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外務大臣 町村 信孝 殿
2007年9月3日
スリランカにおける国連人権監視現地ミッションの設置を支持するように求める要請書
要請内容
私たちは、人権侵害の続くスリランカの事態打開のために、以下の通り要請いたします。
l 日本政府は、スリランカ政府、タミル・イーラム解放の虎(LTTE)そしてカルナ派などスリランカ内戦各当事者による人権法・人道法違反を監視し、人権分野の能力強化やトレーニングなどを行う国連人権監視現地ミッションの設立を支持すること。特に、今年9月の国連人権理事会において、国連人権監視現地ミッションの実現のために積極的な外交を展開すること。
l スリランカ政府に対し、国連人権監視現地ミッションを受け入れるよう、粘り強く求めること。
要請理由
スリランカの危機的な人権状況
スリランカは、現在、人権・人道上の重大な危機に直面しています。2002年2月の停戦合意によって、ようやく平和への手がかりを得たかに見えたスリランカは、昨年(2006年)4月以降、スリランカ政府と反政府武装勢力タミル・イーラム解放の虎(LTTE)の間の内戦の再発という危機的状況に直面しています。代償を払わされているのは、罪のない一般市民たちです。スリランカ政府もLTTEも、国際人道法を無視し、一般市民を巻き込む形での無差別攻撃や報復攻撃を繰り返しています。多くの市民たちが、戦闘の中で犠牲となり、また、故郷を追われて避難民となっています。市民の強制失踪、拉致、超法規的殺害の数も増える一方です。
LTTEは、これまでも、たびたび、国際人道法・国際人権法を無視してきました。タミル独立国家を樹立する武力闘争の中で、地雷や自爆攻撃で一般市民をターゲットとしてきました。男女、成人、子どもを問わず人々を強制的に徴兵し、子ども兵士を戦闘に使用し、タミル人コミュニティを中心に政治的な暗殺を繰り返してきました。
しかし、昨年来、スリランカ政府も、国際人権法・人道法の違反を繰り返すようになりました。現政権は、人権の原則に明らかに違反する非常事態関連法を制定し、LTTEとの闘いのためには、いかなる犠牲もいとわないという専制的な姿勢をとっています。
内戦のため、人々は住処を追われています。2006年8月以降、31万5000人以上の人々が、新たに国内避難民となり、2006年1月以降、1万6000人以上が難民としてインドに逃れたといわれています。失踪も相次いでいます。この2006年1月以降、1100人以上が強制的に失踪させられています。うち一部は、LTTEその他の武装グループによるものと考えられますが、大部分は、政府が直接・間接に関与していると言われています。こうした人々の中には、令状なしの逮捕・捜索そして最長12ヶ月の起訴なしの拘束を認める非常事態法に基づき、スリランカ政府に拘束されている人もいると見られています。こうした身体拘束が、被拘禁者の権利を定める国際法(市民的政治的権利に関する国際規約第9条)に違反することは明白です。
スリランカ政府は、昨年来、2004年にLTTEから分派しこれと戦闘状態にあるカルナ派を支援し協力しています。このカルナ派とLTTEに対して、今年(2007年)5月11日、フランス政府のイニシアティブにより、国連安全保障理事会の子どもと武力紛争に関する作業部会が、子ども兵士の拉致、徴兵そして使用を強く非難しました。カルナ派は、こうした子ども兵士問題のみならず、様々な人権侵害を続けており、スリランカ政府は、これを黙認・容認しています。昨年(2006年)11月、子どもと武力紛争に関する国連特別代表特別顧問であるアラン・ロック元カナダ連邦政府司法大臣は、スリランカ政府が、カルナ派による子どもの拉致(強制失踪)を支援したり、共に拉致を行なったりしている、強力かつ信頼性の高い証拠があると指摘しました。ラージャパクサ大統領はこれを調査することを約束しました。また、カルナ派も、国連に対し、子ども兵を使用しないと約束しました。しかし、今に至るまで事態は一向に改善せず(但し、8月29日、スリランカ政府は、やっと、子ども兵士の拉致と徴集に関する調査委員会を設置)、UNICEFが、カルナ派が活動に協力せずごまかそうとしていると非難するに至っています。
日本政府に求められる役割
このような人権・人道上の危機を前にして、日本を含めた諸外国政府及び国際機関の果たすべき役割は高まるばかりです。国際社会は、危機にさらされた一般市民を保護し、法の支配を促進し、人々のかけがえのない人権を守ることができるはずです。そして、そのための行動を今すぐとるべきです。
スリランカ政府は、これまで、日本政府を含む国際社会に対し、何度も、人権と民主主義を守ると約束してきました。日本政府は、スリランカに対し、約束の履行を求めるべきです。特に、日本は、スリランカに対する最大の援助供与国であり、また、「スリランカ復興開発に関する東京会議」の4共同議長国の1つでもあり、関係は深いのです。日本政府が、国際社会の先頭にたち、スリランカ政府そしてLTTEに対し、国際人道法を守り、スリランカの人々の人権を保護するよう、強く求めるよう希望します。
そして、日本政府は、スリランカ政府、LTTEそしてカルナグループなどの人権法・人道法違反を監視し、人権分野の能力強化やトレーニングなどを行う国連人権監視現地ミッションの設立を支持すべきです。そして、スリランカ政府およびLTTEに対し、国連人権監視現地ミッションを受け入れるよう、粘り強く求めるべきです。国連人権監視現地ミッションの設立は、多くのスリランカの国内NGO・国際NGO、そして、オーストラリアやカナダなどの諸政府、そして、ルイズ・アルブール国連人権高等弁務官やフィリップ・アルストン超法規的殺害・即時・恣意的処刑に関する国連特別報告者などが、従前より設置を求めてきたものです。
この点、日本政府は、今年(2006年)6月12日、犬塚直史参議院議員の国会質問に答えて、「国連人権監視団が必要ないと考えているわけではありません。(しかし)せっかく自らの手で事実関係を調査して明らかにしていきたいという自助努力(スリランカ政府事実調査委員会)の表明がありますから、その進展具合を見守りながら、先ほどのアルストン国連特別報告者の意見などを基に、どうもその結果が思わしくないと、やはり国連から人権監視団を派遣する必要があるのではないかというような議論が将来出てきた場合には、日本政府としては当然それに対応をして考えていく。」と回答しました。
日本政府が依拠したスリランカ政府事実調査委員会(Commission of Inquiry, CoI)は、スリランカで長年続く不処罰の連鎖を終わらせるため、重要な一歩ではあります。しかし、CoIが機能すれば、国連人権監視現地ミッションは不要であるという日本政府の見解は、CoIの機能及びスリランカの現状を正しく反映していません。CoIは、現時点で、過去に起きた16の特定の事件を調査する権限を与えられているだけであり、スリランカで今も毎日起きている広範な人権侵害――民間人に対する無差別攻撃や拉致・強制失踪、子ども兵士の使用、政治的殺害など――を調査する枠組みではありません。また、CoIは、政府に勧告を行なう機能しかなく、人権保護のための執行機能を持ち合わせていません。こうした機能を持つ国連人権高等弁務官事務所からなる人権監視現地ミッションを派遣し、不処罰の連鎖を断ち切り、将来の人権侵害を抑止することが必要なのです。
また、日本政府は、上記犬塚議員の質問に答えて、CoIが国際的な基準に沿って行われることを担保するため、日本政府推薦の横田洋三教授を含む11人の国際独立有識者グループがCoIを監視していると指摘しています。しかし、その国際独立有識者グループは、今年6月11日及び15日に声明を発表し、CoI の独立性の欠如、遅々としたスケジュール、証人保護の不備などに懸念を表明し、CoIが国際的な人権監視団の代わりとはならない、との見解を表明しました。この後の同月27日、貴殿も、来日中のスリランカのボーゴラガマ外相とのワーキングランチにおいて、スリランカの人権状況に懸念を表明しました。
日本政府は、横田教授など国際独立有識者グループの懸念を共有することを明らかにし、スリランカ政府に対し、CoIが国際的基準に沿った事実調査を行なえるようにするよう、求めるべきです。そして、国際独立有識者グループもCoIに懸念を表明し、国際人権監視現地ミッションの必要性を表明した現在、国連人権監視現地ミッションの設立を当面は支持しないという方針を一刻も早く転換し、国連人権監視現地ミッションがスリランカで活動できるよう、全力を尽くすべきです。
スリランカの人々は、そのかけがえのない人権を、日々侵害されています。国際社会の対応には一刻の猶予もありません。早い対応がなされなければ、今後も、罪のない多数の一般市民が、殺害され、拉致され、子ども兵士にされ、避難民とされ続けてしまいます。日本政府は、責任ある国際社会のメンバーとして、そして、「価値の外交」を掲げる国として、人権を重視した外交を行なうべきです。特に、スリランカ政府の最大援助供与国として有している大きな影響力(レバレッジ)を無駄にすることなく、国連人権監視現地ミッションが一刻も早く設立されるよう、最大限の努力を始めるべきです。よって、ここに、上記の通り要請します。
以上
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