ヒューマンライツ・ナウは2016年6月28日、声明「高校生の政治活動の自由への制約に懸念を表明する」を発表しました。
全文とPDFをお知らせ致します。
声明全文(日本語) Political Activities_HRN_20160628 [PDF]
高校生の政治活動の自由への制約に懸念を表明する。
2016年6月28日
国際人権NGOヒューマンライツ・ナウは、今般の参議院選挙から18歳選挙権が導入されたことを歓迎する一方、高校生の学校外での政治活動を制約する動きが起きていることに対し、強い懸念を表明する。
1 届出制の導入
(1)文部科学省は、平成27年10月29日、18歳以上の学生の政治活動・選挙活動といった政治的活動を限定的に認める旨の通知を各都道府県教育委員会及び各都道府県知事等宛に発出した。
その後、文部科学省は平成28年1月29日に開催された、都道府県教育委員会の学生指導担当者らを対象にした会議において、上記の通知に関するQ&Aと題する書面を交付した。このQ&Aでは、「放課後、休日等に学校の構外で行われる政治的活動等について、届出制とすることはできますか。」という問いに対し、「放課後、休日等に学校の構外で行われる、高等学校等の生徒による政治的活動等…も、高等学校の教育目的の達成等の観点から必要かつ合理的な範囲内で制約を受ける…高校生の政治的活動等に係る指導の在り方については、このような観点からの必要かつ合理的な範囲内の制約となるよう、各学校等において適切に判断すること」[1]との見解が示され、放課後や休日等の学外での生徒の政治活動・選挙活動一般について学校への届け出を必要とする届出制を採用することも認められるとしている。
文部科学省のこの回答を受けて、現に、届け出制の導入について検討した自治体も少なからず存在する[2]。また、「各学校に判断を委ねる」としつつも実質的に届出制を導入したと言える自治体も存在する。
愛媛県は、「各学校に判断を委ねる」とする見解をとっているものの、県教育委員会が事前届け出制を盛り込んだ「校則変更例」を示した上で、各校の判断に委ねた結果、愛媛県立の高校全校が事前の届け出を義務付ける校則に4月の新年度から変更することにしたと報道されている[3]。
2 届出制の問題点
(1)上記のような届出制の導入は、以下のように憲法が21条1項や19条や、日本が批准した子どもの権利条約12条1項、13条1項に違反するものであり、到底認めることができない。
(2)表現の自由は憲法21条1項で国民に保障された自由であり、高校生も表現活動を自由に行うことが出来るのが原則である。
また、表現の自由が、一定の制約を受けうるとしても、その制約は必要かつ最小限度のものでなければならない。なぜならば、表現活動は主権者たる国民が自己の意見を政治に反映させるという重要な意義を有することから、表現の自由は民主主義に不可欠な極めて重要な権利であると言える。特に、選挙年齢が18歳以上に引き下げられたことから、学生が自ら選挙権を有する主権者としての意識を育て、自らの政治的な思想をより高める機会を得るためにも学生の政治的活動はこれまで以上に重要な意義を有するからである。
事前の届出制が導入されてしまうと、学生は政治的活動に参加するために自己の政治的思想を告白することを学校側に強要されることになる。
学生にとって、このように告白を強要されることは強度の精神的苦痛を伴うものである。また、政治的思想を学校に知られることで自分が進学や教師の学生に対する対応などに関して不利益を被るのではないかと不安になり、政治的活動への参加を控えることは容易に予測される。現に、生徒の中には「届け出る時に先生から何か言われるのではないかと思うと、参加しづらくなる」と困惑する声もある[4]。
届出制にはこのような弊害することから、この導入は学生が政治的活動に参加することを萎縮することにつながるものである。
そして、学生の政治的活動への参加を委縮させることは、彼(女)らの政治的な意見を表明する機会を不当に奪うことにつながるものであることから、届出制の導入は、学生の表現の自由に対する必要最小限の制約とはいえず、憲法21条1項に違反する行為である。
また、これに留まらず、前記のとおり、届出制は政治的思想の告白の強要することにつながることから、この導入は思想・良心の自由に包含され憲法19条で保障される沈黙の自由の不当な侵害であり、憲法19条にも反する行為である。
以上のように、届出制の導入は憲法に違反する。
(3)高校生についても、自由権規約19条の表現の自由が保障されなければならず、18歳未満の高校生については、子どもの権利条約12条で意見表明権、同13条1項で政治的活動を含めた表現の自由が認められている。届け出制の導入は、こうした自由権規約、子どもの権利条約上認められる高校生の権利をも侵害するものである。
3 結論
よって、ヒューマンライツ・ナウは文部科学省に対し、以下の点を求める。
1 2015年10月29日の新通知を改め、18歳以上か否かにかかわらず高校生の政治活動の自由を原則として認める旨の通知をあらためて全国の教育委員会及び学校等に出すこと。
2 前記「Q&A」を直ちに撤回すること。
また、全国の教育委員会及び公立高校、私立学校に対し、届け出制その他の政治活動に対する制約を採用しないこと、高校生の表現・政治活動の自由や思想・良心の自由を最大限尊重することを求める。
以上
[1] http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1366767.htm
[2] http://mainichi.jp/articles/20151221/k00/00m/040/120000c
[3] http://www.asahi.com/articles/ASJ3C3PWWJ3CUTIL00C.html
[4] http://mainichi.jp/senkyo/articles/20151221/ddm/003/010/071000