AV出演強要被害をなくすために

ヒューマンライツ・ナウは、被害の根絶のために活動しています。

 

AV出演強要問題とは?

「タレントにならない?」「モデルにならない?」などとスカウトされ、タレントやモデルになる夢を膨らませて誘いに応じる若い女性たちが、アダルトビデオの出演を強要されるという被害が相次いで報告されています。

若い女性の無知や困窮に乗じて、衆人環視のもとでの意に反する性行為を強要し、その一部始終が半永久的に公にさらされる被害は著しい人権侵害であり、違約金の脅しによりこうした奴隷的な立場に置かれる「債務奴隷」ともいえる深刻な事態であり、女性に対する深刻な暴力です。

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ヒューマンライツ・ナウの調査報告書

ヒューマンライツ・ナウは、2016年3月3日、調査報告書「日本:強要されるアダルトビデオ撮影 ポルノ・アダルトビデオ産業が生み出す、 女性・少女に対する人権侵害」を発表し、社会的に大きな反響を呼びました。
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ヒューマンライツ・ナウは、2015年以降、支援者・被害者から聞き取りを行い、被害の実態を調査しました。その結果、若い女性たちが、AVに出演するという意識がないままプロダクションと契約を締結した途端、「契約だから仕事を拒絶できない」「仕事を断れば違約金」「親にばらす」等と脅され、AV出演を余儀なくされる事例が後を絶たないことが判明しました。

AV強要の結果、深刻なPTSDなどの後遺症に苦しめられる人、いつまでもビデオが販売され、インターネットに一番知られたくない映像が公開され続けることを苦に自殺をする人、整形手術を繰り返す人など、本当に被害状況は深刻です。

支援団体に寄せられたAV出演をめぐる相談は、2012年から2015年の3年間で70件以上にのぼり、中には、執拗な勧誘を断れず、AV出演したが直後に後悔し、契約解約後も自分の AV が販売され続けていることに苦しみ、自殺した女性もいます。

ヒューマンライツ・ナウの報告書では、こうした被害の実態を被害者のヒアリング等から伝えるとともに、被害根絶のための対策を政府各機関、国会、警察、業界関係者等に求めました。

 

大きな社会問題に

ヒューマンライツ・ナウの記者会見後、AV出演強要問題は大きな社会問題として扱われるようになりました。

当初、「そんな被害は聞いたことがない」と業界関係者から強い否定のメッセージが寄せられましたが、報道等を契機に、勇気を出して被害を訴える被害者が次々と、実名、または匿名で声をあげ、社会の深刻な問題として認識されるようになったのです。状況を変えたのは勇気ある被害者の方々の声でした。

ヒューマンライツ・ナウは声をあげられた被害者の皆さんの勇気と想いに心から励まされ一緒に活動を続けてきました。

 

これまでの前進

内閣府による調査

2016年6月、内閣府はこの問題に山本太郎議員の質問主意書に対する答弁書を閣議決定。
https://www.bengo4.com/internet/n_4725/
答弁書は、女性に対して本人の意に反してアダルトビデオに出演を強要することは、第4次男女共同参画基本計画で、防止と根絶に取り組むとしている「女性に対する暴力」にあたると指摘した。そのうえで、教育・啓発の推進や、被害者が相談しやすい体制づくりを通じて、効果的な支援の拡充を図っていくとしています。

これを受けて、内閣府では「女性に対する暴力に関する専門調査会」がAV出演強要問題に関する調査を開始、各省庁や民間団体を呼んだヒアリングにより実態究明と今後の方策について検討を進めました。
http://www.gender.go.jp/kaigi/senmon/boryoku/list.html

警察による取り組み

警察庁生活安全局保安課長は2016年6月、「アダルトビデオへの強制的な出演等に係る相談等への適切な対応等について(通達)」を全国の警察に対して出し、取締りの推進、定期報告等を進めていくことを決定したと伝えています。
https://www.npa.go.jp/pdc/notification/seian/hoan/hoan20160617.pdf
2016年11月に警察庁が公表した資料によれば、2014年以降既に22件の相談が寄せられ、対応を進めていることが報告されました。
http://www.gender.go.jp/kaigi/senmon/boryoku/siryo/pdf/bo84-3.pdf

国民生活センターの注意喚起

http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20161130_1.pdf
国民生活センターは「タレント・モデル契約のトラブルに注意してください!-10代・20代の女性を中心にトラブル発生中-」を発表、「一人で悩まずに、消費生活センターや警察に相談しましょう」と訴えています。

業界団体の反応

AV業界団体であるNPO法人知的財産振興協会(IPPA)は6月、制作会社の団体としての立場から「被害に遭われた方々が実際に存在しているということに関してはAV業界は重く受け止めるべきであり、改善の必要がある」との見解が表明され、対応を進めていくとしています。

また、2017年10月には、AV人権倫理機構が発足しました。AV人権倫理機構は、AV業界の改善・健全化を推進する第三者団体です。業界内ルールの整備や作品販売停止申請の窓口設置など、出演者の人権を守るために活動しています。

 

AV出演被害防止・救済法の施行

ヒューマンライツ・ナウの調査報告書をきっかけに、AV出演強要被害が広く社会問題として認識されました。しかし、政府が2017年3月から被害防止対策に乗り出したものの、内容は広報・啓発が中心で、監督官庁や法規制がないまま被害救済は進まないという課題がありました。こうした中、ヒューマンライツ・ナウでは、この課題に精力的に取り組んできました。

AV出演被害の救済が困難ななか、ほぼ唯一の確実な被害救済手段だったのが、未成年者の契約の取消権でした。いったん撮影しても、未成年者の法律行為だからという理由で無条件で取り消せたからです。しかし、日本では、2022年4月1日にこれまで20歳であった成人年齢が18歳に引き下げられ、18歳・19歳が未成年者取消権を失うことになったため、新たなAV被害の増大が懸念されました。

ヒューマンライツ・ナウは、被害の拡大を防ぐため、未成年者取消権を存続する法制度の実現を今通常国会中任を持って進めるよう強く求めるキャンペーンを展開、3月23日に開催した院内集会は多くの議員とメディアが参加し、4月1日の成人年齢引き下げを前に社会問題として大きな関心を集めるに至りました。

この結果、与野党は私たちのこの声にこたえ、超党派での議員立法の議論を本格化、5月初旬に議員立法の案が示されました。この法案は「AV出演被害防止・救済法案」と名付けられ、年齢、性別を問わず被害が広がっていることに照らし、18歳・19歳に限定せず年齢・性別を問わず、広くすべての被害を救済する包括的な立法提案です。この法案はヒューマンライツ・ナウが2016年に提起し、その後も繰り返し提言していた立法提案の多くを受け入れて制度化したものです。法案は2022年5月27日に衆議院にて全会一致で採択、同年6月15日に参議院で圧倒的多数で採択され、成立しました。同年6月23日に施行されています。

 

これからの課題 被害をなくすために。

AV出演被害防止・救済法のポイント

AV出演被害防止・救済法は、AV出演被害の甚大性を考慮し、通常の契約法理を踏み越えた異例の重層的な被害者保護を規定しています。

 重要なポイントは以下のとおりです。

  •  基本的な原則

 個人の尊厳に立脚し、「出演者に対して性行為を強制してはならない」(3条)ことを前提に、被害者の人権や尊厳を守るべく、AV出演とその映像拡散のプロセス全体で被害者を保護する仕組みを導入しています。

  •  契約締結段階

 事業者に詳細な説明義務・契約書交付義務を課し、撮影は契約書・説明文書の提供から1か月経過後と定めています。これまでは台本が前日に渡される、誰とどんな性交をさせられるかわからないという状況でしたが、事前に説明し、承諾があって、さらに一か月後に引き返す時間を保障して、初めて撮影できることになりました。

  •  撮影段階

 仮に、出演契約で合意した性行為でも当日嫌であれば、性行為を拒絶できるとし、安全と任意性を保障する措置を事業者に義務付けています。

  •  販売・配信まで

 これまでは業者がとにかく撮影に持ち込んでしまえば、あとは出演者がいくら求めても販売・配信を進めてしまうケースが圧倒的でした。ところが新法では、まず、撮影終了後公表までは4か月を空け、その間に出演者に映像を確認する機会を与えることも義務付けました。

 事業者が義務に反した場合、出演者は出演契約をキャンセルできます(無効主張、契約取消・解除)そして販売・配信までの間、無条件で、違約金も支払う義務を負わずに、契約を解除することができます。そうすれば、業者が販売・配信することは許されない、ということになります。被害の支援現場の実態に照らせば、非常に重要な変化です。

  •  配信後

  さらに、出演者は、販売・配信前だけでなく販売・配信後も1年間(施行後2年間は2年間)はいつでも無条件で何らの違約金も課されずに契約を解除できます。契約がない場合や契約が無効な場合、または出演者が契約をキャンセルした(契約取消・解除)場合、事業者は原状回復義務を負い、出演者は販売・配信の差止め請求ができます。

  •  その他

 さらにAV出演被害防止・救済法には、拡散防止に関する規定、事業者に対する罰則規定も設けられています。これらは、悪質業者による法律の違反や潜脱による被害を防いで実効性を確保するとともに、被害者にデジタルタトゥーを残さないための強力な規定と言えます。

これらの規定は画期的で、被害者の被害回復のための強力な法的手段を付与するものです。適切に実施されれば、これまで苦しんできた深刻なAV被害から多くの人を救うことができると期待されます。

これからの課題

これまで光が当たらなかった極めて深刻な被害を救済するため、新法の実施体制を早急に確立し、被害救済の体制整備を進める必要があります。相談しやすい相談機関の整備、関係機関への周知、協議、研修、そして何よりもこの法律を必要としている人への広報とアウトリーチなどを通じて、この法律が円滑に活用され、被害者が救済されるようにしていくことが必要です。

また、近年、被害支援団体へのAV出演被害の相談件数がさらに増加している現状もあります。ある支援団体への相談件数は、2020年には280件、2021年には550件にものぼりました。また、状況の変化に伴い、洗脳などの方法で出演に持ち込むというAV業者の手段の巧妙化も指摘されています。まだまだ被害防止・救済体制の改善が必要です。

ヒューマンライツ・ナウはAV出演被害防止・救済法のアドボカシーを中心的に担った団体として、法律が適切に実施され被害救済が実現するよう、引き続き、中心的な役割を果たしていく予定です。また、二年以内と規定された法律の見直しによってより良い改正が実現するよう働きかけを進める予定です。

 

また、ヒューマンライツ・ナウは、被害救済を実現する法律の制定を求めた署名キャンペーンを実施しました。

おかげさまで大勢の方に署名にご協力いただきました。ありがとうございました。

署名キャンペーンサイト(署名は終了しています)

 

現在、カミングアウトされた被害者の方々や被害者支援団体の方々と一緒に、二度と被害者を出さないため、一人でも多くの人達に問題を知らせるためのイベント開催、そして法整備などの社会的な仕組みづくりのための活動を進めています。
このプロジェクトには資金が必要です!!是非皆さんのご支援でサポートしてください。二度と被害者が出ないように。

寄付サイトはこちら

 

 

ヒューマンライツ・ナウの活動

AV出演強要に関連したイベント等

これまでに発表したAV出演強要問題に関する調査報告書・提言等

2016年

2018年

2020年

2022年

女性の権利に関するこれまでの発表物一覧はこちらから

 

被害を語る

ヒューマンライツ・ナウでは、被害を告白された方々や被害者支援団体の方々と一緒にトークイベントを実施、調査報告書の発表など、AV出演強要の実態を一人でも多くの方に知っていただくため、活動を進めています。

みなさんの応援をよろしくお願いします。

是非みなさんも、一日も早くこうした女性に対する人権侵害をなくすため、私たちの活動を応援していただけませんか? SNSで応援する、寄付をする、イベントに参加する、ヒューマンライツ・ナウに入会して中心的に活動するなど、できることがたくさんあります。是非、問題解決の一員になってください。Be a part of solution!