【イベント報告】7/11(土)「政府・与党による言論の自由への介入を許さないトークイベント」を開催

与党が報道番組の内容に口を出し、大手放送局の経営幹部を招集して番組内容に関する事情聴取を行う。また、特定の番組を名指しして講義要請文を出すなど、報道の自由への介入が高まる社会情勢を受けて、HRNは言論の自由についてのトークイベントを開催しました。

 

メディアも市民も、メディアの本来の役割を理解していない

イベントではまず、ジャーナリストの青木理氏が、メディアとは何か?という問いを投げかけられました。普段私たちがメディアという言葉を使う際、「メディアが取り上げる」「メディア受けする」などの表現がありますが、これらの表現自体に、ある種の権力的な「大きな存在」を思わせるものが潜んでいるのではないでしょうか。青木氏は「メディアの役割は、政府を批判的・懐疑的にみて、これを伝えること」と言い切りました。そして、民主主義の社会は多数決によって成り立つが、多数決は少数者の権利を侵す危険があり、だからこそメディアの意義は、少数者・弱者の視点から物事を捉え、伝えることで、多数決の出した結論を検証することだと指摘し、現状のメディアのあり方に深刻な疑問を呈示しました。

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日本のメディアは「メディア」ではない

続いて、ジャーナリストの飯田能生氏が登壇。メディアの仕事はまず「事実を伝えることにある」としたうえで、国際NGO 国境なき記者団による「報道の自由度」のランキングにおいて、日本が2010 年の11 位から、2015 年に61 位までに転落したことに触れ、日本の報道の自由が現在危機的な状況にあると指摘。その原因として、記者クラブ制度、放送法、そして昨年に成立した特定秘密保護法を挙げました。記者クラブ制度により、フリージャーナリストや外国人記者が記者会見に出席できない一方で、記者クラブに所属する大手メディア各社は、情報を得る既得権を守るため、記者会見で発表された情報をそのまま流すこととなり、批判を避けがちになっていく、こうして事実まで遡ることなく「記者会見における発表」をそのままメディアが伝える構図が出来上がっていると指摘しました。

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報道における「中立・公正」とはなにか

大石泰彦氏(青山学院大学法学部教授)は、放送法に関する過去の事例をもとに、政府もメディアも「中立・公正」の意義を認識していないために、政府が恣意的に「中立・公正」を振りかざして報道を委縮させ、メディアも政府の恣意的な対応に対し反論できていないと指摘。「中立・公正」というとき、「内容の公平性」を求めることは権力が報道の自由に介入する口実を与える可能性があるとし、放送倫理の本質的なテーマは、「内容の公平性」ではなく「構造の公正性」であると結論づけました。メディアと政治との構造的な癒着こそが根本的に見直されるべきではないか、と考えさせられる議論でした。

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メディアは誰を見ているのか

最後に岩崎貞明氏(日本民間放送労働組合連合会(民放労連)書記次長)は、政府による政治的圧力が問題なのは明確だが、圧力を受けながら全くこの事態を報道しないメディアの姿勢は、市民とメディアとの距離を広げ、市民からの信頼を失う原因となっていると指摘。過去にはメディアが市民と一体となって圧力に抵抗した事例があると具体例を紹介されました。今のメディアに、市民を巻き込んで政治的圧力に対抗しようという気概があるのでしょうか。なぜメディアは、政府に抗議することも、政府からの圧力を報道することもしないまでに委縮してしまったのでしょうか。ここでもまた、記者クラブ制度、放送法の問題が浮き彫りになりました。

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メディアの意義とは

各スピーカーからの発言の後、HRN 理事の野中章弘氏がモデレーターを務め、ディスカッションが行われました。その中で、ジャーナリストの育成が現在の日本社会の課題の一つとして挙げられました。メディアの意義は、政権を監視し、批判することにこそあり、それが健全な民主主義の一部を構成するべきですが、今の日本ではこの意義が十分に認識されていない現実があります。イラクで生きる市民の姿を伝え続けたジャーナリスト後藤健二氏が殺害された際に、国内では、自己責任、危険な場所に行く方が悪いといった議論が起きました。しかしジャーナリストが現場に赴かない限り、私たち市民は事実を知ることができません。青木氏は、私たちが事実を知り、事実に基づいて市民が考えることのできる成熟な社会を求めるのであれば、市民が、ジャーナリストの重要性を自覚し、これを育成する基盤を作らなければならない、と指摘されました。

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民主主義における言論の自由、また、メディアとともに市民も自覚をもって言論の自由を行使していく重要性を再確認させるイベントとなりました。

HRN は、国内の人権状況に対する懸念が強まっている事態を受け、今年から国内人権プロジェクトを立ち上げました。私たちは、今後も言論の自由はじめ、国内の様々な人権問題について取り組んでいきます。(柳原由以)

 

 

 

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