今なおパワフル:世界人権宣言@70
不平等、気候変動、新テクノロジーなど今日最前線の人権問題への
世界人権宣言の妥当性に関するディスカッション
【イベント報告】
去る2018年12月10日(人権の日)に、「今なおパワフル:世界人権宣言@70」(Still Powerful: UDHR@70)と題されたイベントが、NY国連本部にて開催されました。人権の日を祝うとともに、1948年の国連総会で宣言されて以来、人権の歴史で重要な道標とされてきた世界人権宣言の70周年を記念するイベントでした。以下はヒューマンライツ・ナウNY事務所代表者によるイベント報告です。
司会者
シェリーン・タドロス氏(Ms. Sherine Tadros, Amnesty International)
パネリスト
ブレット・ソロモン氏 (Mr. Brett Solomon, Access Now)
アレックス・ロズナック氏 (Mr. Alex Loznak, Student and youth climate activist)
ナディア・ダール氏 (Ms. Nadia Daar, Oxfam International)
パネル・セッション
国連人権担当事務次長補アンドリュー・ギルモア氏のオープニングの挨拶と、国連事務総長アントニオ・グテーレス氏からのビデオ・メッセージの後、タドロス氏による司会でパネル・セッションは始まりました。人権の枠組みは理想主義的すぎるという批評も頻繁に聞かれるが、実際のところ世界人権宣言が採択されたのは穏やかな時勢ではなく、第二次世界大戦とホロコーストの恐怖が終わって間もない時代だったことをタドロス氏は強調しました。人の手によって生み出された近代史上最悪ともいえる惨状を繰り返さないためには、人権宣言は最も確実な手段として考えられた時代の産物であることをタドロス氏は指摘しました。
次にパネリストとして登壇したソロモン氏は、人権を促進すると同時に攻撃する(攻撃するのが抑圧的な政権であれ、利益第一の会社であれ)道具としてユニークな役割を持つテクノロジーについて語りました。氏によれば、私たちは今、デジタル革命の初期を迎えています。そして、情報漏洩、デジタル・プライバシーの侵害、民間セクターに管理されたデジタル空間、情報や言論の自由へのアクセスを監視・抑圧しようとする国、などが起こるデジタル分野に、従来の人権的挑戦もまた移動させられている時代です。人間社会におけるその他の不平等もまた、我々のテクノロジーに反映されています。コンテンツの一部有料化の背後に閉じ込められた情報は、現実世界の貧富の差を映し出していると言えます。しかし、料金を払えない人たちはどうなるのでしょうか?ネット接続自体が平等アクセスでない中でネット中立性が終わりを迎えた場合、このような不平等はさらに確固たるものになります。同様に、デジタル・アルゴリズムが人間社会の差別的な構造や態度・行動を学んで模写するようになったら、社会的差別を混乱させた責任は誰が取るのでしょうか?
これら挑戦全てにおいてまだ触れてない疑問がある、と氏は言います。それは、「近代テクノロジーによる人権侵害の促進は、一体誰の責任になるのか?」であると述べました。インターネット接続は近代生活にとっても独裁国家の建築用ブロックとしても重要だということは、我々はすでに見てきています。
デジタル・アイデンティティの使用もまた、権利の保護への挑戦を示すものだ、と氏は続けました。オンラインの外で保護されている権利は、オンライン上でも保護されなくてはならなりません。これまでどおり、それは国家の義務であり続ける反面、民主主義、不民主主義関係なくこの義務を果たせてないパターンが増加中です。特に、我々のデータを国よりも管理する民間会社の規制を怠り、積極的に権利を軽視する国の落ち度は問題視されなければなりません。巨大な影響力を持つフェイスブックやグーグルなど大手のテクノロジー会社に頼む必要性もあります。
ソロモン氏はまた、2005年にチュニジア首都のチュニスで開かれた情報社会世界サミット(World Summit on the Information Society)で採択された「情報社会に関するチュニス・アジェンダ」 (Tunis Agenda for the Information Society)という合意声明は、より良いオンライン上の人権保護を築くのに実質的な基盤であると述べました。妥当性を保ち続けるには、国連も発明したり今以上に対応に鋭敏にならなければならないことも氏によって強調されました。鍵のひとつとなるのは、サイバー空間のマルチステークホルダー的性質を、国連が写し出すよう努めることだと氏は言います。同じく、この分野における国や民間関係者も、権利の保護に向けて行動を起こすことも必要です。例えばヨーロッパ諸国は、どこかで人権侵害に使われていた監視機材を他国が購入するのを許すべきではないし、ビジネス戦術に関しても、人権保護を後から補足や追加するのではなく、前提ルールとしてビジネス戦術に盛り込まなければなりません。この点についてソロモン氏は、フェイスブック、グーグル、ツイッターなどの民間企業の関係者にも呼びかけました。そして、差別の認識と防止への取り組みを可能にするために、もっと透明性のあるアルゴリズムが氏によって提案されました。
次に登壇したロズナック氏からは、アメリカ政府の気候変動に対する責任を追及するために彼や彼の学生仲間が法的措置を通じて取った行動などが共有されました。そして、若い人たちでも人権のために闘える方法などが紹介されました。まず、最近起こった気候関連の暗い実例として挙げられたのが、気候変動に関する立証的な政府公式報告書を、アメリカ政府が葬り去る決断を下したことです。さらに挙げられたのは、自然災害の増加や先例のない熱波や酷暑が物語るように、すでに広まっている気候変動が健康に及ぼす悪影響です。ロズナック氏は、自分たちの美しく健康的な環境への権利主張をベースにして自国の政府に抗議運動を起こしているコロンビアやオランダの若者グループを含め、世界中の若者によって取られた勇気ある行動も、注目すべき点として触れました。それから、アメリカ政府が気候変動の悪影響から国民を守る責任を果たすようにと、ロズナック氏とその学生仲間たちが政府相手に起こした申請中の訴訟についても話されました。そして、今日の若者が直面している気候問題の深刻さが訴えられました。最近の国連のパネル報告によると、ロズナック氏の世代が生存中に、地球の大半は気候の乱れにより住めなくなるとのことです。最後にロズナック氏は、ローカル地域のレベルからで良いので、とにかく若い世代が自分たちが受け継ぐ世界の改善にもっと携わるよう呼びかけました。
Oxfam InternationalワシントンDC事務所代表のダール氏は、上昇中のグローバルな経済的不平等と貧困問題について語ってくれました。貧困と極度の経済的不平等は、社会の必然的な産物ではなく、政策による持続不可能な選択の結果だと氏は言います。大金持ちであることが本質的に間違っている訳ではないけれど、極度の富は政治的占領に繋がることを認めることは重要な点です。裕福層は自身の富を永存するために法律、政策、選挙などをお金で操ったり情報へアクセスすることが可能であり、それらの結果として裕福でない人々の貧困や無力化があるのです。その良い例が、膨れ上がる富の不平等に直接的に関連する組織労働者の権利の退廃です。それ以外の政治的占領の結果としては、裕福層のみに有利な税法がありますが、例えばアフリカ諸国が企業の脱税により失う税収額は、アフリカ大陸に住む全ての人の健康ケアをカバーするのに充分と言われています。ジェンダーを取っても同じことで、世界で最も貧しい人々のほとんどが女性です。
ダール氏は次に、これらの問題への対処として政府が行える、或いはすでに行っているポジティブな実例に触れました。例えば韓国では、最低賃金が引き上げられて、結果的に増えた個人や企業の所得税に対し、増大された社会保護や健康サービスへの投資を課しました。また、最近のアイスランドでは、女性が男性より賃金が低く払われることが違法になりました。世界で初めての例です。もっと人間的な経済は可能であり達成できるのだということを世界に示すのも、政府の努力や態度次第であると氏は述べました。