【イベント報告】15/2/6私たちは中東の平和にどう貢献できるのか 後藤健二さんらのシリア人質事件を受けて今考える

私たちは中東の平和にどう貢献できるのか
後藤健二さんらのシリア人質事件を受けて今考える
ジャーナリストの後藤健二さんら邦人2名がISによって殺害されたとの報道を受け、
HRNの呼び掛けで急きょ、2月6日夜に緊急集会「後藤健二さんらのシリア人質
事件を受けて今考える −私たちは中東の平和にどう貢献できるのか−」が
開催されました。
短い告知期間にも関わらず、300人を超える多くの方で会場は超満員となり、
NGO、ジャーナリストの立場からイラク等の紛争と人権侵害に関わり続けてきた
パネリストらが真剣な議論を展開しました。
パネリスト 
○佐藤真紀氏
日本イラク医療支援ネットワーク(JIM-NET)事務局長
○安田純平氏
フリージャーナリスト
○綿井健陽氏
ジャーナリスト・映画監督/アジアプレス
○豊田直巳氏
ジャーナリスト、日本ビジュアルジャーナリスト協会(JVJA)会員
○志葉 玲氏
ジャーナリスト、「イラク戦争の検証を求めるネットワーク」事務局長
○伊藤和子
弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ事務局長・
コーディネーター兼
○主催団体 
 ヒューマンライツ・ナウ(HRN)
 日本イラク医療支援ネットワーク(JIM-NET)
 日本ビジュアル・ジャーナリスト協会(JVJA)
 イラク戦争の検証を求めるネットワーク
私たちの無関心がこうした事態を生んでいる
 まず、後藤氏と親交があったジャーナリストの安田氏は、「マスコ
ミは、後藤さんが最も訴えたかったアサド政権の空爆によって子ど
もらが殺されているという部分を全部切ってしまっていたがこれは
後藤さんに対する侮辱」と指摘。シリア内戦では政府・反政府とも
に残虐行為を繰り返し、それぞれに武器を提供する国もあるという
泥沼状態を見て思考停止になり、世界がシリアを放置するなかで20
万人が殺害されていったとし、「イスラム国が広がっていった背景に
は、私も含めて世界中があれほど殺されていった人たちを見捨てて
きたことがある」「私たちの無関心がこうした事態を生んでいる」と
口火を切りました。
 佐藤氏は、後藤さんとは11年前のイラク戦争で知り合ったとし、
NGOと戦場ジャーナリストは報道と支援という点が違うが、協力し
あいながらこういう狂った世の中を変えていく点で同じだったと述
べ、昨年のIS 誕生以降戦闘が益々激しくなり、難民もどんどん増え
ているが、メディアも報道せず、人々が無関心であるため、資金も
集まらず、「人道支援は焼き石に水のようだ」と指摘、それでも人々
がいる限り水をもっていかなくてはならないとし、人々の関心と支
援を訴えました。
映像がブレーキではなくアクセルになっている
 ジャーナリストの綿井氏は、この2003 年以降だけでも世界の紛争
で6 人の日本人ジャーナリストが命を落としているが、こう事件が
起きたときにだけそのジャーナリストの物語が報道され、注目される
ということを繰り返してきた、しかし、その背景で何が起きているか
を考えるべきだと指摘。シリア・イラクの紛争で命を落としている
ジャーナリストの圧倒的多数は現地ジャーナリストであり、その背景
には、もっと多くの一般市民の死があると訴えました。また、ベトナ
ム戦争のときは映像や写真が戦争のブレーキになり、子どもや市民を
殺すなという反戦の世論が高まり、戦争をやめさせる方向に働いたの
に対し、今では「映像がブレーキではなくアクセルになっている」と
し、残虐な映像がさらに残虐な報復を生むという悪循環が生まれてい
ると指摘。映像とは本来他者と理解し合うためのものなのに、攻撃手
段に使われている事態への強い危機感を表明しました。
 志葉玲氏は、IS 誕生のそもそもの起源はイラク戦争だとし、イラ
ク戦争後、米軍の占領は幾多の人権侵害を生み、刑務所に市民を拘束・
虐待して人々の憎悪を増幅した、そうした一人がIS のリーダーであ
るバグダディ容疑者だったことを指摘。また、サダム・フセインに
代わって米国の後押しで権力を掌握したシーア派・マリキ政権によ
るスンニ派への残虐な弾圧に対し、国際社会が何も手を打たないま
ま、絶望した人々の間にIS を容認する基盤をつくってしまったと指
摘。イラク戦争を支持したのに検証もせず、関心を失った日本の責
任にも言及しました。
今高まった日本の人びとの関心を
一過性のもので終わらせないでほしい 
 豊田氏は、「後藤さんと湯川さんだけではなく毎日何十人も殺され
ているということを私たちがしっかり認識することが大事だ」とし、
「戦場を取材すると暴力では戦争は止まらないということを実感す
る。非暴力でしか解決できないのだから知恵を出さなければいけな
い。この会場に来ない人に知ってもらわなければテロや戦争は止ま
らない」と訴えました。また、私たちが中東を直接変えることが出
来なくても、紛争地域に自衛隊を送り込むと言う政府の方針を私た
ちは変えることができると強調。
 HRN の伊藤事務局長は、アメリカの残虐さを棚に上げてイスラム
国を邪悪だと言うが、そもそもの発端であるイラク戦争によってど
れだけの市民が殺されたのか、と問題提起。イラク戦争以降の米軍
の人権侵害についても、イラク政府による人権侵害についても、国
際社会を構成している大国は見て見ぬふりで、弱者が殺され続けて
いくことに世界は無関心だったと指摘。人々の憎悪がIS の誕生や報
復の連鎖を生んだと述べ、「今高まった日本の人びとの関心を一過性
のもので終わらせないでほしい」と訴えました。
現地からの声 真実を伝えたい
 今後の課題として、ヨルダンから中継で参加した高遠菜穂子氏は、
「昨年、イラクはイラク戦争後最悪の事態に見舞われた。そうした事< /div>

態をマスメディアが報道しないことが問題だ」とし、現在、国際機
関を通じた支援が最も求められているが、援助関係者も殺害されて
しまっている厳しい現実を報告。昨夏は脱水症で人々が死に、1 月に
は16 人の子どもが寒さで凍死した、という難民の実情を伝え、日本
からの支援を訴えました。
 佐藤氏は、今年1 月の閣議決定により、日本のODA を非軍事なら
軍への供与も可能としたことを説明、非軍事といいながらも日本が海
外の紛争を助長することが懸念されるとし、市民の監視の必要性を訴
えました。安田氏は、日本が戦争に加担しないために、「憲法の縛り
をかけ続ける」必要性を強調、綿井氏も、「私たちに何ができるのか
ではなく、何を日本政府にさせてはいけないのかを考える事が重要。
直接的には何もできなくても、イスラムの国や社会で暮らす一般市民
との交流や支援を地道に続けて行くしかない。少しずつしか信頼は得
られない。日本の軍事的な関与が増せば、その信頼は得られにくく
なる」と指摘。志葉氏は、「 『貧困がテロをうむ』とよく言われるが、
本当は『不平等がテロをうむ』ということだ。どこかの国は人を殺し
てもいいのに、どこかの国が人を殺すとテロと言われる。この不平等
がテロをうむ大きな要因をつくっている」とし、パレスチナでは昨夏
500 人の子どもが殺されたが誰の責任も問われないと指摘、どこの国
であろうと国際法違反の犯罪を許さないということが必要だと訴えま
した。豊田氏は、 まず知ることがスタートだとし、イラク戦争や福島
の取材経験を紹介しながら、 本当のことを知るためにはプロパガンダ
とは違うジャーナリズムが必要だとして、戦場ジャーナリストが取材
に行き真実を知らせる必要性を訴えました。
 伊藤事務局長は最後に、日本が空爆する側になりつつあることへ
の懸念を表明。「一方で殺しておいて一方で人道支援をする、そんな
国にしてはならない。日本が他国の人を殺す側にまわろうとすると
き、私たちの無関心は罪になる」「無関心であってはならない」と訴
えて閉会しました。
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