
ヒューマンライツ・ナウ(HRN)は、インドネシア人移住漁船労働者の募集・送り出し制度に焦点を当てた調査報告書を公表しました。
台湾、韓国、日本をはじめとする各国の水産業は、多くのインドネシア人移住労働者によって支えられています。しかし、これまで遠洋漁業においては、長時間労働、賃金不払い、借金による束縛、強制労働、人身取引などの深刻な人権侵害が繰り返し報告されてきました。
こうした船上で発生する問題のみに焦点が当たることが多い一方、本報告書は、移住労働者の脆弱性が募集・採用・送り出しの段階から形成されていることに着目し、インドネシアにおける移住漁船労働者の送り出し制度の実態と課題を調査したものです。
本調査では、インドネシア中央政府機関、地方労働局、民間移住労働者送り出し会社(P3MI)、職業訓練機関(LPK)、水産系職業高校、漁業関係者、移住労働者へのヒアリングを実施し、台湾、韓国、日本等へ向かう移住漁船労働者の募集・送り出し過程を分析しました。
調査の結果、送り出しルートによって募集関連費用の負担構造が異なり、特に韓国向け送り出しでは、高額な保証金や家族資産を担保とした借入れの事例も報告されており、国際的に求められる雇用主負担原則(Employer Pays Principle)の観点から重大な課題が明らかとなりました。
また、調査では、募集・送り出し制度そのものの複雑さも課題として浮かび上がりました。募集・送り出し関連エージェントの管理・監督にはインドネシア移住労働者保護省(KP2MI)と労働省の双方が関与しており、エージェントの種別によって適用される制度や監督主体が異なることから、制度の理解や運用が容易ではないとの指摘がありました。
さらに、本報告書は、移住漁船労働者の労働移動が単一の送り出し先国への移動ではなく、中国や台湾で経験を積んだ後に日本や韓国へ移動する段階的なキャリア形成として構成されているケースを確認しました。一部の募集・送り出し関連エージェントは、中国又は台湾の漁船で経験を積ませた後、より条件が良いとされる日本又は韓国へ送り出すことを人材育成・配置戦略として位置付けていました。こうした実態は、各国の漁船労働市場が相互に独立しているのではなく、移住労働者の移動を通じて連続した労働市場として機能している可能性を示しています。
さらに、宮城県石巻市とインドネシア西ジャワ州の連携による技能実習生の受入れモデルについても調査を行いました。同モデルでは、移住労働者本人に募集関連費用を負担させない仕組みや、来日前後を通じた継続的な生活支援が実施されており、移住労働者の権利保護の観点から先進的な取組として紹介しています。
本報告書では、募集関連費用の透明化、募集・送り出し主体に対する監督強化、労働者への権利教育の充実、送り出し国と受入れ国・地域との連携強化に向けた提言を行うとともに、水産関連企業に対してサプライチェーン上の移住労働者の人権尊重責任を果たすための取組を求めています。



