ヒューマンライツ・ナウは本日声明「ユニクロと労働者の権利:ファーストリテイリング社のCSR Actionを受けて―中国下請け工場における過酷な労働状況についての調査報告書から半年―」を発表しました。
ユニクロと労働者の権利:ファーストリテイリング社のCSR Actionを受けて―中国下請け工場における過酷な労働状況についての調査報告書から半年―
2015年8月21日
Students
& Scholars Against Corporate Misbehaviour
Human
Rights Now
Labour Action China
2015年1月、Students & Scholars Against Corporate
Misbehaviour(略称 SACOM)は、東京を拠点とする国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ(HRN)および、香港を拠点に中国における労働の権利を扱うLabour Action China (LAC)と共同で、ユニクロの中国下請け工場での労働環境に関する調査報告書を発表した。[1]
調査報告書及びその後東京で行われた記者会見では、ユニクロの下請け工場における過酷労働の実態と、労働者の権利侵害に関する一連の事実が明らかになった。
調査報告書の発表の直後、株式会社ファーストリテイリング(以後、FR社)は、報告書で指摘された過酷な労働環境の一部につき事実を認め、状況改善のためのアクションプランを発表し、関係するNGOとのダイアログを進めるとした。
FR社による労働環境の改善措置に関するアクションプランの公表の後、SACOMとHRNはFR社と2回の対話を行った。また、2015年2月には、共同声明「ユニクロ製造請負工場・短期的改善を超えた抜本的解決を」を発表し、FR社に対し、国際的な労働基準に基づいたより包括的・効果的な措置を取るよう要請した。[2]
しかし、2015年3月以降、FR社はSACOM・HRNからの要請にも関わらず両団体との実質的な対話を実施せずに今日に至っている。こうした対話の代わりに、FR社は2015年6月下旬、進捗状況に関する報告を7月中に公表すると連絡してきた。
2015年7月31日、FR社は、「CSRアクション」と題するリリースを発表し、私たちが調査した中国下請け工場(Pacific社工場及びTomwell社工場)おける労働環境モニタリングの強化、及び労働環境の改善のためにFR社が取った措置を公表した。[3] この「CSRアクション」において、FR社は下請け会社における労働環境改善のための一定の措置を取ったとするものの、進捗状況に関する詳細な情報は明らかにされていない。しかし、CSRアクション公表後にSACOMが実施したフォローアップ調査の結果、SACOMはFR社が取ったと報告する措置が、現場では実際には実施されていないことを示唆するいくつかの情報を得た。SACOMが入手した情報は下記の通りである。
違法時間外労働
労働者の賃金と労働時間に関して、「CSRアクション」では、両工場は法令に従い時間外労働の賃金を支払い、毎週1日の休日を提供しているとされている。しかし2工場の基本賃金と出来高賃金は非常に低いままである。結果的に、時間外労働による給料はそれまでと同様、労働者にとって月給の重大な部分を占めており、労働者は適正な賃金を得るために時間外労働をしなればならない。Pacific社工場とTomwell社工場の労働者によると、生活するためには毎月Pacific社工場では約80時間、Tomwell社工場では約100時間の時間外労働が必要であるという。これは法定労働時間を大幅に超えている。[4]
労働者の健康と労働環境
私たちの報告書公表を受けて、現在では、Pacific社工場においては、埃に晒される労働者に対し無料の健康診断が定期的に提供されている。また、CSR ActionによるとTomwell社工場においては、規定以上の粉塵が確認された工程で働く労働者に対して8月末までに健康診断を提供するとされている。しかし、どのような化学物資が2工場で使われていたかはまだ明らかになっていない。そして危険で高リスクである2工場の労働環境について、私たちの報告書公表後に、Pacific社工場は、窓の工事と修復を始め、通気性を改善し、工場内の気温を下げ、排水溝を増やした。また、Tomwell社工場は、気温を下げるためのエアコンを設置し、労働者に配布するマスクを防塵性のものに変更した。しかし、Tomwell社工場の裁断部門の労働者によると、監査が来る時だけ防塵マスクが配布されるという。これはFR社の公表と矛盾している。
誠実でない労働者代表選定
2工場の労働者によると、労働者はいまだに真に代表されていない。Tomwell社工場の労働者によると、労働者代表は労働者によって直接選挙されるのではなく、経営陣側に味方する人が経営陣によって選ばれ、他の労働者が立候補できない状況で、経営陣が労働者全員に対して、その人物に投票するよう求めるという。また、Pacific社工場の労働者によると、経営陣と労働代表との間で委員会会合が開催されたものの、労働者自身は労働代表選出の投票プロセスに関与する権利を与えられなかったという。すなわち労働者は、経営陣との定期的な会合で労働者の声を代弁し、労働者の権利擁護のために行動する代表を自由に選ぶことができない。
以上に示した労働者によるSACOMへの主張に基づき、私たちはFR社に対し、事実調査のために再度2工場を訪問することを求める。また、FR社が2社の製造パートナーに対して以下の是正措置を取ることを要請する。
1)
労働者が違法な時間外労働をしなくても適切な賃金を得られるよう、2工場の基本賃金と出来高賃金を増額させるためにあらゆる努力を尽くすこと
2)
労働者を保護する装備を常に労働者に提供すること
3)
2工場で使用されている全ての化学物質を一般市民及び労働者に対して公開し、労働者の健康のために必要な措置をとること
4) 労働者の意思に基づき、公正な選挙によって組合代表が選ばれることを確保すること
私たちはFR社がFair Labor Association (FLA)と提携する決定をしたことを、監査結果を透明性の高い方法で公表する意思を示すものとして評価する。しかし、監査やCSRに関わる取り組みの透明性と説明責任の確保はFLAへの委託だけで終わってはならない。私たちはFR社の内部及び外部の監査結果を引き続き注視していく。
また、2015年2月の共同声明で私たちが要求したサプライヤーリストの公開及び、生活賃金を保証するための措置は、今回発表されたCSRアクションにおいて言及されていない。このことは遺憾である。
FR社が、Pacific社工場とTomwell社工場を含めた下請け企業の管理を、国連「ビジネスと人権」指導原則に基づいて、責任もって実施するよう、HRN、SACOM、LACは引き続きFR社の行動を監視し、建設的な提案を行っていく。また、FR社に対し、より包括的な対策に向けた議論をするため、私たちNGOとの協議を再開することを改めて要求する。
以上