【HRNインターン ブラッドフォード大学修士 花田優子よりウィーンからの報告】
ウィーンで133の国と60以上のNGOが人口密集地域における爆発兵器(EWIPA)の問題に立ち向かい、政治宣言への合意に前進
2019年10月1日から2日かけて、オーストリア政府により、都市部における紛争地帯の市民の保護に関するウィーン会議が開かれました。当会議は、人口密集地域における爆発兵器(EWIPA)*による甚大な被害や法、軍事作戦の成功事例を議論することで理解を深め、市民の負傷や被害の軽減、そして解決を議論することを目的に行われました。
赤十字国際委員会(the International Committee of the Red Cross: ICRC)とアントニオ・グテーレス(Antonio Guttéres)国連事務総長はそれぞれ、紛争当事者にEWIPAの使用を控えるように訴えてきました。会議では事務総長が提案しているEWIPAに関する政治宣言**の採択を促進するために、参加者が熱心に討議を行い、政治宣言の採択にとって歴史的なモーメンタムとなりました。
各国政府だけでなく、国際機関や市民社会へも平等に参加が認められ、33の国と60以上の非政府組織(NGO)が参加しました。ヒューマンライツ・ナウはthe International Network on Explosive Weapons (INEW)***のメンバーとして参加しましたが、国家に対し、最も被害の大きい人口密集地域における兵器の使用の廃止と、紛争地の市民の更なる保護に取り組むことを訴えてきました。
2014年12月に開催された核兵器の人道的影響に関するウィーン会議と比べると参加国は25か国少ないですが、ニューヨークで第74回国連総会が同時に開かれていたことを踏まえると、今会議のスケールは十分に大きいと言えるでしょう。今日の紛争では被害者の90%が市民であり、EWIPAの影響は学校や大学、病院、神聖な建物や市場などの公共施設、そして住宅など広範囲に及びます。こうした被害は強制移動や、長期化する再建への課題を引き起こします。2018年は特に、シリア、アフガニスタン、イエメン、イラク、パキスタンで多くの市民が犠牲になりました。中でもシリアのアレッポでは、60%の住居に並び、60%の医療機関施設と75%の教育機関、が損害を受け若しくは破壊され、がれきを取り除くために6年の歳月と、11億200万米ドル掛かると推定されています。
オープニングでは、開催国であるオーストリアのアレクサンダー・シャーレンバーグ(Alexander Schallenberg)ヨーロッパ・統合・外務連邦大臣に続き、国連事務次長 兼 軍縮担当上級代表である中満泉氏が登壇し、EWIPAの国家、テロリスト、NGOといった多様なアクターとの複雑な関係性に言及した上で、ドローンのような高度な技術は法的規範があり、紛争地の状況を解決できる他の技術も我々には備わっていると述べました。また、国家が国際人道法(International Humanitarian Law: IHL)に違反しそうな場合、武器の輸出は控えるべきであり、紛争とジェンダーの関係の重要性や、多国間の対話に向けた市民社会の核軍縮への影響力も強調しました。
オープニングステートメントで登壇中の中満氏。
会議では専門家によるEWIPAに関するプレゼンテーションが行われ、なかでもDutch Peace organisation (PAX) の人道的軍縮チームのプログラムリーダーであるルース・ボアー(Roos Boer)氏は、ウィーンを例にEWIPAの影響をシュミレーションで表し、参加者にその脅威を痛感させました。また、Action on Armed Violence (AOAV)の事務局長であるIain Overton氏は研究結果を発表しました。これによれば、2010年からの9年間のデータによると、人口が過密でない地域では被害者の28%が市民であるのに対し、人口過密地域ではその数は91%に及ぶといいます。さらに、過去9年間で、世界全体での紛争被害の60%が人口過密地域で起きたとのことです。しかし、ICRCをはじめとした専門家によると、こうしたEWIPAによる市民への二次的被害や反響効果は予測可能であることが明らかにされています。
さらに、独立、中立的組織であるHumanity and Inclusion(旧Handicap International)の地域政策・コミュニケーションマネージャーのアルマ タスリジャン・アルオスタ(Alma Taslidžan Al-Osta)氏は、特に発育途中の子どもへのEWIPAによる身体的影響だけでなく、感情・精神的影響についても述べました。彼女のプレゼンテーションは参加者全てを見事に会議に集中させ、会場全体を一つにし、こうした外交レベルの大きな会議ではよく見落とされがちな、紛争地では実際に何が起きているのか、という事実に全出席者が注意を向けました。2日間の会議を通し、この瞬間が最も感情的で、脆弱性のある、しかし最も強固で、人道的で人間味のある瞬間に感じられました。
会議の後半では、特にドイツ、ノルウェー、フランス、スイス、バングラデシュ、ウルグアイ、エルサルバドルといった非核運動を世界的にリードしている国々がEWIPAに関する政治宣言への強い賛同を示しました。爆発兵器に関する政治宣言に支持表明している国々と、ウィーン会議の参加国は以下のとおりです。
爆発兵器に関する政治宣言に支持表明している国々
- アンゴラ
- アンティグア・バーブーダ
- アルゼンチン
- オーストリア
- バングラデシュ
- バルバドス
- ベルギー
- ベリーズ
- ボスニア・ヘルツェゴビナ
- ボツワナ
- ブラジル
- ブルガリア
- カメルーン
- 中央アフリカ共和国
- チリ
- コロンビア
- コンゴ
- コスタリカ
- クロアチア
- キプロス
- チェコ共和国
- ドミニカ共和国
- エクアドル
- エルサルバドル
- エチオピア
- フィンランド
- フランス
- ジョージア
- ドイツ
- ガーナ
- グアテマラ
- ガイアナ
- ハイチ
- ホンジュラス
- アイスランド
- インドネシア
- アイルランド
- イラン・イスラム共和国
- イタリア
- ジャマイカ
- ケニア
- リヒテンシュタイン
- リベリア
- レソト
- ルクセンブルク
- マダガスカル
- マレーシア
- マリ
- マルタ
- メキシコ
- モルドバ
- モナコ
- モンテネグロ
- モザンビーク
- モロッコ
- ニュージーランド
- ニカラグア
- ナイジェリア
- ノルウェー
- 北マケドニア共和国
- パナマ
- パラグアイ
- ペルー
- フィリピン
- ポルトガル
- サモア
- サンマリノ
- セネガル
- セルビア
- スロベニア
- ソマリア
- スペイン
- スリランカ
- セントクリストファー・ネービス
- セントビンセント・及びグレナディーン諸島
- スウェーデン
- スイス
- トーゴ
- ウガンダ
- ウクライナ
- ウルグアイ
- ザンビア
- ジンバブエ
ウィーン会議参加国 (133か国)
アフガニスタン、アルジェリア、アンドラ、アンゴラ、アルゼンチン、 アルメニア、オーストラリア 、オーストリア、アゼルバイジャン、バングラデシュ、ベラルーシ、ベルギー、ベリーズ、ブータン、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ボリビア、ボツワナ、ブラジル、ブルネイ・ダルサラーム国、ブルガリア、ブルキナファソ、ブルンジ、カナダ、カメルーン、チャド、チリ、コロンビア、 コモロ連合、コンゴ共和国、コスタリカ、コートジボワール、クロアチア、キューバ、キプロス、チェコ共和国、デンマーク、ドミニカ共和国、エクアドル、エジプト、エルサルバドル、 赤道ギニア共和国、 エストニア、エスワティニ、 フィンランド、フランス、ジョージア、ドイツ、ギリシャ、グアテマラ、ギニア、ガイアナ、ローマ教皇庁、 ホンジュラス、ハンガリー、インド、インドネシア、イラン、イラク、アイルランド、イスラエル、イタリア、日本、ヨルダン、カザフスタン、ケニア、ラオス、ラトビア、レバノン、レソト、リベリア、リビア、リヒテンシュタイン、リトアニア、ルクセンブルグ、マレーシア、マルタ、メキシコ、モルドバ、モンゴル、モンテネグロ、モロッコ、モザンビーク、 ミャンマー、ナミビア、オランダ、ニュージーランド、ニカラグア、ニジェール、ナイジェリア、北マケドニア共和国、ノルウェー、オマーン、パキスタン、パラグアイ、ペルー、フィリピン、ポーランド、ポルトガル、カタール、韓国、ルーマニア、ロシア、ルワンダ、セントクリストファー・ネービス、サンマリノ、サウジアラビア、セネガル、セルビア、シエラレオネ、シンガポール、スロバキア、スロベニア、南アフリカ、スペイン、スリランカ、スーダン、スウェーデン、スイス、シリア、タジキスタン、タンザニア、タイ、トーゴ、トリニダード・トバゴ、チュニジア、トルコ、ウクライナ、アラブ首長国連邦、イギリス、アメリカ、ウルグアイ、ベトナム、イエメン。
各国政府に続き、参加NGOのうちのひとつ、Women’s Institute for Alternative Developmentは、政治宣言に、女性の社会的役割や社会参加について明記することの必要性を追求しました。さらにICRCは、政治宣言は現状と今日の都市紛争の性質を変えるには強力なツールになりうるが、さらなる要素を加える必要があると述べました。
また、ヒューマンライツ・ウォッチ(Human Rights Watch: HRW)は、政治宣言に関するプレゼンテーションを行い、武器部門のシニアリサーチャーであるボニー・ドカティー(Bonnie Docherty)氏は本会議の目的の一つである、参加者の政治宣言の知識を深める重要な役割を担いました。市民社会は、軍縮をリードする国々と共に、今年の11月に行われるジュネーブ会議に向け、国際社会のさらなるEWIPA廃止への努力の必要性を強調しました。
会議の締めくくりとして中満氏は、国連の視点から考えるとEWIPAに関するデータ収集は難題であると指摘しました。「政治宣言は非常に有効な枠組みではありますが、今後も、リスク削減のためには政治家、政策作成者、弁護士、人道支援者など、できる限り多くのアクターが必要です。国家だけでなく、現場に、市民に近く寄り添う市民社会グループのEWIPA削減・廃止への努力と成果は、これからも重要な役割を担うことが期待されています。現地での攻撃によるリスクは高いものの、現場の状況を最も理解できる立場にいる市民社会が我々のもつ強みでしょう。今、我々は、こうした政治宣言の枠組みと、より実用的な指標の導入について議論する次のステップに来ています。」と述べました。最後に、EWIPAの問題に取り組みためには、国家や市民社会といったステークホルダー間で情報や成功例を共有することが最重要課題であり、IHLの規律は完全に順守されるべきである、というシューベルグオーストリア連邦外務大臣による結論と共に、会議は閉会しました。
引き続く国際的政治宣言の合意への過程に関する議論は、今年の11月にジュネーブでの会議が予定されています。
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*EWIPAとは?
爆発兵器(explosive weapons)は、爆破と分裂と共に爆発する従来の兵器であり、即席爆発装置(improvised explosive devices: IED) 同様、手りゅう弾や臼砲弾、大砲の砲弾や航空爆弾、ミサイルが含まれます。EWIPA(explosive weapons in populated areas)は特に人口密集地域における上記の兵器を指し、爆発力の規模や命中率の不確実さ、大量の弾頭使用といった理由から、幅広い被害を引き起こします。
**政治宣言とは?
国家による政治的ゴールや行動規範の表明、法適用の明確化、そして革新的規範を確立するためのものです。政治的ではありますが、法的拘束力はありません。政治宣言は合意の範囲の明確・成分化、国内状況への柔軟な対応、ステークホルダー間の利益バランスの維持、そして国際法の革新的な発展に貢献します。複数の国家とINEWを含めた市民社会は、EWIPAの使用を廃止するよう求める政治宣言を出しており、国際的合意を目指して努力しています。
一般的な政治宣言の要素
- 問題提起
- 関連法の認識
- 具体的な誓約
- 人道的問題を終結するための一般的な誓約
- 現実的な行動指標―成功例の情報収集、トレーニングや教育、能力育成
- 被害者支援
- 規範の設計と評価
- モニタリングとコンプライアンス(法順守)
- 問題解決への継続した努力
政治宣言の効果は、こうした具体的な誓約、そして承認する国や国際機関、市民社会グループのフォローによります。実際、過去2年間で、6か国が軍のマニュアルや政策を更新し、他の数か国は軍隊を、占領していた学校から撤退させました。
国際的な動きとしては、ICRCは技術的アドバイスを与え、安全な学校を維持するためのハンドブックを作成しました。国連平和維持局(DPKO)は、平和維持隊員による学校の使用を廃止し、国連事務総長や国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、より多くの国家による政治宣言への承認を要請しています。また、承認国はフォローアップミーティングを行っています。
このように、政治宣言は国内・国際的にも幅広く受け入れられており、明白で強力な規律を示すため、人道被害も効果的に削減します。それゆえ、政治宣言はEWIPAの使用による市民への影響を解決するための第一歩となるでしょう。
***INEWとは?
INEWは、人口密集地域における爆発兵器の使用による人類の苦しむを防ぐために迅速な対応を呼びかけるNGOのパートナシップであり、25か国の40以上の団体から成り立っています。運営委員会はAOAV, Article 36, CIVIC, Humanity and Inclusion (HI), Human Rights Watch, PAX, Norwegian People’s Aid, Oxfam, Reaching Critical Will, Save the Children and SEHLACで構成されています。
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参考資料
ヒューマンライツ・ナウ (2018) NYからの報告、武力紛争における保護に関する安保理公開討論&サイドイベント報告http://hrn.or.jp/activity/14111/ アクセス日2019年10月11日.
Federal Ministry Republic of Austria Europe, Integration and Foreign Affairs (2019) Vienna Conference on Protecting Civilians in Urban Warfare https://www.bmeia.gv.at/en/european-foreign-policy/disarmament/conventional-arms/explosive-weapons-in-populated-areas/protecting-civilians-in-urban-warfare/protecting-civilians-in-urban-warfare/ アクセス日2019年10月11日.
Sheppard, B. (2019) “A Step Toward Protecting Civilians from Bombing and Shelling”, Human Rights Watch (HRW) https://www.hrw.org/news/2019/10/02/step-toward-protecting-civilians-bombing-and-shelling アクセス日2019年10月11日.
INEW (2019) “Press release: Stop bombing and shelling in towns and cities – NGOs call for action to protect and assist civilians in urban conflicts”
http://www.inew.org/press-release-stop-bombing-and-shelling-in-towns-and-cities-ngos-call-for-action-to-protect-and-assist-civilians-in-urban-conflicts/ アクセス日2019年10月11日.
INEW (2019) “Vienna Conference marks turning point as states support negotiation of an international political declaration on explosive weapons”
”http://www.inew.org/vienna-conference-marks-turning-point-as-states-support-negotiation-of-an-international-political-declaration-on-explosive-weapons/ アクセス日2019年10月11日.