2015年1月、ヒューマンライツ・ナウ(HRN)は、香港を拠点とするNGO・Students & Scholars Against Corporate Misbehaviour (SACOM)およびLabour Action China (LAC)と共同で、ユニクロの中国下請け工場での労働環境に関する調査報告書、「中国国内ユニクロ下請け工場における労働環境調査報告書」を発表し、FR社に対して改善を求めてきました。
その後、ファーストリテイリング社(FR社)から進捗状況を示すCSRアクションが出されるなど改善の動きがありますが、NGO側とFR社との間の実質的対話は3月3日最後に、NGO側の要望にも関わらず、実現しておりません。
こうした状況を受け、報告書発表から半年後の8月21日に、ヒューマンライツ・ナウは、SACOMとLACとの共同声明「ユニクロと労働者の権利:ファーストリテイリング社のCSR Actionを受けて―中国下請け工場における過酷な労働状況についての調査報告書から半年―」を公表し、FR社に対し、さらなる措置の実施と、より包括的な対策に向けた議論をするための協議の再開を要請してきましたが、現在に至るまでFR社から明確な回答を頂いておりません。
当団体としては、調査報告書を公開した団体として、貴社の下請け工場の労働状況の改善をモニタリングし、社会へ報告する責務があると考え、FR社のウェブサイト上での情報公開では改善状況が不明と考えられる事項のうち、特に緊急性が高い事項について要請書としてまとめ、FR社に対し送付し、2ヶ月以内に回答をいただくよう要請しております。
なお、8月の共同声明発表後、SACOMによるフォローアップ調査によって、中国下請け工場のTomwell社、Pacific社において、それぞれ月80時間、90時間の違法時間外労働が確認されましたので、その点についても、改めて調査結果の報告を求めております。
今後、当団体のウェブサイト等において、FR社の対応状況を随時公表し、モニタリングを継続していく予定です。
要請書のPDFはこちらからご覧頂けます。20151106 質問状[PDF]
2015年11月6日
株式会社ファーストリテイリング 御中
貴社下請・委託工場の労働環境改善に関する質問・要請
認定NPO法人ヒューマンライツ・ナウ
1 中国2工場における調査状況公開の要請
当団体は、本年1月、香港のNGOであるSACOM[1]、LAC[2]と共同で、貴社ブランド・ユニクロの2つの中国下請け工場における労働環境に関する調査報告書を発表しました。
その後の大まかな経緯は以下のとおりです。
2015年1月、貴社は、貴社のウェブサイト上の「CSRアクション」において、調査報告書の指摘事項の一部が事実であること、調査を行ったこと、および、是正措置を講ずることを公表した。また、SACOMとの対話を行うことを表明しました。
2015年1月、貴社とSACOM、LAC、当団体との第1回対話を実施しました。
2015年3月、第1回対話で貴社検討事項とされた事項などにつき、第2回対話を実施しました。
貴社は、自社ウェブサイトにおいて、改善方針及び改善状況等を公表しています(最終アップデートは2015年7月31日付CSRアクション)。
当団体は、第2回対話以降も、貴社に対して、貴社ウェブサイトでの公表では不十分と考える改善状況を指摘して改善に貢献するべく、建設的かつ継続的な対話を求めてきたが、貴社は応じていません。
当団体としては、調査報告書を公開した団体として、貴社の下請け工場の労働状況の改善をモニタリングし、社会へ報告する責務があると考えております。
したがって、貴社のウェブサイト上での情報公開では、改善状況が不明と考えられる事項のうち、特に緊急性が高い以下の事項につき、2ヶ月以内に回答をいただきたく、本質問状を送付いたします。あわせて、当団体のウェブサイト等において、貴社の対応状況を随時公表いたします。
(1) Pacific工場への調査で確認された化学薬品の名称および健康対策
ア.開示・回答を求める事項
Pacific工場で使用されている化学薬品の名称
Pacific工場で使用されている化学薬品の管理状況
Pacific工場で使用されている化学薬品に応じた取扱方法、対策
イ.開示・回答を求める理由
私たちの1月の調査報告書では、Pacific工場では、人体に有害とみられる化学薬品が使用されていたことが明らかになり、私たちは、同報告書において、使用されている化学薬品の内容を開示し、適切な健康対策を講じることを勧告しました。しかし、貴社は未だにいかなる化学薬品が使用されていたのかを公表せず、工場で働く労働者にすら開示していません。有害な労働環境と健康への影響に関する情報へのアクセスは、労働者の健康に対する権利の保障として不可欠です。速やかに、使用されている化学薬品の内容を労働者および社会に開示し、それに即してどのような健康対策を講じているのかを明らかにしてください。
(2) 残業時間に関する監査と改善状況
ア.開示・回答を求める事項
・当団体8月21日付の声明において、労働時間に関する改善が見られないことを指摘した後、再度監査を実施し、労働時間の実態把握をしたか否か。
・実態把握をした場合、その手法と結果について
・長時間労働に対する抜本的是正策を講じて、その結果を公表すること
イ.開示・回答を求める理由
本年10月初めに、SACOMは、Tomwel社の工場とPacific工場のそれぞれ20人からインタビュー調査を実施したところ、Tomwel社については月約80時間、Pacific社については月90時間以上の長時間の時間外労働を今なお行っていることが判明しました。[3]
こうした実態は、明らかに中国の労働法に違反するものです。
当団体は既に8月時点で、長時間残業が依然として続いているとし、調査を求めました。新たな聞き取り調査の結果を踏まえ、調査結果を公表し、未だ調査未了であれば調査を実施し、改善を進めるよう求めます。
(3) サプライヤー・リストの公表
ア.開示・回答を求める事項
貴社ブランドのサプライチェーンのサプライヤー・リスト
サプライヤー・リストの公表に関する検討状況(公表しない場合はその理由)
イ.開示・回答を求める理由
私たち(HRN/SACOM.)は2月に公表した声明[4]で、サプライチェーンにおける透明性の確保と、労働者の人権侵害を是正するために、サプライヤー・リストを公表するよう貴社に求めました。各工場における問題点の有無を調査したり、モニタリングするためには、サプライヤー・リストが不可欠です。ところが、貴社はこの点について一切回答しておりません。H &
M Hennes & Mauritz AB (H&M)[5]、Adidas
AG (Adidas)[6]などのグローバルなアパレル企業が次々にサプライヤー・リストの公表を進めている今日、貴社がこれを公表しないことは遺憾です。
サプライヤー・リストの公表に関する現在の検討状況を明らかにしてください。また、公表を行わないと意思決定するならば、その理由を公表してください。
(4) 生活賃金の保障
ア.開示・回答を求める事項
生活賃金に見合った賃金の支払いがなされているかの検討・実施状況(検討しない場合はその理由)
イ.開示・回答を求める理由
私たち(HRN/SACOM.)は、8月の声明[7]において、生活賃金の保障を求めています。
二工場では、基本給が依然として基本給・出来高給とも低いままで改善がなされておらず、それが労働者を違法な長時間残業に日常的に従事する原因をつくっており、生活に見合う賃金の保障なくして、長時間残業を抜本的に改善することはできません。
その地域での生活に必要な賃金(生活賃金)を最低賃金ではまかなえない場合には、生活賃金を基準とした賃金が支払われるべきだと我々は考えています。
H&M、IKEAなどのグローバルな企業は次々に生活賃金の保障に関する取り組みを公表・実施しているにもかかわらず、貴社がこの問題について沈黙を貫いていることは極めて遺憾です。
この点に関する現在の検討状況や、実施計画を明らかにしてください。また、生活賃金に関する取り組みを行わないと決断するのであれば、その理由を公表してください。
2 カンボジアにおける下請け工場の貴社調査について
当団体は、1月の中国下請け工場の調査の後、カンボジアにおける下請け工場の調査を実施し、今年4月にステートメントを公表しました。
これに対し、貴社は、上記ステートメント公表直後に、抜き打ち検査も含む新しいモニタリング手法により監査を実施したとし、「抜き打ち監査及び従業員インタビューの結果、報告書に記載されていたような24時間勤務などの長時間労働や残業代の未払いなどの事実は確認されませんでした。」との報告を今年8月にウェブサイト上に公表しました[8]。
一方で、H&M社は、このステートメントに指摘された3つの工場のうちの1つに生産を委託していたことから、「私たちは、このたび指摘された懸念について、Zhong yinの経営者およびカンボジア縫製工場労働組合(CCAWDU)の間で、建設的なダイアログを実施し、当事者はこれらの問題について最近、合意に至りました。H&Mは、短期雇用契約の濫用が広く横行していることが、縫製産業全体において中核的労働基本権利の侵害を現実に招いており、雇用の不安定、そして最悪の場合には差別や、労組結成の自由の侵害を生んでいるという見解に立っています。」との回答をし、労働者の権利に関する侵害を認めるとともに、改善のための措置をとっています。
こうした対応の違いをみると、カンボジアの工場に対する監査手法のみならず、貴社が改善されたと公表した中国2工場について行った貴社の監査手法が、労働者の権利侵害の実態を正確にモニタリングする適切な手法と言えるかは極めて疑わしいところです。
(1) 監査手法の改善について
カンボジアの労働環境に関する貴社の監査結果と、他のグローバル・ブランドによる事実認識・改善対応との間に、なぜ上記のような180度に近い食い違いが発生したのか、今後どう改善していくのか、について原因分析・検証結果と、新しい対策を公表してください。
(2) モニタリング・スキームへの加入について
また、監査の問題が疑われるカンボジアに関しては、ILOが主導するモニタリング・スキームであるBetter Factory Cambodiaへの加入をすることを推奨します。
この点についても、早急に加入に向けて検討を進めることを求めます。
3.今後の対応について
上記1.2.の要請及び質問に対し、2カ月以内に回答されるよう求めます。当団体は、貴社のサプライチェーンを通じた労働環境の改善が透明性を持った形で進展することが重要と考えておりますので、今後も定期的に進捗状況に関して要請を行い、その進捗状況を評価し、回答・対応が十分でなければ、さらに公開書簡を発信し対応を求めていく所存です。
併せて、こうした問題について建設的な対話を進めるために、当団体との直接の対話の再開を要請します。
以上
[2] Labour Action China
[3] Tomwell社の労働者20人へのインタビューによれば、月曜日、水曜日、金曜日は2時間、火曜日と木曜日は3時間の残業をし、土曜日には8時間労働するとしており、これによれば合計月80時間となる。Pacific社の労働者20人へのインタビューによれば、労働者は毎日朝7時半から夜7時半まで働き(一日2.5時間の残業時間)、7日連続働いて1日休むというシフトであるという。合計90時間以上の残業時間となる。
[4] http://hrn.or.jp/activity/2127/
[5] http://sustainability.hm.com/en/sustainability/downloads-resources/resources/supplier-list.html
[6] http://www.adidas-group.com/en/sustainability/supply-chain/supply-chain-structure/
[7] http://hrn.or.jp/activity/2191/
[8] http://www.fastretailing.com/jp/csr/news/1508051700.html