【声明】国際基準に基づき、女性に対する暴力を根絶する法制度の実現を ~ 女性に対する暴力撤廃の国際デーに寄せて~

国際人権NGOヒューマンライツ・ナウは、本日、女性に対する暴力撤廃の国際デーにあたり、以下の声明を公表いたしました。
また本文にございますとおり、調査報告書「国際スタンダードに基づく 日本のDV防止法等の改正に向けて」を公表しておりますので、併せてご参照いただけると幸いです。
http://hrn.or.jp/activity2/josei-ni-taisuru-bouryoku-houkousho-new.pdf
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国際基準に基づき、女性に対する暴力を根絶する法制度の実現を
        ~ 女性に対する暴力撤廃の国際デーに寄せて~
日本における女性に対する暴力は今なお深刻な状況にある。
内閣府の調査によると、女性の約3人に1人は配偶者から被害を受けたことがあり、約10 人に1 人は何度も受けているが、多くの女性は適切な救済や保護を受けていない。 (1)
DV防止法が2001年に施行した後、10年が経過し、三回の法改正がなされた。今年6月、保護命令の対象を「生活の本拠を共にする交際」相手にまで広げる第3次改正がなされ、2014年1月3日に施行されることになっている。
しかし、未だに日本のDV防止法は、国際スタンダードに基づく女性に対する暴力に関する法制から著しく乖離している。特に、今回の改正についても、交際相手からの暴力まで対象が広がったとはいえ、共同生活を営んでいることを要件としているため、対象は交際相手のうちのごく一部に限定されている。保護命令制度は、保護命令の期間が短いこと、発令までに時間がかかりすぎること、裁判所の中には、保護命令のハードルを高く設定し、保護命令を発令しない不当決定等の事例や運用も見られることなどから、未だに年間3000件を下回るレベルにとどまっている。ストーカー規制法も女性に対する暴力の実効的救済の視点が抜けているため、いまも配偶者間でない交際相手によるストーカーの末の女性及びその親族に対する殺人事件が立て続けに発生している。被害の実情に即したDV型ストーカー事件への対処と女性の保護は著しく立ち遅れている。
国連は、2008年から「団結しよう、女性に対する暴力を終わらせるために」のキャンペーンを繰り広げ、2015年までにすべての国が国際的な人権基準による国内法を制定することを世界各国に呼び掛けている。
そして、(2)国内法制定にあたっての国際スタンダードとして、「女性に対する暴力に関する立法ハンドブック」(国連ハンドブック)を公表している。 (3)
国際的には、保護の対象となる暴力は、物理的のみならず、心理的、経済的、性的暴力を広く含み、同居の有無を問わず、親密な関係なある交際相手や元交際相手にも広く適用されている。
保護命令制度の期間は日本の6カ月よりもはるかに長期であり、また被害者が元いた家に居住する権利が奪われないよう配慮されている。さらに、日本にはない緊急保護命令制度が諸外国では整備されている。また発令要件が「配偶者から受ける身体に対する暴力によりその生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きい」として極めて高いハードルを課している日本のDV防止法に比べ、発令も容易になしうる。さらに、諸外国では、生活再建までを視野に入れた総合的、継続的な被害者支援システムの構築が進んでおり、国連ハンドブックは、被害者に対する積極的な支援や危機的状況への介入を行うための女性相談支援センターを、女性5万人につき1か所設置することを勧告している。
国際人権NGOヒューマンライツ・ナウは、この間、包括的にDV防止法等現行法とその運用が抱える問題点を調査し、国際スタンダードの乖離を明らかにする報告書を作成し、改善の勧告を公表している(調査報告書「国際スタンダードに基づく 日本のDV防止法等の改正に向けて」)。 (4)
すべての関連機関に真摯に現状の問題点を把握し、これ以上女性が暴力の犠牲にならないよう、速やかな対応をとるよう、本日、改めて訴える。
特に、少なくとも下記の内容を含む法改正を2015年末までに実現し、女性に対する暴力を根絶し、被害者を保護するための、国際基準に見合った政府の施策実現を強く求める。
1. 暴力の定義
身体的、性的、心理的、経済的暴力を含む定義に拡大すること
2. 対象者の拡大
同居の有無にかかわらず、婚姻関係にある者のほか、交際相手及び元交際相手、同性カップル、同一世帯又は同一住居に属する構成員も加えること
3. 日本に保護命令制度についてについて、以下のとおり抜本的に拡充すること
(1) 接近禁止命令の期間制限を設けないこと
(2) 退去命令は離婚成立までとすること
(3) デートDV等、元交際相手についても保護命令を認めること
(4) 緊急保護命令制度を導入すること
(5)「配偶者から受ける身体に対する暴力によりその生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きい」とする発令要件のうち、「重大な」「大きい」を削除し、発令のハードルを下げるとともに、実務において迅速な発令と被害者保護を徹底すること
4. 対応機関の拡充
(1) 警察及び検察内に、女性に対する暴力を専門的・統一的に取り扱う専門部門を各署に設置する義務を規定すること
(2) 警察官が、被害発生防止のための措置を講ずる義務やその内容を明記すること
(3) DV・ストーカー事件に対する積極的逮捕および起訴の方針を明記すること
5.  相談から生活再建に至る支援システムの拡充と再編
(1) 人口10万人以上の規模の市にDVセンターの設置を義務付け、人口10万人以下の市町村においては、DV相談窓口の設置を義務付けること
(2) 専門領域の活動を行うNGOへの予算措置を義務付けること
(3) 捜査・訴追、被害者保護、シェルター、公的な医療・カウンセリング、居住・職業支援、福祉機関やNGO・弁護士の支援について、一か所ですべての必要なサポートを得られる「ワンストップセンター」を設置すること
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注釈
1 http://www.gender.go.jp/e-vaw/chousa/images/pdf/h23danjokan-gaiyo.pdf
2 http://endviolence.un.org/about.shtml
3 UN Handbook for Legislation on Violence against Women http://www.un.org/womenwatch/daw/vaw/handbook/Handbook%20for%20legislation%20on%20violence%20against%20women.
pdf
『女性に対する暴力に関する立法ハンドブック』(国連経済社会局 女性の地位向上部著、ヒューマンライツ・ナウ監訳 信山社)
4 http://hrn.or.jp/activity2/josei-ni-taisuru-bouryoku-houkousho-new.pdf