【コメント公表】法制審議会が示した新たな刑法性犯罪規定改正に関する試案を受けて

本日、2023117日の法制審議会にて、刑法性犯罪規定改正に関する試案(改訂版)が配布されました。これを受け、ヒューマンライツ・ナウは新たな試案に対する下記のコメントを公表しました。

なお、全文はこちらからダウンロードしていただけます。

また、法制審議会にて配布された試案(改訂版)はこちらよりご覧ください。

___________________________________________________________________________

2023 年 1 月 17 日

本日の法制審議会に刑法性犯罪規定改正に関する試案(改訂版)が配布されましたので、コメントします。

1 まず、試案(改訂版)は、昨年 10 月 24 日に公表された試案(原案)が、不同意性交等罪の導入を求めてきた市民の圧倒的な批判にさらされたことを踏まえた結果だと認識している。性犯罪被害者や市民の声や要求を無視したまま法改正を突き進めるなら、何のための刑法改正なのか、その意義が改めて深刻に問われるのであり、今日の改訂版はそれに向けたわずかながらの前進と受け止める。

2 試案(改訂版)の主な改正点として注目するのは、基本となる構成要件(第1-1)について「拒絶の意思」を「同意しない意思」に変更し、「実現困難」を「全うすることが困難」と変更したこと、性交同意年齢については、年齢差要件に加えて「対処能力」との付加要件が提案されていたが、同様に削除されたことの2点である。これらの修正は被害者に寄り添い、不同意性交を処罰するとの法制審諮問の原点に少しでも立ち返ろうとする姿勢の表れであるといえる。

3 ただし、基本となる構成要件は、今回の改正案でも、「全う」「困難な状態」とは何かなど不明確な点が多いこと、立証対象がかえって増えるとする実務家委員から出された懸念を払しょくしうる内容か不明確である。「抗拒不能」要件の判断が裁判官に白紙委任され、2019年に相次いだ性犯罪に関する無罪判決が広く批判を呼ぶ結果となったが、同様のことが繰り返されてはならない。

4 何より、今回の改正案においてもなお、現行法から処罰範囲を拡大し、処罰の間隙を埋め、意に反する性交を処罰することになるのか引き続き懸念される。法務省が様々な機会に、「処罰範囲は変わらない」との説明を行っていることと考え合わせると、その懸念は、深まる。試案作成を担ってきた法務省および法制審議会部会はこの点について、誠実に説明責任を果たすべきである。このような疑問を払しょくし、不同意性交を処罰し、処罰範囲を拡大することを明確にすべきであり、その観点からも、罪名は「不同意性交罪」とすべきである。

5 性交同意年齢(第1-2)について「対処能力」要件が削除されたことは一歩前進であるものの、5歳差要件は引き続き問題であり、引き続き再考を求めたい。

6 地位関係性を利用した性犯罪規定の創設は法制審議会諮問事項であるにもかかわらず、試案(改訂版)にもこれに対応する規定がないことは極めて問題である。第1-1(1)アおよびイの(ク)の要件は地位関係性利用罪の代替にはなり得ないことを改めて確認しておきたい。「不利益を憂慮していること」は被害者側の主観であり、 「不利益を憂慮させること」とは何を意味するか不明確である。一定の地位を有する者は、「不利益を憂慮」させる明示的な言動をするまでもなく、その権力を行使し地位関係性からくる被害者の脆弱性に付け込んで目的を遂げ得るという、この種性暴力の実態が適切に把握されているとは考え難い。 刑法における構成要件の明確性の要請からして、教師、施設職員、上司など、特別の地位関係性を濫用した場合は明確に処罰対象とするよう再度強く申し入れる。

7 以上のとおり、当団体は、引き続き懸念を持ってこの議論及び条文化を見守り、試案の作成にあたっては、そもそもの改正の意義との関係について明確な説明責任を尽くすよう求める。 被害者を始め多くの人々の強い願いにこたえ、今回の改正は行われる。今回の法改正は未来を生きる世代に対する約束でもある。諮問の趣旨、法改正の原点に立ちかえった試案及び法案の策定を改めて要望する。

___________________________________________________________________________