ヒューマンライツ・ナウは、2016年3月3日付で、調査報告書「日本:強要されるアダルトビデオ撮影 ポルノ・アダルトビデオ産業が生み出す、 女性・少女に対する人権侵害」を公表しました。
同調査報告書では、アダルトビデオの出演を強要される女性の被害が相次いでいる状況、また、こうした被害に対応する法律が存在せず、監督官庁がない状況を取り上げ、望ましい法制度の整備について提言しました。
また、アダルトビデオ関連業者に対しても、意に反するアダルトビデオへの出演強要、女性の心身の安全に悪影響を及ぼす撮影を直ちにやめること、そして、人権侵害の辞退を抜本的に是正することを要請しました。
このたび、ヒューマンライツ・ナウでは、関連業界団体である特定非営利法人知的財産振興協会に対して、出演強要被害の再発防止および人権侵害の防止のために当面取り組むべき優先的事項を取りまとめた要請書を提出しましたので、紹介します。
ヒューマンライツ・ナウでは、今後も関連業界団体の対応について注視していきます。
要請書のPDFはこちらからご覧になれます。AV業界に対する要請20160802 【PDF】
特定非営利活動法人 知的財産振興協会 御中
要 請 書
当団体は、本年3月3日付で、調査報告書「日本:強要されるアダルトビデオ撮影 ポルノ・アダルトビデオ産業が生み出す、 女性・少女に対する人権侵害」を公表いたしました。
このたび、出演強要被害の再発防止および人権侵害の防止のため当面取り組むべき優先的事項として、御団体に対し以下のとおり要請いたします。
I 人権侵害を防止するための制度改革について
1 出演強要や人権侵害を防止し、被害者を救済するメカニズムの設置~第三者機関が必要である。
法律の専門家、ジェンダー問題に詳しい有識者等、業界の利害関係から独立した第三者による機関をつくるのが望ましいのではないか。独立性、第三者性が必要であり、業界からもNGOからも労働者からも独立した第三者であるべき。
2 プロダクションやメーカーとの間でコードオブコンダクトを締結し、以下の項目を規定する。メーカーは、以下を承諾したプロダクション・制作会社としか取引しないようにする。
下記内容をプロダクション、メーカー、制作会社、流通団体、配信、販売業者共通のルールとする。
1)意に反する出演強要を禁止する。
2)女優が撮影に欠席した場合、違約金を女性に請求しない。
3)契約の解除をいつでも認める・契約書のコピーを本人に交付する。
4)適正な報酬を支払う。利益の50%以下となる不当な搾取・不払いの禁止
5)スカウトを禁止し、真実を告げない勧誘、不当・不適切なAVへの誘因を禁止する。
3 女優が出演拒絶した場合、違約金を請求せず、メーカーが損失を負担する。違約金に関しては保険制度等を活用する。
4 出演契約にあたっては、女優の頭越しに契約するのでなく、女優が参加したうえで契約を締結する。その際、プロダクションの監視により女優が自由に意思決定できない事態を防ぐため、マネジャーが同席しない場での真摯な同意があるか意思確認するプロセスを踏む。
5 制作会社・メーカーは以下の事項をルール化する。
1)個々の出演契約にあたり、性行為等の個々の演技に関して、撮影前に説明し、承諾を得る。
2)本番の性交渉をしない。[1]
3)生命・身体を危険にさらす行為、残虐行為、人体・健康を害する行為、危険な行為、人格を辱め、屈辱を与える行為を含む撮影を禁止する(業界でリストを作成して取り組んでいただきたい)。[2]
4)制作過程での人権侵害・意に反する性行為の強要を防止するため、全過程のメイキング映像を録画して、保管する。
5)児童ポルノを疑わせる作品内容について児童保護を徹底する取り組みを行う。審査のプロセスで年齢確認を行う。
6 審査機構は、5について審査基準を明確化して公表し、実質的な審査を行うとともに、5 5)の録画を認したうえで、審査合格を決定する。
7 2ないし5が守られていない等の苦情申し立てに対応して、上記1の第三者機関が苦情申し立てを受けることとし、いずれかが守られていない疑いが強いものについては、契約解除、販売差し止めを含む救済策を講じる。関与したプロダクション、制作会社、メーカーに対する取引停止等のペナルティを課す。
8 女優の人格権保護のため、プライベート映像の流出・転売等を防止し、流通期間に制限を設け、意に反する二次使用、三次使用ができない体制をつくる。 二次使用、三次使用、第三者への権利譲渡には少なくとも本人の同意を必要とすべき。
9 撮影に対し、メーカーの負担により演技者に対する保険をかけ、負傷、罹患、PTSD等の症状に対して、補償をする。
10 6による審査を受けないメーカー、上記1の機関の調査・勧告・決定に服しないメーカーの作品は販売・流通・配信を行わない。
II AV業界の機構改革について
機構改革には、外部有識者を入れた慎重な対応が望ましい。
不祥事が起きた他の企業や業界の経験に学び、いわゆる第三者委員会を設置して、徹底した事実確認、実態把握、検証を行う必要があるのではないか。
(第三者委員会のマンデート)
・実態調査・原因究明
・検証
・機構改革・再発防止策の提案
・これまで「業界団体」が不祥事等を受けて、第三者委員会を設置した例としては、NPB(日本プロ野球機構)統一球問題、PGA(日本プロゴルフ協会)反社会的勢力問題、全柔連助成金問題、日本相撲協会八百長問題など。企業では、ゼンショースキヤ、マルハニチロ等多数。
・第三者委員会は、通常、コンプライアンスに精通した弁護士によって行われる。第三者委員会は、その独立性を尊重され、調査権限を与えられ、報告書の内容に対しいかなる介入も受けず、勧告内容は尊重されなければならない。
※ I の1で提起したメカニズムに先立ち、第三者委員会が設置されて、実態調査・再発防止策が確認されるべき。
III 法整備
当団体は概略下記のとおりの法整備を提言しており、業界としても、法整備にご協力いただきたい。法規制をすることにより、自主規制の枠から外れてルールに服さないAV制作・販売が横行することを避けることができる。
1) 監督官庁の設置
2) AV勧誘スカウトの禁止。
3) 真実を告げない勧誘、不当なAVへの誘因・説得勧誘の禁止
4) 意に反して出演させることの禁止
5) 性行為等の個々の演技に関して、撮影前に説明し、承諾を得ること
6) 違約金を定めることの禁止
7) 女性を指揮監督下において、メーカーでの撮影に派遣する行為は違法であることを確認する。
8) 禁止事項に違反する場合の刑事罰
9) 契約の解除をいつでも認めること
10) 生命・身体を危険にさらし、人体に著しく有害な内容を含むビデオの販売・流布の禁止
11) 本番の性交渉の禁止
12) 意に反する出演にかかるビデオの販売差し止め
13) 悪質な事業者の企業名公表、指示、命令、業務停止などの措置
14) 相談および被害救済窓口の設置
以上
[1]法律に抵触する虞。また性交渉を契約の拘束力によって義務づけることが許されるのか
[2] 本人の意に反していなければ、危険な行為が許されるということとなれば、危険を伴い、心身に有害な業務がどんどん容認される危険性がある。労働者に対しては有害危険業務の禁止等の規定で一定の業務が類型的に禁止され、安全衛生の義務が事業者に課されていることとパラレルに考えるべきである。