【NYイベント報告】10月24日「2020年東京オリンピックとグローバル・サプライチェーンにおける人権問題」討論会

 

去る10月24日にNY市弁護士協会(New York City Bar Association, NYCBA)で、ヒューマンライツ・ナウNYとCyrus R. Vance Center for International Justiceで表題の討論会を共催しました。

2020年の東京オリンピック及びパラリンピック開催まで2年足らずとなりました。近年、オリンピックやワールド・カップのような国際レベルのメガ・スポーツのイベントにおいて、主催国や主催団体の人権侵害・差別・環境問題に対する社会的責任が問われることが主流となりつつあります。

今回の討論会では、オリンピック開催準備における人権状況にフォーカスが当てられました。会場建設に使われる木材を含む材料に、違法森林伐採や児童労働は関連してないだろうか。建設現場の労働環境や労働条件において人権侵害はないだろうか。グローバル・サプライチェーンで実際に起きている人権侵害ケース、主催国の日本が取り組むべき課題や果たすべき責任などにも触れながら、以下のパネリストとモデレーターをお迎えして討論が展開されました。

 

パネリスト

  • デイヴィッド・セガール氏 (Mr. David Segall, NYU Stern Center for Business and Human Rights リサーチ・スカラー &ポリシー・アソシエート)
  • ケネス・リヴリン氏 (Mr. Kenneth Rivlin, Attorney, Partner at Allen & Overy 弁護士)
  • 伊藤和子氏(ヒューマンライツ・ナウ事務局長/弁護士)

モデレーター

  • マリー・クロード・ジャン=バプティスト氏 (Ms. Marie-Claude Jean-Baptiste, Cyrus R. Vance Center for International Justiceプログラム・ディレクター/弁護士)

 

伊藤和子氏

始めに伊藤氏から、アジア諸国における大企業の下請け工場などで起こっている人権侵害の実態がされました。日本のアパレル企業を中心に過去にヒューマンライツ・ナウが関わってきた企業による人権侵害を例に挙げ、莫大な利益の裏で起こっているサプライ・チェーンの底辺で働く人々の過酷な労働環境や労働条件が紹介されました。実態を指摘されたり、NGOなどに働きかけられることで、企業は侵害をなくす姿勢を示すものの、まだまだ日本企業全般におけるデュー・デリジェンスへの意識は低いほか、日本の国連ビジネスと人権に関する指導原則(United Nations Guiding Principles on Business and Human Rights, UNGP)に対する行動計画が未だ策定されていないなども問題点として挙げられました。日本の外国人技能実習生の長時間労働やストレスからくる過労死や自殺問題を例に取っても、受け入れ側の企業のみならず、日本社会全体のビジネスと人権に対する意識向上が今後の大きな課題であることが強調されました。

デイヴィッド・セガール氏

セガール氏からは主に、オリンピックやFIFAなどの巨大スポーツ・イベントに絡む移民労働(または出稼ぎ労働)の実態が共有されました。イベント会場建設などに携わる現場労働者らへの低賃金はもとより、給料の支払い遅延や未払いケースも多々あると氏は言います。それに加え、危

険な労働環境、肉体的虐待、不健全な生活環境など様々な問題が人権侵害を生み出しています。移民労働者のさまざまな権利は、国際移民労働者に関するILO 条約 (ILO Convention on migrant workers)の下で明確に定められているものの、各国の出稼ぎ労働に関する法律とのギャップが大きいのも事実であることも指摘されました。そして日本においても、外国人出稼ぎ労働者を安い人件費で過酷で危険な労働現場に送ることや、外国人技能実習生に対する労働搾取などの現状の見直しが求められました。

ケネス・リヴリン氏

リヴリン氏からは、巨大スポーツ・イベントにおけるイベント主催者、スポンサー企業、建設などで関わる契約業者すべてが、デュー・デリジェンスを考慮にいれるべきであることが語られました。また、児童労働によって作られたユニフォームが使用された南アフリカ・オリンピック、政府に対して抗議デモを展開した学生ら300人が命を落としたメキシコ・オリンピック、会場建設のため強制立ち退きが相次いだリオ・オリンピック、現地での言論の自由の剥奪など政府による現地市民への弾圧が問題となったソチ・オリンピックなどが、過去のオリンピックに関連した人権侵害ケースの実例として紹介されました。

東京オリンピックに向けて

各パネリストによるプレゼンテーションの後には、東京オリンピックに向けて何が求められ、何が期待されているかについて意見が交わされました。第一には、日本のオリンピック委員会が定めた公式調達コードが実際に実施されることが求められています。会場建設中に現場労働者が過労死で亡くなっても調査もされずに放置されたままのケースなどは、建前と現実のギャップがまだまだ根強く存在することを物語っています。加えては、国際社会の注目を浴びるオリンピックを機に、日本におけるビジネスと人権に対する意識が向上し、企業の社会的責任に関する政策実施に向けて政府や企業自身が動き出すことが期待されています。更には、オリンピックやビジネス分野にとどまらず、日本国内のヘイトスピーチや児童ポルノや人身売買などの身近な問題も、国際社会の基準では深刻な人権侵害と見なされているのだと社会全体が認識するきっかけになることが期待されています。

Cyrus R. Vance Centerによる報告(英語)はこちらからご覧になれます。

http://www.vancecenter.org/business-and-human-rights/