【声明】「国連特別報告者のビルマ訪問、アセアン首脳会議・東アジアサミットに向けて―日本政府に対し、ビルマの人権状況打開のための行動を求める」(2007/11/12)

ヒューマンライツ・ナウ 声明 

2007.11.12 

「国連特別報告者のビルマ訪問、アセアン首脳会議・東アジアサミットに向けて―日本政府に対し、ビルマの人権状況打開のための行動を求める」

                                        

1  武力弾圧移行のビルマを取り巻く状況と人々の人権

ビルマにおける民主化デモが武力弾圧され、軍事政権による市民・僧侶の殺害、不当逮捕・拘束などの深刻な人権侵害が発生してから、既に一ヶ月以上が経過した。人権団体ヒューマンライツ・ナウ(東京)は、この事態を受け、国連人権理事会が直ちに緊急会合を開催し、ビルマ軍事政権に対し、武力弾圧の停止、拘束された者の釈放、政治犯の釈放と民主化にむけた対話の再開を呼びかけたこと、国連安保理が議長声明を発表したこと、さらに国連事務総長特別代理ガンバリ氏などの事態収束へ向けた調整の努力を歓迎する。

 しかしながら、ビルマにおける人権状況はまったく改善されていない。国連人権理事会におけるビルマ人権問題担当特別報告者ピニェイロ氏は、10月24日、国連総会第三委員会において、「情報筋によれば、30から40名の僧侶と50名から70名の市民が殺害され、約200人が暴行を受けたと言われる。あるウェブサイトは、800名近い人々が拘束され、強制失踪させられた」と述べているが、このような深刻な人権侵害の真相究明、責任追及がなされない事態は重大である。同氏は、「拘束された人々が死亡し、虐待され、食糧や水を得られていない、また軍事政権が拘束しようと追跡する人々の家族が見せしめのために人質にとられているなどの報告がある」とも述べており、ビルマ軍事政権による国民に対する人権侵害状況は依然深刻な状況にある。このような状況下では、ビルマ市民らが自らこの事態を打開し、民主化を勝ち取るための意見表明・行動を再開することは極めて困難にある。

 

2  国際社会の注目すべき動き 

1)  国連 特別報告者のビルマ訪問

 こうしたなか、国連人権理事会特別報告者ピニェイロ氏が11月中に同国を訪問し人権状況を調査することが予定されている。

ヒューマンライツ・ナウは真相究明の第一歩としてこの訪問を歓迎するとともに、ピニェイロ氏が以下の調査を実施するよう期待する。

① 軍政による武力弾圧により殺傷、拘束、強制失踪させられた人物及び人数の特定

② 軍政により逮捕・拘束された人物の拘束場所の調査及びにこれらの人々と面会し健康状態、収容状況、拷問の事実の有無に関する調査を行うこと

③ 行方不明者の家族や民主化活動家に対する軍事政権の現在の対応

 

2)目前にせまるアセアン首脳会議・東アジアサミット

ビルマの事態を打開するため、近隣諸国が役割を果たしうる、重要なフォーラムが迫ろうとしている。 11月19日、アセアン首脳会議がシンガポールで開催され、また、21日からは、アセアン諸国に加え、日本、中国、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランドなどの首脳がシンガポールに集い、第三回東アジアサミットが開催され、ビルマ軍事政権およびビルマに対して影響力を有する国々が一同に会する。

アセアン首脳会議においては、創設40周年にあたり、「人権機構の創設」を含むアセアン憲章の採択が予定されている点に鑑みると、アセアン加盟国首脳会議において、加盟国ビルマの人権状況に関する討議は避けられない。また、アセアン首脳に加え、ビルマに対する影響力の強い中国、インド、日本が参加する東アジアサミットは、ビルマの人権状況に対する事態を打開するためさらに重要なものとなりうる。ヒューマンライツ・ナウは、中国、インド、アセアン諸国を含む近隣諸国がこの好機をいかし、一致したメッセージを軍事政権に伝え、人権侵害の停止、民主化への確実な前進を実現することを期待する。

 

3  日本政府が果たすべき役割

対ビルマ主要援助国として、かつアジア地域から選出された人権理事国として、日本には、事態打開に向け積極的なイニシアティブをとる国際的使命がある。また、日本人ジャーナリストが武力弾圧により殺害されたという点で、日本はビルマ軍事政権による人権侵害の当事国でもある。日本政府は、いまこそビルマの人権状況改善・民主化実現にむけた積極的役割を果たすべきである。

このまま日本をはじめとする近隣諸国がビルマに変化をもたらすための真剣な努力を怠り、現状のまま事態が推移すれば、ビルマの民主化は再び遠のいてしまうことであろう。 そうなれば、人々はいつ終焉を迎えるとも知れない構造的で深刻な人権侵害に今後もさらされ続けることなる。

今回の事態は、軍事政権の進める「民主化」プロセスが真の民主化とは到底いえないことをあらためて明らかにした。 明確な期限を決め、全ての勢力との無条件対話の実現をはじめとする、民主化への行程を早急に開始させることは極めて重要である。 ヒューマンライツ・ナウは、日本政府に対し、事態打開のイニシアティブの発揮を強く期待し、以下のことを要請する。

 

1   アセアン首脳会議・東アジアサミットにあたってとるべきイニシアティブ

1)  アセアン首脳会議・東アジアサミットに先立ち、参加各国、とりわけ、サミット議長国シンガポールをはじめとするアセアン諸国、中国、インドとの間でビルマの人権状況改善に向けた緊密な働きかけを行い、両会議参加諸国が一致して軍事政権に対して強いメッセージを送る環境を整備し、両会議の重要なアジェンダとしてビルマ問題を掲げるようにすること。

2)   東アジアサミットにおいて、他の参加国と一致・連携して、ビルマの人権侵害停止と民主化へのすみやかな移行をビルマ軍事政権に約束させるため、最大限の外交努力をすること。

特に、人権理事会決議の完全実施・民主化勢力との無条件での対話、民主化へのタイムテーブルの策定などの具体的な確約を強く求めること。

2国連特別報告者ピニェイロ氏のビルマ訪問・調査について

特別報告者の訪問・調査にあたり、必要なすべての助力を行うこと、具体的には、ビルマ軍事政権に対し、ピニェイロ氏の調査にいかなる妨害・干渉も行わず、政治犯収容施設への立ち入りをはじめ、同氏が求める全ての情報と人に対するアクセスを完全に保障し、調査に協力するよう働きかけること

3   二国間交渉

ビルマ軍事政権に対し、あらゆる二国間の外交交渉を通じて、

1)  国連人権理事会の決議を完全実施し、今回の事態で拘束された人々をただちに釈放し、集会・結社・表現の自由を侵害する全ての行為を停止するよう求めること

2)  長井氏の殺害に対する徹底した真相究明、責任者の特定、訴追を求め、返還されていないカメラを含めた遺品の返還を強く要求すること

                                    以 上