【イベント報告】3月2日(木) 院内シンポジウム: AV出演強要被害の被害根絶を目指して

【イベント報告】院内シンポジウム:AV出演強要被害の被害根絶を目指して

ヒューマンライツ・ナウ(HRN)は3月2日(木)にHRN主催、人身取引被害者サポートセンターライトハウス協力で、院内集会「AV出演強要被害の根絶を目指して」を参議院議員会館にて開催しました。当日は多くの国会議員の先生方、一般の方、メディアの方、またAV業界の皆さまにお越しいただき、AV出演強要被害問題の関心の高さを改めて実感しました。

集会は以下の順序で進行しました。

① 主催者挨拶
② 国会議員からの発言(以後、到着次第随時)
③ ライトハウス製作の啓発動画「あなたへ」上映
④ ライトハウス代表 藤原志帆子氏から相談事例報告
⑤ くるみんアロマさんより 出演被害体験報告
⑥ HRN事務局長 伊藤和子氏の法整備等についての報告
⑦ 報告者による討議

① 主催者挨拶
HRN理事/弁護士 雪田樹理氏より
「ちょうど1年前にHRNが『日本:強要されるアダルトビデオ撮影 ポルノ・アダルトビデオ産業が生み出す、女性・少女に対する人権被害』を発表すると、社会問題として認識されるようになり、内閣府が調査を始めるなど様々な動きが出てきたが、今なお被害が生み出されている現状に対して私たちに何ができるか議論していきたい」という挨拶がありました。


② 国会議員からの発言
来場してご発言いただいた議員の皆さまとその発言を順にご紹介します。

公明党・参議院議員 佐々木さやか氏
公明党でAV出演強要に関するプロジェクトチームを昨年末に立ち上げて、座長を務めています。AV主演強要被害については、ライトハウスさんより被害についての報告を受けました。女性に対する甚大な人権侵害で相談窓口など支援体制が必要であり、党内で検討を進めています。


自由党・参議院議員 森ゆうこ氏
これまで勇気を持って被害を告白してきた、くるみんアロマさんをはじめとする被害者の方の記事を追いかけてきました。今回会場にも超党派の議員の皆さんが沢山いらっしゃっていますが、このような問題には超党派で取り組んで法整備などを進めていきたいと思います。政治の分野が一番女性の参画が遅れているものの、ようやく政治分野における男女共同参画推進の議員立法が成立しそうです。男性の先生方とも力を合わせて女性に対する重大な人権侵害である性的搾取を根絶し、誰もが明るい人生を送れるよう頑張りたいと思います。


民進党・参議院議員 徳永エリ氏
民進党ではこの問題を解決したいと強く願っており、気持ちを同じくする仲間が沢山います。私も18歳の時に歌手を志望して上京し、アルバイト代をレッスンにあてて、ようやくデモテープを作成しこれからという時に「支度金として500万円用意できるか?できないのであればスポンサーが必要」と言われて絶望しました。その後、ご縁があってテレビ局のレポーターになり、議員になることができましたが、あの時インターネットがあって調べられれば、もし契約していたらと思うと被害者の方の気持ちがよくわかります。4月になれば夢を抱いた若者が沢山上京してきます。まずは啓発活動を行っていくことが大切です。


民進党・参議院議員 神本みえ子氏
内閣府にも本日のシンポジウムの参加を依頼しましたが、多忙という理由から参加を断られました。民進党では昨年の通常国会で性暴力被害者支援法の法案を議員立法で提出しています。野党のため審議には入っていませんが、一刻も早い被害者の救済が必要であり、「ワンストップ支援センター」の設置案を盛り込みました。
被害者支援はもちろんのこと、被害者を作らない啓発活動や教育も必要です。現場の声をしっかり受け止めながら、政策・法律に反映させたいと思っています。


民進党・衆議院議員 中川正春氏
私たちは立法府の一員として法律の中でどのようなことができるかを考えています。内閣府や法務省、関連省庁は尻込みして今回参加しませんでしたが、本音はまだ調査を始めたばかりで実態が分かっていないという状況です。
性暴力防止法やDV法はこれまで議員立法で、議員側から既存の法律改正を進めたり、新しい基本法を作ってきました。役所もなんとか議員立法としてまとめて欲しいという思いがありますので、これを土台にしながら、超党派で取り組んでいきましょう。できるだけ現実的で具体的な法改正を行っていきたいと思っています。


共産党・衆議院議員 さいとう和子氏
AV出演強要被害は様々な意味で深刻だと思います。加害者の手口も初めは悪質というわけでもなく、日常生活に溶け込み、その人の“夢”につけ込みます。そして性暴力にあえば誰にも相談できない・させないというのが現状です。そんな中で、ライトハウスやHRNと被害者の方が声をあげ、PAPS(ポルノ被害と性暴力を考える会)と報告書を作ってきたことは大変大きな功績です。
内閣府の調査報告書案を読むと、本当に多くの方がプロダクションと契約し、性的な指示を受け、実際に裸で撮影をされてしまったということが分かります。被害者は自分の身近にいるという状況を私たちが知ること、そして新たな被害者を生まないようにすることが必要です。また、政治家が現場の声を聞いて、制度を作っていくことが必要です。性暴力被害者防止法案も超党派で各党が提出したものです。是非ともAV出演強要に関しても超党派で後押ししていきたいです。


共産党・衆議院議員 池内さおり氏
私は2015年から調査活動を開始し、HRNの報告書を拝見しました。こんな凄惨な状況が起こっているのかと何度もページをめくる手が止まりました。次のページをめくるのが本当に辛く、重く受け止めました。
先ほど「監督官庁がない」という話が出ましたが、これは重大なことです。消費者でも労働者でもないのなら女性は何なのでしょう?女性は人間であり、一人一人に人生があり、豊かな人生を送る権利があります。監督官庁がないのであれば、すぐに作って対応すべきです。出演したビデオの回収が難しく、拡散されることは何度もレイプされていることと同じこと。洋服を買ってサイズが合わなければ交換できるのに、人生を奪われて映像を垂れ流しにされなければいけないのでしょうか?先ほど伊藤氏から包括的な報告があり、議員に対して宿題が提示されました。この問題は超党派の戦いとして対応していきたいです。
最近でも有名大学における女子学生に対する性的暴行が相次いでいます。女性を劣位に置く、女性を人間として思わないような社会を作ってはいけません。被害そのものを生まない社会にしていきたいと思います。そして、AVの暴力的な内容も疑問視しています。イギリスでは最近AVの法規制を行いましたが、日本もこういった世界のお手本をもとにお互い尊重できる社会を作りましょう。


共産党・衆議院議員 梅村さえこ氏
今回、院内集会に参加することで事態の深刻さを実感することができました。立法府にいる国会議員としてきちんと対応しなければいけないと決意を新たにしました。たまたまプロダクションが上手い勧誘をしているのではなく、その手口は洗脳であり、一つの組織的・社会的事件として扱わなければならない問題になっています。夢や希望のある若者がこれだけ被害にあっているということは一大社会問題として取り組まなければいけません。
私は「消費者問題に関する特別委員会」に所属しています。街で声をかけられることがあらゆる問題の入り口になっているので、消費者契約法や特商法で防ぐことができないか考えているものの、「消費者問題に関する特別委員会は労働者の問題だ」と逃げられてしまいます。様々な事例を示す中で、「繰り返しの契約は労働者性があるが、単発のビデオ出演であれば、消費者問題として消費者契約法としては適用できる」という回答を得ることができました。しかし、監督省庁が存在しない問題、各省庁が逃げ回っている問題があります。春からの消費者問題に関する特別委員会でも消費者契約法、特商法、景品表示法の問題を含めて、ぜひ質問していきたいです。超党派の先生方と一緒に、今日の集会の決意として頑張っていきたいです。


③ ライトハウス製作の啓発動画「あなたへ」の上映
若い女性が夢をもって上京するも、街で声をかけられてきた優しそうな男性に誘われ、AV出演の契約書にサインしてしまう。プロダクションに途中でやめたいと告げても「違約金がかかる」といわれ、出演せざるを得ない状況のなか、自身が出演したAV映像が拡散されていくという事実に愕然とする。終盤では女性が人身取引支援センターライトハウスに相談することで、解決の糸口を見つけていくストーリー。女性がリクルートされるなど被害が顕著である渋谷区と協力し、渋谷のオーロラビジョンでも放映されている。

④ ライトハウス代表 藤原志帆子氏から相談事例報告
藤原氏は、ライトハウスの活動をしていく中で、AV出演強要に関する相談を受けるようになりました。AV出演強要問題に取り組んで行く中で見えてきたのは、現在の法体制ではこの問題を解決できないことでした。その状況に変化が表れたのは、2015年の判決でした。AV出演を拒否した女性にプロダクションが違約金の支払いを求めた裁判で、裁判所はプロダクションの請求を棄却する判決を出しました。この頃から省庁や警察、国会議員がAV出演強要問題に関心を持ち、取り組むようになりました。しかし、被害者が被害を訴えにくい状況に変化はありません。メディアで取り上げられるようになり、ライトハウスへの相談件数は、増加していますが、直接会って相談に至るまでに半年以上かかるケースもあると言い、AV出演強要問題の難しさを訴えました。


⑤ くるみんアロマさんより
くるみんさんの被害体験は伊藤氏からの質問形式で進行しました。くるみんさんは、2016年にAV出演強要の被害者であることをカミングアウトし、その後、様々な場所で自身の被害体験を語り、啓発活動に取り組んでいます。被害者の方が顔を出して告白するのは非常に勇気がいる中で、顔を出して頑張っている一人がくるみんさんです。くるみんさんは、カミングアウトをした当初は被害の詳細を語るつもりはなかったと言います。しかし、時間が経つにつれて、「自分にしかできないことがあるのではないか」と思い、自身の被害について語ることを決意しました。くるみんさんは、スカウトされた際は歌手になる夢を叶えられるかもしれないと思い、事務所の言われるがままになってしまったと振り返ります。事務所は「AV女優は芸能界で一番すごい」「AV女優を嫌がるのは職業差別だ」と説得するときもあれば、「どんな仕事がしたい?」「この仕事(AV)をしたら音楽をやろうね」など期待させる言葉もかけてきたそうです。最終的にくるみんさんは「『スカウトの人に言えば、何でも夢が叶うかもしれない』と思うようになってしまった」と、AV出演強要の被害者が陥る洗脳状態になってしまった過程を話しました。更に、事前にNG項目にチェックをしていたにもかかわらず、実際の撮影では嫌な行為もせざるを得なかったそうです。事務所にクレームを言うと「他の女の子が使ってもらえなくなる」と怒られ、責任感からも引き受けてしまった状況を説明しました。


⑥ HRN事務局長 伊藤和子氏の法整備等についての報告
HRNが2016年3月3日に調査報告書「日本:強要されるアダルトビデオ撮影 ポルノ・アダルトビデオ産業が生み出す、女性・少女に対する人権被害」を発表して以降、AV出演強要問題がメディアで取り上げられ、社会で議論されるようになったことに対して感謝の言葉を述べました。AV出演強要被害をなくしていくためには、どこが監督省庁になるかを早く決める必要があることを説明し、「たらい回しになっているから、有効な対策を打つことができない」と指摘しました。そして、会場の国会議員に対して「被害者を保護・救済できるような法整備を早急に検討してほしい」と訴えました。
HRNでは若い女性に「嫌なことを強要されても断れる」というメッセージを伝えたいとし、現在くるみんさんにご協力いただきAV出演強要被害をなくすためのプロモーションビデオを作ったり、ポスターを製作しているという報告がありました。


⑦ 報告者による討議
最後に会場の皆さんからの質問を受けて報告者が回答しました。くるみんさんには既に出演したAVの削除の難しさについて質問がありました。くるみんさんはライトハウスに相談して、DMMとAmazonという大手販売会社から動画を削除してもらえたものの、ネットから拾われて、後から後から動画が増えていくという悔しい現実があると回答しました。そして、「自分だけならまだしも、被害を受けている多くの方が辛い思いをしているのが許せない」と語りました。「全ての動画を削除できる手立てを望みます」と訴えました。

司会の雪田氏からは、弁護士のもとに被害の相談には来てくれても、具体的な手続きの段階で来られなくなるケースが多いという報告がありました。撮影の中で犯罪行為があるにもかかわらず、それを事件化することに怯えてしまう被害者がいるそうです。これに対してくるみんさんは、被害者の気持ちに同感し、自身も当初は誰にも話したくなかったが、ユーチューバーという立場から、様々な機会をいただき、被害の経験を語るようになったと話しました。「被害にあっても声を上げられずに肩身の狭い思いをしている方がたくさんいる、その方達を勇気づけたい」と語りました。

HRNの報告書発表から一年経過しましたが、藤原氏によると、ライトハウスへの相談は今年に入っても増加しているそうです。また、加害者が巧妙に手口を変えるケースもあったそうです。藤原氏は、「まだ何も変わっていないという後ろ向きな気持ちがあるものの、少し希望の光が見えたのは、警察や政府が積極的にライトハウスに赴いて話を聞いてくれたり、地方で警察が介入して、撮影に連れて行かれなかった例が出てきたこと」と言います。また「警察に相談に行った」ことで、「これ以上、私の生活に踏み込まないでほしい」という線引きになった例もあったそうです。削除の請求についても、ゼロにするのは難しいものの、削除してくれる販売会社も増えつつあるということでした。ただし、多くの被害者が苦しみの中にいて、AV産業が自主的に改善しない現状では、法整備の必要性があると指摘しました。

「これまで数年間AVに出演した後で強要被害を訴える方がいるが、その間は主張できなかったのか?」という問いに対して、伊藤氏はAVの出演強要問題があがってきたのも数年前からで、それ以前は警察に行っても全く相手にされない状況だったと説明しました。「残念ながら、弁護士も相手にしなかったという問題があり、ライトハウスさんの支援窓口も最近になって周知されるようになり、それまで被害者の皆さんは心に秘めていたのではないでしょうか」と、対外的に訴えることが最近まで難しかった状況を振り返りました。事実、カメラの前で実名を晒すということは大変勇気がいることであり、今回のシンポジウムも参加をお断りした方がいらっしゃいました。「もっとカミングアウトすればいいじゃないか」と言う方もいますが、それは本当に容易なことではありません。昨年6月に知的財産振興協会(IPPA)にAVに出演しないということに違約金を課さないように要望を行ったものの、残念ながら具体策が提示されていません。また、IPPAに所属していない団体でも、審査を行わない犯罪まがいの内容を扱うメーカーもあり、IPPAが対策をとれば解決する問題ではないということでした。業界団体のコントロールが及ばない事例も増えているということで、業界団体で規制できないのであれば、法整備が急務です。


伊藤氏は2015年9月の違約金に関する判決で、未成年者が自分の意に反して出演していたAVの仕事が労働契約であると認められたケースを紹介しました。AVは性行為を伴うものであり、 本人の意思に反して強制してはならないということで、違約金の即時解除が認められました。しかし、多額の違約金を課したり、本人の意に反して「契約だから」と性行為を強要するのは公序良俗・民法90条に反して無効ではないかと訴えました。そもそも人権を否定するような契約は憲法違反であって、裁判所でも話をしていきたいということでした。ただ、「弁護士として裁判で解決したいという思いはあるが、被害者が実名を公表してバッシング覚悟で世に問いてくのがまだまだ難しい状況であり、この数年でも被害者が出ているということで、早急に法整備を充実させて欲しい」と締めくくりました。

会場からの発言では、角田由紀子弁護士より「被害を訴えられている方の実態をよく見て、それに則した解決方法を探すのが先ではないか」という意見をいただきました。また、「刑法の性暴力と同じように『意に反して』という点を立証できるのか」という問題があり、「それに対応するには様々な事例を作っていくことが大切なのではないか」と会場に問いかけ、受け皿となる弁護士を増やすことを提案しました。

最後に藤原氏が、「日本人は『性』について目を背けがちだが、この問題はこれまで放置してきた私たちの責任であり、早期解決を進めていきたい」と話しました。くるみんアロマさんは、「これ以上被害者を出さないように、国全体で向き合ってほしい」と訴えました。伊藤氏は、この一年を振り返って、「内閣府でもインターネット調査を行っていただき事実調査が進んだことは前進であり、このような調査を続けて、立法につなげたい」と力強く話しました。

現在も、どの省庁に相談窓口があり、どの省庁が啓発するかも決まっていない状況です。HRNでは引き続きくるみんアロマさんと協力して啓発ビデオを作成する予定です。伊藤氏は「自治体レベルでも若い女性が被害にあわないよう、私たち一人一人が行動を起こして行きましょう」、そして「何より勇気を持って前に出てきた被害者の方を今後も励まし支えましょう」と会場に呼びかけました。