【イベント報告】12/2(水)ビジネスと人権:マレーシア・サラワク州における違法伐採 ~ 日本のサプライチェーンとのつながり~

 

マレーシア最大の州・サラワクにおける森林開発によって先住民族の人権が侵害されています。伐採された木材は日本に輸入されていますが、日本では多くの人が関心を持たず、輸入木材に関わる企業の意識も高くありません。こうした問題を考えるため、HRNは、グローバル・ウィットネスなどのNGOと共に2015年12月2日にセミナーを開催しました。

人権・環境団体だけでなく、多くの企業の方々が参加し、サラワク州の現状と先住民族の人権、そして日本企業の責任について考える機会となりました。

以下、セミナーに参加したインターンによる報告をご紹介します。

 

◎スピーカー

ニコラス・ムジャ氏(サラワク・ダヤック・イバン協会)
ハナ・ハイネケン氏(グローバル・ウィットネス)
伊藤和子氏(HRN事務局長・弁護士)

◎モデレーター
海野みづえ氏(創コンサルティング)

◎主催団体
グローバル・ウィットネス、HRN、FoE Japan、地球・人間環境フォーラム、熱帯林行動ネットワーク、サラワクキャンペーン委員会

 

先住民族の権利を無視した伐採活動―サラワク先住民族の声:森と共存する生活が壊されている

講演会には、サラワク州からはるばる来日した先住民族のニコラス・ムジャ氏が登壇。「私たちは森を金儲けのためではなく日常的に使う食べ物や物品を得る場所として毎日活用している。先住民族は、果物、川、木などの自然全てから恵みを受け取り生活しているが、その生活が違法伐採によって脅かされている」とムジャ氏は言います。政府は先住民族の慣習法上の権利(NCR)を尊重せず、企業は伐採の許可を受けた区域を越えてまで伐採していることが多々あり、乱暴な森林伐採が行われています。ところが、企業は伐採を「合法」だと主張し、逆に抗議する住民が暴力を受けたり逮捕されたりしていると言います。ムジャ氏は、違法伐採を止めるために裁判を起こした経験を紹介、裁判には勝ったものの、裁判をしている間に伐採は進み森林はすべて失われてしまったと話し、異議を申し立てるにもリスクと時間がかかると訴えました。最後にムジャ氏は「土地は血であり命である。土地を奪われると生きていくことはできない。無差別な森林伐採をなくすために協力してほしい」と悲痛な願いを伝えました。

HRN の伊藤事務局長は、サラワク州の法律や国際法に基づき、サラワク州での森林伐採に先住民族の権利を侵害する違法伐採が含まれていると指摘。森林伐採を行うには州政府からの伐採ライセンスが必要ですが、州政府によって先住民族の権利を無視した形でライセンスが乱発されています。最高裁判決などは先住民族を擁護する傾向にありますが、裁判中もライセンスは無効とされないため、長い裁判の間に伐採が続きます。このように、国際法や判例を軽んじる政府の姿勢が先住民族の権利侵害につながっていますが、伊藤事務局長はその責任は日本企業にもあると指摘。国連ビジネスと人権に関する指導原則(ラギー原則)は、企業はサプライチェーンにさかのぼって人権侵害に対して注意義務を負うとしていますが、日本ではこの注意義務を払って責任を果たそうとする企業が少ないのが現状です。大手ゼネコンや商社によるサラワク材の使用は続いていますが、大切なことは各企業がどこから木材を輸入しているのかを把握し、人権侵害が行われているなら取引を停止することだと伊藤事務局長は訴えました。

責任のあるデューデリジェンスの実施を

ハイネケン氏は、日本は熱帯合板材の最大の輸入国であり、その半分がサラワク材であると指摘し、日本企業のデューデリジェンスの必要性を訴えました。サラワク州の50% 以上の地域で伐採ライセンスが発行されており、原生林は今や5% しか残っていません。その背景には、森林セクターにおける深刻な汚職、先住民族の権利を無視した伐採権の発行、弱い監視体制によって、持続不可能な伐採が長く行われてきた問題があります。ハイネケン氏はこうした状況を踏まえ、日本企業はバイヤーとしてこの問題に向き合うべきだと訴えました。日本のグリーン購入法では民間部門に対して合法な木材を買うことを義務付けておらず、現状としてサラワク州政府機関による合法性の証明があれば「合法」とみなされていますが、これだけでは真の合法性は確保できません。ハイネケン氏は、日本企業は期限付きのアクションプランを作り、サプライチェーンの情報を入手して評価し、土地紛争を起こしているサプライヤーから木材を買うことをやめるべきだと訴えかけました。

パネルディスカッションでは、ムジャ氏が、森林伐採によってやむなく都市部に移住させられた先住民族が、教育水準が低いことから過酷な生活を余儀なくされている現状を紹介しながら、「日本の消費者にはサラワクでの被害の実態を知ってほしい」と訴えました。最後にムジャ氏が、日本企業が違法に伐採された木材を輸入することは、サラワク先住民族を撲滅することに加担するといえるのだ、と穏やかな口調でありながら当事者としての厳しい言葉を残し、セミナーは終了しました。

HRN は2016 年1 月にこの問題で、報告書「マレーシア・サラワク州今なお続く違法伐採による先住民族の権利侵害」を公表し、関連企業、日本・マレーシア政府に責任ある対応を求めています。(雑賀光)

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