【人権理事会声明】「国際社会はロヒンギャ難民の保護を支援し、ミャンマー政府はロヒンギャ難民関する責任負うべきである」という声明を提出しました。

国際人権NGOヒューマンライツ・ナウは2018年9月10日からスイス・ジュネーブで開催される第39会期人権理事会に向けて「国際社会はロヒンギャ難民の保護を支援し、ミャンマー政府はロヒンギャ難民関する責任負うべきである」という声明を提出しました。

PDFの原文(英語)はこちらよりダウンロードできます。また、下記に声明の翻訳文をご覧になれます。

 


  1.   はじめに

 東京を本拠とする国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ(HRN)は、国を追われたロヒンギャの人々の現状に関し、深く懸念している。

 昨年の暴力により、700,000人を超えるロヒンギャ難民がバングラデシュ・コックスバザールの難民キャンプに逃げ込んだ。それ以前にも既に過去に約200,000人の難民が逃げ込んでいた。難民は、環境面や健康面でのリスク、サービスや援助の不足に直面している。また、ミャンマー政府は、ロヒンギャに対する犯罪を認知できておらず、責任の追及もできていない。政府の対応も信頼できないとして、大きな非難を受けている。

 HRNは、ミャンマー政府に対し、ロヒンギャに対する犯罪の責任を追及し、現状への対応及び将来の暴力の予防につき、信頼に値する真摯な対応を取ることを要請する。国際社会は、ロヒンギャ難民キャンプに対する援助を拡大しなければならない。そして、我々は理事会に対して、国際的な責任追及メカニズムを立ち上げることを要請する。

  1. バングラデシュにおけるロヒンギャの現状

 ロヒンギャ難民が到来し続ける中、資金と利用できる土地の不足、危険な天候の状況、そして膨大なニーズにより、バングラデシュのロヒンギャ難民キャンプは深刻な困難に直面している。.

  1. a) 難民キャンプにおけるリスク

 難民キャンプは、深刻な洪水と土砂崩れによりダメージを受けている。この夏には、洪水と土砂崩れが1,326のシェルターを襲い、けが人や死者が出る事態となっており、難民の生命の権利と健康の権利を脅かしている。7月25日の土砂崩れでは5人の難民の子どもの命が奪われた。このようなリスクは、密集化や、不安定な土壌に建てられたシェルター、最低限以下の生活基準、そして状況の改善への資金不足によって引き起こされている。[1] バングラデシュ政府により近くの適切な土地へのキャンプを拡張、および国際社会からの援助を大幅に拡大すれば、こうした状況を改善することができる。

 過密化に対処するために、バングラデシュは100,000人ものロヒンギャ難民をベンガル湾の無人島ブハシャンチャールに移すという決定を行ったが、本決定には懸念がある。こうした移動には、難民の意思に沿わない退去や移動の自由の制限、そして国境及び他のロヒンギャのコミュニティからの隔離を伴う可能性があり、インフラが不十分であるため、ロヒンギャの生命の権利及び健康の権利を侵害する恐れがある。

  1. b) サービスの不足

 また、難民へのサービスの不足も深刻である。[2] ISCGによると、15歳から24歳の若者に対する教育サービスが不十分であるとのことだった。食料援助も資金不足が顕著であり、ニーズのうち18%しか補うことができていない。健康のニーズについては、たった17%、栄養関連のサービスでカバーできているのは31%となっている。深刻な急性水様性下痢の発生は2018年8月までで、140,118件となっている。WHOのレポートによると、7月中で1週間に10,000件を超える呼吸器感染が発生したと報告されている。

 サービスは、特に保護に関するリスクへの対処のために必要とされている。性的暴力に関するサービスは85%の場所で深刻なほど制限されており、追加で115ほどの連絡ポイントが必要とされている。10,957人の子どもがリスクにさらされていると特定されており、子どもの保護が必要である。[3] 性的暴力やレイプの被害者に対しては、文化を尊重したサービスが特に必要である。[4] これらのリスクはすべて、難民の食料、水、生命そして健康の権利、子どもや女性の権利に対する懸念を拡大させる要因になっている。

  1. c)      ミャンマーに戻るロヒンギャと残るロヒンギャ

 難民は一貫してミャンマーに戻りたいと訴えており、我々のインタビューでもそのように答えている[5] しかしながら、彼らは一貫してその前提条件として市民権の保障、法的権利、サービスへのアクセス、司法、住宅や財産の返還、 ロヒンギャというアイデンティティの公式な認知、そして、権利の尊重、平和と安全を望んでいる。ミャンマーは、帰還者を報告しているが、ロヒンギャの帰還はそれほど多くないと示す証拠がある。[6] ミャンマー・バングラデシュ間の送還に関する合意は、秘密にされていたが、レポーターにリークされており、市民権や移動の自由が保障されてないとして批判を受けた。[7]

 現在ラカイン州に住むロヒンギャは、コミュニティを失い、隔離され、脆弱な状況に立たされており、生きるための困難に直面している。[8] 継続的なラカイン州への人道援助への制限もこうした経済的・社会的権利への脅威を増幅させている。また、ラカイン州において大規模なロヒンギャの恣意的な拘留が行われていると報告されている。[9] また、帰還した難民はミャンマーにおいて拘留に直面しているとの報告もある。[10] こうしたロヒンギャの恣意的な拘留からの自由に対する深刻な侵害が示唆されている一方で、ミャンマー政府は、拘留されているロヒンギャの数や拘留理由を明らかにしていない。

  1.      ジャーナリストへの弾圧

 ミャンマーは、また、ジャーナリストを弾圧し、特にロヒンギャに関する報道に関して、表現の自由を侵害している。[11] 2018年7月9日、7か月の拘留の後に、ミャンマーの裁判所は、10人のロヒンギャの処刑(上記記載)の調査報道に関し、国の秘密を入手したとしてロイター通信の2人のジャーナリスト(Wa LoneとKyaw Doe Oo)を告発し、裁判を開始した。[12] ジャーナリストは、警察が彼らに書類を仕掛けたと主張している。

 また、ジャーナリストと活動家は、2年の刑期を伴う拘留の脅威にさらされている。ミャンマーのジャーナリストによると、「最も危険なのは、ラカインの地元の人々が、軍隊や警察官がもしカメラと来た場合、人を殺してもよいと理解していることである。[13]

  1.   ミャンマー政府の ロヒンギャ危機の責任追及の失敗

 人権侵害の規模と深刻さを鑑みると、ロヒンギャ危機に対するミャンマー政府の対応は、非常に不十分であり。 ミャンマー政府は、 ロヒンギャに対する犯罪の訴えを徹底的に否定しており、例えば、ロヒンギャ自身が自分の家を燃やしたなどと説明したり[14]、否定できない証拠が報道された10人の処刑の件(報道をしたジャーナリストはそれ以降拘留されている)を除いて、軍隊は法外なロヒンギャの処刑を否定している。[15] 政府は、また、ICCの管轄権の要請を「意味がなく、退けるべきだ」と拒否している。[16]

 危機への勧告の実施のためにミャンマー政府によりアドバイザリー・パネルが立ち上げられたが、パネルが犯罪を誤魔化すために使われていると指摘したBill Riachardsonとパネルの進捗が見られないとして抗議したKobsk Chutikulの二人がすでに辞職している。[17]

 ミャンマー政府によると、上記に記載した処刑以外には、国内的にも、国際的にもロヒンギャに対する犯罪に対してする訴追や責任追及のメカニズムは取られていないという。

 8月、ミャンマー政府は、独立調査委員会(ICOE)の設立を公表した。[18] しかしながら、委員会は、軍隊によって行われた大規模な人権侵害の責任を追及するものではないようである。

  1.   勧告

 HRNはロヒンギャ難民の状況に関して、深い懸念を表明し、下記を勧告する。

ミャンマー政府に対して、

  • ロヒンギャに対する人権侵害と差別を止めること
  • 恣意的に拘留されたロヒンギャの解放
  • 今すぐ、ミャンマーに住むロヒンギャが、人道援助に十分にアクセスできるように即時担保すること
  • ロヒンギャに対する犯罪の責任追及を担保
  • 帰還の合意に関して、ロヒンギャの市民権、移動の自由、及び、ロヒンギャというアイデンティティの公式な認知、住宅や財産の返還、権利の尊重、平和と安全等ロヒンギャから要請された点に対応するように修正すること
  • 問題の根本原因に対処し、長期的な解決法を見出し、コフィ・アナン氏が主導した ラカイン州における諮問委員会によって出された勧告を実施すること

バングラデシュ政府に対して、

  • ロヒンギャ難民キャンプの拡大のための近隣の適した土地を提供し、難民の移動の自由と法的地位を担保すること

理事会に対して、

  • 国際的な責任追及メカニズムを立ち上げ、ロヒンギャに対する犯罪の訴追を促進すること

                               

[1] “ISCG Situation Report: Aug 2018”, https://reliefweb.int/report/bangladesh/iscg-situation-report-rohingya-crisis-coxs-bazar-16-august-2018-covering-31st-13th; “Landslides kill five near Rohingya camps in Bangladesh”, 25 July 2018, http://www.dailymail.co.uk/wires/afp/article-5989339/Landslides-kill-five-near-Rohingya-camps-Bangladesh.html.

[2] The statistics in this section are from ibid.

[3] ISCG, supra, note 1.

[4] Alsaafin, “Bangladesh: Rohingya rape survivors battle stigma”, Al Jazeera, 8 Aug. 2018, https://www.aljazeera.com/news/southasia/2018/08/bangladesh-rohingya-rape-survivors-battle-stigma-180807152944389.html.

[5] HRN, “Investigative Report of Rohingya Refugee Camps in Bangladesh”, 12 April 2018, http://hrn.or.jp/eng/news/2018/04/12/rohingya-camps-report/.

[6] Beech, “Myanmar Official Line: Rohingya Are Returning. But Cracks in That Story Abound”, NYTimes, 2 Aug. 2018, https://www.nytimes.com/2018/08/02/world/asia/myanmar-rohingya-rakhine.html.

[7] “U.N. urges Myanmar to pave way for Rohingya returns, grant citizenship”, Reuters, 8 Aug. 2018, https://www.reuters.com/article/us-myanmar-rohingya-un/u-n-urges-myanmar-to-pave-way-for-rohingya-returns-grant-citizenship-idUSKBN1KT142.

[8] Emont & Myo Myo, “Rohingya Muslims Who Remain in Myanmar Struggle to Survive”, WSJ, 8 Aug. 2018, https://www.wsj.com/articles/rohingya-muslims-who-remain-in-myanmar-struggle-to-survive-1533720603.

[9] Siddiqui & McPherson, “We are always missing you’: Torn apart by violence, Rohingya families connect through letters”, 13 July 2018, Reuters, https://www.reuters.com/article/us-myanmar-rohingya-messages-insight/we-are-always-missing-you-torn-apart-by-violence-rohingya-families-connect-through-letters-idUSKBN1K31QH.

[10] Al Hussein, “Thousands of Rohingya refugees continue to flee violence”, OHCHR, 4 July 2018, https://www.ohchr.org/EN/NewsEvents/Pages/DisplayNews.aspx?NewsID=23324.

[11] Starr, “The Myanmar journalists risking their lives to report on the Rohingya’s plight“, The National, 3 Aug. 2018, https://www.thenational.ae/arts-culture/the-myanmar-journalists-risking-their-lives-to-report-on-the-rohingya-s-plight-1.756498.

[12] Slodkowski & Naing, “Myanmar court files secrets act charges against Reuters reporters “, Reuters, 9 July 2018, https://www.reuters.com/article/us-myanmar-journalists-ruling/myanmar-court-charges-reuters-reporters-under-official-secrets-act-idUSKBN1JZ095.

[13] Starr, supra, note 17.

[14] Beech, “Myanmar Official Line: Rohingya Are Returning. But Cracks in That Story Abound.”, NYTimes, 2 Aug. 2018, https://www.nytimes.com/2018/08/02/world/asia/myanmar-rohingya-rakhine.html.

[15] Al Hussein, supra note 8.

[16] “Myanmar to ICC: Rohingya jurisdiction request ‘should be dismissed’”, Reuters, 9 Aug. 2018, https://www.reuters.com/article/us-myanmar-rohingya/myanmar-to-icc-rohingya-jurisdiction-request-should-be-dismissed-idUSKBN1KU1NG.

[17] “Citing lack of progress, secretary to Myanmar’s Rohingya panel quits”, Reuters, 21 July 2018, https://www.reuters.com/article/us-myanmar-rohingya-panel-exclusive/exclusive-citing-lack-of-progress-secretary-to-myanmars-rohingya-panel-quits-idUSKBN1KA2IB.

[18] http://www.moi.gov.mm/moi:eng/?q=news/17/08/2018/id-14587