性暴力被害者を守れるより良い制度の実現をめざして

日本の性暴力の現状

みなさんは知っていますか…

内閣府の調査によると、女性の14人に1人、男性の100人に1人が、「無理やり性交等を受けた経験がある」と回答しています。つまり、日本の女性のおよそ464万人、男性のおよそ61万人が被害にあったことがあると推定できます。一方、2019年の1年間に認知された強制性交等の被害例は1405件。起訴された事例は、そのうちの33.6%、約470件です。同年の刑法犯の起訴率は38.2%であり(令和2年版犯罪白書)、強制性交等罪の起訴率は他と比べても低いことがわかります。2017年に始まった#MeToo運動を受け、日本でも性暴力被害者が声を上げ始めました。しかし、女性に対する暴力は深刻であるのに、法制度は国際水準に遠く及んでいません。また、女性を性欲の対象として消費する文化が蔓延し、声を上げる女性たちはバッシングの対象となり、声を上げにくい状況が作られています。

「どうして全力で抵抗しなかったの?」 「あなたが誘ったんじゃないの」 「家に行ったなら、性行為に同意したと思われても仕方ないよね」 「嫌よ嫌よも好きのうち」

罪を犯した人には、罰が与えられます。しかし、今の日本社会では、性暴力被害者に原因があるとして、彼らを責め、加害者に無罪判決を下されるケースが後を絶ちません。   2017年6月、110年ぶりに性暴力に関する刑法が大幅改正されました。これを受け、強姦罪(改正後は「強制性交等罪」)は性別を問わず処罰されることになり、刑も懲役3年から5年へと重くなりました。しかし、改正後もなお、レイプ罪が成立するためには、不同意の性行為があっただけではなく、暴行・脅迫、心神喪失、抗拒不能の証明などの厳しい要件が求められています。これにより、警察で被害届を受理してもらえない、受理されても不起訴になるというケースが相次いでいます。 また、13歳以上の子どもに対する性行為があった場合も、加害者に対しての罪は成人に対する性暴力被害と同じように扱われるというような、子どもの権利を無視した課題が残されています。

「レイプは、見知らぬ人から突然される行為…?」

「レイプは、見知らぬ人から突然される行為だ」と多くの人によって信じられています。 しかし、これは実態に沿っていない誤解だとご存知ですか?レイプ被害の約83%は、知人、友人、上司など、面識がある人からの加害によるもの(令和2年度調査)。知っている人が相手だからこそ、抵抗出来ない被害者が多くいます。また、上司や先生、親などの力関係のある人からの被害の場合、報復やその後の人間関係を気にして声をあげられない被害者も多くいます。   その結果、無理やりに性交等をされた被害者のうち、被害に関して誰かに相談したと回答した人は36.6%ほどでした(2020)。相談しなかった理由としては、「恥ずかしくて誰にも言えなかった」、「どこに(誰に)相談すべきかわからなかった」、「自分さえ我慢すれば、なんとかこのままやっていけると思った」などがあげられました。日本では、性暴力を受けたことを恥と考え、容易に相談できないという現状があります。また、性被害を話しづらいものとして扱う風潮も、被害者が相談できる機関の存在を知らないという事態を引き起こしています。しかし、性被害を受けた経験によって生活に変化が生じたと答えた人は66.2%にものぼり(令和2年度調査)、性被害は長期的に心身に影響をもたらしていると言えます。様々な要因から、証明することが難しい性暴力。たとえ相談件数は多くなくても、声をあげることができず苦しみを抱えている人は多くいます。

ヒューマンライツ・ナウでは、米国、カナダ、イギリス、フランス、ドイツ、スウェーデン、フィンランド、韓国、台湾の性犯罪に関する規定を調査しました(2018)。その結果、日本は被害者保護の観点から、どの国よりも遅れていることがわかったのです。 世界の法制度の流れは、被害者の同意のない性行為は全て「性的暴行」として処罰する「No Means No」型から、相手方の自発的意思が明示・黙示に表現されていない場合に性交等をすることを処罰対象とする「Yes Means Yes」型に変わりつつあります。 しかし、日本はNo Means No型の法制度すら未だに整備されていないのです。

調査報告書はこちら

2017年の法改正では、3年後を目途に、再度刑法の見直しを検討することが定められていました。施行後3年目の節目であった2020年6月には法務省に新しい刑法を運用してみて明らかになった問題点などを議論する目的で*性犯罪に関する刑事法検討会が設置されました。2021年5月に検討会は取りまとめを迎え、それを受けて、2021年10月から*法制審議会刑事法(性犯罪関連)部会が設置されました。2022年7月現在まで7回の会議が開かれ、具体的な文言の検討も始まっています。ヒューマンライツ・ナウは各会議の議論を注視し、被害者を守ることができる法制度を実現させるために、積極的に法制審議会に働きかけています。 

*性犯罪に関する刑事法検討会 ウェブサイト

*法制審議会刑事法(性犯罪関連)部会 ウェブサイト

2022年は刑法を改正できる年! 私たちが求める改正案

私たちは2020年から行われた検討会の議論を受け、2020年6月に次の改正案を発表しました。

①「ヒューマンライツ・ナウは、暴行・脅迫を要件から削除することを求めます。」(不同意性交等罪・若年者性交等罪)

  • 現在のレイプ罪成立には、同意なしに性行為が行われたことが明らかでも、「暴行」「脅迫」による性交等があったことを証明しない限り、加害者は罪に問われません。そのため、警察に届けても約6割が不起訴となるなど、未だに「性暴力」の被害にあっても泣き寝入りをせざるを得ない人が多くいるのです。

②「ヒューマンライツ・ナウは、「心神喪失・抗拒不能」の構成要件を、より具体的・明確なものに変えることを求めます。」(同意不能等性的行為罪・同意不能等性交等罪)

  • 現在のレイプ罪成立には「抗拒不能」であったことを証明する必要がありますが、法律には、実際にどのような状態が、心神喪失・抗拒不能であるのかが明記されていません。

③「ヒューマンライツ・ナウは、現に監護していなくても、地位関係性を利用した性暴力についても処罰できるように、新たな規定をを加えることを求めます。」 「ヒューマンライツ・ナウは、18歳以上の者への地位関係性を利用した性暴力を処罰する規定の新設を求めます。」(監護者等性的行為罪・監護者等性交等罪)

  • 現在の法律では、性暴力加害者が、被害者を監護する者でない場合、性交等が「暴行」「脅迫」によりなされた、又は被害者が「抗拒不能」であったと証明されないと犯罪として処罰されません。そのため、親族、後見人、教師、指導者、雇用者、上司、施設職員など、被害者に対し優位な立場にいるものが、地位を利用して性暴力を行った場合、罪に問うことができないのです。
  • 18歳以上の者であっても、親族、後見人、教師、指導者、雇用者、上司、施設職員等、被害者に対する権力関係にある者がその地位を利用した性暴力が多く報告されているのです。
④「ヒューマンライツ・ナウは、性交同意年齢が13歳から16歳に引き上げることを求めます。」 どうして?▼
  • 現在の法律では、性交同意年齢は13歳となっています。性交同意年齢とは、性行為の同意能力があるとみなされる年齢であり、性行為がどのような行為かを理解し、自分が性行為をしたいか、したくないかを判断できる年齢とされています。多くの国では、子どもの保護のために性交同意年齢が引き上げられている一方、日本の性交同意年齢は、他先進国と比べると低年齢に定められています。ヒューマンライツ・ナウは、義務教育終了年齢である16歳未満が適切であると考えます。

 

刑法の改正が実現すれば、教育やメディアにも変化が現れます。同意なき性交を性暴力として処罰する法改正が実現すれば、相手の自発的な同意がない性行為は許されないというルールが明確になります。 そして、互いの「同意」に基づいた、相手の尊厳・性的自己決定を尊重し合うより安全な社会を実現することができます。

詳しい改正案はこちら

検討会における議論

2021年10月から始まった検討会には被害当事者や被害者支援にあたる専門家が参加しました。被害の実態に沿った刑法性犯罪規定の改正について幅広い論点が真摯に議論され、「性犯罪の処罰規定の本質は、被害者が同意していないにもかかわらず性的行為を行うことにある」という共通認識も形成されました。一方で、多くの委員から改正に対し積極的な意見が提起されたにも関わらず、結果的に被害者の視点に即した具体的な制度改正の提案が結実しないまま終了したのも事実です。市民や被害者の切実な声を反映した改正が提案されず、問題を先送りするかのような結論になっていました。2021年5月21日に出された「取りまとめ報告書」法務省HPより)では、ほとんどの論点において両論併記の形になっており、被害実態に即した刑法性犯罪の再改正が実現されないのではないかという危惧がありました。
それに対して、ヒューマンライツ・ナウは声明共同提言を発表し、被害者保護の観点から実行的な刑法性犯罪の改正が必要だと強く訴えました。

法制審議会で現在行われている議論

検討会が終了したのち、「性犯罪に対処するための法整備に関する諮問第117号」法務省HPより)に基づいて、2021年10月から法制審議会で審議が始まりました。
刑法177条暴行・脅迫要件と刑法178条心身喪失・抗拒不能要件の議論いわゆる性交同意年齢の引き上げ、*地位関係性利用等罪の新設を含めて主に10個の論点があり、第1回から5回までの会議で全論点について1巡目の審議がなされ、第6回から2巡目の審議が始まりました。第6回と第7回の会議では検討のためのたたき台としていくつかの条文案が示されました。
被害者の同意のない性的行為が犯罪であることを明示するよう求めてきた当団体は、現時点で法制審議会にて示されている案のうちいくつかに対して、不同意の性交が適切に処罰対象となるのかどうか重大な疑念を有しています。たとえば、 暴行・脅迫要件、心神喪失・抗拒不能要件の改正 「A-2案」は被害者が同意していないにもかかわらず性的行為を行うことを処罰することができるのか、という点などです。

詳しくは当団体主催のイベント「〜これでいいのか法制審〜刑法性犯罪規定の現状を問う」で解説しています。2022年4月9日に「1回目:刑法177条と178条」、16日に「2回目:性交同意年齢」と題して女性の権利プロジェクトの弁護士が解説していますので、その模様を撮影した動画と報告ブログをご覧ください。

1回目:刑法177条と178条 動画 ブログ/2回目:性交同意年齢  動画 ブログ

検討会や法制審議会では、性犯罪の処罰規定の本質は「被害者が同意していないにもかかわらず性的行為を行うことを処罰すること」であり、「被害者に抵抗を要求するような文言にならないように」、「抵抗を要求するのは明らかに不適切」ということが繰り返し確認されています。ヒューマンライツ・ナウはそれらが法律の条文として適切に明確な形で表現されることが必要だと考え、ウェビナーを開催したりや質問状を提出したりしています。

*地位関係性利用等罪とは、上司や先生、施設職員などの力関係のあるものがそれを利用して性暴力をふるうことに関する規定のこと。

性暴力に関する刑法のさらなる改正に向けて

検討会や法制審議会では法学者だけでなく、被害者支援や心理の専門家もメンバーの一員として議論に参加し、性犯罪の処罰規定の本質は、被害者が同意していないにもかかわらず性的行為を行うことにある」という共通認識を形成することができています。

このように一定の前進が得られたのは、支援いただいた皆様、一緒に行動をしてくださった団体、署名いただいたお一人お一人、そしてフラワーデモなどに共感し、声を上げてくださった皆様のおかげです。本当にありがとうございました。しかし、法制審議会で法律の文言を含めた刑法の具体的な改正案が議論されている今年、被害者を守れる社会を求めて今一度声をあげる必要があります。被害者が泣き寝入りせずにすむ法制度がなされるように、少なくとも「No Means No」を達成しなければなりません。

HRNとしては、被害者や市民の期待に沿った法改正が実現するよう、専門的な知見を活かして一層貢献するとともに、市民の声と検討会をつなぐ役割も果たしていきたいと思っています。 是非引き続き皆様の力を貸してください。どうぞよろしくお願いいたします。

今あなたが起こせるアクション

 

HRNは、一般社団法人Spring、一般社団法人Voice Up Japan とともに、法務大臣へ性暴力における刑法改正を求めて、署名活動を行っています。 今すぐ署名して、あなたの声を国会に届けませんか?
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ヒューマンライツ・ナウの活動

■ 実態調査・報告

ヒューマンライツ・ナウは、法律家、研究者、ジャーナリストなど、人権分野のプロフェッショナルたちが中心となって組織されている団体です。 2018年2月、HRNは、10カ国(日本、米国、カナダ、イギリス、フランス、ドイツ、スウェーデン、フィンランド、韓国、台湾)における性犯罪に関する規定を調査。勧告を発表しました。 さらに2019年11月には、刑法改正市民プロジェクトとして、性犯罪に関する刑法の改正試案を発表しました。 2020年1月には、スウェーデン大使館と協力し、性的同意のない性的行為を処罰する新しいスウェーデンの法律について日本で理解を深めるセミナーや院内集会を開催。多数の参加者とメディア報道があり、多くの人に日本でも実態に基づいた刑法への改正はできる!という共感と励ましを与えました。

■ これまでに発表した刑法改正に関する調査報告書・提言等

2020年まで

2021年

2022年

女性の権利に関するこれまでの発表物一覧はこちらから。

■ #metooを応援

ヒューマンライツ・ナウは#metooを応援し、 勇気を出して声を上げた性暴力被害者を応援するシンポジウムやトークイベントを多数開催してきました。

■ 署名運動

相次ぐ性犯罪無罪判決を受けて、2019年の4月末からHRNは署名を呼びかけました。そして、同年6月にSpring、Voice up Japan とともに刑法改正を求めるChange.orgの署名を開始し、大きな共感を呼びました。2020年3月17日に改めて、市民団体とともに94,000以上集まったChange.orgの署名を提出、森法務大臣に刑法改正に向けた政治決断を求めました。私たちとの懇談も経て、森大臣は3月31日、刑法改正に向けた有識者の検討会を法務省内に設置することを決定。この様子は、メディアでも大きく取り上げられました。

このようなアクションが検討会での議論、さらに法制審議会での審議につながりました。

2022年現在も署名は続々と増えており、13万人以上が賛同しています。

 

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