【共同提言書】国連人権理事会は第42会期においてカンボジアの人権危機に対処すべきである

国連人権理事会は第42会期においてカンボジアの人権危機に対処すべきである

ヒューマンライツ・ナウは、2019年9月9日から開催される第42会期国連人権理事会でカンボジアの人権状況が討議されることを踏まえ、国際人権団体及びカンボジア国内の人権団体と共同で、 すべての理事国及びオブザーバー国に対する公開書簡を公表しました。この中で私たちは、最大野党を解党させ、与党が議席を独占した2018年のカンボジア総選挙の後、カンボジアの人権状況がさらに悪化している状況を詳細に訴え、国連人権高等弁務官事務所による役割の強化も求める決議を採択することを求め、各国政府にカンボジアの人権状況改善のため積極的な討議をするよう呼びかけています。全文は英語、日本語でこちらからご覧いただくことができます。

英語原文はこちら:HRC42_JointLetter_Cambodia_30.08.2019.pdf

日本語訳はこちら:HRNカンボジア共同声明和訳

国連人権理事会 加盟国およびオブザーバー国へ

2019年8月30日

国連人権理事会は第42会期においてカンボジアの人権危機に対処すべきである

この書面は、カンボジアの国内外において人権、法の支配、民主主義の発展のため活動している諸団体を代表する市民団体(下記署名)は、貴国政府に対し、カンボジアで現在も進行中の人権危機について警告し、来たる第42会期国連人権理事会(以下「理事会」)においてカンボジアの人権状況についてしっかりとした精査を行う内容の決議が採択されるよう、支援を要請するものである。

2018年7月に行われた議会選挙は、独立性を欠く最高裁判所が、主要野党であるカンボジア救国党(CNRP)解散させた後に行われたものであった。多くの人は、これにより、フン・セン首相の下にある与党カンボジア人民党(CPP)が国会で125議席を獲得することを容易にし、実質的に一党独裁制をもたらしたと考えている。選挙後、カンボジアの人権状況はさらに悪化した。事実上自宅軟禁状態にあるCNRP指導者ケム・ソカのように、野党の重要人物は、拘禁下にあるか又は、逮捕を恐れて自ら亡命している。CNRPは違法とみなされ、111人のCNPR幹部の政治家は政治に関わることを禁止されている。その他にも多数が、恣意的な逮捕や迫害避けるために国外脱出している。

政府当局は国内にまだ残留している野党の党員をたびたび攻撃し、147人以上の元CNRP党員が裁判所や警察署に召喚されている。地元警察は野党の党員や活動家を偽の容疑で逮捕し続けている。政治的な動機によって容疑をかけられた被拘禁者の数は、選挙以来、多数に上る状態が続いている。政府は独立メディアをほぼすべて閉鎖させ、国営テレビやラジオ局を完全にコントロールしている。政党法やNGO法、組合法の改正を含む抑圧的な法が、表現の自由、平和的な集会・結社の自由に対する深刻な制限となっている。

9月の第42会期国連人権理事会では、カンボジアの人権状況に関する国連特別報告者へのマンデートをさらに2年更新するための決議が提出される予定である。我々は、決議がカンボジアの状況の深刻さを反映し、かつ、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)によるさらなる監視と報告を求めるものになるよう、貴国の代表団に強く要める。OHCHRがそのようなマンデートをもって、特別報告者とも協議しつつ、カンボジアの状況を監視し理事会に報告することにより、カンボジアの人権状況の総合的な評価、及びカンボジアの国際人権義務に従って政府が取るべき具体的な行動を明確にでき、理事会がカンボジアの人権状況についてさらなる対応をすることが可能になるであろう。

前回の理事会の決議が2017年9月に採択されて以来、政治的敵対勢力、人権擁護者、メディアにとっての人権状況を含め、カンボジアの人権状況は劇的に悪化している。

2018年選挙以来の動向としては、以下の事柄が挙げられる。

野党の弾圧

2019年3月12日、プノンペン市裁判所は、2018年7月の選挙以前に国を逃れた野党カンボジア救国党の幹部8人―サム・レンシー、ムー・ソクア、オウ・チャンリス、メン・ソザヴァリン、ロン・ライ、トブ・ヴァン・チャン、ホ・ヴァンに逮捕状を発付した。その容疑は、反逆罪の共謀及び重罪の扇動という、根拠のない主張であった。2018年9月、当局は、CNRP党首のケム・ソカ氏を、一年以上の公判前勾留の後、プノンペンの自宅に移送し、「司法上の監視」として高度の制限下に置き、実質的に自宅軟禁とした。カンボジアの法は自宅軟禁に関する規定をおいておらず、また、ソカ氏が国際的に認められた犯罪を行った証拠もない。

2019年の1年間で、CNRP党員や党の支持者に対して、少なくとも147の恣意的な召喚命令が裁判所や警察によって発令された。人権団体は、これらの召喚命令は、その者が2017年11月にCNRPの解散命令を発した最高裁判所の判決に違反した可能性があると漠然と言及するだけで、法的に具体的な根拠をもつものではないとみている。

人権擁護者と平和的な抗議者

2018年11月、フン・セン首相は、労働組合と衣料労働者に対して政府が行った2014年1月の弾圧(この際、治安部隊が5人を殺害した)に関連して労働組合幹部にかけられた犯罪の容疑を取り下げると発表した。しかしながら、翌月、裁判所は、アト・トム、チア・モニー、ヤン・ソフォーン、パヴ・シナ、ロン・チュウン、マム・ニム6名の労働組合幹部を、根拠のない容疑で有罪と、罰金刑を科した。2019年5月の上訴審で有罪判決は覆されたが、2019年6月、裁判所は、新しくカンボジア・アパレル労働者民主同盟連合(CCAWDU)の代表になったコン・アティスを、運転手とキャピトルバス社(Capitol Bus Company)との間の2016年の抗議に関連して意図的に行われた暴行について有罪判決を出した。裁判所は3年の執行猶予を付したが、このことは、労働組合の長は重罪又は軽罪で有罪判決を受けた者であってはならないと規定している組合法20条との関係で、法的に問題を生じることになる。

2018年12月、タイ当局は、カンボジアの反体制活動家ラス・ロット・モニーをカンボジアに強制送還した。その後カンボジア当局は彼を、ロシアタイムズ(Russia Times)のドキュメンタリー「母は私を売った」(性産業に売られた女の子を保護できないカンボジア警察を描いたもの)の中での役について起訴した。2019年7月、彼は「差別扇動」で有罪となり、2年の実刑判決を受けた。

2018年3月、政府は王侮辱罪の条項を刑法に加え、それから一年以内に、4人が同罪によって収監され、3人が有罪となった。王侮辱罪のすべての事件は、人々がFacebook上で批判的な意見を発したことや、他の人のFacebookの投稿をシェアしたことにかかわっている。政府は、独立性を欠く司法とともに、この新しい法を、国内の自立した批判的な声を沈黙させるための政治的な道具として使っている。

2019年7月、当局は、プノンペンで行われた、著名な政治コメンテーターの殺害3周年を記念する式典に参加した、2人の若い活動家コン・ラヤとソウン・ネアクポアンを勾留した。当局は2人に、重罪の扇動(活動家や人権擁護者を弾圧するためによく使われる規定)の容疑をかけた。当局は、記念式典との関連で計7人を逮捕し、国中で行われた記念行事を監視、中断、禁止し、ケム・レイの地元の州タケオ州に行く途中であった草の根民主主義党の党員約20人を通行止めにした。

ジャーナリストに対する攻撃とメディア規制

2018年7月の選挙に先立ち、カンボジア政府、オンライン、オフラインともにメディアの自由を著しく制限した。2017年、当局はラジオ・フリー・アジア(RFA)やヴォイス・オブ・アメリカの独立したニュース番組を放送していた32のFMラジオ周波数の閉鎖を命じた。RFAは2017年9月に事務所を閉め、理由として政府からの圧力を示した。地元ラジオ局のヴォイス・オブ・デモクラシーもまた放送停止を強制された。

2017年以来、2つの大きな独立している新聞、プノンペン・ポスト(Phnom Penh Post)とカンボジア・デイリー(The Cambodia Daily)は根拠のない数百万ドルの税金を課せられた結果、プノンペン・ポストはフン・センと繋がりのあるビジネスマンに売却され、カンボジア・デイリーは閉鎖を余儀なくされた。

ソーシャルメディア・ネットワークは、政府の監視や介入の増加に悩まされている。2018年5月、政府は、オンラインメディアに対する恣意的な干渉と監視、政府の自由な検閲を可能にする、インターネットにおけるウェブサイト公表規制とソーシャルメディア処理に関する法令、及び、電気通信に関する法を採択した。2018年7月の選挙のたった2日前、政府はRFAとVOAを含む独立したメディアのウェブサイトをブロックし、人権団体はこれを新法令の即時執行とみなした。

それ以来、カンボジア当局は、2人のRFAジャーナリスト、ヤン・ソテアリンとウォン・チンを政治的動機によって訴追した。彼らは2017年11月、RFAカンボジア事務所の閉鎖を余儀なくされた後、RFAのために報道を続けた疑いがあるとして、捏造のスパイ容疑で逮捕された。彼らは2018年8月まで公判前勾留に置かれた。彼らの裁判は2019年7月に始まり、8月下旬にスパイ容疑に関する判決が出る予定だ。彼らは最長で懲役16年の刑になる。

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カンボジア政府が2018年7月の選挙の前後に取った行動は、野党や独立したメディア、政府に批判的な市民社会グループを弾圧、排除するために、与党CPP政府が暴力、恐怖、独立性のない裁判所を利用した、包括的なキャンペーン活動を行ったことを示している。

我々は、貴国政府に対し、カンボジアの人権侵害の深刻さと、この状況が1991年のカンボジア和平パリ協定に定められた、人権と法の支配の尊重というカンボジアの公約遵守に対してもたらすリスクを認識するよう強く訴える。懸念をもつ国家が、カンボジア政府による人権規範の侵害をはっきりと非難し、それに対処するための措置を取ることが肝要である。

以上の理由により、我々は人権理事会に対し、国連高等弁務官事務所がカンボジアの人権状況について監視、報告するよう要請する決議を採択し、カンボジア政府が国際的な人権義務を遵守するために取るべき行動の概要を示すよう強く要求する。高等弁務官は、第45会期の理事会に報告を行い、続いて、カンボジアに関する特別報告者、その他の関連の国連特別手続、国内外の市民社会のメンバーが参加する高度の双方向対話(Enhanced Interactive Dialogue)を行うすべきである。

我々はまた、9月の理事会会期中、カンボジアで起こっている人権侵害に対して、貴国政府が、他国と共同して明確に見解を表明するよう勧告する。

  1. Amnesty International
  2. ARTICLE 19
  3. ASEAN Parliamentarians for Human Rights (APHR)
  4. Asian Forum for Human Rights and Development (FORUM-ASIA)
  5. Asian Legal Resource Centre (ALRC)
  6. Cambodian Alliance of Trade Unions (CATU)
  7. Cambodian Center for Human Rights (CCHR)
  8. Cambodian Food and Service Workers’ Federation (CFSWF)
  9. Cambodian Human Rights and Development Association (ADHOC)
  10. Cambodian League for the Promotion & Defense of Human Rights (LICADHO)
  11. Cambodian Youth Network (CYN)
  12. Cambodia’s Independent Civil Servants Association (CICA)
  13. Center for Alliance of Labor and Human Rights (CENTRAL)
  14. CIVICUS: World Alliance for Citizen Participation
  15. Civil Rights Defenders (CRD)
  16. Committee to Protect Journalists (CPJ)
  17. Commonwealth Human Rights Initiative (CHRI)
  18. FIDH – International Federation for Human Rights
  19. Fortify Rights
  20. Human Rights Now
  21. Human Rights Watch (HRW)
  22. International Commission of Jurists (ICJ)
  23. Independent Democracy of Informal Economy Association (IDEA)
  24. International Service for Human Rights (ISHR)
  25. Lawyers’ Rights Watch Canada (LRWC)
  26. National Democratic Institute (NDI)
  27. Reporters Without Borders (Reporters Sans Frontières – RSF)
  28. World Organisation Against Torture (OMCT)