【要請書】AV出演強要やデジタル性暴力に対する対処を求める要請を、性犯罪に関する刑事法検討会に提出しました。

2020年9月11日付で、ヒューマンライツ・ナウ(以下、HRN)は、AV出演強要やデジタル性暴力に対する対処を求める要請を、性犯罪に関する刑事法検討会に提出しました。

 

HRNは 2016年以降、実効的な救済が認められる法整備が必要であると考え、下記の包括的対応を求め、法務省をはじめ、関連省庁に要請をしてきましたが、法制化が進んでいません。そのため、現在法務省で行われている性犯罪に関する刑事法検討会で、法改正の審議を求めます。

 

要請書のPDFはこちらからご覧になれます。AV出演強要やデジタル性暴力に対する対処を求める要請書

 


性犯罪に関する刑事法検討会 御中

要請書

2020年9月11日
国際人権 NGO ヒューマンライツ・ナウ

Ⅰ 要請の趣旨

御検討会で審議中の以下の論点事項及びその他の論点に関して、 下記の法改正の審議を求めます。

8 性的姿態の撮影行為に対する処罰規定の在り方
○ 他人の性的な姿態を同意なく撮影する行為を処罰する規定を設けるべきか ○ 撮影された性的な姿態の画像の没収(剥奪)を可能にする特別規定を設ける べきか

 

1. 他人の性的行為にかかる姿態および性器を全部または一部露出した人の姿態を同意なく撮影する行為を処罰する規定を設けてください。
2. 上記に加え、AV出演強要被害、未成年に対する児童ポルノ被害、その他性 的撮影被害にかかる被害に対応するために、 他人の性的行為にかかる姿態および性器を全部または一部露出した人の姿態に ついて、下記の手段、態様により撮影を行うこと及び性的行為の強要を処罰する 規定を設けてください。
(1) 有形力の行使、威迫、不意打ち、偽計、詐欺、欺瞞を用いた場合
(2)監禁、洗脳、恐怖、困惑、権力の濫用その他の状況により特別に脆弱な状況位置かれている状況を利用した場合。

3. 撮影された動画、画像の譲渡、データ送信、アップロード、ストリーミング を処罰すること
4. 撮影された性的な姿態の画像の没収のみならず、確実に画像、動画が全部削 除されるような立法措置を求めます。

 

Ⅱ 要請の理由

1 AV 出演強要問題
「モデルにならない? 」等と街頭でスカウトの誘いを受けて、モデル、タレントになれると誤信して契約書にサインした結果、AV への出演を強要される、と いう深刻な被害が相次いでいます。当団体は、2016 年 3 月この問題に関する調査報告書「ポルノ・アダルトビデオ産業が生み出す、 女性・少女に対する人権 侵害 調査報告書」を公表しました(別紙にて提出)。

調査の結果、若い女性たちが、AV に出演するという意識がないままプロダク ションと契約を締結した途端、「契約だから仕事を拒絶できない」「仕事を断れば違約金」「親にばらす」等と脅され、AV 出演を強要される事例が後を絶たないこ とが判明しました。

こうして強要されて撮影された動画がひとたび販売されると、その動画は、イ ンターネットを通じて半永久的に拡散され続け、女性はずっと苦しみ続けます。 誰かにばれることを恐れて結婚も仕事もできずに家に引きこもり続ける女性や、 そのことを苦に自殺した女性もいます。過酷な撮影で精神的に傷つき、心の傷に苦しみ続ける被害者も少なくありません。

若い女性の無知や困窮に乗じて、意に反する性行為を衆人環視のなかで強要され、その一部始終を撮影されて販売され続ける、女性に対する暴力であり、深刻な人権侵害です。

内閣府の 2016 年調査では、モデル等の勧誘に応じて契約した人のうち、契約時に聞いていない・同意していない性的な行為等(※)の撮影を求められた経験がある人は、約4人に1人(26.9%)に及び、契約時に聞いていない・同意していない性的な行為等の撮影を求められた人のうち、 求められた行為を行った人は、約3人に1人(32.1%)に及ぶとされ、多くが 10 代から 20 代であったとされ 、若い女性を取り巻く深刻な女性に対する暴力と認識されています。

 

2 法の隙間にある問題

AV 制作を監督する官庁はありません。プロダクションが AV 制作会社に女性 を派遣することは、労働者派遣法上許されない「有害業務への派遣」にあたり、 刑罰の対象となるはずですが、契約書には「委任契約」などと書かれているため、 労働者派遣法で処罰される事例も多くありません。

かといって、AV 出演は売春防止法が適用されないと解釈されています。いか に無知を利用されて騙されて出演をさられたとしても、消費者契約でもないため消費者としても保護されていません。このように法的な保護が著しく欠如し ている状況にあります。そして、撮影が密室で行われているため、刑法による処罰も困難な状況です。

 

3 日本政府の対応

当団体の 2016 年報告書公表を契機に社会的な議論が起きたことを受け、政府は 2016年6月にこの問題について調査研究を開始すると閣議決定、調査を経て 2017年3月には政府の関連各省庁による局長級会合が設置5され、被害防止、啓発 、法令による取締り等の対策を決定しました。

このうち、警察庁は「強姦罪、強要罪、労働者派遣 事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律等の各種法令を適用した厳正な取締りを 推進する。」と決定しました。また、淫行勧誘罪等による立件もありました。

 

4 対策が実効性を欠く現状

しかし、現状は、被害実態に見合う処罰がなされていない状況です。

密室で起きた脅迫等が証明は困難を極めており、自ら撮影場所に行った、同意 書にサインさせられた等の理由や、労働者派遣法等の適用の前提としての雇用 と同視すべき実体に関する判断に厳格性が求められる結果、悪質事案も立件・起訴されない事態が続いています。業界団体は自主規制を行っていますが、強要の訴えはまだ続いています。

中でも、業界団体に属さない個人や集団によるゲリラ的な撮影による被害事例(被害者に事前に性行為や裸体の撮影であることを告知しないまま、騙して撮影場所に連れ込み、恐怖、困惑、監禁下で撮影をせざるを得ない状況に追い込み、 それをインターネット上で頒布・販売等して多額の利益を得る)が増えています。

成人年齢が 20 歳から18 歳に下がることで被害が深刻化することも懸念され ます。これまでは 19 歳、18 歳の被害者が AV 出演をさせられてしまっても販売 前に未成年者の行為として取消をすれば、販売・配信中止が出来ましたが、今後 は 17 歳でない限り未成年者取消ができず、販売・配信停止が難航を極めること になります。抜本的な被害防止策がないまま、成人年齢を引き下げることにより、 若年層の被害がさらに深刻となることを懸念します。

また、ひとたびネット上に上がった性的動画については、際限なく拡散し、削除が困難であり、その後の人生に深刻な影響を及ぼす「デジタル性暴力」といわれる被害は何ら救済されていません。

特に、真意の同意を欠く性的動画が海外に譲渡、送信され、国内外で配信、ス トリーミングされれば、海外の事業者を特定して訴訟提起する負担を被害者は強いられます。これは事実上不可能です。

 

5 人身取引議定書に即した対応を

AV 出演強要のような事態は明らかに人身売買に該当します。日本においても国際組織犯罪防止条約人身取引議定書が発行していますが、発行前に新設された刑法の人身売買罪は「人を金銭などで譲り受け、支配下に置いた場合」を構成要件とし、下記の国際的な人身取引の定義に即していません。

「人身取引」とは、搾取の目的で、暴力その他の形態の強制力による脅迫若しくはその行使、誘拐、詐欺、欺もう、権力の濫用若しくはぜい弱な立場に乗ずること又は他の者を支 配下に置く者の同意を得る目的で行われる金銭若しくは利益の授受の手段を用いて、人を獲得し、輸送し、引き渡し、蔵匿し、又は収受することをいう。搾取には、少なくとも、他の者を売春させて搾取することその他の形態の性的搾取、強制的な労働若しくは役務の提供、奴隷化若しくはこれに類する行為、隷属又は臓器の摘出を含める。

人身取引の下記の定義に基づき、被害者の同意の有無にかかわらず、性的な撮影によって人を搾取し、その形態が以下に該当する場合は、犯罪とすることが求められます。

・有形力の行使、威迫、不意打ち、偽計、詐欺、欺罔を用いた場合
・監禁、洗脳、恐怖、困惑、権力の濫用その他の状況により特別に脆弱な状況に置かれている状況を利用した場合

 

6 本検討会による対応を

ヒューマンライツ・ナウは 2016 年以降、実効的な救済が認められる法整備が必要であると考え、下記の包括的対応を求め、法務省をはじめ、関連省庁に要請をしてきました(別紙法案参照)が、法制化が進んでいません。

1 監督官庁の設置
2 職業安定法・労働者派遣法の厳格な適用
3 真実を告げない勧誘、虚偽広告による勧誘、不当な誘因・勧誘の禁止 4 意に反して出演させることの禁止 (困惑・騙しによる出演を禁止する) 5 違約金を定めることの禁止
6 禁止事項に違反する場合の刑事罰
7 禁止事項に反した場合、契約の取消をいつでも認める。
8 意に反する出演にかかるビデオの販売差し止め を認める。
9 悪質な事業者の企業名公表、指示、命令、業務停止などの措置、悪質業者個人への制裁
10 違法収益の収奪 11 教育・啓発 12 相談支援体制の整備

 

御検討会において同意のない性的撮影に関する被害について論点とされることを知り、この深刻な問題についても検討いただくことを切望します。

御検討会の審議対象に関連して、すでに当団体が提出した刑法改正案に加え、表記要請の趣旨のとおり法改正、法制度の導入の検討を要請するものです。

以上