国際人権NGOヒューマンライツ・ナウでは、ミャンマーの民主化の進展を受けて、2014年2月からミャンマー国内で人権擁護活動の担い手を育成する人権教育事業を実施しており、本年度も、計6回の講師派遣を予定しています。
本年度第2回目となるセミナーは、ヒューマンライツ・ナウの和田重太氏と尾谷恒治氏を講師として派遣し、2016年10月18日から22日の期間で実施しました。これまで強固な協力関係を結んできた「ヤンゴン弁護士会」、そして、ミャンマーで発足した弁護士全国組織である「ILAM(Independent lawyers’ association of Myanmar)」、市民活動を展開するNGOなどの現地パートナー機関と連携し、法の支配を確立し、人権の促進、環境問題に伴う紛争解決を担う人材を育成するための講義を行いました。
和田氏は、地球温暖化とこれに対する国際的取組、及び日本の大気汚染への規制に関して講義を行いました。経済発展に伴って大気汚染・水質汚染などの問題の懸念が高まっているミャンマーにおいて、実効的な規制を行えるように、日本の規制における教訓を踏まえながら講義が行われました。
尾谷氏は、文化財保護における日本の弁護士の取り組みについて講義を行いました。講義では、ミャンマーで今後文化財保護の活動をどのように進めていくべきかという実践的な方法や、弁護士の公益訴訟に関する取り組みについてにも触れられ、参加者の関心を集めました。
特に、ヤンゴン弁護士会とILAMに所属する若手法律家向けの講義では、ミャンマーで現在、公益訴訟への関心が高まっているため、参加者は、細かい技術的部分まで質問をしていました。一方、NGOに向けての講義で
は、参加者にミャンマーの民主化運動「88革命」の中心メンバーも多く、ミャンマーの国の将来の方向性まで、話の広がる大変活発な会となりました。
両先生の講義において、弁護士による社会貢献活動の重要性が再確認されたほか、実効的な法制度への提言がなされ、大変意義深い講義となりました。
■ヒューマンライツ・ナウの人権教育の取り組みについて■
民主化が進み、「人権」という言葉がストリートでも聞かれるようになったミャンマーですが、実は多くの人は「人権」とは何か知らず、ミャンマー国軍による権力の一部掌握が続く中、今でも人権状況は深刻です。また、民主化後の著しい発展を受けて、多くの環境問題が発生している状況にあります。
ミャンマー(ビルマ)では、25年にわたる軍事独裁政権の下、政府に反対する言動を語ることは逮捕・処罰の危険性があり、人権や環境問題に関する言論自体も抑圧されてきました。多くの若い世代は人権とは何かも知らずに育ち、人権侵害や環境問題のような公的問題を解決する方法も知りません。
こうしたなか、ヒューマンライツ・ナウは2009年から2013年まで、タイ・ミャンマー国境のタイ側に、ミャンマーの未来の法律家・コミュニティ・リーダーを育成する法律学校「ピースローアカデミー」を運営、日本から弁護士・国連職員等の講師を派遣して国際人権法をはじめとする人権・法の支配などについて教育を行ってきました。ピースローアカデミーは既に70人以上の卒業生を輩出、卒業生の多くが昨今の民主化の流れを受けて、ミャンマーに帰国して民主化を担う役割を果たしています。
(過去のプロジェクト・ピースローアカデミーに関してはこちら→http://hrn.or.jp/activity/1725/)
そして、近年の民主化の進展を受けて、ヒューマンライツ・ナウでは2014年ミャンマー国内での人権教育活動を開始することになり、今回の講義もその一環として行われました。このような講義を通し、ヒューマンライツ・ナウは現地で人権擁護活動を担っていくことになる弁護士の活躍に貢献することを願っています。
ヒューマンライツ・ナウでは、今後も継続して、人権教育のトレーニング・セミナーを実施していく予定です。今後は、ヤンゴンだけでなく、地方都市での実施も進め、弁護士に限らず、女性団体や若者、少数民族に対する人権教育活動のニーズにもこたえていく予定です。今後ともご支援をよろしくお願いします。