本イベントの録画は上記にてご覧頂けます。
2026年3月3日、認定NPO法人ヒューマンライツ・ナウは、「刑法は変わったけど社会は変わったのか?」と題したウェビナーを開催しました。2023年7月13日に施行された改正刑法では、「同意しない意思」が構成要件の中心となり、性交同意年齢も16歳未満へ引き上げられるなど、大きな変化がありました。本ウェビナーでは、法改正後における性的同意に関する社会の認識の変化や浸透度について検討するとともに、当事者、支援者、啓発活動や包括的性教育に関わる方々の視点から、社会の変化や性被害の実態が適切に把握されているかについてディスカッションが行われました。
各登壇者の発表内容
1. 早乙女祥子氏 (一般社団法人Spring共同代表)
早乙女氏は、2023年の刑法改正で大きな進展はあったものの、性的同意に関する社会の理解は依然として十分とは言えないと述べました。また、被害者支援体制も十分に整備されておらず、課題が残っていることを明らかにしました。法改正後は性的同意がより重視され、公訴時効も5年延長されましたが、それでもなお多くの問題が残されています。例えば、裁判では依然として「同意の誤信」による無罪判決が存在し、性被害が認定された場合であっても、加害者が「同意があったと思った」と主張するケースが見られます。また、日本では多くの国で導入されている「Yes means Yes型」の明確な同意の必要性に関する認識が十分に浸透しておらず、社会のさらなる変化が不可欠です。さらに、公訴時効が延長されたものの、被害申告の困難さを踏まえると依然として不十分であり、実態に即したさらなる検討が求められています。
2 松田七海氏(ジョイセフI LADY. ピア・アクティビスト)
松田氏は、ユースの立場から刑法改正について言及しました。多くの若者は2023年の刑法改正について十分に認知しておらず、性的同意に関する知識も不足しているため、同意について説明できないケースが多いと指摘しました。また、「恋人同士であれば同意がある」「はっきり断っていなければ同意とみなしてよい」といった誤った認識が広がっており、同意というテーマの難しさや曖昧さが依然として存在していることが明らかになりました。さらに、法律が改正された一方で、教育や文化を変えることの難しさについても触れました。セカンドレイプやレイプ神話といった問題が依然として社会に存在しており、「露出度の高い服を着ていたから被害にあった」といった言説が、被害者にさらなる精神的ダメージを与えていると指摘しました。こうした背景から、包括的性教育の重要性が強調され、性教育を制度化し、文部科学省のもとで人権教育として推進することが、社会の変化につながる一つの手段であると述べました。また、同意を日常の言葉として捉え、安心して語ることができる社会を構築することの重要性についても繰り返し言及しました。
3 中村果南子氏(一般社団法人ちゃぶ台返し女子アクション メンバー)
中村氏は、自身の所属するについて紹介しました。同団体は、性的同意や第三者介入の普及を目的としてワークショップを実施しています。対話や行動を通じてパワーの不均衡の解消を目指し、日常における性暴力の予防に取り組んでいます。近年、日本ではさまざまな属性や年代の人々の間で、性的同意や第三者介入への関心が高まっていますが、特に、自ら介入する方法を学びたいという意識が強まっていることについて言及しました。一方で、2018年頃からの課題として、ワークショップにはもともと関心の高い人が多く参加する一方で、本来参加してほしい層に十分に届いていない点を挙げました。また、参加者からは「もっと早く知りたかった」「学校で学ぶべきだ」「男性にも知ってほしい」といった意見が多く寄せられる一方で、性的同意の考え方に馴染めない人も一定数存在していることが共有されました。
4 池田鮎美氏(「性犯罪被害者から見た捜査・裁判の問題点に関する実態調査アンケートチーム」メンバー)
池田氏は、大阪地検元検事正による性暴力事件の被害者ひかりさん、ひかりさんの弁護団、支援者らとともに結成した「性犯罪被害者から見た捜査・裁判の問題点に関する実態調査アンケート」チームのメンバーとして、調査結果を報告しました。検察庁が公表している統計によると、被害申告件数は約1.5倍に増加していることが示されています。一方で、起訴率は約30%にとどまり、刑法改正以前と大きな変化は見られないことが明らかになりました。これは、多くの被害者が勇気を持って声を上げるようになったにもかかわらず、不起訴となるケースが依然として多いことを示しています。本調査は、その要因を明らかにし、被害者が直面する課題を可視化することを目的として実施されました。調査結果によると、警察官や検察官の対応に関する問題が指摘されており、性暴力被害者の心理への理解不足や、対応に対する恐怖や絶望感など、二次加害を経験する被害者が少なくないことが明らかになりました。また、被害者が最も求めているのは、二次加害の防止と適正な処罰であるとされています。以上の点から、制度や運用には依然として改善の余地があることが指摘されました。
5 佐々木真奈美氏(報道キャスター/スピークプラス代表)
佐々木氏は、メディア業界における変化と課題について、自身のアナウンサーとしての経験をもとに説明しました。近年、業界では変化が見られており、例えば、飲み会が任意参加になったことや、性加害につながる演出の回避、ハラスメントを行った演出者の起用停止などが挙げられます。一方で、対応の基準は依然として曖昧であり、性暴力などの問題が発生し
た場合の出演停止期間は、各テレビ局の判断に任されています。課題としては、被害を訴えにくい雰囲気や、上下関係によって申告が難しくなる状況が依然として残っている点が指摘されました。また、働き方や採用方法など、業界の仕組みそのものが変わらなければ、本当の意味での改善は難しいと述べられました。解決に向けては、オープンなオーディションやアサインの実施、透明性のある取材体制の構築、そして、セカンドレイプに対する厳しい対応が必要であることが強調されました。
6 周藤由美子氏(性暴力禁止法をつくろうネットワーク共同代表)
周藤氏は、ワンストップセンターにおける性暴力被害者支援の現場について報告しました。刑法改正後、全国のワンストップセンターへの相談件数は増加しており、特に男性からの相談も増えている傾向が見られます。また、被害申告に対する警察の対応についても言及されました。本来、警察は被害届を受理する必要がありますが、さまざまな理由により受理されないケースも存在していました。刑法改正後は受理される傾向が強まっているものの、依然として課題が残っています。被害者が未成年の場合には司法面接が実施されるなど一定の対応が行われていますが、事件として送検されるかどうかについては引き続き問題が指摘されています。さらに、初動捜査は行われるものの、被害届が受理されないケースも少なくないことが明らかになりました。
まとめ
社会における性的同意に関する意識は、依然として十分に変化していないと考えられます。また、多くの若者が刑法改正について十分に認知していない現状があります。一方で、人々がつながり、対話や議論を重ねる中で、性的同意に関する認識は高まることが示唆されています。今後は、同意を無視する行為が刑法に触れるものであることを、子どもの頃から教育を通じて伝えていくことが重要です。それが社会の共通認識の形成につながると考えられます。



