【要請】仮設住宅移行後の被災者支援に関する要請

仮設住宅移行後の被災者支援に関する要請

2011.7.11

特定非営利活動法人ヒューマンライツ・ナウ震災プロジェクト

1 要請の趣旨

(1)厚生労働省に対し、

仮設住宅に移行し、自立が困難な被災者に対し、当面、災害救助法上の食糧供給等の支援を継続することを積極的に推進するよう、通達を出すこと

(2)各被災県・自治体に対し、

・仮設住宅に移行し、自立が困難な被災者に対し、当面、災害救助法上の食糧供給等の支援を継続されること

・特に移動が困難な障がい者、高齢者の移動を確保するため、巡回バス、医療施設への送迎サービスなどを提供すること

・仮設住宅の集会所を迅速に建設し、福祉・医療等各種支援の拠点とすること

を求めます。

 

2 要請の理由

1)   「仮設後」の支援打ち切り

災からか月が経過する中、仮設住宅に移行する被災者が増え始めています(厚労省によれば77日時点で岩手7403戸、宮城9619戸、福島553戸が入居)。しかし、被災地では、仮設住宅移行後の食糧供給等の被災者支援が十分に行われず、被災者保護と復興までの支援に新たな懸念が生まれています。

2) 食糧物資支援について
 仮設住宅入居者に対する食糧物資供給を打ち切る自治体は続出しています。例えば、報道によれば、陸前高田市は、仮設の食糧供給は6月10日までで終了するとされ、「岩手県復興局生活再建課によると、県内の仮設住宅入居者への対応は自治体で異なる。釜石市は仮設入居者に食料物資は支給せず、大船渡市も入居時に米を配給するのみ。一方、大槌町は入居後も支援を継続している。」[1]とされています。宮城県気仙沼市の仮設住宅居住者への食糧供給は7月10日までとされています。[2]

こうしたなか、実際「仮設住宅入居後の被災者には、食料や物資の供給は原則的に行われない。このため、抽選で入居が決まっても経済的な理由で、避難所にとどまり続ける例などがあるという」と報道されています。[3]

(特活)ヒューマンライツ・ナウが、避難所で聴き取りをした被災者の方々のなかにも、同様に、仮設住宅への申し込みを躊躇し、抽選に当たっても将来への不安から入居せず、劣悪な環境の避難所での生活を余儀なくされている被災者が少なくありません。[4]

報道によれば、「厚生労働省災害救助・救援対策室は『仮設住宅は自立に向けた施設なので、入居後の支援継続は想定していない。それでも支援を続けるかは、自治体が地域の実態を見て判断すること』とコメントしている」とされ、深刻な事態に対応したものではありません。[5]

3)病院等への送迎などのサービスについて

仮設住宅の用地確保の困難さもあり、仮設住宅が町の中心部から離れた不便な場所や山間部などに建設されています。こうした仮設住宅に入居した被災者の方は、移動のための十分な手段がなく、移動が困難な状況に置かれています。

最もこうした影響を受けるのは高齢者・障がい者であり、被災地では、「定期的に病院に行きたいのに行く手段がない、いざという時に病院に行けない恐怖がある」として巡回バスや送迎サービスの実現を求める切実な声があがっています。しかし、(特活)ヒューマンライツ・ナウの被災地での調査によれば、こうしたサービスも多くの被災地で実現していません。

「宮城県大崎市の鳴子温泉の宿泊施設に避難している南三陸町の佐々木とし江さん(79)は、4月29日に南三陸町内の仮設住宅に当選した。しかし、当選後の説明会で、仮設住宅からは病院への無料送迎車が出ないことや食事の配布がないことを知り、今も鳴子温泉に残っている」[6]などと報道されています。
4)集会施設

厚生労働省社会援護局は、本年4月15日付の通達で、「応急仮設住宅を同一敷地内または近接する地域内におおむね50戸以上設置した場合は、居住者の集会等に利用するための施設を設置できる」とし、「行政、その他に夜生活支援情報や保険・福祉サービス等を提供する場所としても活用できる」としています(社援総発0415第1号)。

しかし、仮設住宅に集会場の設置は遅れ、生活情報や保険・福祉サービス等を提供する場所として必ずしも機能しておらず、民間による支援の拠点として各種支援が行える体制にも必ずしもなっていません。[7]

5) 支援の必要性

(特活)ヒューマンライツ・ナウは、既に2011年5月に、仮設住宅移転後の災害救助について以下のとおり提言し、早期の対応を促しました。

今後、仮設住宅に移行する人々に対しても、住み慣れたコミュニティから切り離され、孤立して十分な支援も情報提供も受けられないという事態は避けなければなりません。避難所では「仮設住宅に移りたいけれど、食べるものにも困るので、避難所にいるしかない」という声や仮設住宅申し込みへの不安が聞かれます。私たちは、仮設住宅建設と移行にあたって、国と自治体に対し、以下のことを求めます。

●仮設住宅に入居した被災者に対しても災害救助法上の衣食、医療支援等の支援を継続するよう、通達を出すこと
●行政サービス、支援制度へのアクセスと情報提供、医療ケアをはじめとするサービスが行き届く環境を十分に提供できる体制を確立すること

しかし、その後も、仮設住宅移行後の支援体制について十分な対策が講じられないまま、事態は深刻化しています。

今回の未曾有の震災の復興が遅れ、がれきの撤去すら進まず、原発事故の終息の展望すらないまま、多くの被災者が生活・生計手段を回復する道を絶たれています。のみならず、義捐金、生活再建支援金、補償金等の支払は著しく遅延したままです。さらに二重ローンなどの問題も解決していません。

被災者に求められる復旧・復興、補償という国・自治体の責務を果たさないまま、被災者に「自立」を求めて突き放すのは被災者の人権保障に照らして重大な問題です。

災害救助法は、「当該災害にかかり、現に救助を必要とする者に対して」食糧等の供給をするとされ、仮設住宅に移行した場合を除外していません。

災害救助事務取扱要領は、原則災害から7日を食糧などの給与の期間としつつ、必要がある場合は、厚生労働大臣と協議ののうえ、給与期間を延長できるとされ、これまで延長が続いてきました。今回の被災の深刻さ、復興の遅延という事情に照らし、国の責任として、仮設住宅入居後も当面、食糧等の期間の延長を認める方針を明らかにするよう求めます。そして自治体には、仮設住宅に移行した被災者に食糧等、必要な援助を継続することを求めます。

また、障がい者、高齢者に対する医療へのアクセスを確保するため切実な願いである医療機関への送迎サービスや巡回サービスを実施すること、仮設住宅の集会場を可及的速やかに設置し、生活情報や保険・福祉サービス等を提供する場所として活用できるようにすること、民NGO支援団体による支援の拠点として各種支援が行えるようにすることを求めます。

阪神淡路大震災では仮設住宅における孤独死が仮設住宅が存続した1999までの間、233人に上ったとされ、今回の震災後も災害関連が後を絶たず、自殺も増加しています。

仮設住宅において必要な援助を絶たれた被災者、なかでも最も脆弱な高齢者・障がい者が命を失うなどの人権侵害はこれ以上繰り返されてはなりません。

政府、各自治体において、十分な対応をされるよう求めるものです。

                               以 上

 



[1]東日本大震災:仮設の食料支給6月10日まで 陸前高田(毎日新聞 2011526
http://mainichi.jp/select/weathernews/news/20110527k0000m040083000c.html

[2]仮設住宅 新たな苦悩」(東京新聞・2011710日)

[3] 「理由ないなら鍵返却を」抽選で入居決まるも避難所に(20110608日 河北新報)
http://www.kahoku.co.jp/news/2011/06/20110608t13020.htm

[4] (特活)ヒューマンライツ・ナウ・岩手、宮城、福島における被災地調査2011,4,5,7月調査)

[5] 前掲、毎日新聞 2011526

[6] 仮設住宅当選も避難所居残り(20110605日 MSN産経ニュース)
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110605/dst11060511560005-n1.htm

[7] 朝日新聞によれば、岩手県内50戸以上の仮設住宅の建設地域87か所のうち、設置済み、設置予定は36か所にとどまる、宮城県では109か所のうち102か所で集会所が設置されたが、十分に機能していない2011.7.6 朝日新聞「仮設の孤独死防げ-自治会・集会所の整備急務」