【イベント報告】2月23日 シンポジウム 『#Me Too からChangeへ 私たちの声をどう生かすか』

 

性暴力被害者が自らの被害経験やその痛みを訴え、性暴力に寛容な社会を変えていこうとする#Me too運動。ハリウッドに端を発したこの運動が世界各地に広がるなか、日本では、十分な広がりを見せているとは言えない状況にあります。

また、2017年に110年間大きく変わらなかった刑法・性犯罪規定が改正されましたが、残された課題も多く、性暴力被害者の多くが何の救済も得られない状況が続いています。

こうした状況を受けて、2月23日、ヒューマンライツ・ナウは、女性差別撤廃へ向けて活動するインドの活動家ナンディー二・ラオ氏、性暴力被害者の支援を行う一般社団法人Spring代表の山本潤氏、そして、ジャーナリストの伊藤詩織氏を迎え、この問題について考えるシンポジウムを開催しました。

 

 

まず、スピーカーの一人としてマイクを握ったのは、深刻な性差別が続くインドで活動するナンディー二・ラオ氏。

「インドは大きな国で人口も多いので、これはすべてのインドの人々に当てはまることではなく、特定の人たちの話である。」と前置きをしたあと、インドでは、両親が男の子を望んでいることが多く、女の子は生まれてくる前から差別の対象になっていること、子どものころから、男の子は女の子よりも価値があると教えられ育てられること、そのため、女の子は遊ぶこと、教育を受けること、仕事をすることなど、全ての権利にから遠ざけられ、自分の人生の決定権がないことを説明しました。

また、インドでは、階級、宗教、カースト、障害、性別、地方、人種などの違いによる差別が根深く、女性はこのことでも更なる差別を受けているとのことです。

 

日本同様に、インドでも近年、性暴行に関する法律の改正が行われました。その発端となったのが、2012年に、デリーで起きた集団強姦事件。この事件が世論を動かし、性暴力に強い怒りを覚えた一般の人々がデモに参加し、ついには、2013年の刑法改正へとつながったのです。

 

「インドの刑法改正で画期的だったのは、合意についての定義が作られたこと。このことで、ジェスチャーなどの言葉以外の方法での拒否も認められるようになり、物理的な抵抗がなくても、明瞭なイエスがない場合はノーと判断されるようになった。また、性器以外の指やモノなどを女性の体に挿入することもレイプとして扱われるようになった。」と、ナンディー二氏は語りました。

 

 

ナンディーニ氏に続いて壇上に登ったのは、父親からの性暴力をカミングアウトし、現在は、性暴力被害者の支援活動を行っている山本潤氏。

13歳から20歳まで、父親から性暴力を受けた山本氏は、当時の状況についてこう振り返りました。「ショックが強すぎて、公にして相談にすることはできなかった。日本では自分のような近親間の性暴力で、加害者が罰せられた事例を見たことがなかったから、警察に言おうとは思わなかった。さらに、大人になってからも、トラウマからくる自殺願望に悩まされ、父に会うことに対して恐怖を感じた。」

 

また、山本氏は、1980年代に、性犯罪規定の変更が欧米で活発化したことを考えると、日本の2017年の改正はあまりにも遅れており、改正後も多くの課題が残されていることを指摘し、その主な理由を次のように説明しました。

(1) 監護者性交等罪に、伯父や兄などが含まれないこと。

(2) 体に残る証拠や画像など、被害者が強く抵抗したことを証明しなければならないこと。

(3) 性交同意年齢が13歳と低いこと。

(4) インドでの改正と異なり、指や異物の挿入は含まれないこと。

(5) 強制わいせつの時効が7年、 強制性交等の時効が10年と短いこと。

ドイツの場合は、被害者が50歳になるまで時効なし。スイスでは、被害者が子どもの場合は時効なし。

こうしたことから、日本では性暴力が性犯罪として認められない実情があり、加害者が処罰されず、また、被害者が保護されない。そして、被害者が二次被害受ける状況があると言います。

 

さらに、彼女は、現在の日本の#Me Too運動について、「日本の場合には、影響力がある人の参加がないうえ、声を挙げる人が危険にさらされるので、他国のような盛り上がりを見せていない。加害者が罰せられないことや、自分とは遠いことという意識、被害者の自業自得・因果応報であるとする被害者非難が多いことが問題である。」と訴えかけました。

 

 

次に、日本の#Me too運動の先駆けとなっているジャーナリストの伊藤詩織氏が登場。

伊藤氏は「#Me too運動は世界的な運動であり、私の運動ではないので、私の持っているボールをみなさんに渡したい。」と前置きをし、日本における#Me too運動についてこう語りました。「いろいろな方たちと、#Me too運動についての議論をすると、私も含めてみなさん、誰かを傷つけてしまったことが何かしらあるので、Me tooと言えない。それがMe tooと言っている人と距離を置いたり、批判したりすることにつながってしまう。こういう話をオープンにして、無視もしないことが大切。いつ自分や自分の大切な人に起こるかわからないことなのだから。これから現状を変えていくのが、#Me tooという運動だと思う。当事者でなくても、みなさん#Me tooしていい。」

 

さらに、自らの性暴力被害を公表した背景について、「自分もできれば自らの被害経験を語りたくはなかったが、日本では他に方法がなったから話すことにした。」と述べました。公表後は、伊藤氏への批判や窮迫が多くあり、3カ月間、自宅に戻れない状況が続いたそうです。今はイギリスの団体に保護されており、向こうを拠点に活動をし、「加害者」の行動の背景や構造などの取材を行っているとのことです。

 

また、伊藤氏は、日本社会では、被害者が声を上げにくい状況や、被害者に危険が及ぶことがあるので、「#Me too」ではなくて、「私たち全体で」という意味で「#We too」にしたらいいのではないかという提案も行いました。 #We too運動については、今後、キャンペーンを3月に実施する予定だそうです。

 

続いて、伊藤氏は、イギリスの警察の例を出して、イギリスでは被害者の心の傷についてのケアが充実していることを紹介しました。イギリスの警察では、性暴行被害者は動画の中で一度だけ証言をするとそれが法廷で使われるので、被害者が何度も同じ話をしなくていいそうです。一方で、日本では人形を使って状況を再現することが求められ、被害者がフラッシュバックなどの二次被害にあってしまうようです。

 

 

最後に、ニューマンライツ・ナウの副理事長であり、千葉大学教授の後藤弘子氏が、刑法改正後の問題点などについて再確認をしました。

性暴力犯罪に対して、日本では法律とその運用に問題があるとし、特に、2017年の改正で、性交同意年齢の引き上げがなされず、13歳のままであることは大きな驚きであると述べました。これは諸外国と比べても低く、世界でも稀なことだそうです。

 

また、法律の運用については、裁判自体が男性化されており、判断に偏りがあること、そのため、「同意があった」という加害者の抗弁が通用してしまい、起訴されない、無罪となるなどの問題が多いと言います。

 

2017年の日本のジェンダーギャップ指数は、世界114位。再犯防止のための少年指導や、カウンセリングなどの被害者支援の充実、未成年の保護など、残された問題は山積すると訴えました。

 

 

 

今回のシンポジウム全体を通して、浮かび上がった課題は、日本では、被害者は警察・検察でもひどい目に合い、#Me too運動で声を挙げるとたたかれる。こうした被害者への二次被害が、被害者たちを黙らされている現実と、改正前よりは改善したものの、依然として問題点が多く残る性暴力に関する刑法とその運用を変えることだと言えそうです。