【人権理事会声明】「ビジネスと人権に関する国内行動計画の策定を求める声明」の和訳を公表しました。

国際人権NGOヒューマンライツ・ナウは2016年6月13日からジュネーブで開催されている第32会期人権理事会に対し、「ビジネスと人権に関する国内行動計画の策定を求める声明」を提出しました。

日本語訳も作成しましたので、全文をご報告いたします。

声明全文 国別行動計画書面ステートメント(日本語)  [PDF]

※英語原文はこちら 1897_A_HRC_32_NGO_Sub_En [PDF]

 

日本政府に対し、ビジネスと人権に関する効果的な国別行動計画を策定することによって、ビジネスと人権に対する強い関与を行うよう求める

背景

グローバルなサプライ・チェーンにおいて発生する深刻な人権侵害や環境破壊に対して対処することは喫緊の課題になっています。プランテーション、漁場、資源採掘現場、工場、廃棄物処理現場における、児童労働、強制労働、土地収奪、労働組合の制限、人権擁護者への攻撃、劣悪な労働環境などの問題や、深刻な環境破壊の問題は、グローバル・サプライ・チェーンをおいて絶え間なく発生しています。

エルマウで開催された2015年のG7サミットは、G7諸国の指導者がこのような問題について初めて議論したという点で画期的なものでした。G7は「責任あるサプライ・チェーン」を促進することを約束し、「国連ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)」への強い支持を表明しました。また、G7は、透明性の向上、人権リスクの特定及び予防、苦情処理メカニズムの強化によるより良い労働環境の促進も強調し、民間部門に対して人権に関するデュー・ディリジェンスの履行を要請しました。G7諸国の指導者は、「国連ビジネスと人権に関する指導原則」に従った国別行動計画(NAP)を策定することにより、「責任あるサプライ・チェーン」を促進することも約束しました。

しかしながら、日本政府はエルマウ・サミット後に国別行動計画を実施した多数のOECD諸国と比較して遅れをとっています。例えば、G7諸国の中で、国別行動計画の策定に向けた計画(もしあれば)さえ公表していない国は、日本とカナダだけです[1]

ビジネスと人権に関するワーキンググループによって作成されたビジネスと人権に関する国別行動計画に関するガイダンス[2]は、各国が、国別行動計画の策定のあらゆる局面においてステークホルダーが参加するための包括的かつ透明性の高い手続の必要性を強調しています。特に、国別行動計画の策定、監視及び改正にわたって、企業、労働組合及び市民社会を含む様々なステークホルダーの参加を確保することを上記のガイダンスは強く求めています。

国別行動計画は、2020年東京オリンピック・パラリンピックのホスト国である日本にとって、特に緊急性が高いといえます。2020年東京オリンピック・パラリンピックの成功は、これらの大会が日本に残していく、長期にわたる積極的なレガシー(遺産)に大きく左右されます[3]。この目的に向けて、2020年東京オリンピック組織委員会は、環境保護及び持続可能性をアクション&レガシープランの5本の柱の一つとして宣言しています[4]。 このような保護の範囲は、環境に関する事項から人権、労働環境及びサプライ・チェーンの管理に関する事項にまで及びます。また、国際標準化機構の社会的責任規格(ISO26000)で概要が述べられている「労働慣行」及び「公正な事業慣行」という2つの中核主題を守るための対策の実施も含まれます。[5]。例えば、組織委員会は、腐敗を防止し、少数派に配慮した対策を実施し、製品及びサービスの供給のための調達案を策定し、全ての従業員及びボランティアに対して健康かつ安全な労働環境を維持することによって、人権、労働、公正な事業慣行に関する問題を2020年東京大会の準備を通じて考慮するとされています[6]

しかしながら、日本には実質的な国別行動計画が存在しないことから、労働者は、正しく規制がなされない場合に、様々な労働及び公正な取引の侵害の流れの中で、事業場において搾取されやすいという潜在的な危険にさらされています。実効的な方針並びに国内的及び国際的な立法により定められた明確かつ明快に定義された権利が存在しないため、深刻な人権侵害がオリンピック大会の最終的な成功の阻害要因となり得ます。

 

提言

東京で活動する国際人権NGOであるヒューマンライツ・ナウは、日本政府に対して、以下の行動を行うよう勧告する。

・NGO、労働組合、労働者の権利擁護団体、企業活動によって影響を受ける人を代理する組織を含む全てのステークホルダーとの意味ある協議に基づき、効果的な国別行動計画を策定することによって、「国連ビジネスと人権に関する指導原則」を実施すること。

・エルマウ・サミット及び伊勢志摩進捗報告書で行われた約束の完全な実施に向けた措置を講じること[7]。特に日本は、法律によって、企業が人権及び環境の最高の国際基準に沿って人権デュー・デリジェンスを実施するよう義務付けること。

・OECD各国連絡窓口(NCP)のピア・レビューを義務化することにより、各国連絡窓口による苦情対応システムを強化すること。その際、ピア・レビューのための十分な資金を各国連絡窓口とOECD事務局のために準備し、各国連絡窓口の組織を強化するとともに、各国連絡窓口の手続きガイダンスを改訂すること。

・世界のサプライ・チェーン上での労働者の社会的保護の侵害と児童労働のリスクに対処する有効な措置をとり、エルマウ・サミットでの約束を遵守するとともに、「持続可能な開発目標(SDGs)」7及び8.8に沿った取り組みを行うこと。

 

[1] http://business-humanrights.org/en/un-guiding-principles/implementation-tools-examples/implementation-by-governments/by-type-of-initiative/national-action-plans

[2] http://www.ohchr.org/Documents/Issues/Business/UNWG_%20NAPGuidance.pdf

[3] https://tokyo2020.jp/en/games/legacy/

[4] https://tokyo2020.jp/en/games/sustainability/data/sus-plan-EN.pdf

[5] 同上

[6] https://tokyo2020.jp/en/games/sustainability/data/sus-plan-EN.pdf

[7] http://www.mofa.go.jp/files/000158338.pdf