【人権理事会声明】「中国の人権派弁護士の資格を廃止、無効化していることに対して深い懸念を表明する」という声明を提出しました。

国際人権NGOヒューマンライツ・ナウは2018年9月10日からスイス・ジュネーブで開催される第39会期人権理事会に向けて「中国の人権派弁護士の資格を廃止、無効化していることに対して深い懸念を表明する」という声明を提出しました。

PDFの原文(英語)はこちらよりダウンロードできます。また、下記に声明の翻訳文をご覧になれます。

 


東京に本拠を置く国際人権NGOヒューマンライツナウ(HRN)は、中国全土で2015年7月9日に始まった中国当局が行った人権派弁護士の一斉拘束、いわゆる709事件などの権利擁護活動家への弾圧、そして中国の人権派弁護士が資格を中国政府により廃止、無効化されていることに関して深い懸念を表明する。

HRNは、中国当局に恣意的に拘禁されている弁護士を解放し、恣意的に無効されている弁護士資格を復帰し、そして人権派弁護士に対する嫌がらせや弾圧を終えるように呼びかけた。

 

1.続く拘束や尋問による人権派弁護士の資格の廃止、無効化

 

3年前の2015年7月9日、321人以上の弁護士、パラリーガル、助手、法律事務所の役員、人権活動家と彼らの家族が「尋問され、召喚され、国を離れることを禁じられ、軟禁状態を強いられ、自宅監視され、刑事的に拘置されるまたは逮捕」されている。多くが国家政権転覆罪で告訴されており、重大犯罪の集団の一員だと国営メディアによって烙印を押されている。[1]

 

特に以下のことが報告された:

  • 1人の弁護士が裁判待ちの状態である。(王全璋Wang Quanzhang
  • 14人が判決を宣告されており、その内、5人が刑に服している(吴淦Wu Gan、弁護士周世鋒Zhou Shifeng、胡石根Hu Shigen、弁護士江天勇Jiang Tianyong、尹旭安Yin Xu’an)。そして、3人が執行猶予付きの判決をうけており(弁護士李和平Li Heping、勾洪国Gou Hongguo、翟岩民Zhai Yanmin)、5人が刑を終了しており、(劉星Liu Xing、张皖荷Zhang Wanhe、姚建清Yao Jianqing、李燕軍Li Yanjun、王芳Wang Fang)一人が刑を免除されている(弁護士謝陽Xie Yang)。
  • 一人が自宅監視の状況にいる(张凯Zhang Kai)。
  • 25人が保釈が取り消されている。そのうち、11人が弁護士である。(王秋実Wang Qiushi、黄力群Huang Liqun、隋牧青Sui Muqing、謝遠東Xie Yuandong、李姝雲Li Shuyun、王宇Wang Yu、包龍軍Bao Longjun、任全牛Ren Quanniu、四新Liu Sixin、李春富Li Chunfu、謝燕益Xie Yanyi)
  • 43人は国外に出ることを禁じられている。
  • 265人が期間的に拘束されており、強制的に尋問されており、召喚されており、1人告訴が取り下げられた。[2]

 

数年後の今になっても、弁護士への攻撃は続いている。例えば、2018年1月19日に全国人民代表大会が憲法改正を行い、習近平を弾劾するように呼びかけた2つの公開状を弁護士余文生が送ってから、彼は「国家政権転覆煽動」そして「公共秩序を乱す」として弁護士資格を廃止され、拘束されている。[3]

 

さらに、2017年10月から2018年7月まで、中国当局によって16人以上の人権派弁護士と3人以上の国内の弁護士事務所が行政処分として資格を廃止や無効化されており、弁護士の執業権利を剥奪されている。[4] 2016年に、中国政府は2つの部門規章(「弁護士事務所管理弁法」と「弁護士執業管理弁法」)を改訂した。これらの法律は司法部が弁護士に対して行う行政処分の法的根拠になっており、その強制力を増大させるものである。[5]

 

改訂された規制には弁護士事務所や弁護士各個人が社会主義体制と中国共産党を擁護しなくてはならないとする。同様に同規制50条には「弁護士事務所ではオンラインでの発言、事件に関して公的な場で意見を述べること等を行った弁護士を解雇しなくてはならない。然もなければ、弁護士事務所自体が資格を失うことになる」と規定されている。[6] これは国際人権宣言をはじめ中国の民法や憲法によって保障されている弁護士の言論の自由を脅かしている。特に注意すべきことは、これらの規制の影響を受けているのは709事件で拘束されてしまった人々や709事件で拘束された方々の代理をする弁護士である。[7]

 

2.法的義務と国際的基準からの逸脱、または中国当局による弁護士への嫌がらせ

 

中国当局の弁護士・助手または弁護士事務所の業務の内容への嫌がらせおよび行政処分は、国際人権宣言(UDHR)第19条によって保障されている言論の自由を侵害している。さらに、恣意的な拘置は、UDHRの9条又は中華人民共和国憲法の35条「中華人民共和国は、言論、出版、集会、結社、行進、示威の自由を有する。」に違反している。

 

この状況は1990年に犯罪防止及び犯罪者の処遇に関する第8回国連会議にて採択された弁護士の役割に関する国際連合基本原則第16条[8]

政府は、弁護士が、(a)脅迫、妨害、嫌がらせ、不当な干渉を受けることなしに職務が遂行できるように、(b)その国の中においても、外においても、自由に旅行し、彼らの依頼者と自由に相談ができるように、(c)弁護士の職業的義務、スタンダード、倫理に一致しているすべての活動が、刑事的訴追、行政的処分、経済的あるいは他の形での制裁によって脅かされることのないように、しなければならない。[9]

 

またこの基本原則の第23条も同様に表現の自由と集会を保障している:

弁護士は、他の市民と同様に表現の自由、信仰の自由、結社及び集会の自由を有する。特に彼らは、法、司法、人権の向上と防御に関する公の議論に参加したり、地方のレベルの、一国のレベルの、あるいは国際的レベルの組織に参加したり、そのような組織を結成したり、そのような組織の会合に参加したりする権利を有している。彼らが適法な行動や適法な組織に参加したことの故をもって、彼らの弁護士としての活動が制限がされることがあってはならない。

 

4.勧告

ヒューマンライツ・ナウは中国における人権派弁護士への続いている嫌がらせに対して深い懸念を表明する。中国政府に対して以下のように勧告する:

  • 抑圧的な弾圧を終え、拘束された全ての人権派弁護士や活動家を解放すること、そして原判決を取り消すこと
  • 弁護士の役割に関する国際連合基本原則に準じて、人権派弁護士の資格の廃止、無効化に関する決定を取り下げること
  • 既に行われた法的資格の廃止を取り下げ、法専門家による権利の自由行使を確保すること
  • 国内法や国際原則や義務に則って人権派弁護士、助手、弁護士事務所に対する政治的専門的抑圧また嫌がらせをやめること
  • 国際人権宣言、弁護士の役割に関する国際連合基本原則および中国が1998年に署名した国際人権規約国際義務にのっとり、刑事訴訟法又は規制を見直し、改訂を行うこと、また弁護士、弁護士事務所に関する法律および規制を改訂すること。

 

[1]China Human Rights Lawyers Concern Group (CHRLCG), [“709 Crackdown”] Latest Data and Development of Cases as of 1800 7 July 2018.

http://www.chrlawyers.hk/en/content/%E3%80%90%E2%80%9C709-crackdown%E2%80%9D%E3%80%91-latest-data-and-development-cases-1800-7-july-2018.

Reuters, “In 2015, China crushed rights lawyers but activists are still organizing”, 9 July 2017,

https://www.reuters.com/article/us-china-rights-idUSKBN19U05T.

 

[2]同上

 

[3]Reuters, “Detained Chinese rights lawyer charged with subversion of state power”,

https://www.reuters.com/article/us-china-rights/detained-chinese-rights-lawyer-charged-with-subversion-of-state-power-wife-idUSKBN1FJ0HO

 

[4]CHRLCG, “A Global Joint Statement on the 3rdAnniversary of 709 Crackdown and China Human Rights Lawyers’ Day”, 9 July 2018. http://www.chrlawyers.hk/en/content/global-joint-statement-3rdanniversary-709-crackdown-and-china-human-rights-lawyers%E2%80%99-day#_ftn2.

 

[5]Chinese Human Rights Defenders, “Revised Measures on Law Firms Further Curb Independence of Chinese Lawyers”, 3 October 2016. https://www.nchrd.org/2016/10/chrb-revised-measures-on-law-firms-further-curb-independence-of-chinese-lawyers-921-103-2016/.

 

[6]同上

 

[7]CHRLCG, “Joint Statement”, 7 June 2018, http://www.chrlawyers.hk/en/content/%E3%80%90-joint-statement-strongly-condemn-chinese-government%E2%80%99s-suppression-against-human-rights.

 

[8]United Nations Basic Principle of the Role of Lawyers,

https://www.ohchr.org/en/professionalinterest/pages/roleoflawyers.aspx.

 

[9]http://2010ken.la.coocan.jp/jp/f/f9.html