ヒューマンライツ・ナウは、「平等」「差別されないこと」「誰もがありのままでいられること」という基本的人権の保障のため、今こそ包括的反差別法の制定とその執行メカニズムの整備を求める声明を公表しました。また、イギリス、ニュージーランド、カナダの差別禁止法を比較した報告書も公表します。
包括的反差別法を求める声明
国は、憲法上、また、国際人権法上、すべての人の平等と無差別に対する権利を保障する義務を負っている。しかしながら、日本では、すべての人の平等と無差別を一般的包括的に保護し、または差別を禁止する法律が存在しない。
例えば、女性差別に関する現行の法制度は主として雇用の分野に限ったものであり、ヘイトスピーチに関する法規制も対象が極めて限定的である。障害者差別については、差別の解消を求める法律は存在するが差別に対する罰則がなく、性的指向や性自認に基づく差別に至っては、差別から個人を守る法制度が全くない。
このように、人権の基礎である「平等」「差別されないこと」「誰もがありのままでいられること」について、部分的に法制度は存在するが、それらの法制度自体不十分である上、断片的な法制度でカバーされていない差別について、これを禁止する実効的な法的枠組みが存在しない。
日本は、自由権規約、人種差別撤廃条約、女性差別撤廃条約等の人権条約を批准しており、こうした条約上、差別を禁止する義務の履行が求められていることに加えて、日本国憲法自体が平等や幸福追求に対する権利を保障しており、包括的に差別を禁止することは、日本の現行の法体系と矛盾しないのみならず、このような国際人権基準や憲法上の要請に応えるために必要である。
他国では、部分的な差別禁止から包括的差別禁止に至った例がある。
英国ではもともと、性差別、人種差別、障害者差別など、差別を禁止する個別の法律がそれぞれ立法された後に、これらの個別の差別禁止の範囲を統合し、一貫させるため、「2010年平等法」が制定され、差別を受けやすい分野をできるだけ多く捕捉するような形で差別事由が定義されるとともに、法律を執行するメカニズムが設けられた。
同法では、差別とは、年齢、障害、性的指向、婚姻やシビル・パートナーシップ、妊娠・出産、人種(race)、宗教や信条、性別等の「保護される特徴(protected characteristics)」に基づいて不利益に取り扱うことと定義される。
ニュージーランドにおいても、人種差別撤廃条約批准をきっかけとして制定された「1971年人権法」は、当初、人種、国籍、民族的出自に基づく差別を禁止していた、対象を徐々に拡大し、様々な理由に基づく差別を網羅的に禁止する「1993年人権法」の制定に至った。
同法では、性別、妊娠・出産、婚姻やシビル・パートナーシップ、宗教、信条、人種(colourおよびrace)、民族や国籍の出自、障害、年齢、政治的意見、雇用上の地位、家族生活上の地位、性的指向を理由とする差別が禁止されている。
カナダでは、国際人権法の原則を反映するとともに、各州の差別禁止法を連邦のレベルに高めるため、1977年、世界初の包括的人権法「人権法」を制定し、その後も対象となる差別事由が徐々に拡大していった。同法は人権委員会と人権裁判所により執行され、複合的・交差的差別にも積極的に適用されている。
同法では、差別とは、人種(raceおよびcolour)、国籍や民族の出自、宗教、年齢、性別、性的指向、性自認、婚姻上の地位、家族生活上の地位、遺伝上の特徴、障害、赦免や猶予された犯罪歴に基づく差別が禁止されている。
そして、日本でも、性的指向や性自認に基づく差別の違法性に対して肯定的な司法判断が示されたり、ヘイトスピーチについて法律よりも広く強く規制する条例を制定する自治体が増えるなど、より実効的に差別を禁止する動きがある。また、三重県では、全国初の包括的差別解消条例となる「差別を解消し、人権が尊重される三重をつくる条例」が2023年から全面施行されており、包括的差別の禁止が日本でも可能であることを示している。
長年問題となっている女性差別や、近時激しさを増しているヘイトス、さらには、政治家やマスメディアが公然と外国人を非難する言動を繰り返し、現に差別の被害が生じ、かつ、市民がこうした差別的言動を信じて差別が助長される現状があるにも関わらず、包括的差別禁止法が存在しないことによって、法的に被害者を保護し、加害者に民事的・刑事的な制裁を課す法制度が全くないか、あっても限定的なものにとどまっている。
公人による差別は、その発言の伝播力や影響力の大きさから、人種差別撤廃条約4条の下で、公人ではない者による差別に比しても特に明確に禁止をすることが求められているが、日本の現行法では、公人の差別的発言が法的責任を問われることがなく、その伝播力・影響力がまさに差別を助長する結果となっている。
日本でも、少なくとも、上で例を見た国々と同程度の定義で差別を禁止する必要がある。これらは日本国憲法および日本が批准する国際人権条約と矛盾しないだけでなく、憲法や条約上の要請でもある。
当団体は、平等と無差別に対する権利、すなわち、「平等」「差別されないこと」「誰もがありのままでいられること」という基本的人権の保障のため、今こそ包括的反差別法の制定とその執行メカニズムの整備を求める。



