【声明】2015年7月の一斉取締りから2年たってなお続く、 中国政府による人権擁護者・人権派弁護士の拘束・攻撃に強く抗議する。

 
2015年7月9日に、中国では、人権派弁護士が一斉拘束される事件が発生しました。現在でも行方が分からない弁護士がいる他、拷問や自白の強要、弁護人選任権の侵害等の問題が国連の人権機関や国際人権NGO、国際法曹団体、各国弁護士会等から指摘されています。

ヒューマンライツ・ナウ(HRN)は、2015年7月9日の弁護士一斉拘束以後、世界各国のNGOとも協力しながら声明を発表する等の活動を続けてきました。今回、HRNは2015年7月の一斉取締りから2年たってなお続く、中国政府による人権擁護者・人権派弁護士の拘束・攻撃に強く抗議する声明文を公表しました。


【声明】2015年7月の一斉取締りから2年たってなお続く、
中国政府による人権擁護者・人権派弁護士の拘束・攻撃に強く抗議する。

 

  1. 709事件の概要

 2015年7月9日に始まった中国政府による人権活動家、人権派弁護士の活動を弾圧する一斉拘束(709弾圧事件と呼ばれる)から2年が経過した。
この間、政府は360人を超える弁護士と活動家を尋問し、約40人が中国からの出国を止められ、他の40人が恣意的に拘束された。このうち約半数は、1年以上拘束され続けた。拘束期間中、多くの活動家・弁護士は外部との連絡を絶たれ、家族や弁護士と面会することができなかった。当局は否定するが、弾圧後の人権弁護士・活動家の拘束中に拷問、虐待などがあったとの訴えが相次いでいる。
 2016年9月から2017年5月にかけて、709事件の被害者を支援している活動家を対象にした二度目の一斉逮捕が起こった。強制失踪、恣意的拘禁、非人道的な取り扱いなどが報告されている。
 裁判にかけられた弁護士のなかには、中国の法律に基づく権利擁護活動をしたことを理由に国家政権転覆扇動罪や国家政権転覆罪で訴えられ、有罪を宣告された者もいる。
 709以降の人権抑圧は今も続いており、その影響は今も中国における基本的人権擁護に深刻な影を落としている。
 東京を本拠とする国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ(HRN)は改めてこうした人権活動家、人権派弁護士への攻撃に対し抗議し、今も続く人権抑圧に懸念を表明する。

 

  1. 今もなお続く活動家・弁護士に対する虐待

 709事件で一斉拘束された人権活動家・人権派弁護士のうち、最低でも5人が今もなお収監されている。
 そのうち2人、Zhou Shifeng (周世锋)、Hu Shigen (胡石根)は7年以上の懲役刑を言い渡された。そして、拘束されているJiang Tianyong (江天勇)氏、Wu Gan (吴淦)氏、王全璋(Wang Quanzhang)氏については、裁判がまだ行われていない3
 また、Gou Hongguo (勾洪国)氏、 Li Heping (李和平)氏、 Zhai Yanmin (翟岩民)氏らは、拘束されたのちに法廷で有罪判決を受け、執行猶予を言い渡されて釈放されたが、政府は釈放された者を常に監視していると報じられている。
 彼らは、執行猶予中に人権活動を行えばいつでも執行猶予を取り消され、投獄される危険性がある。
 釈放された人々の多くが思想良心の自由を蹂躙された可能性が高い。李氏は2017年5月に自白の末に釈放された際には、痩せて白髪となって風貌が激変し、非人道的取扱いの形跡が強く疑われた。他方で、2016年8月1日、中国で最も著名な弁護士のひとりである王宇(Wang Yu)氏の保釈が報じられ、彼女はテレビで自白、公開懺悔をさせられた。2017年7月、彼女は声明を出し、手枷、足枷をはめられた拷問と虐待、脅迫、5日間連続の一睡も許されない尋問の結果、自白と懺悔を強いられたと告白している。
 拘束された活動家・弁護士の家族や支援者も当局から嫌がらせを受けているとされる。絶え間なく監視される、旅行が制限される、拘束されている家族についての情報を与えられない、職場や学校で罰を受ける等の嫌がらせをうけていると報じられている。
 また、中国政府がインターネットとSNS上の709事件に関するありとあらゆる情報を検閲している。

 

  1. 劉暁波氏の死

 709弾圧の2周年からわずか数日後の2017年7月13日、ノーベル賞受賞者である劉暁波氏の悲劇的な死は、当局の意に反する者への弾圧の過酷さを象徴するものであった。
 2008年に「世界人権宣言」60周年にあわせ「08憲章」を発表し、言論の自由等を訴えた劉氏は、2009年に国家政権煽動転覆罪で懲役11年の実刑判決を受けた。
 中国当局は、2010年に同氏がノーベル平和賞を受賞した後も投獄を続け、何年もの間拘留所での非人道的待遇に苦しんだ後、2017年6月に末期癌と診断されたことが公表された。劉氏は海外での適切な医療処置を受けることを切望したが、中国当局はこれを拒み、出国を認めないまま、劉氏は亡くなった。
 また、劉氏の妻である劉霞氏は長年の自宅などでの軟禁、社会からの隔離、絶え間ない監視のせいでうつ病と深刻な心理的危害に苦しんでいるにも関わらず、劉氏の死後も政府は劉霞氏の軟禁を解くこと、劉霞氏が中国を出ることを認めていない。

 

  1. 弾圧はあってはならない。

 HRNは劉暁波氏の死に深い哀悼の意をささげ、劉暁波氏に対する当局の恣意的拘禁、不当な有罪判決、非人道的な取り扱いに対し、強く抗議する。
 劉氏、そして一連の人権派弁護士、人権活動家に対する弾圧は、世界人権宣言に保障され、中国憲法にも明記された表現の自由と相容れないものであることは明白であり、断じて許されるものではない。
 これ以上、表現の自由を行使し、権利擁護のために活動する者を弾圧することはあってはならない。
 2009年、劉暁波氏は、裁判での最後の請願において、「私は望んでいる。私が中国で綿々と続いてきた言論弾圧の最後の犠牲者となることを。そして今後、言論を理由に罪に問われる人が二度と現れないことを。」「表現の自由は人権の基礎であり、人間性の根源、真理の母である。言論の自由を封殺することは、人権を踏みにじり、人間らしさを閉じ込め、真理を抑圧することなのだ。」と述べた。中国当局は、この言葉に誠実に向き合うべきである。
 HRNは、中国で表現の自由と基本的人権擁護のために行動するすべての弁護士、活動家に対する強い連帯の意を改めて表する。
 HRNは中国政府に対し、人権活動家らを弾圧するキャンペーンをやめ、未だ恣意的に拘束されている人権擁護者と人権派弁護士をただちに釈放するよう求める。そして、釈放された人権擁護者・人権派弁護士の家族や関係者に対する監視、嫌がらせをやめ、訴追を取り下げるよう求める。
 HRNは、国連人権高等弁務官事務所と、国連恣意的拘禁作業部会、人権活動家に関する特別報告者等、関連するすべての独立専門家に対し、危機にさらされている人権活動家を保護するための一層の取組みを要請する。

                                       以上