【声明】国連ガザ独立調査団の報告書を歓迎 国際社会に対し、勧告を実施し、正義の実現に動くよう要請する。

外務大臣 岡田克也 殿

 

要  請  書

 

要請の趣旨

日本政府に対し、パレスチナ・ガザ地区における人権侵害の責任追及と人権の回復に力を尽くすこと、具体的には、

1        9月29日に開催される国連人権理事会特別会期で報告される国連独立調査団の報告書と勧告を支持する決議に賛成すること

2        安全保障理事会においても同様の立場で行動されること

3        ガザ封鎖の解除を強くイスラエルに求めること

を要請いたします。

 

要請の理由と背景

1.        2008年12月以降、中東パレスチナのガザ地区は、イスラエルによって攻撃を受け、1400名余の人々が犠牲になり、その多くが子どもや女性など、罪のない民間人です。イスラエルはその後撤退しましたが、人々の心の傷は深く、また、ガザ地域の封鎖は継続したままであり、復興どころか日々の生活にも著しい支障が出ています。何より、これだけの尊い人命が犠牲になっているにも関わらず、何らの調査、謝罪、補償、責任追及もなされず、人権侵害が不処罰のまま放置されています。

2.        2009年1月12日、人権理事会はガザ問題で特別会期を開催し、ガザにおける軍事行動について国際人権・人道法違反の有無を調査する独立した調査団の設置を決議しました(日本は棄権)。南アフリカ憲法裁判所判事、旧ユーゴ戦犯法廷検察官の経歴を持つリチャード・ゴールドストーン氏を団長とする国際的に権威のある専門家からなる国連独立調査団が任命され、イスラエルの完全非協力のもとでも、5月から7月まで2度ガザを訪れるなど、徹底した調査が行われてきました。

3.        2009年9月15日、ゴールドストーン氏を団長とする上記国連独立調査団は、2008年12月以降のガザ紛争に関する調査報告書を発表しました。574ページにわたる報告書は、イスラエルの軍事行動について国際人権法・人道法に対する重大な違反が証明された、とし、戦争犯罪に該当する軍事行動が行われた、と結論付けました。また、ガザ封鎖を通じて人々から生計の手段、家、水、移動の自由等を奪うことがジュネーブ条約等違反と同時に「人道に対する罪」が認定される可能性がある、と警告しています。同時に報告書は、パレスチナ武装組織の行動に関しても、戦争犯罪に該当すると結論づけています。[1]

4.        報告書は国際社会に数多くの勧告を出していますが、最も注目すべきは国連安全保障理事会に対する以下の勧告です。

1)  安保理は、国連憲章40条に基づき、イスラエルに対し

① 本調査報告書に指摘された国際人権・人道法違反に関し、国際基準に立脚した、独立性のある調査を三か月の期間内に実施すること、

②    さらに三か月以内に、いかなる調査および訴追が行われたかを報告すること

2)      国連安保理内に、イスラエルによる国際人権・人道法違反の調査状況を監視する専門家の独立委員会を設置して監視を行うこと

3)      上記6か月以内に、誠実な調査・訴追がなされない場合は、国連憲章7章に基づき、ガザ紛争に関する一連の事案につき、国際刑事裁判所(ICC)に付託すること

報告書はさらに、国連人権理事会に対して

1)      本調査団の勧告を支持し、勧告の実施に必要な行動をとり、勧告の実施状況を監視すること

2)      国連事務総長に対し、本報告書を安全保障理事会に提出するよう求めること

3)      国連総会および国際刑事裁判所検察官に本報告書を提出すること

を求め、国連総会に対しては、ガザにおける軍事行動における本調査報告書などが指摘する国際人権・人道法違反行為に対する責任追及のために国連安保理がいかなる措置を取ったかの報告を求めるよう勧告しています。

 

5  私たちは、この長く待たれていた調査報告書の内容を歓迎し、その勧告を支持するとともに、国連安保理、総会、人権理事会が正義と人権の回復のために、この勧告を誠実に実施することを求めます。冒頭に述べたとおり、1400人余の尊い人命が犠牲になったガザ攻撃に関しては国際人権・人道法違反について紛争地では何らの誠実な調査も行わず、責任の所在は追及されてきませんでした。このような惨禍を繰り返さないためにも、不処罰が容認されることがあってはならないと考えます。

9月29日には、国連人権理事会がガザ問題に関する特別セッションを実施します。ヒューマンライツ・ナウは、日本を含むすべての理事国が、調査団の勧告を支持する決議を採択し、安保理、総会および国際刑事裁判所に対する報告書の提出を決議することを求めます。

今年1月の人権理事会は、ガザでの人権侵害を非難し、調査団の設置を求める決議を賛成多数で可決しましたが、日本はEUとともにこの決議に棄権し、国際的な批判を浴びました。イスラエルは、国際調査団への協力を全面的に拒絶しましたが、その理由として、カナダが決議に反対したこと、日本とEUが決議に棄権したことを挙げています。新政権には、このような真相究明に背を向けた外交姿勢を転換することを求めます。

EUなどは、1月の人権理事会について、決議が「一方的」だということを棄権の理由としていましたが、今回の調査はイスラエルの行為のみならずパレスチナ武装組織の行為についても公正に検討されており、「一方的」との批判はもはやあたりません。

日本政府には、今回は自ら賛成票を投じるとともに、前回反対したカナダ、決議に棄権したEUに対し、今回は投票行動を変えて決議に賛成するよう呼びかけていただくよう要請します。そして、当時は人権理事国でなかった米国に対しても、ブッシュ政権時代からの外交政策の変化を示す試金石として、正義の実現のために賛成票を投ずるよう呼びかけていただくよう要請します。

6   また、日本政府に対し、安全保障理事会においても、正義の実現のために、行動することを求めます。国際刑事裁判所は、戦争犯罪や人道に対する罪が放置され、国内的な処罰が行われない場合の最後の手段として、正義を実現する司法機関です。

世界の公正な秩序を実現するため、国際刑事裁判所の役割は極めて重要であり、日本も2007年に加入しています。

イスラエルは締約国ではありませんが、国連安保理が特定の事案について国際刑事裁判所に付託することを決議すれば、非締約国にも国際刑事裁判所の管轄権が及びます。イスラエルは、1948年以降一貫して、国連安保理、国連総会の決議や国際司法裁判所の勧告的意見を無視し、国際法違反を繰り返してきました。もし、今回の調査報告を受けても独自の調査と訴追を行わない姿勢を続けるのであれば、法の支配と正義を実現するため、国際刑事裁判所への付託をすることが必要です。

そのための道のりは困難で勇気を伴うものかもしれませんが、日本の新政権こそがそのイニシアティブを発揮すべきだと私たちは期待します。

7  イスラエルは、再三の要請にも関わらず、調査団への協力を拒絶し、イスラエル入国も認めませんでしたが、現在に至って調査報告書への反論を開始しています。しかし、イスラエルおよびこれと同盟・友好関係にある国々が、国連が正式に派遣した調査ミッションの報告書の信用性に意図的に傷をつけるような行為をすることは到底許されません。

今回の調査団の報告書の質の高さ、正統性は多くの専門家・国際NGOが認めるところです。調査団は、イスラエル、パレスチナ武装組織双方の36件におよぶ国際人権・人道法違反を調査、本年5月かに7月にかけて二度にわたりガザ地域を調査、ガザとジュネーブで開催した公聴会で38人の証言を聴取、さらに、188人をインタビューし、300以上の報告書を検討、紛争地関係者から情報提供を受けた1万ページ以上の文書を超す文書、1200以上の写真、30本以上のビデオテープを調査しています。戦争犯罪と指摘された事実には、モスクで礼拝中の人々への攻撃、白旗を掲げて安全な場所に移動しようとした人への攻撃、病院で手当てを受けている人々への攻撃、白リン弾による攻撃など、意図的な民間人攻撃の具体的事例が多く含まれ、証言で裏付けられています。

人権と平和を基盤に置く日本は、正義の実現のために貢献することが求められています。

8   また、日本政府には、ガザ封鎖の解除を強くイスラエル政府に働きかけていただくよう要請いたします。ゴールドストーン調査報告書には、ガザ攻撃で人々の生活基盤が無残に破壊されたこと、その後も続く封鎖により、生活に必要な物資、水、家、仕事、移動の自由が制限されていかにガザの人々が苦境に立たされているかが克明に伝えられ、この封鎖はジュネーブ条約に違反するとともに人道に対する罪に該当する可能性がある、と指摘しています。ハマスが存在することを理由に、一般市民の生存を危機にさらす封鎖は一刻も早く解除すべきであり、国連総会その他の場で強くこれを迫っていただくよう要請します。

9  最後になりますが、 ゴールドストーン調査報告書は、国際社会に対し、和平プロセスに人権の視点を入れるよう求めています。

ガザ攻撃を含む過去の人権侵害について正義がもたらされないまま、持続的な和平は実現しません。また、パレスチナ人の権利の放棄を迫る和平プロセスであってはなりません。占領地への入植は、ジュネーブ条約49条6項で明確に禁止されているにもかかわらず、拡大しています。国連総会決議194号は、難民の帰還権と補償を決議していますが、和平プロセスでは長らく棚上げにされています。

さらに、占領下での日常的な人権侵害の解決が和平実現のために不可欠です。当団体は、ヨルダン川西岸地区の調査などを実施し、占領下の人々が日常的な暴力と脅迫を受け、壁の建設で土地を奪われ、チェックポイントが張り巡らされる中で移動の自由を奪われ、家を突然取り壊されるなど、いかに過酷な人権侵害にあっているかをつぶさに観察しています。

真の和平を実現するためにも、パレスチナの人々が人間の尊厳と国際的に確立された人権基準を確保できるよう、日本政府が和平や開発援助の取り組みにあたって、人権侵害の解決を重視する政策をとられるよう要請いたします。

以  上

[1] http://www2.ohchr.org/english/bodies/hrcouncil/specialsession/9/FactFindingMission.htm

Immediate Release

国連ガザ独立調査団の報告書を歓迎

国際社会に対し、勧告を実施し、正義の実現に動くよう要請する。

 

2009年9月15日、リチャード・ゴールドストーン氏を団長とする国連独立調査団が、2008年12月以降のガザ紛争に関する調査報告書を発表した。574ページにわたる報告書は、イスラエルの軍事行動について国際人権法・人道法に対する重大な違反が証明された、とし、戦争犯罪に該当する軍事行動が行われた、と結論付けた。また、ガザ封鎖を通じて人々から生計の手段、家、水、移動の自由等を奪うことがジュネーブ条約等違反と同時に「人道に対する罪」が認定される可能性がある、と警告した。同時に報告書は、パレスチナ武装組織の行動に関しても、戦争犯罪に該当すると結論づけている。

同調査団は、2008年12月以降のガザ紛争直後に採択された国連人権理事会決議を受けて任命され、南アフリカ憲法裁判所判事、旧ユーゴ戦犯法廷検察官の経歴を持つゴールドストーン氏をはじめ、国際的に権威のある専門家からなる。報告書は国際社会に数多くの勧告を行ったが、最も注目すべきは安保理に対する以下の勧告である。

1      安保理は、国連憲章40条に基づき、イスラエルに対し

1)    本調査報告書に指摘された国際人権・人道法違反に関し、国際基準に立脚した、独立性のある調査を三か月の期間内に実施すること、

2)    さらに三か月以内に、いかなる調査および訴追が行われたかを報告すること

2      国連安保理内に、イスラエルによる国際人権・人道法違反の調査状況を監視する専門家の独立委員会を設置して監視を行うこと

3      上記6か月以内に、誠実な調査・訴追がなされない場合は、国連憲章7章に基づき、ガザ紛争に関する一連の事案につき、国際刑事裁判所(ICC)に付託すること

報告書はさらに、国連人権理事会に対して

1      本調査団の勧告を支持し、勧告の実施に必要な行動をとり、勧告の実施状況を監視すること

2      国連事務総長に対し、本報告書を安全保障理事会に提出するよう求めること

3      国連総会および国際刑事裁判所検察官に本報告書を提出すること

を求め、国連総会に対しては、ガザにおける軍事行動における本調査報告書などが指摘する国際人権・人道法違反行為に対する責任追及のために国連安保理がいかなる措置を取ったかの報告を求めるよう勧告している。さらに、国連総会には、「平和への結集」(国連総会決議377(V))などに基づき、安保理の措置に付加して取るべき行動を検討することもできるだろう、と示唆している。

東京を本拠とする国際人権NGOヒューマンライツ・ナウは、この長く待たれていた調査報告書の内容を歓迎し、その勧告を支持するとともに、国連安保理、総会、人権理事会が正義と人権の回復のために、この勧告を誠実に実施することを要請する。

1400人余の尊い人命が犠牲になったガザ攻撃に関しては国際人権・人道法違反について紛争地では何らの誠実な調査も行わず、責任の所在は追及されてこなかった。このまま不処罰が容認されることがあってはならない。

同調査団は、イスラエル、パレスチナ武装組織双方の36件におよぶ国際人権・人道法違反を調査、本年5月かに7月にかけて二度にわたりガザ地域を調査、ガザとジュネーブで開催した公聴会で38人の証言を聴取、さらに、188人をインタビューし、300以上の報告書を検討、紛争地関係者から情報提供を受けた1万ページ以上の文書を超す文書、1200以上の写真、30本以上のビデオテープを調査した。

戦争犯罪と指摘された事実には、モスクで礼拝中の人々への攻撃、白旗を掲げて安全な場所に移動しようとした人への攻撃、病院で手当てを受けている人々への攻撃、白リン弾による攻撃など、意図的な民間人攻撃の具体的事例が多く含まれ、証言で裏付けられている。

権威ある調査団がイスラエル、パレスチナ武装組織双方の戦争犯罪性を認定し、ジュネーブ条約の重大な違反を指摘している以上、国際社会は正義と責任追及のために行動しなければならない。

9月29日には、国連人権理事会がガザ問題に関する特別セッションを実施する。ヒューマンライツ・ナウは、すべての理事国に対し、調査団の報告書とともに、調査団の勧告を支持する決議を採択するよう求める。

この点、1月の人権理事会において、決議に反対したカナダ、決議に棄権したEUおよび日本に対し、今回は投票行動を変えて決議に賛成することを呼びかける。そして、当時は人権理事国でなかった米国は、ブッシュ政権時代からの外交政策の変化を示す試金石として、正義の実現のために賛成票を投ずるよう呼びかける。1月の理事会においては、決議が「一方的」との批判がなされていた。しかしながら、ゴールドストーン調査は公正に実施されており、「一方的」との批判はもはやあたらない。

イスラエルは、再三の要請にも関わらず、調査団への協力を拒絶し、イスラエル入国も認めなかったが、現在に至って調査報告書への反論を開始している。しかし、今回の調査団の報告書の質の高さ、正統性は多くの専門家・国際NGOが認めるところである。イスラエルとの同盟・友好関係にある国々が、国連が正式に派遣した調査ミッションの報告書の信用性に意図的に傷をつけるような行為をすることは到底許されない。

本調査報告書は、国連安保理およびイスラエルに今後の真相究明および責任追及の実施を委ねている。「人権尊重と法の支配の実現」を世界に公言している国々は、正義の実現を一歩進めるべき立場に立つべきである。

ヒューマンライツ・ナウ事務局長伊藤和子は「ガザにおける軍事行動で罪もない多くの市民が犠牲になったことを誰もが本当は知っている。そして、戦争犯罪が権威ある調査団によって確認された。人権を標ぼうする国々がこの問題に直面しつつ、沈黙し、正義を妨害することは許されない。」と述べた。ヒューマンライツ・ナウ・パレスチナ担当の清末愛砂は、「世界の市民は各国の投票行動を厳しく監視するだろう」と述べた。