【提言書】非財務情報(ESG) 開示をめぐる国際的動向と提言

「非財務情報(ESG) 開示をめぐる国際的動向と提言」を公表します。

国際人権NGOヒューマンライツ・ナウは、本日、「非財務情報(ESG) 開示をめぐる国際的動向と提言」を公表しました。
 2016年11月、日本政府は国連人権理事会において、同理事会が2011年に採択した国連「ビジネスと人権に関する指導原則」に関する国内行動計画を策定していくことを宣言し、その策定作業が着手されています。
 一方、2015年、年金積立金管理運用独立行政法人(以下、「GPIF」という。)が責任投資原則(Principle for Responsible Investment。以下、「PRI」という。)に署名しました。同原則では、機関投資家には、受益者のために長期的視点に立ち最大限の利益を最大限追求する義務があるとして、この受託者としての役割を果たす上で、環境上の問題(Environment)、社会の問題(Social)および企業統治の問題(Governance)(ESG)が重要であるとして、投資対象の主体に対してESGの課題について適切な開示を求めています。
 2015年、東京証券取引所のコーポレート ガバナンス・コードの運用が開始され、このなかでは、社会・環境問題をはじめとするサステナビリティーを巡る課題、女性の活躍促進を含む社内の多様性の確保、内部通報に関する対応が原則として示され、その実施または実施しない場合にはその理由の開示が求められることとなりました。今般その改定案が示されていますが、未だ内容が抽象的です。
 そこで、HRNは、日本における今後の法制化、制度化に資するよう、世界各国・地域の非財務開示に関する法制度を調査し、その内容を本報告書にまとめました。
 本報告書を通じ、欧米のみならず、アジアにおいても、非財務情報開示に関する法令や証券取引所におけるルールが、日本よりもはるかに進んだ形態で策定・実施されていること、日本の議論が取り残されている状況にあることがわかります。
 HRNは、本報告書において行った調査を踏まえ、企業の非財務情報(ESG情報)の適切な開示を早急に促進する施策が必要であると考え、現在策定中の日本が国連ビジネスと人権に関する指導原則を実施するための国別行動計画にこの点を明確かつ実効性あるかたちで盛り込むことを提言します。
 ESG情報の開示をルールとして確立することは、的確な投資判断という点で重要であると同時に、何よりも開示を通じて、企業によるESG課題へのコンプランス遵守の徹底を図り、国連ビジネスと人権に関する指導原則に定められた企業の人権に対する責任を果たし、持続可能な開発目標(SDGs)等に示された企業の社会・環境問題への責任と課題解決の促進を進めていくにあたって極めて重要であり、今こそ国際的潮流を受けてルール化を進めるべきと考えます。
 報告書全文はこちらから御確認下さい。
 これと併せて、HRNが2018年4月29日付で東京証券取引所上場部に提出した「コーポレートガバナンス・コードの改訂についてのパブリックコメント」も是非参照ください。                                          

【具体的な提言】
HRNは日本政府に対し、以下のことを提言しています。
(1) 国連ビジネスと人権に関する指導原則の国内行動計画について(外務省等)
   国連ビジネスと人権に関する指導原則を実施するための国別行動計画に、非財務情報に関する施策の促進を重点項目として明記すること。
 具体的には、
1) コーポレート ガバナンス・コードの改訂により、コーポレート ガバナンス報告書に開示が求められる非財務情報の記載を拡充する。
2) 企業内容等の開示に関する内閣府令第3号様式の改訂により、有価証券報告書における非財務情報の開示を実現する。
3) 英国現代奴隷法、米国カリフォルニア州サプライチェーン透明化法、フランス・デューディリジェンス法と類似した立法を検討する。
4) 公共工事の品質確保の促進に関する法律公共工事の品質確保の促進に関する施策を総合的に推進するための基本的な方針、ないし公共工事の入札及び契約の適正化を図るための措置に関する指針の改正を行い、サプライチェーンも含めたESGの取り組みを明記するとともに、価格以外の評価項目としてESGの取り組みを取り入れること

(2) コーポレート ガバナンス・コードの改訂(金融庁等)
   コーポレート ガバナンス報告書の記載事項について、コーポレート ガバナンス・コードの原則2-3ないし5、4-11を改訂し、「特定の事項を開示すべき項目」を改正し、非財務情報開示を諸外国並みに促進する。
※内容の詳細は、当団体が東京証券取引所に提出したパブリックコメント参照。全文はこちらから御確認下さい。

 (3) 有価証券報告書における非財務情報開示の促進
企業内容等の開示に関する内閣府令第3号様式を以下の通り改訂し、非財務情報開示を促進すること

【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】の記載について
 具体的に、下記事項について記載する旨明示する。
1) 自社ならびにその子会社にとどまらず、下請業者及びサプライヤーとの関係における、環境、社会、ガバナンスに関する方針および採用しているリスク評価の手続き・基準
2) 国際労働機関条約(ILO)の促進及び遵守などの方針(とりわけ強制労働、奴隷労働、人身売買の禁止、児童労働の禁止等)とその実施内容とその結果
3) 女性活躍促進法・男女雇用機会均等法に基づく男女平等・女性の活躍に関する情報および障害者差別解消法に基づく障害者施策の情報、性的少数者、外国人を含めた多様性確保と差別禁止のための施策
4) 女性差別、女性に対する暴力、セクシュアルハラスメント、パワーハラスメントに対する防止、被害救済のための方針と相談対応・調査・救済に関する体制
5) 海外贈収賄に関する内部統制における方針とその実施内容
6) 内部通報に関する通報者保護等の対応
7) 業態に応じた人権に関する特定リスクへの対応(紛争鉱物対応を含む紛争助長回避の対応方針及び実施、先住民の権利・土地の権利に関する対応方針と実施等)
【事業等のリスク】の記載について
 企業のストラクチャー、事業およびサプライチェーンに関する情報、事業に関連する主要なリスクに対する対処状況(悪影響を及ぼす可能性のある取引関係、製品又はサービス、及び、対象会社が当該リスクをどのように管理するか、業態に応じた人権に関する特定リスク(カントリーリスク、セクターリスク、ビジネスパートナーリスク、トランザクションリスクへの対応を含む。)への対応が明記されるべきである。

(4)  公共調達基準におけるESG基準の導入と開示
公共調達基準に人権尊重を含むESG基準を導入し、その遵守とともに開示を要求することを提案する。

(5)   英国現代奴隷法等に類似した立法の制定
我が国においても、この課題に包括的に対応していくために、英国現代奴隷法や米国カリフォルニア州サプライチェーン透明化法、フランス「人権デュー・ディリジェンス法」を参照し、場合によっては強制労働、奴隷労働、児童労働、人身取引等の人権侵害に特化したかたちで、サプライチェーン上のリスクの特定、対処方針およびその実施について開示を義務付ける立法を制定することを提案する。