ガザでの軍事行動から一年が経過しましたが、人権侵害の責任追及はいまだ実現していません。
ガザ紛争に関する国連独立調査団の団長であるゴールドストーン判事は昨年11月、ウィーンで、ヒューマンライツ・ナウの独占インタビューに応じてくださいました。
ゴールドストーン判事が昨年10月以降、メディア、NGOからのインタビューには応じておられないなか、ヒューマンライツ・ナウは貴重なインタビューの機会を得ることができましたので、全文ご紹介いたします。
ゴールドストーン氏が率いた、国連人権理事会の派遣によるガザ独立調査団は、昨年、ガザ紛争に関する人権侵害の調査を行い、イスラエル、パレスチナ武装勢力双方の戦争犯罪を認定、国際刑事裁判所への訴追について言及しました。
国連総会・人権理事会は調査団の報告を承認しましたが、安全保障理事会はこれに未だ対応していません。
このインタビューの無断翻訳、引用、転載を固く禁じます。
ゴールドストーン判事へのインタビュー
聞き手:伊藤和子(ヒューマンライツ•ナウ事務局長)
2009年11月14日 ウィーン、オーストリア
伊藤:今回の事実調査団の団長を引き受ける際に、躊躇されていたように思うのですが、どうしてこの任務をお引き受けになったのですか。
ゴールドストーン:私が任務を引き受ける際に躊躇したのは、人権理事会決議がイスラエルとパレスチナ双方の人権侵害に関して公平なものではなかったからです。ですから、最初は断りました。しかし、調査団の構成は、イスラエル及びパレスチナの両者の人権侵害に関して公正に調査をしようというものになりました。そこで、私は、この条件で職務を引き受け、公正な調査になるように最善を尽くしました。
伊藤:この報告書はガザ紛争中に行われた人権侵害についてこれを戦争犯罪を認定し、国際刑事裁判所への訴追についても(ICC)言及しており、非常に大きなインパクトを国際社会に与えたと思います。どうしてこの報告書は従来の事実調査団報告書と異なる特別なものになったとお考えですか。
ゴールドストーン:私は、この報告書が特別であるとは思っていません。私はただ適切なことをしただけです。他の事実調査団も同じことを行っています。例えば、ダルフールでの調査団も戦争犯罪を認定し、国際刑事裁判所への付託を勧告しています。
伊藤:しかし、イスラエルとパレスチナの場合は、他の地域の問題といつも異なる取り扱いを受けてきました。今回はパレスチナ問題に関して人権理事会が委任した調査団としては初めてのものですけれども、国連がいかなるかたちであれ、被占領パレスチナ地域における人権侵害について、戦争犯罪の該当性や国際刑事裁判所への付託について明確に述べたのはいまだかつてないことだと思います。
ゴールドストーン:私たちは、国際法の適用という点において、公正でありたいのです。人権侵害の重大さが同様のレベルであれば、結論や勧告も同様であるべきです。
伊藤:調査団の報告書のなかの勧告部分で、安全保障理事会に対する勧告として、国際刑事裁判所への付託が盛り込まれていますが、これはなぜでしょうか。
ゴールドストーン:それは、国際刑事裁判所への付託が、今回の人権侵害の被害者のために正義を実現できる唯一の方法だからです。イスラエルは国際刑事裁判所の締約国ではありません。ですから、今回の事態を国際刑事裁判所で裁くためには、安全保障理事会の決議が必要なのです。
伊藤:今回あなたはイスラエルの軍事作戦で発生した民間人の殺害を戦争犯罪に相当すると認定しました。しかし、イスラエルは、ガザ地区における民間人被害は二次的なものに過ぎないとか、パレスチナ人を人間の盾として利用したハマスにこそ民間人被害の責任があると主張しています。イスラエルの主張について、どのようお考えですか。
ゴールドストーン:私たちが調査した事件の中で、ハマスがパレスチナ人を人間の盾として利用したという事件を見つけることはできませんでした。ただ私たちはすべての事件を調査した訳ではありませんので、そういった意味で、イスラエルの主張のようなケースがあるかどうかはわかりません。しかし、たとえハマスがパレスチナ人を人間の盾として利用していたといても、それは民間人に対する不均衡な攻撃を正当化できるものではありません。
伊藤:国連総会と国連人権理事会は、いずれも、あなたの報告書を支持する決議を採択しました。あなたは国際社会に対して、次に何を期待しますか。
ゴールドストーン:もし、安全保障理事会が今すぐに行動を起こさないのであれば、国際社会はイスラエル、パレスチナ武装勢力の両者にもっともっと圧力をかけて適切な調査を行うようにさせるべきです。もちろん、私は安全保障理事会が被害者への正義の実現のために行動を起こすことを期待しますが。
伊藤:残念ながら多くの欧米諸国は、今回の報告が政治的なバランスに欠けるとして、国連総会および人権理事会の決議の採択に際して、棄権または反対しました。このことについて、どうお考えですか。
ゴールドストーン:日本も棄権をしましたね、なぜでしょうか。
伊藤:日本政府はこれらの決議が政治的であり、バランスに欠けるものだのということを理由にしているようですが。
ゴールドストーン:なぜ欧米諸国や日本は私たちの報告書がバランスに欠けると主張しているのか、その明確な理由を私たちは聞いていません。私は、その理由をはっきり聞かせてもらいたいと思います。大変失望しました。
伊藤:ガザ紛争に関して正義を追求することは、中東の和平プロセスに悪影響を及ぼすという主張については、どのように思われますか。
ゴールドストーン:私はそのように思いません。正義の実現は、常に和平を前進させるはずです。
伊藤: 中東問題に関してはとりわけそれは真実だと思います。人権侵害こそが中東紛争の根底をなすものであり、これほど長い間正義や責任追及なしに、人々は人権侵害に苦しめられてきたのですから。
ゴールドストーン:そうです。
伊藤:国際社会に対して、何か最後にメッセージを頂けますか。
ゴールドストーン:人権侵害はすべて、それがどこで起きようとも、国際法に基づいて同様に取り扱われるべきです。
伊藤:調査団長として、あなたの仕事は終わったのでしょうか。
ゴールドストーン:そうですね、私はやり遂げたと思います。これからは、市民社会が正義の実現のために、その役割を果たす番だと思います。幸運を祈っています。
※このインタビューの原文は、以下を参照してください。
http://www.ngo-hrn.org/active/100112e.html
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