できる多言語対応の窓口を設けるなどして、同様の人権侵害の再発を防ぐための仕組み及び被害救済のメカニズムを構築することを求めたい。

  • アパレル業界全体への提言

繊維・アパレル業界における、外国人技能実習生に対する最低賃金割れや残業代不払いを含む賃金不払いなどの法令違反や人権侵害は、非常に多いのが現状である。繊維・アパレル業界は、今回ジャパンイマジネーションで起きたこのような問題が、同社個別の事象ではなく、業界全体の構造的問題であることを認識し、業界全体でその改善と再発防止に取り組むことが必要である。

今回問題となったのは、ジャパンイマジネーションのサプライチェーンを構成する二次サプライヤーのA社で行われていた外国人技能実習生の人権侵害、搾取労働であった。このようなサプライチェーンにおける人権侵害はジャパンイマジネーションに限らず、あらゆる企業のサプライチェーンで起こり得る、また実際に現在も起きている問題である。

今回、ジャパンイマジネーションは、自己のサプライチェーンにおける外国人技能実習生の労働問題の発生を防ぐことができなかった訳だが、その原因は、同社が生産現場における技能実習生の労働環境の実態を把握していなかったことにあると言える。上記の通り、問題発覚後のジャパンイマジネーションの対応は一定の評価をしうるものであったが、もし、一次サプライヤーとの契約において、二次サプライヤーの労働実態を報告することや、ジャパンイマジネーションが二次サプライヤーを訪問調査することを可能にする条項を調達コードとして設け、ブランドとしての人権デュー・ディリジェンスを実施していれば、今回の問題の発生は防ぐことができた可能性が高い。そこで、今後の対策としては、1) サプライヤーも含めた人権尊重責任の認識、2) 人権方針の確立とサプライヤーに対する徹底、人権デュー・ディリジェンスの実施が有効である。

また、上記のように、実習生らは、二次サプライヤーであるA社が破産を口実として未払賃金の支払をしないために、未だ賃金の支払を受けられずにいる。繊維・アパレル業界においては、このように、実習生の雇用主であるサプライヤー工場が破産を理由として賃金を支払わないために、結局実習生らが未払賃金不払いの損害を被らされる事例が後を絶たない。業界としては、このような不当な例が業界に横行していることを認識し、実習生らの救済のため、サプライヤーが破産を口実に賃金を支払わない場合等に未払賃金を補填する基金を早急に設立するべきである。

 

第5 人権侵害を生まないサプライチェーンの構築

  • 人権尊重責任の認識の重要性

まず、今回の問題の一次的な責任は当然A社にあるが、かかるサプライヤーを自己のサプライチェーンに持つブランドには、少なくとも社会的責任が認められる(サプライチェーン上の人権侵害を認識しながら放置していたケースなど場合によっては法的責任も負いうる)。そして、そのような社会的責任を果たさない場合には、今回のテレビ報道で明らかになったように一般消費者をはじめとする世論からの激しい非難を浴びることとなり、それはひいてはブランド自身の損失となる。サプライチェーンの頂点に位置するブランドとしては、サプライヤーの違法・不当な行為について、その社会的責任を認識し、適正なサプライチェーンの構築及び人権リスク管理に努めることが、企業の社会的責任を果たすことになるだけでなく、自身のブランドを守ることにもつながるといえる。

したがって、まずは、企業において、サプライチェーンの違法・不当な行為について、社会的責任があることを認識し、かかる責任を果たさない場合には事業遂行における大きなリスクとなり得ることを認識することが必要である。

  • 人権方針及び人権デュー・ディリジェンスの重要性

企業がサプライチェーン上の人権尊重の責任を果たすための具体的指針として、2011年に国連で承認された「ビジネスと人権に関する指導原則」が挙げられる。今回、ジャパンイマジネーションでは同原則に則した人権方針などは策定されていなかった。もし、同原則に則した人権方針を策定し、人権デュー・ディリジェンスが効果的に実施されていれば、今回の問題は防ぐことができた、あるいは、早期に発見でき被害の拡大を防ぐことができたといえる。

現在、多くのアパレル企業大手が同原則に則して企業の人権方針を策定し、人権デュー・ディリジェンスの実施に乗り出している。今後同様の問題の再発を防ぐためには、未だ同原則に則した人権方針を有していない企業は、早急に同原則に則した人権方針を確立し、実効的な人権デュー・ディリジェンスの実施、救済メカニズムの構築を行うことが求められる。以下、同原則の概要を紹介する。

  • ビジネスと人権に関する指導原則13条

ビジネスと人権に関する指導原則は、13条で、「企業活動と直接関連する、または取引関係による製品もしくはサービスに直接関連する人権への悪影響については,企業がその惹起に寄与していなくても,回避又は軽減に努めること。」として、サプライチェーンにおけるブランドがサプライヤーの行った人権侵害行為に直接関与していなくとも、その回避軽減義務があることを定めている。

  • ビジネスと人権に関する指導原則15条

15条は、「企業は、人権を尊重する責任を果たすため、その規模と状況に応じて、以下を含む企業方針と手続を持つべきである。」として、以下の3つの事項を行うことを要求している。

  • 人権を尊重する責任を果たすという企業方針によるコミットメント。
  • 人権への影響を特定、予防、軽減し、対処方法を説明するための人権デュー・ディリジェンス手続。
  • 企業が惹起させまたは寄与したあらゆる人権への悪影響からの救済を可能とする手続。
    • ビジネスと人権に関する指導原則16条

16条は、15条の内容をより詳細に定め、「企業方針によるコミットメント」として、「人権を尊重する責任を定着させるための基礎として、企業は、以下の要件を備える企業方針の声明を通して、その責任を果たすというコミットメントを明らかにすべきである。」とする。そして、以下の5つの事項を定めている。

  • 企業の最上級レベルで承認されている。
  • 社内及び/または社外から関連する専門的助言を得ている。
  • 社員、取引先、及び企業の事業、製品またはサービスに直接関わる他の関係者に対して企業が持つ人権についての期待を明記している。
  • 一般に公開されており、全ての社員、取引先、他の関係者にむけて社内外にわたり知らされている。
  • 企業全体にこれを定着させるために必要な事業方針及び手続のなかに反映されている。
    • ビジネスと人権に関する指導原則17条

17条は、「人権デュー・ディリジェンス」と題して、「人権への負の影響を特定、防止、軽減し、どのように対処するかということに責任をもつために、企業は人権デュー・ディリジェンスを実行すべきである。そのプロセスは、実際のまたは潜在的な人権への影響を考量評価すること、その結論を取り入れ実行すること、それに対する反応を追跡検証すること、及びどのようにこの影響に対処するかについて知らせることを含むべきである。」とし、人権デュー・ディリジェンスについて以下のように定める。

  • 企業がその企業活動を通じて引き起こしあるいは助長し、またはその取引関係によって企業の事業、商品またはサービスに直接関係する人権への負の影響を対象とすべきである。
  • 企業の規模、人権の負の影響についてのリスク、及び事業の性質並びに状況によってその複雑さも異なる。
  • 企業の事業や事業の状況の進展に伴い、人権リスクが時とともに変りうることを認識したうえで、継続的に行われるべきである。

このように、17条は、企業の人権デュー・ディリジェンスとして、取引関係を含むサプライチェーン全体の人権への負の影響について精査し、その検証は事業の遂行にともない継続的に行われる必要があるとしている。

  • ビジネスと人権に関する指導原則18条

さらに、18条は、「人権リスクを測るために、企業は、その活動を通じて、またはその取引関係の結果として関与することになるかもしれない、実際のまたは潜在的な人権への負の影響を特定し評価すべきである。」とする。そして、このプロセスでは、以下のことをすべきであるとする。

  • 内部及び/または独立した外部からの人権に関する専門知識を活用する。
  • 企業の規模及び事業の性質や状況にふさわしい形で潜在的に影響を受けるグループやその他の関連ステークホルダーとの有意義な協議を組み込む。
    • ビジネスと人権に関する指導原則19条

そして、19条は、「人権への負の影響を防止し、また軽減するために、企業はその影響評価の結論を、関連する全社内部門及びプロセスに組み入れ、適切な措置をとるべきである。」とし、以下のことを定める。

  • 実効的に調査結果を組み入れるためには以下のことが求められる。
  • そのような影響に対処する責任は、企業のしかるべきレベル及び部門に割り当てられている。
  • そのような影響に効果的に対処できる、内部の意思決定、予算配分、及び監査プロセス。
  • 適切な措置は以下の要因によって様々である。
  • 企業が負の影響を引き起こしあるいは助長するかどうか、もしくは影響が取引関係によってその事業、製品またはサービスと直接結びつくことのみを理由に関与してきたかどうか。
  • 負の影響に対処する際の企業の影響力の範囲

 

さらに、20条は追跡調査の必要性、21条は報告義務を定める。

 

以上のように、国連のビジネスと人権に関する指導原則は、企業が果たすべき人権を尊重する責任とその実現方法について詳細に定めており、本件のようなサプライチェーンにおける人権侵害の再発を防ぐためには、同原則に則して人権方針を策定すること、それをサプライヤーにも徹底する施策を講ずること、さらに人権デュー・ディリジェンスを実施し、実効的な救済メカニズムを構築することが必要である。

人権デュー・ディリジェンスを効果的に実施するために、本報告書の巻末に、参考として日本弁護士連合会「人権デュー・ディリジェンスのためのガイダンス」のCSR条項モデル条項を掲載した。人権方針をサプライヤーに徹底するとともに、実態を把握し、是正することが必要である。さらに、人権デュー・ディリジェンスの方法及び結果を広く公開して説明責任を果たすこと、被害に対する救済の施策を具体的に講ずることも求められる。

技能実習生の課題が、業界に共通した課題であることに鑑みれば、ビジネスと人権に関する指導原則に則した人権方針を業界全体で定め、サプライチェーンも対象とする通報窓口を含む業界横断の人権デュー・ディリジェンスを実施して人権リスクの把握に努め、実効的な救済のためのメカニズムを導入すべきである。

以上

 

日本弁護士連合会

「人権デュー・ディリジェンスのためのガイダンス」より

CSR 条項モデル条項例

第○条(CSR条項)

1(本条項の目的)

甲は,企業の社会的責任(CSR)及び人権を尊重する責任を果たすために,CSR行動規範を策定した上これを遵守し,かつ人権方針を策定した上人権デュー・ディリジェンスを実施しているところ,サプライチェーン全体におけるCSR・人権配慮が必要となっていることにかんがみ,甲及び乙は,そのための共同の取組を継続的に推進するために,本条項に合意するものとする。

 

2(CSR行動規範の遵守)

乙は,甲と共同して企業の社会的責任を果たすために,別紙規定のCSR行動規範を遵守することを誓約する。また,乙は,乙の調達先(本件取引基本契約の対象となる製品,資材又は役務に関連する調達先に限る。サプライチェーンが数次にわたるときは全ての調達先を含む。以下「関連調達先」という。)がCSR行動規範を遵守するように,関連調達先に対する影響力の程度に応じて適切な措置をとることを誓約する。ただし,乙の2次以下の関連調達先がCSR行動規範に違反した場合に乙に直ちに本条項の違反が認められることにはならず,乙がこの事実を知り又は知りうべきであったにもかかわらず適切な措置をとらなかった場合にのみ本条項の違反となるものとする。

 

3(人権デュー・ディリジェンスの実施)

乙は,甲と共同して企業の人権を尊重する責任を果たすために,本取引基本契約締結後速やかに,人権方針を策定した上人権デュー・ディリジェンスを実施することを誓約する。また,乙は,乙の関連調達先が同様の措置をとるように,その関連調達先に対する影響力の程度に応じて適切な措置をとることを誓約する。ただし,乙の2次以下の関連調達先が人権デュー・ディリジェンスを実施しなかった場合に乙に直ちに本条項の違反が認められることにはならず,乙がこの事実を知り又は知りうべきであったにもかかわらず適切な措置をとらなかった場合にのみ本条項の違反となるものとする。乙及びその関連調達先が人権デュー・ディリジェンスを実施するにあたっては,日本弁護士連合会「人権デュー・ディリジェンスのためのガイダンス(手引)」を参照する。

 

4(発注企業の情報提供義務)

甲は,乙から第1項規定のCSR行動規範の遵守又は第2項規定の人権デュー・ディリジェンスの実施の内容に関し説明を求められたときは,乙に対し,相当な範囲で情報を提供しなければならない。

 

5(サプライヤーの報告義務)

乙は,甲に対し,定期的に,乙及び乙の関連調達先のCSR行動規範遵守及び人権デュー・ディリジェンス実施の状況を報告する義務を負う。乙は,当該報告にあたっては,甲の求めに応じて,報告の内容が真実であることを証明する客観的な資料を提出しなければならない。

 

6(サプライヤーの通報義務)

乙は,乙又は乙の関連調達先にCSR行動規範の違反事由又は重大な人権侵害が認められることが判明した場合,速やかに甲に対し,通報する義務を負う。

 

7(発注企業の調査権・監査権)

甲は,乙及び乙の関連調達先のCSR行動規範の遵守状況及び人権デュー・ディリジェス実施状況を調査し,又は第三者をして監査させることができ,乙は,これに協力しなければならない。

 

8(違反の場合の是正措置要求)

乙に第2項又は第3項の違反が認められた場合,甲は,乙に対し,是正措置を求めることができる。乙は,甲からかかる是正措置要求を受けた日から○週間以内に当該違反の理由及びその是正のための計画を定めた報告書を甲に提出し,かつ相当な期間内に当該違反を是正しなければならない。

 

9(是正措置要求に応じない場合の解除権)

前項の甲の乙に対する是正措置の要求にかかわらず,乙が相当な期間内に第2項又は第3項の違反を是正せず,その結果当該条項の重大な違反が継続した場合,甲は,本取引基本契約又は個別契約の全部若しくは一部を解除することができる。ただし,乙が当該違反を是正しなかったことに関し正当な理由がある場合は,この限りではない。

 

10(損害賠償の免責)

甲が前項の規定により,本取引基本契約又は個別契約の全部若しくは一部を解除した場合,乙に損害が生じたとしても,甲は何らこれを賠償ないし補償することを要しない。

 

11(CSR行動規範の改定)

甲は,CSR行動規範の改定が社会的に合理的と認められる場合又は乙からその承諾を得た場合,CSR行動規範を改定することができる。前者の場合,甲は,乙に対し,改定の内容を通知しなければならない。