中国では、当局による人権派弁護士及び人権擁護活動家の不当な拘束・嫌がらせが続いています。
ヒューマンライツ・ナウでは、人権派弁護士の大量連行(いわゆる709事件)から1年になることに合わせ、台湾の弁護士ネットワーク「China Human Rights Lawyers Concern Group」が2016年7月9日に習近平中国主席宛てに作成した拘禁下にある弁護士に対する適正手続を求める声明文に署名しました。
声明文では、今でも、23人の人権派弁護士及び活動家が拘束され、不当な扱いを受けていることに深い懸念を示すとともに、中国政府に弁護士・活動家の釈放、弁護士選任の権利の保障、家族に対する嫌がらせの中止などを要請しています。
こちらに全文(日本語訳)をご紹介します。ぜひご覧ください。
20160715 拘束下にある弁護士に対する適正手続について 【PDF】
習近平国家主席殿
長安街174号中南海
北京100017 中国
2016年7月9日
拘束下にある弁護士に対する適正手続について
習近平国家主席殿:
人権派弁護士及び人権擁護者の逮捕・拘束(いわゆる709事件)が2015年7月9日に始まってから1年が経ちますが、拘束下の法律専門家らの状況につき、私たちは引き続き懸念を表明します。今日、23名が正式に逮捕されており、そのうち9名が人権派弁護士、1名が法律事務所スタッフ、13名が人権擁護者となっています[1]。
私たちは、本件に特別注目しているのは、本件が国際的な関心を集めていること、並びに中国における法の支配及び法律専門家の活動に深刻な影響を与えるためです。
私たちは世界中の法律専門家と同様、人権及び法の支配が有する普遍的な価値を支持・受容し、弁護士及び人権擁護者の状況、そして、あらゆる人々の司法へのアクセスを改善することを目標としています。したがって、習国家主席には、中国における法の支配を堅持するという貴殿のこれまでの公約を、ぜひ再認識して頂きたいのです。
しかしながら、709事件における各案件に関して多くの国内法違反及び国際人権法違反の報告が寄せられ、それらに対し現在まで中国政府からはいかなる釈明又は説明もなされていないことに、私たちは困惑しています。
- 国家の安全に危害を加える罪の適用。人権派弁護士及びリーガルアシスタントに対する嫌疑は広く国家の安全に危害を加える罪とされているため、彼らの適正手続に対する権利は制限され、捜査のために拘束期間が延長され、弁護人へのアクセスが剥奪されています[2]。
- 1年前の拘束開始時から、自己で選任した弁護人へのアクセス及び家族と面会する権利が保障されていないこと。正式逮捕から6か月が経過するのに、拘束された弁護士及び彼らのアシスタントのいずれも弁護人及び家族と面会できていないことは深刻な問題です。弁護人及び家族へのアクセスの欠如は、被拘束者に対する拷問又は非人道的な取扱いが行われていないことを証明することができなくなり、また捜査段階における適正な法的代理を妨害することにもなります。
- 弁護人の選任及び委任に対する警察の介入。被拘束者の家族が、代理を依頼しようとした弁護士に連絡をとらないよう警告されたり、既に選任した弁護人を解任するよう強要されたりしたことが確認されています。依頼を受けた弁護人も、被拘束者との面会を試みる段階において、彼らは解任されたと警察から口頭で伝えられました[3]。
- 自白を獲得しようとする警察の圧力。2015年4月28日、王全璋弁護士の家族は、王弁護士にビデオの前で「過ち」を自供するよう「説得」することを要求されました。私たちは警察が自白及び自己負罪供述を確保するために不当な圧力をかけていることにつき懸念しています。このような手法は、警察の捜査における証拠収集の誠実性に対し疑問を抱かせるものです。私たちは王弁護士の件について特に懸念を表明するとともに、自白ビデの件は別としても、嫌疑に対する証拠が不十分であると考えます。
- 被拘束者の家族、友人及び弁護人は、被疑者に対する手続により深刻な影響を受けています。彼らは政府関係者によって厳しく監視されたり、警察への出頭を命じられたり、嫌がらせを受けたりしています[4]。
- 検察及び裁判所は適正手続を保証していません。弁護人及び(又は)家族によって適正手続の遵守を確保するよう照会や訴えがなされましたが、当該機関はそれらを無視・拒絶しました。
私たち本信の署名人は、以上のような取扱いが、いずれも法的な根拠が欠如、脆弱、又は恣意的であるとして、懸念を表明します。
したがって、貴殿が中華人民共和国の国家主席として、憲法、国内法、国連の弁護士の役割に関する基本原則[5]、及び人権保護に関する国際条約における義務を中国が確実に履行するよう取り組み、以下の行動を取ることを要請します。
- 全ての弁護士、その他違法に拘束されている者を釈放すること
- 逮捕された者、又は犯罪嫌疑をかけられた者全員に対し、自己が選任した弁護人へのアクセスを保障すること
- 被拘束者の家族による弁護士の依頼及び相談に対するあらゆる介入を中止し、家族らの市民権の享受を妨げるあらゆる措置を撤廃すること
- 適切な治療を受ける権利及び面会の権利を含む被拘束者の権利が完全に保障されること
連署人:
China Human Rights Lawyers Concern Group, Hong Kong
弁護士会及び法律団体
- Amsterdam Bar Association, Netherlands
- Association of European Democratic Lawyers (AED)
- Be, l’ordre des Barreaux Francophones et Germanophone de Belgique Avocats/ Francophone and German-speaking Bars of Belgium Lawyers, Belgium
- Bar Human Rights Committee of England and Wales
- Budzowska Fiutowski i Partnerzy. Radcowie Prawni, Poland
- Barreau de Paris/ Paris Bar, France
- Consejo General de la Abogacía Española/ Spanish National Bar, Spain
- Council of Bars and Law Societies of Europe (CCBE)
- Human Rights Committee of the Taipei Bar Association, Taiwan
- Human Rights Now, Japan
- Institut des droits de l’homme des avocats européens (IDHAE)
- International Association of People’s Lawyers, Australian branch
- International Commission of Jurists (ICJ)
- International Observatory for Lawyers in Danger, France
- Lawyers for Lawyers, Netherlands
- Progressive Lawyers Group, Hong Kong
- Swedish Bar Association, Sweden
- Taiwan Support China Human Rights Lawyers Network, Taiwan
- Union Internationale des Avocats/ International Association of Lawyers (UIA)
- Vereniging Sociale Advocatuur Nederland/ Union of Social Lawyers Netherlands
(VSAN), Netherlands
法律学者
- Boehringer, Gill, Honorary Associate of School of Law, Macquarie University, Australia
- Bowring, Bill, Professor of School of Law, Birkbeck College, University of London, UK
- Cohen, Jerome A. Professor of NYU School of Law, US
- Davis, Michael, Professor of Law, University of Hong Kong, Hong Kong
- Higashizawa, Yasushi, Professor of Law, Meiji Gakuin University, Japan
- Kavanagh, Patrick, Professor (retired), Law School Macquarie University, Australia
- Perez-Bustillo, Camilo, Executive Director of the Human Rights Center, Research Professor of Human Rights and Law at the University of Dayton, US
- Pils, Eva, Reader in Transnational Law of Dickson Poon School of Law, King’s College London, UK
- Russell, Stuart, Co-director of International Association of People’s Lawyers Monitoring Committee on Attacks on Lawyers, France
- Tseng, Chien-yuan, Associate Professor, Chung Hua University, Taiwan
弁護士
- Attias, Dominique, France, Vice Chair of the Paris Bar
- Cheung, Alvin, Hong Kong
- Cheng, Winnie, Hong Kong
- Chow, Tonyee, Hong Kong
- Choy, Ki, Hong Kong
- Clancey, John, Hong Kong
- Daly, Mark, Hong Kong
- Deng, Earl, Hong Kong
- Favreau, Bertrand, France, Chairperson of IDHAE
- Fisher, Tony, UK, Chairperson of the Human Rights Committee at the Law Society
of England & Wales, London, United Kingdom
- Grewal, Ankit, India
- Gaasbeek, Hans, Netherlands, Director Foundation Day of the Endangered Lawyer
- Gurses, Dundar, Netherlands
- Ho, Duncan, Hong Kong
- Jorvina, Josue, Jr., the Philippines
- Kwan, Janice, Hong Kong
- Mark, Hong Kong
- Langenberg, J.M., Netherlands
- Leung, Wilson, Hong Kong
- Li, Billy, Hong Kong
- Lu, Besson, Taiwan, Senior Partner of Baker & McKenzie – Taiwan
- Man, Jonathan, Hong Kong
- Ng, Chris, Hong Kong
- Ng, Irene, Hong Kong
- Ng, Leo, Hong Kong
- Ng, Senia, Hong Kong
- Poon, Debora, Hong Kong
- Shek, Randy, Hong Kong
- Tam, Jeffrey, Hong Kong
- Wong, Linda, Hong Kong
- Yam, Kevin, Hong Kong
法学生
- Chan, Kristine, Hong Kong
- Ip, Jonathan, Hong Kong
- Koon, Jay, Hong Kong
- Leung, Yvonne, Hong Kong
- Yip, Claudia, Hong Kong
[1] 正式逮捕された弁護士及びリーガルアシスタントは以下の通り。
王宇、鋒鋭法律事務所の弁護士。(「国家政権転覆罪」で逮捕。警察による捜査は2016年8月3日までさらに2ヶ月延長されると弁護人が口頭で伝えられた。)
包龍軍、弁護士。(「国家政権転覆扇動罪」で逮捕。捜査状況は不明だが、おそらく2016年8月3日までさらに2ヶ月延長された模様。)
周世鋒、弁護士、鋒鋭法律事務所の代表。(「国家政権転覆罪」で逮捕。起訴のため送検される旨、家族は口頭で伝えられた。弟は依頼していた弁護士を6月20日に書面により解任させられた。
李和平、弁護士。(「国家政権転覆罪」で逮捕。起訴のため送検される旨、家族は口頭で伝えられた。)
劉四新、鋒鋭法律事務所のアシスタント、元弁護士。(「国家政権転覆罪」で逮捕。捜査状況は不明だが、おそらく2016年8月3日までさらに2ヶ月延長された模様。)
王全璋、鋒鋭法律事務所の弁護士。(「国家政権転覆罪」で逮捕。捜査状況は不明だが、おそらく2016年8月3日までさらに2ヶ月延長された模様。)
李春富、弁護士。(「国家政権転覆罪」で逮捕。捜査状況は不明だが、おそらく2016年8月3日までさらに2ヶ月延長された模様。)
謝陽、弁護士。(「国家政権転覆扇動罪」で逮捕。警察による捜査は2016年8月3日までさらに2ヶ月延長される旨、家族は口頭で伝えられた。)
謝燕益、弁護士。(「国家政権転覆扇動罪」で逮捕。捜査状況は不明だが、おそらく2016年8月3日までさらに2ヶ月延長された模様。)
呉淦(別名 butcher)、鋒鋭法律事務所のリーガルアシスタント。(「国家政権転覆扇動罪」及び「騒動挑発罪」で逮捕。警察による捜査は2016年8月3日までさらに2ヶ月延長される旨、家族は口頭で伝えられた。)
[2] 拘束されている弁護士9名のうち、王宇、王全璋、李和平、周世鋒、李春富、劉四新の6名は国家政権転覆罪で逮捕され、包竜軍、謝燕益、謝陽の3名は国家政権転覆扇動罪で逮捕された。法律事務所スタッフの呉淦は国家政権転覆扇動罪で逮捕された。リーガルアシスタントの趙威は国家政権転覆罪で逮捕されたが2016年7月7日に釈放された。
[3] 王宇、周世鋒、李和平、劉四新、謝燕益、包竜軍、趙威(2016年7月7日に釈放)はいずれも弁護人選任につき警察の介入を受けた。2016年6月20日、周世鋒の弟は北京・天津の警察の圧力により、依頼していた弁護人を書面により解任させられた。)
[4] 李和平の6歳の娘は、母親とともに北京に一時居住する許可を未だ受けることができず、教育に対する権利を剥奪されている。現時点までに人権派弁護士及びその家族30名は、国家安全を害するとの理由により国外渡航を禁止されている。
[5] 国連弁護士の役割に関する基本原則は、独立した弁護士に対する権利の主要な側面に関する国際規範につき簡潔に述べている。当該基本原則は、1990年9月7日にキューバのハバナで開催された犯罪防止及び犯罪人の処遇に関する第8回国連会議において全会一致で採択された。その後国連総会は、第三委員会及び本会議において1990年12月18日に投票なしで採択した「司法行政における人権」決議において、当該基本原則を「歓迎」した。当該基本原則は以下のように述べている。
- 「すべての人々は、その権利を擁護し、刑事手続のあらゆる段階で自身を防御するために、自ら選んだ弁護士の援助を求める権利を有する」(原則1)。
- 弁護士へのアクセスを促進するために実効性のある手続を整備しなければならない(原則2)
- 弁護士はその職務を遂行する上で、その依頼人と同一視されてはならない(原則18)
- 「政府は、弁護士が(a)脅迫、妨害、嫌がらせ、又は不当な干渉を受けることなく職務を遂行できること(b)その国の内外を問わず、自由に移動し彼らの依頼者と自由に相談できること(c)弁護士の職業的義務、基準、倫理に一致するすべての活動が、刑事的訴追、行政的処分、経済的その他の制裁を受けないこと、又はそれらによって脅かされないこと、を保証しなければならない」(原則16)。