【質問状】 暴行・脅迫要件、心神喪失・抗拒不能要件の改正 「A-2案」に関する質問状

国際人権NGOヒューマンライツ・ナウは、刑法第177条・178条の改正案に関する質問状を、法制審議会 刑事法(性犯罪)部会に提出いたしました。

現在、法制審議会では、刑法第177条・178条の改正案として、A-1案「次の事由により、その他意思に反して、」 と、A-2案「次の事由その他の事由により、拒絶する意思を形成・表明・ 実現することが困難であることに乗じて」 という2つの案が主に提案されています。

177条の改正案として、「認識可能な意思に反し」と規定し、被害者の同意のない性的行為が犯罪であることを明示するよう求めてきた当団体は、現時点で法制審議会にて示されている案の中では、A-1案を支持する一方で、A-2案について、不同意の性交が適切に処罰対象となるのかどうか重大な疑念を有しています。そこで、法制審議会にて対応いただきたい点をまとめた下記の質問状を送付しました。

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質問状の全文は下記のとおりです。

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法制審議会 刑事法(性犯罪)部会 御中

暴行・脅迫要件、心神喪失・抗拒不能要件の改正「A-2案」に関する質問状

2022年6月1日
認定NPO法人 ヒューマンライツ・ナウ

法制審議会に先立つ検討会において、性犯罪の処罰規定の本質は、被害者が同意していないにもかかわらず性的行為を行うことにあることに異論がないとされました。法制審議会でもかかる本質が共通の認識として共有され、この本質を条文として表現するために、委員・幹事の皆様が尽力されているものと承知しております。

現在、法制審議会では、177条・178条の改正案として、A-1 案「次の事由により、その他意思に反して、」A-2 案「次の事由その他の事由により、拒絶する意思を形成・表明・実現することが困難であることに乗じて」という 2 つの案が主に提案されています。

当団体は、2020年6月11日に「私たちが求める刑法性犯罪規定改正案(改訂)」にて表明したとおり、177条の改正案として、「認識可能な意思に反し」と規定し、被害者の同意のない性的行為が犯罪であることを明示するよう求めています。A-1案は、個別事由を列挙したうえで、「その他意思に反して」と規定しており、A-2案と比較して、被害者の同意のない性的行為が処罰対象となることが明確でわかりやすいため、現時点で法制審議会にて示されている案の中では、A-1案を支持します。一方、A-2案について、不同意の性交が適切に処罰対象となるのかどうか重大な疑念を有しています。そこで、下記のとおり、質問致します。今後の議論において以下の点を十分に対応いただき、懸念を踏まえた改正案とされることを強く求めます。

1. 性犯罪の処罰規定の本質である「被害者が同意していないにもかかわらず性的行為を行うこと」が処罰対象であることが、条文上明確といえますか。

A-1案については、個別事由を列挙したうえでもなお、犯罪の成立を人の内心の意思に係らしめているため不明確であるとの指摘が部会の委員から出されています。しかし、個別事由を列挙したうえで「その他意思に反する」と規定することがどうして不同意性交の処罰規定として不明確であるのか、その理由は十分に示されていません。A-1案あるいは「認識可能な意思に反した場合」は、不同意性交処罰を求める被害者等市民の要望に応えたものであることに鑑みれば、十分な理由を示さずに、これを採用しない姿勢は甚だ疑問です。

A-2案が参照したと推測される立法例として、ドイツ刑法では、177条第1項において、「相手方の認識可能な意思に反した場合」と規定したうえで、同法2項において、「反対意思を形成・表明できない状況や、身体的又は精神的な状態に基づき、意思の形成・表明が著しく限定されている状況、驚愕の瞬間、又は抵抗した場合に重大な害悪が生じる恐れがある状況を利用した場合」を規定しています1。つまり、1項は、反対意思が表明されたにも関わらず行為に及んだ場合を規定する一方、2項で、A-2案に類似した「反対意思を形成・表明できない」という構成要件が規定されています。そのため、2項の構成要件も1項の構成要件とあわせて、相手方の意思に反する性的行為が処罰対象であることが、条文そのものから容易に理解できます。性犯罪の処罰規定の本質が、被害者が同意していないにもかかわらず性的行為を行うことにあるとの認識が共有されているのであれば、なぜ、ドイツと同様に、第1項を「認識可能な意思に反し」として、意思の形成・表明が困難な場合を第 2 項とすることができないのでしょうか。A-2案の「拒絶する意思を形成・表明・実現することが 困難であることに乗じて」という構成要は、いかなる行為が処罰対象とされているのか非常にわかりにくい文言となっています。特に、「拒絶する意思を実現することが困難」とは、拒絶意思を示したのに行為に及ばれた場合をすべて包含するのか、拒絶意思の「実現困難」とは何か、裁判規範としても、行為者にとっても、明らかとは到底言えません。後述のとおり、不同意性交であるにもかかわらず、救済されない事案が発生することが懸念されます。

法制審議会の議論経過をつぶさに見聞していなくとも、条文を一読すれば、相手方が同意していないにもかかわらず性的行為を行うことが処罰対象になるのだということを、国民にわかりやすく明確に規定してください。

2. A-1案を採用すると、個別事由について、およそ自由な意思決定が観念できないような場合として限定的に解釈しなければならないとの批判がありますが、A-2案を採用した場合は「拒絶する意思を形成・表明・実現することが困難であることに乗じて」という要件は、同様に、およそ自由な意思決定が観念できないような場合として限定的に解釈されることはないのでしょうか。

性犯罪の保護法益について、性的自由・性的自己決定と解するか、性的尊厳と解するかの見解がわかれますが、性犯罪の処罰規定の本質が、被害者が同意していないにもかかわらず性的行為を行うことにある点は、異論なく確認されています。そのため、A-1案とA-2案の違いは、保護法益の理解に対する違いに由来するものではないと解されます。

A-1案について、部会では、個別事由に該当すれば常に性犯罪を構成することになるため、およそ自由な意思決定ができないような場合として限定的に解釈しなければならないとの批判がなされています2。しかし、そのような限定が必然的である理由は定かではありません。一方、A-2案については、「次の事由その他の事由により、拒絶する意思を形成・表明・実現することが困難であることに乗じて」という構成要件であれば、およそ自由な意思決定ができないような場合だけに限定されないと言えるのでしょうか。

別紙1乃至3の事例345のように被害者が同意していないと認定できるにも関わらず、およそ自由な意思決定ができないような場合であると認定できない場合には、強制性交等罪が成立しないのでしょうか。

3. 被害者が同意していないことが認定できる場合には、用いられた暴行等の程度に関わらず、「次の事由その他の事由により、拒絶する意思を形成・表明・実現することが困難であることに乗じて」という構成要件に該当しますか。

例えば、A-2案は、被害者が行為者に対し、「嫌だ」「やめて」と述べたり、涙を流したり、首を横に振ったりするなど、言葉や態度で「No」を表明しているにも関わらず、行為者が被害者の「No」を無視して性的行為に及んだ場合、暴行・脅迫が用いられなくても、不同意の性的行為であるとして、「次の事由その他の事由により、拒絶する意思を形成・表明・実現することが 困難であることに乗じ」たという構成要件に該当するのでしょうか。

これまでの判例には、別紙 1乃至3のとおり、被害者が性交に同意していないことを四囲の状況により認定しているにも関わらず、暴行脅迫の程度が足りない、あるいは通常の性交に随伴する有形力の行使に過ぎないとして無罪となっています。これらの事例は、いずれも、被害者が性交に同意していないと認定していますので、A-1案の「意思に反して」に該当することは明らかですが、A-2案によっても、被告人の用いた暴行が通常の性交に伴うような暴行の程度であったとしても、「拒絶する意思を形成・表明・実現することが困難であることに乗じ」たという構成要件に該当するのでしょうか。

4.「拒絶する意思を形成・表明・実現することが困難」という構成要件は、被害者が本来拒絶することを前提としている点で抵抗義務を課す結果とどこが違うのですか。また、拒絶する意思を形成・表明できた場合には、単に表明するだけでは足りず、拒絶が困難なほど意思を表明しなければならないことを要求しているのですか。

①拒絶する意思を形成できないこと、②拒絶する意思を形成はできるけれども表明できないこと、③拒絶する意思を形成し表明もしたけれども、拒絶意思を実現できなかったことは、それぞれ場面が異なります。例示列挙として挙げられている事由のなかで、継続的な虐待や睡眠、アルコールの影響、薬物の影響があるような場合は①に該当し、心身の障害、恐怖・驚愕・困惑、偽計・欺罔による誤信の場合には①又は②に該当し、暴行・脅迫、重大な不利益の憂慮がある場合には②又は③に該当するように思われます。暴行・脅迫のように行為者が強制的な作用を用いた場合と、アルコールの影響や継続的な虐待のように被害者のぜい弱な状態を行為者が作出・利用する場合は、そもそも場面が異なるところ、それを一つの構成要件に並べるのは、条文の構造として無理があるのではないでしょうか。

また、法制審議会では、177条・178条の改正案を検討するにあたり、「被害者に抵抗を要求するような文言にならないように」、「抵抗を要求するのは明らかに不適切」と繰り返し確認されています。これまで、条文上何らの限定が付されていないにも関わらず、判例が177条の暴行に「相手方の抗拒を著しく困難ならしめる程度」を要求した結果、別紙1乃至3のように不同意の性交であると認定できるにも関わらず、暴行の程度が足りず無罪となっています。被害者の供述の信用性に疑問はないものの、暴行の程度が足りないとして、不起訴となった事例も報告されています6

これまでの判例・実務が、被害者が抵抗したかどうか、抵抗が著しく困難であったかどうかを長年問題にしてきたため、たとえ「拒絶する意思を形成・表明・実現することが困難」と改正した場合でも、「抵抗」という言葉が「拒絶」に置き換わったのみで、これまでと同様に、被害者が拒絶したのか、どれほど拒絶したのか、拒絶が困難であったのかを、捜査や裁判の過程で問われることになり、法制審議会が目指した、被害者に抵抗を要求することなく、被害者の同意のない性的行為を処罰しようとする点が実現できないのではないかと懸念します。

とりわけ、「拒絶意思を」「実現することが困難」は、被害者に「拒絶意思の実現」すなわち、「抵抗」を課し、「実現困難」といえるかが問われることになるでしょう。こうした懸念は払しょくできるのでしょうか。以上の懸念を解消するため、被害者に抵抗を要求していないことを明確にし、実務上誤解が生じることのないよう「拒絶」や「困難」という文言を見直す必要があります。さらに、「その他意思に反する」というA-1案ではなく、A-2案が提案されている理由の一つとして、欺罔類型の処罰範囲を明確にするためという点が挙げられています。欺罔類型のうち、同一性の錯誤と行為の意味内容の錯誤の欺罔類型について、その当罰性には異論がないようですが、一方で、既婚者が未婚であると偽って婚姻や交際を約束して性交を求めこれに応じた場合や、金銭の授受を条件として性交に応じたが支払われなかった場合などは、当罰性について意見が分かれているようです。現時点で当罰性に意見の一致がみられる欺罔類型を、当罰性に意見の一致が見られない欺罔類型と画して規律しなければならないのであれば、一読して理解することが難しいA-2案ではなく、177条・178条の処罰規定とは別に、欺罔類型について別途条文を設けるべきと考えますが、いかがでしょうか。

5.「次の事由その他の事由により、拒絶する意思を形成・表明・実現することが 困難であることに乗じて」と規定される場合、行為者が何を認識していれば故意があるのですか

(1)A-2案は、個別事由に該当するだけでは足りず、個別事由に該当したうえで、かつ、「拒絶する意思を形成・表明・実現することが困難であることに乗じ」た性交等であってはじめて、177条・178条を構成すると解されます。そうすると、例えば、暴行を用いた性交の場合、行為者は、自身が有形力を行使していること、及び、その有形力の行使により相手方が拒絶する意思を形成・表明・実現困難な状態にあることが故意の対象であるように解されます。仮に、個別要件に加えて、「拒絶する意思を形成・表明・実現することが 困難である」などという一般人から見てわかりにくい構成要件が故意の対象として加えられる場合、現行法以上に有罪立証のハードルは高まり、多くの事例で故意阻却が認定される危険性があることを深刻に憂慮します。別紙2及び3の裁判例では、被害者が大きな抵抗を示していないため、被告人が合意の性交であると誤信した可能性があるとして故意が否定されています。「次の事由その他の事由により、拒絶する意思を形成・表明・実現することが 困難であることに乗じて」と規定される場合、別紙2及び3の裁判例と同様に、相手方が強い拒絶を示していないために故意が否定されることにはならないのでしょうか。

(2)福岡高裁宮崎支部平成 26 年 12 月 11 日判決(最決平成 28 年 1月 14 日上告棄却)において、裁判所は、被害者が心理的抗拒不能であったことを認定したうえで、被害者が本心では拒絶しているが何らかの原因で抵抗できないある種特殊な状態に陥っていると被告人が認識していたと認められないとして故意を否定しました。この事例は、A案の個別事由である恐怖・驚愕・困惑に該当すると思われます。この場合には、相手方が恐怖・驚愕・困惑していること、及び、恐怖・驚愕・困惑により拒絶の意思を形成・表明・実現するのが困難な精神状態に陥っていることを、行為者が認識していなければ、故意が否定されるのでしょうか。上記事例では、被告人は、性犯罪者を含むいわゆる弱者の心情を理解する能力や共感性に乏しく、むしろ無神経の部類に入ると言及されています。「拒絶する意思を形成・表明・実現することが困難であることに乗じて」という構成要件は、上記事例のように、相手方の性的同意に無神経な者ほど故意が認定できない構成要件になっているのではないでしょうか。

以上の5点はいずれも、性犯罪の処罰規定の本質は、被害者が同意していないにもかかわらず性的行為を行うことにあると確認され、被害者に抵抗を求めない、被害者に抵抗を要求するのは明らかに不適切であるとの法制審議会刑事法部会の共有認識にかかわる深刻な疑問点です。今回の法制審議会諮問は、広範な世論の要請にこたえ、上記の共有認識の上に、被害者の同意の有無を中心に据えた刑法改正を進めるべく、177条・178条の構成要件を検討するもののはずです。その原点から乖離した条文案の検討は到底容認できません。従来のように被害者の抵抗や拒絶の有無・その程度を問う視点から、性的行為を望む行為者が相手方の同意をいかに確認したのかという視点を転換し、法制審議会が志向する「被害者が同意していないにもかかわらず性的行為を行う」ことを性犯罪の処罰根拠とする刑法性犯罪規定の適切に具現するよう、構成要件の再考を強く求めます。なお、再度当団体の提案を本質問状に添付します。

以上

 

【参考資料】

1 検討会資料25p13 https://www.moj.go.jp/content/001327163.pdf

2 第6回会議議事録 p6~7

3 広島高判昭和 53 年 11 月 20 日

4 大阪地判平成 20 年 6 月 27 日

5 東京高判平成 26 年 9 月 19 日

6 性犯罪に関する施策検討に向けた実態調査ワーキンググループ取りまとめ報告書別紙 11性犯罪に係る不起訴事件調査 p5

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【ヒューマンライツ・ナウの改正案】

177 条 不同意性交等罪・若年者性交等罪

●1 項 16 歳以上の者に対し、その者の認識可能な意思に反して、性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」)を行った者は、不同意性交の罪とし、5 年以上の有期懲役に処する。
●2 項 有形力の行使、脅迫、威迫、不意打ち、偽計、欺罔、監禁を用いて前項の行為を行った者は、前項の例による。
●3 項 前 2 項の性交等を 16 歳未満の者に対して行った者は、若年者性交の罪とし、6 年以上の有期懲役に処する。但し、18 歳未満同士で年齢差が 2 年以内の場合は除く。

178 条 同意不能等性的行為罪・同意不能等性交等罪
●1 項 176 条 1 項の性的行為を、人の無意識、睡眠、催眠、酩酊、薬物の影響、疾患、障害、もしくは洗脳、恐怖、困惑その他の状況により特別に脆弱な状況に置かれている状況を利用し、又はその状況に乗じて行った者は、同意不能等性的行為罪とし、176 条 1 項の例による。
●2 項 前条 1 項の性交等を、人の無意識、睡眠、催眠、酩酊、薬物の影響、疾患、障害、もしくは洗脳、恐怖、困惑その他の状況により特別に脆弱な状況に置かれて いる状況を利用し、又はその状況に乗じて行った者は、同意不能等性交等罪とし、前条 1 項の例による。

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(別紙)
1. 広島高判昭和 53 年 11 月 20 日
被告人(男性)が、夜間、人気のない場所の車内で、被害者(女性・38歳)を口説いた。被害者は、帰りたいと表明したが、被告人が被害者の肩に手をかけ、覆い被さり乳房を吸った。被害者が泣き出し「やめてくれ」と言ったが、被告人は、被害者のスラックス・下着を下ろして性交した。裁判所は、任意とは到底いえないと認定したが、被告人の有形力の行使が、合意性交でも伴うと考えられ、抗拒を著しく困難ならしめた上でなされたものとは足りないと判断した。

2. 大阪地判平成 20 年 6 月 27 日
被告人(男性・24 歳)と被害者(女性・14 歳)は、午後 8 時ころ待ち合わせをしてドライブをした。その間に被害者は被告人と交際することを承諾。被告人が被害者にキスをし、それについては被害者も嫌ではなかった。午後 9 時ころ、神社横路上の車内で被告人が被害者の胸をもむと、被害者は、「今日はやめとかへん」「早過ぎひん。」と言って
被告人の肩を押したが、被告人は「いいじゃん」等言ってやめなかった。被告人が被害者の足を開いて下着に手を入れて陰部を触ったところ、被害者は、「今日はやめとかひん。」と伝えた。それでも被告人は、「入れるまではせえへん」などと言い続けた。被害者は、被告人の肩、腕、手を押さえたり、足を閉じたりした。被告人は、被害者が足を閉じているにも関わらず、被害者のズボンとパンツを脱がせ、再び足を開かせ、覆い被さって性交した。裁判所は、被害者がやめておこうという趣旨の発言をしていることから不同意であったことは認定した。しかし、被告人が被害者の足を開かせる行為や覆い被さる行為は、反抗を著しく困難にする程度の暴行ではないと判断した。

3. 東京高判平成 26 年 9 月 19 日
被告人(25 歳)は、初対面の被害者(女性・14 歳)に酒を飲ませ、小学校の校庭に連れて行き、被害者をコンクリートブロックに押しつけて胸を直接触った。被害者は、「やめて」と言い、自分のズボンを押さえたり、被告人の手を掴んだりしていたが、被告人は、被害者のズボンとパンツを足首あたりまで下ろし、背後から性交した。裁判所は、被害者が任意に性交に応じたものではないと認定した。しかし、被告人が被害者の肩を押してブロックに押しつけた以外は、通常の性交に伴うような行為にとどまり、抵抗を排除するような暴行・脅迫はなく、体勢からすると被害者が足をばたつかせるなどしさえすれば性交を容易に防ぐことができ、時間、場所、年齢、体格、飲酒の影響等を考慮しても抵抗を著しく困難にする程度ではないと判断した。

4. 福岡高裁宮崎支部平成 26 年 12 月 11 日判決(最決平成 28 年 1 月14 日上告棄却)
少年ゴルフ教室主催の指導者であった被告人(男性・56 歳)が中学3 年生の頃から師弟関係にあった受講者(女性・18 歳)をラブホテルに連れ込み、被害者が「いや」と言っているにもかかわらず、ベッドに連れて行き押し倒して寝かせ、被害者の上に乗って性交したとして準強制性交等罪に問われた事件。裁判所は、被害者が心理的抗拒不能であったことを認定したうえで、被害者から具体的な拒絶の意思表示がなく、異常な精神的混乱状態にあることが外部から認められず、被害者が本心では拒絶しているが何らかの原因で抵抗できないある種特殊な状態に陥っていると被告人が認識していたと認めるには合理的疑いが残るとして故意を否定してた。

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