ジュネーブ国連人権小委員会、HRN事務局北村弁護士のレポート①

2006年3月、国連人権委員会が廃止され、人権理事会が設置されました。その結果、廃止された人権委員会の下部組織だった人権小委員会開催も今回が最後。小委員会自身が、今会期、人権小委員会に代わる新たな専門家組織について検討・提案することとなっています。

人権小委員会に参加したHRN事務局の北村弁護士が、最新の会議の状況を報告してくれました。


現地レポートPart1*************

8月7日より、国連のジュネーブ本部にて、人権小委員会(Sub-Commission on the Promotion and Protection of Human Rights)が開催されています。私は縁あって、委員会のメンバーである横田洋三先生(中央大学法科大学院教授)のアシスタントとして出席しています。会期は合計3週間(8月25日まで)ですので、1週間ごとに皆様に簡単なご報告をさせていただきたいと思います。

★人権小委員会とは?
人権小委員会について説明するには、その上部機関である人権委員会(Commission on Human Rights)についての説明から始める必要があります。人権委員会とは、1946年、国連憲章に基づき設置された経済社会理事会(ECOSOC)の下部機関で、国連の人権システムの中心的役割を担ってきました。具体的には、①国際人権の促進・保護のための基準策定(世界人権宣言、各種人権規約等)、②国家がその基準を守るよう監視し、場合によっては国やテーマごとに調査・報告・勧告を行う独立専門家システムの構築(特別報告者制度、各種作業部会など)、③個人やNGO等からの重大な人権侵害に関する通報メカニズムの構築(1503手続)、などが挙げられます。
人権小委員会はこの人権委員会の下部機関で、上記の人権委員会の役割を下支えするシンクタンク的存在です。26名の専門家委員で構成され、個別の人権問題に関する研究や提言、人権基準に関するガイドラインの策定などを担ってきました。またNGOが自由に参加・発言できる小委員会は、市民社会にとっても比較的「風通しの良い機関」と言われてきました。

★今年が最後の人権小委員会
しかし、この人権小委員会は今年が最後。なぜならその親元である人権委員会が2006年3月15日の国連総会決議で廃止され、代わりに国連総会の下部機関として人権理事会(Human Rights Council)が設置されることになったからです。しかしその際、人権小委員会の行く末は決められず、その運命は2006年6月19日から開催された第1回人権理事会に持ち越されることとなりました。そして会期最終日の6月30日、人権理事会は人権小委員会について「例外的に1年間延長し、最後のセッションを7月31日から最大4週間開催する」と決議したのです。
そもそもなぜ人権委員会は廃止され、人権理事会に改変されたのでしょうか?様々な理由がありますが、人権委員会は53ヶ国の政府代表で構成される、あくまで政治的な機関であるため、特定の国家が行う人権侵害についての審査・決議が国際政治における「政争の具」として利用されているという批判が近年高まりを見せていたのでした。その他にも、手続の重複(同じテーマについて複数の専門家が調査している等)や、決議の実効性確保が不十分であるといった指摘もありました。
では、新たに設置された人権理事会は、これらの批判を克服するに十分な程に生まれ変わっているのか?というと、これについては今のところ疑問視する声の方が大きいようです。新たな人権理事会の構成メンバーは47ヶ国の政府代表で、結局政治的機関であることに変わりない上に、新たに導入された普遍的定期的レビュー(Universal Periodic Review。全加盟国が自国の人権状況について報告書を提出するというシステム)についても、本当に全加盟国の報告書をきちんと精査できるだけのキャパが理事会にあるのか、報告書の数が増えることで真に深刻な人権侵害の問題が薄まってしまうだけではないか、といった懸念の声が挙がっています。

★今回の議題は?
といった状況の中、今回の人権小委員会では、例年行ってきた作業に加えて、「小委員会に代わる新たな専門家組織に関する検討・提案」という重要な宿題を人権理事会から課せられています。加えて、本来小委員会の会期とは別に開かれていた二つの作業部会が国連の予算不足により会期中に同時並行で開かれることになってしまったため、最初からタイム・スケジュールが”押せ押せ状態”なのです。
そのため新たな専門家組織に関する検討は、現在のところ2セッション(合計6時間)のみ、しかも他の作業部会と平行して開かれている状態(=常に委員全員が揃うことができない)です。
議論の内容としては、初回のセッションでは、「新たな専門家組織のもとで、いかにこれまで小委員会が果たしてきた役割を維持すべきか?」という方向に議論が集中しているように見受けられましたが、2回目のセッションでは、現状維持ではなくむしろ機能を拡大する方向での具体的な提案が飛び交うようになりました。これまでのところ、中国、パキスタン、イギリス、フランス、エジプト、ルーマニア出身の各委員のほか、横田先生からも子細に渡る提案がなされています。
そのうち主な提案としては、新たな専門家組織の規模は小委員会と同程度のものとしつつも、Universal Periodic Reviewのモニタリングや調査研究対象の決定権について、その機能・権限を拡大すべきであるというもの、専門家委員がワーキング・ペーパーや特別報告書を作成するに際しては国連人権高等弁務官事務所のサポートが得られるようにすべきであるというもののほか、1503手続については秘密保持と説明責任のバランスが必要であるというもの(例・一般的な年間レポートの公表など)、単なる人権理事会のシンクタンクを超えて他の条約機関とも連携すべきだといったものがありました。
さらに、各委員は出身国政府の推薦を受けて選任されることから、あからさまに自国の国益を守るための活動をしていると見受けられる委員の存在(例えば中国)が批判の対象になっていたのですが、この点については、政府関係者よりも法律家を優先すべきであるといった意見(イギリス)もあれば、政府関係者も国家との交渉には長けているのだから必要だ(ルーマニア)といった意見もあり、先行きは不透明です。

★どうなる第二週?
このように様々な提案が飛び交う中、議長は「皆さんの希望が色々と出たところで、次週はこれをいかに実現すべきかについて話し合いましょう。」と述べ、当該セッションは閉会しました。しかし第2週に予定されているこの問題に関するセッションは非公開審議とされているので、肝心の詰めの作業は残念ながら見ることができません。
なお、この問題の他にも今回の小委員会で取り扱う議題は大きく分けて6つ、細かく分ければ10もあります。このうち第一週でテーブルに上がったのは、テロと人権、多国籍企業と人権、現代的奴隷制に関する作業部会、少数民族に関する作業部会だけです。
短期間に数多くの人権問題を扱う人権小委員会は、言ってみれば「人権問題の総合商社」という感じですが、今回は本当にタイトなスケジュールで、出席している委員もNGOも必死。そしてそのような議場の様子を短くまとめるこちらも必死。
というわけで、どうなる第二週の小委員会&この報告書!?

(参考)
国連人権委員会から人権理事会への改変について
http://www.ishr.ch/handbook/Handbook.pdf
人権理事会について
http://www.ohchr.org/english/bodies/hrcouncil/
人権小委員会について
http://www.ohchr.org/english/bodies/subcom/index.htm

以上